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鮮血の刃  作者: 黒崎揄憂
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アンジェラとドロシー

やっとのことで大幅改稿できました!ストーリーの大枠は変わっていないはずです。

「血は命の液体だ!故に、故に!生命を扱う錬金術とは関係が深いのだ!」


 錬金術師は女性の血を抜き取った。抜き取った血を小瓶に入れると錬金術師は紅く透き通ったナイフ状の物体を手に取った。


「これを持つのだ。先ほどの被験者は私の処置で死亡した。」


 ぞっとした顔の女性。彼女はナイフ状の物体を手に取り、手首にそれを突き立てた。びっ。ナイフ状の物体で彼女は自身の手首を切り裂いた。


 鮮血がポタポタと滴り、傷口からは血の代わりにナイフ状の物体の成分が彼女の体内に入ってゆく。


 どくん。どくん。激しい動悸に襲われ、体中が熱く火照る彼女は絶望したような顔で研究所の天井を見上げている。汗が滴り、次第に傷口は閉じる。


「成功したか?」


 錬金術師は笑みを浮かべた。しかし、彼は誤算をしていた。


「あ……やめて……があああああ!!!」


 悲鳴のような咆哮のような叫びをあげ、彼女は錬金術師に襲い掛かった。そして、首筋にかぶりつき、血を啜る。


「やめるのだ!ここまで凶暴化するのか!?魔族化の理論は正しいのではなかったのか!?」


 彼女は血を啜る不死身の化け物こと吸血鬼と化した。彼女はいずこかに消え、研究所には鮮血に染まったナイフ状の物体と錬金術師の遺体のみが残される。



 N2000年3月17日、レムリア大陸。魔法と科学と錬金術の共存するこの世界において、吸血鬼は完全なる架空の存在ではなかった。表面上は人間と共存し、時として法律を犯しては人間に危害を及ぼしていた。もちろん人間も吸血鬼には目を光らせているわけで、吸血鬼や超常存在による被害をコントロールするための組織として「鮮血の夜明団」が存在する。所属する者たちは「魔物ハンター」と呼ばれ、日夜吸血鬼や超常存在と戦っている。


 レムリア大陸最大の都市ディサイド。鮮血の夜明団本部の存在する場所でもある。その鮮血の夜明団所属の魔物ハンター二人組が任務の報告のために戻ってくる。黒髪を後ろで三つ編みにした女性魔物ハンターのアンジェラ、金髪の女性魔物ハンターのドロシーの二人組。


「やあ、お疲れ様。アンジェラにドロシー。」


 黒髪に虹色のメッシュを入れたさわやかな青年がアンジェラとドロシーを出迎えた。その青年の名はヨハネ。本名はヨハネス・ペーツォルトであるが鮮血の夜明団ではヨハネと呼ばれている。


「有難うございます。吸血犬の騒ぎは無事鎮圧できました。少し苦労しましたがさすがドロシーです。私の手が回らないところまでやってくれました。」


 アンジェラは答えた。その隣で少し照れ臭そうにするドロシー。アンジェラとドロシーは実際に抜群のコンビネーションで数々の依頼を成功させ、新進気鋭のコンビともいわれている。


「いえいえ。君たちが頑張ってくれるおかげで引退した俺がいなくてもどうにかなっている。今のところそれといった仕事はないから今日明日はゆっくり休んでくれ。」


「はい。では次の仕事までにコンディションを整えますね。」



 ヨハネへの報告を終え、アンジェラはドロシーとともに一度寮へ向かう。アンジェラには渡したいものがあったのだ。


「ドロシー。今日誕生日だったよね。こういうの好きって言っていたから私なりに選んでみたの。」


 アンジェラがドロシーに手渡したものは黄色のヘッドドレス。いくら魔物ハンターで並の収入を超える収入があるとはいえ、5万デナリオンもするヘッドドレスはなかなか手の届くものではない。そもそも魔物ハンターは彼ら専用の保険があり、高額な保険料で収入の半分以上が消えるのだ。


「こんなの貰ってしまっていいの?」


 プレゼントを受け取るドロシーは言った。


「いいよ。今日がドロシーの誕生日だということくらい覚えているんだから。」


「ふふ、ありがとう。大切にするね。」


 これくらいなら、これくらいなら大丈夫だよね、とドロシーは思っていた。



 大都市ディサイドの近郊にある鬱蒼とした森。今日の任務を終えたドロシーは森にある洋館のドアを開けた。


「おかえり。どこに行っていたんだい?」


 ドロシーの帰りを待っていた一人の中年男性。彼の名前はデンホルム・フォースター。金髪で男性にしては身長が低く、眼鏡をかけている。


「お父さんは何でも知っているよ。ドロシーは魔物ハンターをしているんだって?だめだよ。女の子なのにそんな事をしては。」


「でも……」


 ドロシーは魔物ハンターという仕事が好きだった。仕事の時だけはこの父親の事を忘れることができた。


「帰る家があるだけお父さんに感謝しなさい。ほら、部屋の掃除が残っている。」


 いくら魔物ハンターでも、ドロシーはこの父親にだけは抵抗できなかった。氷の魔法を得意とするドロシーを屈服させる彼女の父親は錬金術師。何を隠し持っているのかわからなかった。


「ああ、そうだ。そのヘッドドレス。お父さんに渡してくれるかな?」


「どうして?」


「君は知らなくていいだろう?」


 この時からドロシーは父からの解放を願っていた。



 ドロシーは父親に命じられた通り洋館の廊下を掃く。こんな暮らしには嫌気がさしていた。いつか抜け出したい。ずっとアンジェラと一緒にいたい。それがドロシーの願い。


 そんな中、廊下を掃除していると壁の向こう側から叫び声が聞こえてきた。


「ああああああああ!」


 この声の主は人間か?ドロシーにはわからなかった。しばらくすると、デンホルム・フォースターは二人の研究助手を連れて部屋から出てきた。ドロシーは研究助手二人、セドリックとアンダーウッドと目が合った。赤く濁った瞳、口から覗く牙。それらは吸血鬼の特徴。ドロシーにも影でよくしてくれていた二人は人間をやめていた。


「そんな……」


「ドロシー。君は何も見ていない。君は何も知らない。何も知らなくていい。」


 セドリックとアンダーウッドを連れたデンホルムはドロシーに語り掛け、地下室へと降りて行った。


「お父様、まさか吸血鬼を……?」


 ドロシーの疑念は深まるばかりだった。



 それから半年あまりの時が過ぎる。N2000年10月。




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