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第九十五話 先祖の声

 ここは、一体どこだ?

 目を開けた時、俺は真っ暗な空間に取り残されていた。記憶は非常に断片的ではあるが、確かあの黒騎士から一旦退却することを決め、空に逃げた直後、上から隕石――そうだ! 隕石だ! 


 それからなんとかシェリナとマイラの二人だけでも助けようと庇った、そこまでは記憶があるんだが。


 しかし、今ここには俺一人しかいない。しかも真っ暗な空間。


 つまり――


「俺、まさか死んでしまったのか?」

『全く、諦めの早いやつだな』


 俺が独りごちると、背後から何者かの声が聞こえてくる。振り返ると、髪の長い着物姿の人物が立っていた。


 誰だ一体? 人に会えたのは、喜んでいいのかどうか。ただ、俺にはこの人物の記憶がない。


「え~と、貴方は一体?」

『――我はお主が手に入れた霧咲丸の元の持ち主、その思念体だ』


 へ? 霧咲丸の持ち主って、へ? そ、それって――


「まさか、霧隠 才蔵?」

『まぁ、そうだな』

「まさかのご先祖様!?」


 正直びっくりした。まさかこんなところでご先祖様とご対面出来るとは。

 それにしても髪長いから最初は女だと思ってしまったぜ。


「それで、そのご先祖様がなぜ? それに、ここは一体?」

『……お前は敵の攻撃を受けたことで、半死半生といった状態にまで追い込まれた。かなり危ない状態ではあったが、そのおかげ、というのもおかしな話と思うかもしれないが、とにかくその結果、お前の思念を、霧咲丸の中に取り込むことが出来た』

「え? 俺の思念? ということは、今の俺はご先祖様と同じ思念体?」

『そういうことになる』

「そうなのか……て! 半死半生! それ、結構不味いのでは?」

『確かに楽観視出来るとはいい難いが、今お前の仲間が必死に助けようとしてくれている。かなり強力な治癒の力をもっているからな。いずれ目をさますことになるだろう』

「そ、そうなのか? でも治癒って、一体誰が――」

『そんなことよりも、今は時間がない』


 自分を治そうとしてくれている存在というのに、正直覚えはないんだけどな。

 敢えて言うならそれこそチユだが、ここに来ているはずもないし。


 だけど、そんな事を考えている余裕もなさそうだな。何かご先祖様も急いでそうだし。


「時間、ですか?」

『そうだ。お前もとっくに気がついていると思うが、確かにお前からは才能は感じられるが、まだまだ忍としては半人前、未熟者だ』


 そ、そうはっきり言われると傷つくな。

 いや、そりゃ完璧だとか一流だとか思っていたわけではないけど、そこそこ出来る方だとは思っていたからな――


『――どうやら慢心があったようだな。だが、どのような世界で生きてきたか知る由もないが、所詮は井の中の蛙。少なくともその程度ではこれから先、苦労することになるだろう。故に、この私がほんの少しだけ手助けをしてやろうと、そう思いお前を呼び込んだ』

「手助け?」


 これは驚いたな。ご先祖様が、俺が強くなれるようなんとかしてくれるってことか?


「それはつまり、修行を付けてくれるってことですか?」

『出来ればそうしたいが、残念ながらそこまでの時間はない。それに思念として現出できる刻にも限りがある。だから、修行は別のものにつけてもらうが良い』

「別の、ものですか?」

『そうだ。半蔵が良いであろう、優秀な忍だ。あやつであれば、お前の力を更に引き出すのに打ってつけだ』

「は、半蔵? それって服部半蔵のことですか? 服部半蔵もこの世界に?」

『来ている。転生というものでな。今は人里離れて過ごしているようだがな』

「は、はぁ。いや、それは勿論、伝説ともされるハンゾウに教わることが出来るなんて光栄ですが、しかし今は俺にも色々目的があって、探している時間もあまり……」

『探す必要などはない。人には運命(さだめ)というものがある。これから先旅を続けていけば、自ずと運命の糸が引き合わせてくれる事であろう』


 う、運命の糸ときたか。なんともファンタジーな話にも思えるけど、剣と魔法の世界に来ているわけだから今更ではあるか。


『さて、それでは始めるとするか』

「へ? いや、ちょっと待って下さい。始めると言っても、一体何を? 修行もせずに一体どうしろというのですか?」

『――思念の融合だ』

「へ? 思念の融合?」

『そう、これより私の思念とお前の思念を融合させる。尤も私の思念も全盛期のそれとは違う上、これはあくまできっかけにしか過ぎぬ。その後に関しては結局のところ、お前次第ではあるがな――』






