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鮮血の刃  作者: 黒崎揄憂
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その心臓を

 日が高く上った頃、アンジェラはメーヴィスの岬に到着した。――雲一つない晴れ模様。空は晴れてもアンジェラの心は晴れない。


 バスを降りたアンジェラはすぐに別荘を見つける。フォースターの表札。ここで間違いはない。近くには吸血鬼が死亡した後に出る灰が落ちていた。アンジェラは灰に触れてみた。灰とは思えないほどにサラサラときめ細かく、でんぷんのようだ。


 アンジェラは立ち上がり、別荘のドアを開けようと試みる。しかし開かない。鍵が閉まっているようだ。アンジェラの衝動と執念はあまりにも強い。


「開けて!ドロシー!あなたに会いに来た!」


 ダンダン、とアンジェラは激しくドアを叩いた。彼女の手の力はたかが知れており、その程度でドアを破壊することなどできない。


『今は開けられない。』


 ドアの向こう側から声が聞こえた。高くて冷たい声。これはドロシーのもの。


「今は?じゃあ、開けてくれるのね。貴女に会うためならいつまでも待とうじゃないの。」


 アンジェラはドアに背を向けて座った。仕事上待つことには慣れている。これくらいアンジェラにとって苦ではなかった。



 日も落ちる頃、アンジェラの耳にドアの開く音がした。


「7時間。あなたは7時間も待っていたのよ。すごい執念ね。」


 ドアの向こう側にアンジェラを見たドロシーは言う。ディサイドまでも6時間以上かかり、付近には古い民家ばかりのメーヴィスの岬。ここで待つことは至難の業だろう。


「さんざん待っていた方が再会の楽しみが増えるでしょう?」


 アンジェラは指揮棒を抜いていた。すでにドロシーを殺すつもりだということは見てわかる。一方のドロシーは久しぶりの笑顔を見せる。以前のドロシーとは全く異質であるが。


「よく言うじゃない。あなたに最後のチャンスをあげるわ。」


 殺すつもりでいるアンジェラを前にしてドロシーはえらく余裕を見せていた。そのドロシー、どこから持ち出したのか紅石ナイフを取り出してアンジェラに見せる。


 ドロシーの手の中にある紅石ナイフはシャンデリアの光に照らされて妖しい光を放つ。それはアンジェラにとって最も忌まわしいもの。


 アンジェラの心臓が高鳴る。これが衝動。これが恨み。これが憎悪。


「ふざけないで……そいつも、貴女もこの世から消してやる!!!私がこの手で執行すること、感謝して!」


 抑えることなどできない。アンジェラは一歩を踏み出し、指揮棒をドロシーの額に突き立てる。そこから光の魔法を撃つ。


「一緒に死にましょう!」


 閃光。強い光が撃たれた。アンジェラはこのとき、ドロシーの死を確信した。だが、ドロシーはアンジェラの腹部を蹴り上げる。アンジェラの一撃は完全に防がれた。ふらつくアンジェラにドロシーは炎を撃ち込む。


「そんな……!?」


 迫りくる火球。アンジェラはとっさに光で炎を相殺した。


「……貧弱な光で私を倒せるわけがない。」


 アンジェラの耳にドロシーの言葉が入ってきた。


 吸血鬼の光への耐性には個体差がある。アンジェラもある程度予想していたが、ドロシーは人間だった頃から光に慣れている。つまり、光に弱い部類ではない。何も考えずに勝てる相手ではない。


 ドロシーはアンジェラに一瞬で近づき、氷の塊を撃ち込む。


「くっ……」


 アンジェラは氷の塊をうけてのけぞる。その瞬間を見たドロシーはなぜか何もしない。アンジェラとしては理解に苦しむこと。とりあえずアンジェラは光の魔法を撃つ。


「無駄よ!」


 ドロシーの言う通り。光はドロシーに全く影響を与えていない。アンジェラはあることに気が付いた。ドロシーは特殊な薄氷を纏っている。これで光を防いでいる。吸血鬼だからこそできること。


 ドロシーはそのまま火球を撃ってきた。わけがわからない。アンジェラは火球を避けるとシャンデリアに光の魔法を撃ってシャンデリアを落とす。陽動にはなる。その間にドロシーに近づいて心臓に光の魔法を叩きこめばいい。アンジェラはそれだけに集中した。


「これで決める……!」


 1段階目の氷がドロシーの薄氷を割った。今がチャンス。光の魔法にある程度の耐性を持った吸血鬼への対抗。アンジェラはドロシーの心臓に向けて光の魔法を撃ち込んだ。たとえ強力な吸血鬼であろうとも心臓だけは鍛えられない。


「うっ……あああああああ……!」


 アンジェラはやっとドロシーに有効打を与えた。アンジェラは一度ドロシーと距離を取る。


「……はあ、はあ。」


 胸部を抑えてドロシーは咳き込んだ。黄色の衣装は血で汚れている。よろめきながらドロシーは立ち上がる。次は何を仕掛けてくるのか。ドロシーの胸部が少しずつ再生する。


 アンジェラが警戒していた時にドロシーは動き、氷の枷でアンジェラを拘束する。あの洋館でしたのと同じように。脱出はできない。


「ドロシー……!?」


 ドロシーはあえてアンジェラの元から姿を消す。何が目的なのか。アンジェラから逃げるのだろうか。


 静寂が別荘の一室を包み込み、3分が過ぎる。向かいにあるドアが開き、そこから火球が放たれる。


「そんな……!?」


 逃げられないアンジェラに降りかかる炎。一点集中にもできない光でせめてものガードを。その直後。


「死になさい。」


 棚だ。炎に続く棚の追撃でアンジェラは絶体絶命。投げつけられた棚は無情にもアンジェラを押しつぶした。


「ドロシー……」




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