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鮮血の刃  作者: 黒崎揄憂
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私の邪魔をするな

「アンジェラ。あなたがここに来ることはわかっているわ。」


 別荘のピアノがある部屋にてドロシーはつぶやいた。


「だから、待ってる。」


 ドロシーは手元に置いていた2通の手紙をアンジェラと鮮血の夜明団に向けて飛ばした。これはドロシーの最後の手紙。



 アンジェラの元に二人の人物から手紙が届く。いずれも紙飛行機の形に折られ、飛ばされたものだ。まずアンジェラはカナリアからの手紙を開く。


 ――メーヴィスの岬にドロシーは向かっているらしい。ドロシーに会いたいのならメーヴィスの岬に向かえばいい。


 これがカナリアからの手紙。次にアンジェラはドロシーからの手紙を開く。


 ――一人で来て。わたしは別荘にいるわ。


 ドロシーからの手紙にはこう書かれていた。アンジェラが目を通した後、その手紙に異変が生じる。手紙は火が付いたかのように熱くなり、発火する。すぐにそれは燃え尽きて、灰となる。このような細工は他人に見られないようにするためのもの。ドロシーが手紙をアンジェラ以外に読まれることを望まなかったのだろう。


 アンジェラは近くにあった時刻表でメーヴィス行きのバスの時間を確認する。見たところバスは朝になってから出るようだ。アンジェラは歯がゆさを感じながらも朝まで時間をつぶせるカフェに入った。見るからに怪しい、黒い内装のカフェだ。


 アンジェラはカフェに入るとチーズケーキと紅茶を注文し、それを受け取って席に座った。今は午前3時頃。吸血鬼と人間が表向きは共存するこの町は、夜でもそれなりに賑やかだ。


「ドロシー……絶対に私が……」


 アンジェラはそうつぶやくと紅茶を口にした。店の内装とは裏腹に上品な味だ。上品な紅茶の味はアンジェラの黒い感情を一時的に鎮めていた。


「アンジェラ?」


 ふいに声がした。アンジェラはティーカップから口を離し、顔を上げた。白い帽子とワンピース、長い黒髪を後ろで纏めて眼鏡をかけている女性がいた。アンジェラは彼女を知っている。ヴィオラはアンジェラの正面の席に座った。


「ヴィオラさん!任務の帰りですか。」


「ええ。カインと二人でね、紅石ナイフを押収してきたの。」


 ヴィオラはそう言うと、赤い石の入った透明なケースをアンジェラに見せた。その赤い石についてアンジェラもよく知っている。人間を吸血鬼に変えるアイテム、紅石ナイフ。あまりにも危険なこのアイテムは所持することに許可が必要であり、無許可で所持した場合は逮捕される。どうやらヴィオラはこの紅石ナイフを違法に所持していた人物の逮捕に協力していたらしい。


「そうですか……」


 アンジェラは再びうつむいた。紅石ナイフについて、アンジェラも思うところがある。親友ドロシーを吸血鬼に変えたもの。あの日から、アンジェラにとって紅石ナイフは忌まわしいものとなった。


「アンジェラ?様子がおかしいわよ。」


 ヴィオラはお見通しなのかもしれない。


「気にしないでください。私には私の事情があるんですから。」


 アンジェラは答えるとヴィオラをにらむ。彼女に邪魔されると厄介であるとアンジェラは知っている。そしてアンジェラはヴィオラを信用していない。ヴィオラの同期であるにもかかわらず年齢がわからない。そもそも彼女が年を取っているような気がしない。



 2時間ほどヴィオラと談笑したアンジェラは懐中時計を見て立ち上がった。


「ありがとうございました、ヴィオラさん。私はメーヴィスの岬に向かいます。」


「そう。行ってらっしゃい。」


 アンジェラはそのままトレーと食器を返却して店を出た。その様子を見るヴィオラ。アンジェラに見えないところで自分の足をさすっていた。


「……抜け目がないわ。私が吸血鬼だと仮定していたのね。」


 アンジェラの姿が見えなくなった後、ヴィオラは言った。ヴィオラの足に煙草の根性焼きと同じ感覚が残っていた。その場所は焦げたように、貫通して部分的に灰のようになっていた。



 バスの時間まであと45分ほどだ。アンジェラは早々にカフェを出たことを後悔していながらも停留所に到着した。メーヴィスの岬行き。廃止される可能性のある路線の停留所には先客がいた。


「お久しぶりです。貴女もメーヴィスの岬へ向かうのでしょう。」


 エリックだった。警察お抱えの魔術師。光の魔法を使えることから、吸血鬼にも対抗できるのだろう。


「どうして分かるんですか。メーヴィスに向かっていいのは私だけです。」


 アンジェラは言った。ドロシーからの手紙のこともあり、エリックを彼女のいる場所に行かせたくはない。


「情報はだだ漏れです。協力させろ。それが僕の言い分ですよ。悪い条件ではないはずですが。」


「断る。」


 アンジェラは言った。今すぐにでも手紙を見せつけたかったアンジェラだが、ドロシーの手紙は既に燃えてしまった。残っているのはその燃えカスだけ。


「なぜですか?一人より二人がよいといわれるではありませんか。」


 エリックは笑顔でアンジェラを説得しにかかっていた。だが、アンジェラはエリックなどに説得されるつもりもなかった。


「ただ邪魔をされたくないだけよ。」


 アンジェラの威圧感は並ではなかった。相対するエリックも怯むほど。


「もう一度言う。私の邪魔をしないで。ドロシーを殺すのは私。」


 それはアンジェラ本人にも止められない。交渉の姿勢に入ろうとしたエリック。だが、アンジェラはエリックの眉間に指揮棒を突き立て、そこから光の魔法を撃った。


「……あ……待って……」


 倒れるエリックを見てアンジェラは放心状態となる。自分のエゴのために人を殺す気分はどうか。人間の味方を名乗るアンジェラは激しい後悔に襲われた。人はいとも簡単に死ぬ。



 ほどなくしてバスが停留所に到着する。アンジェラはバスに乗り込み、窓からエリックを見た。アンジェラもドロシーのことは言えない。ひどい自責の念がアンジェラを襲った。



本日投稿分はここまでとなります。明日、最終決戦分と合わせて「魔物の町4~異界とルーンの旅日記~」を投稿いたします。

今後とも黒崎揄憂をよろしくお願いいたします。

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