◇◆◇


「なるほど、攻撃が全て跳ね返ってくるとは、さては貴様、物理反射持ちだな?」


 アインの怒涛の攻撃がネメアに降り注ぐ。片手半剣を巧みに利用したその一撃は、ギアを上げた影響で速く、それでいて重い。


 だが、その斬撃は全てネメアの身体に通ることはなく、アインにむけて反射され続けていた。

 

 絶対物理反射、あらゆる物理的な攻撃を反射するこのスキルは、当然反射された衝撃は攻撃者に返ってゆく。


 だが、アインは跳ね返ってきた衝撃すらも己の剣戟で切り飛ばし、巻き込みながらネメアに攻撃を叩き込むという離れ業を見せ続けていた。


『なんて奴なのじゃ。攻撃が効いていないと知りながらも、それでもなお攻めの姿勢を崩さないなど、よほどの自信があるか馬鹿かのどちらかなのじゃ!』


 そんな念を残しながらも、ネメアがアインに向けて獅子一掃爪塵を放つ。


 爪の一振りで、広範囲に爪の斬撃をばらまくネメアの必殺技。


 むぅ! と声を上げ、爪を受けたアインが地を滑るように後ろに流されていった。

 土煙がもうもうと立ち込めるが、しかし当たったように見えるそのモーションの大きさにしては、ダメージにはそこまでつながってないようでもある。


「ふむ、なるほど。中々だ、故に、大分身体が温まってきたぞ」


 立ち上がり、ネメアを見据えつつ、何かを企んでいそうな口調。

 そして――


「正直、セカンドまで上げれば十分だと思っていたがな。光栄に思うがいい、【ギア・サード】――」


 刹那――黒騎士アインの周囲に渦巻いていたオーラが、爆発的に増加。衝撃が放射状に広がり、突風が黒騎士を中心に外側に向けて吹き荒れた。


「きゃ、きゃぁあああぁ!」

『むぅ、大丈夫か娘!』


 発した余波によって、マイラの小柄な身が浮き上がり、飛ばされていく。


 だが、マイラは歯を食いしばり、脚を伸ばして支えにして無理やりブレーキを掛けた。


「グルルルルルルゥウ(何というオーラなのじゃ……)」


 唸り声を上げながらも、ネメアが黒騎士の豹変に緊張の色をにじませる。


 ステータスにも存在するオーラ。一定以上のレベルの戦いにおいて、このオーラの使い方は非常に重要だ。


 スキルによっては、このオーラを利用することで常に攻撃力や防御力などを上昇させられるものもある。


 だが、何よりオーラは意識して利用することでより大きな効果を生む。


 このオーラの使い方一つで、例えステータス上の他の数値が劣っていても、逆転できる可能性を見出すこととて可能だ。

 

 そして、特に騎士においてそれが顕著に現れることがある。


「さて、本格的に狩りを始めさせてもらうか」


 そして、圧倒的なオーラを身にまとい、より大きくなったきにさえ感じさせるアインが――瞬時にネメアの懐に入る。


 驚愕――野生の本能と、人間より遥かに優れた五感を有するネメアが、全く気がつくことが出来なかった。


 それほどの速さ、今までとは比べ物にならないほどの身体能力の向上。そして、圧倒的なオーラによってネメアが総毛立つ。


 あまりに桁違いな存在。まさに狩人、その剣が、今振り下ろされた。だが、それでも、そうそれでも、ネメアには完全物理反射がある。


 その攻撃が物理的な攻撃である限り、ネメアに届くことは決して。


「――ッ!?」


 だが、甘かった。黒騎士の剣戟は、ネメアの物理反射も破り、見事なまでに断ち切った。


 声にならない声を上げ、ネメアが吹き飛ぶ――

明日は更新のお休みをいただくかもしれません。

その場合でも31日の月曜日には再開させていただきます。

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