2人きりの教室
高校3年生の11月。授業中。
私は、いつもと変わらない毎日を繰り返していた。
皆が受験勉強で忙しい時期。
私は、推薦入試で合格を決めていた。
クラスでは控えめで、2人の友達と仲良くしていた。あとのクラスの女子はと言うと...。
とても言い難い状態だ。
そんなこんなで、クラスでは「孤立した3人グループ」と特定付られていたに違いない。
何か物足りない。何だか寂しい。愛がもっと欲しい。
でも、私に出会いなんてあるのかな...?
「ピキっピキっ。」
あーあ、またやってしまった。指の皮をめくって血を出してしまうこと。おかげで教科書にチョコレートが付いたみたいになってしまう。
その時の私は、暗くて丸い殻の中に閉じこもっているような、世界がそんなふうに見えていたのかもしれない。
もっと自分を出すことが出来れば...。
とても怯えるようなことが私の心の奥底に眠っていたのかもしれない...。
「キャーキャー!」
出たよ。授業終わったら早速騒ぎ出すお得意のやつね。私も、お得意の睨みを利かして、教室から出ていった。
ある土曜と日曜。
合格祝いということで、私は家族とテーマパークに来ていた。
「家族とテーマパーク??」
やっぱり私って世間では孤独なんだな〜。しかも、県模試を休んでまでの合格祝い旅行。
まぁ、たまにはテスト休んでこんな事もありか。
私は、久しぶりに楽しい思い出を作ることが出来た。
旅行から帰ってきた。また、苦しい現実に戻された。心の底から涙が出てきそうになった。
しかし、私には「県模試」という取り残されたラスボスが待っていた。
朝、学校で「県模試の後日受験」についての紙が配られた。そこには、私と、もう1人の男子の名前が書かれてあった。
良かった、私1人だけじゃなくて。よし!3日間放課後がんばろ!
でも、男子と2人きりの教室って...。なんか運命感じるな〜...。Kくんって誰だろ?違うクラスで今まで関わりを持っていなかったため私は何も分からなかった。
放課後。
私は、遅れずに指定された教室に向かった。
それにしても、もう1人の男子(Kくん)が遅い..。
先生も少しイライラしてる。
「K!早く来い!」
先生が廊下に出て呼んでいる。
私も、自然と教室の入り口の方に目をやった。
すると、急ぎ足でKくんが教室に入ってきた。
目が「バチッ」と合った。
その時の私は、自分に意識しすぎて、
「私どんな顔してただろ?ブスじゃなかったかな?いつもみたいに睨んだりしてなかった?」
なんて思ったけれども、その時の記憶は、目の前が真っ白で1つも覚えていなかった。
Kくんは、私の隣の席に座った。先生は、テストを配布した後、すぐに職員室に戻ってしまった。
今から100分間、「2人きりの教室」
意識してるのは私だけ何だろうな。
Kくんは、メガネを掛けてとても頭が良さそうな感じだった。風邪をひいているのかマスクをしていた。そして、とても良い香りが漂ってきた。
何だか優しそうな人だった。
私には、Kくんの問題をとく姿がとてもカッコよく映って見えた。
は?なんで?今日初めて会うんだよ?
なんで、いきなりそんな感情抱くの?「2人きりの教室 」だからただ意識しすぎてるだけだよ...気にしない気にしない。
2日目。
今度は、Kくんが先に教室に来ていた。
私は慌てて、席についた。
「あああ、また私、変な行動とってなかったかな?」
なんて後々後悔することもあったけど...。
あれ?今日はKくんマスクしてない。かっこいいな〜。微妙に微笑んでる感じが可愛い。そして、また100分間のテスト時間が始まった。
すると、隣から折りたたまれた紙が私の所にやってきた。はっ!と我に返ると、Kくんから手紙を渡されている事に気がついた。
「LINE交換してください!」
「OK!」
と私は書いて渡した。
Kくんは笑っていた。私も笑った。とても嬉しかった。凍えてた心が一気に暖かくなった。
それからというものKくんとはLINEのトークを毎日続けた。
私の恋心が本当に芽生え始めていた。
12月。
私と、Kくんは初めて一緒に帰ることになった。
私はとにかく笑顔で必死だったのを覚えている。
「寒いね。」
「うん。大丈夫か?」
「全然平気やお!Kくんこそ大丈夫?」
「おぅ!」
・・・・・・
お互い緊張で気まずい間が出来てしまっていた。
あぁ、どうしよう。嫌われてしまう...。
「あ、あの...」
と言いかけた瞬間、
私の手が握りしめられていた。
Kくんが手を繋いでくれた。
「これやと、お互いあったかいやろ?」
自然と笑みがこぼれていた。
「ありがとう。」
そう返した。心も暖かくなった。
こんな感情は初めてだった。ますますKくんという甘い毒に吸い込まれていくような気がした。
『本当にありがと...』
そう私は心の中でつぶやいた。
・・・・・・
「いくよー、はい!チーズ!」
男の子と初めてのツーショット。
「後で、送るわ!」
「ありがと!」
・・・・・・
あれ?ここから記憶が途切れてしまった。
いつもの冷めきった教室での授業中だった。
今までのって何だったんだろう。
どこまでが本当で、どこまでが妄想なのだろう。
結局は、私が良いように作り替えた話しなのかもしれない。
本当にKくんなんていたのかな?
でも、きっぱりとKくんと初めて合ったあの日はやっぱり覚えていた。
ただ、私の後悔がつのるだけだった。「私、あの時ブスじゃなかったかな?」なんて。
LINE?
LINEなんかも交換してなかった。
それだけ私は、愛が足りないのかな。
この妄想が現実になるよう私は祈り続けるよ。
『Kくんと付き合えますように。』