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現代で忍者やってた俺が、召喚された異世界では最低クラスの無職だった  作者: 空地 大乃
第一章 忍者召喚編

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第九十二話 シノブとケント

 ケントは相手の行動パターンはかなり読み切っている様子だった。


 だがしかし、肝心のケントのカウンターは全て分身をすり抜け、逆に分身の攻撃はケントにヒットするという状況は変わらない。


 このままではジリ貧である。ケントはもともと備わっている動体視力と身体能力の高さがある為、白騎士の突きが致命傷に至るようなことはないが、それでもジリジリと体力を削り、精神もすり減らす要因となる。


「凄いよね君、体中傷だらけなのに、その鋭い眼光には全く陰りが見えない。僕は、むさ苦しい男は嫌いなんだけど、君からはある種の気高さと美しさを感じるよ」


 白騎士が褒め称える。確かにケントの身魂の強さは本物だ。どれほどの攻撃を受けようとあきらめることなくその気勢も衰えを見せない。


「だから、これは僕からのプレゼントさ。この華麗なる技をもって君を殺してあげる」

 

 随分と物騒な事を口にした白騎士だが、突如ケントを中心に円を描くように動き出し、その動作に合わせて隙間なくびっしりと分身が並び、完全にケントを囲みながら、グルグルと円の動きを繰り返す。


「どうだい? 僕のとっておき、【幻影輪牙】さ。美しい僕にピッタリな、華麗な技だろう?」


 自画自賛も甚だしいが、とは言え確かに無駄のない洗練された動きは完成度の高さを嫌にも感じさせ、そして技としてみれば確かに美しい技とも言えるだろう。


「さぁ、これでトドメだ!」


 そして、白騎士の言うところの牙、その鋭い突きが、回転を続ける分身から高速で連続して(・・・・)放たれる。


 まるでウェーブを行っているかのごとく、流れるような刺突には全く無駄がなく、そのまま一周するようにケントの身を貫いていった。


「フィニッシュ!」


 そして最後は、回転が止まり、クロスを描くように分身同士がぼぼ同時にすれ違いざまの一撃を決め、ぐぁ! と呻き声を上げ天高くケントが舞い上がった。


「フッ」


 血を払うように、白騎士が二度血振るいを行う。その所作が終わると同時にケントが地面に落下した。


「フフッ、中々頑張ったと思うけど、これで彼も終わりかな。個人的には惜しい人物をなくしたと思うけどね」


 微笑を浮かべながら白騎士が語る。すると、倒れたケントの正面にいつの間にかシノブの分身、βが立っていた。


「おやおや、仲間が命を落として、ようやく動き出したのかい?」

「は? 何いってんだお前は。二号がこの程度でやられるわけがないだろ」

「なんだって?」


 訝しげな顔でβを見やる白騎士。だが、すぐにその表情は驚愕に変わった。

 何故なら、βの後ろでゆっくりとケントが立ち上がり、ファイティングポーズを取ってみせたからだ。


「……テンカウントは、まだ、だよな?」

「あぁ、だけどな、一ラウンド終了だ。インターバルだ、少し休んどけ」


 確かに、ケントが起き上がるまで十秒は要していない。だからこそ、白騎士も驚いているのかもしれないが。


「ふふっ、はははっ! 本当にびっくりだよ。僕の幻影輪牙をまともに受けて、それでもまだ立ち上がってくるなんてね!」

「……あんなもの、世界チャンピオンのパンチに比べたら大したことない。プロテストで受けるジャブみたいなもんだ……」

「それは流石に強がりが過ぎるだろ。いいから休んどけ」

「……お前だって、フラフラだろ?」

「――そんなことはないさ。それに、どっちにしろ俺は回復なんて出来ない。だから、せめてここぞというときぐらいカッコつけさせてくれや」

 

 βの答えに目を眇めるケント。だが、すぐにその意味を察したようだ。

 何せβ、つまり今ここにいるシノブは分身だ。分身はそもそも傷を受けたり疲れたりという事がない。


 その代わり、攻撃を受けてその身体を構成している忍気が消失してしまえば、もう回復することもないのである。


「……大丈夫なのか?」

「あぁ、お前はしっかり休んで、戦いをしっかり見ていて(・・・・)くれ」

「……お前、まさか――」


 ケントが何かを感じ取ったのか、真剣な目でその背中を見続けるが、βは宣言通り白騎士の前に立ち。


「さて、俺がしっかりとお前の技を見破ってやるよ」

「――面白い冗談だね。出来るものなら、やってみるといいさ!」


 そして再び大量の分身がシノブに迫る。だが――


「土遁・石壁の術!」


 βが地面に手を添え、術を発動。石の壁が正面にせり上がり、白騎士の刺突をすべて受けきった。


「やはり、これを貫くほどの威力はないようだな!」

「……へぇ、面白いね。だけど――」


 そこまで言った直後、後ろに姿を見せる影たち。瞬時に分身が背後に回っていたのである。


「壁で視界を防ぐなんて甘いね。背後がガラ空きだよ!」


 そして白騎士の鋭い突きが――βの背中から胸に掛けて貫いた。普通なら、致命傷でもおかしくない程の一撃。


「甘いのはどっちだよ――」


 だがしかし、既にβは印を結び終えており、不敵な笑みを浮かべた直後、何! と白騎士が驚愕の声を上げた。


「こいつ! 筋肉を締めて――」

「今更気がついても遅い! 二号、後は頼んだぞ! 火遁・木っ端微塵の術!」


 その瞬間だった、βの身体が一瞬眩い光を発し、かと思えば、激しい轟音と衝撃を伴う爆轟。


 周囲の分身たちも巻き込んで、激しく爆散し、β、そうシノブの分身が立っていた地点には巨大なクレーターが出来上がっていた。


「……シノブ――」


 それを認め、囁くような声で呟くケント。


「な、なんだいなんだい、今の音は!」


 すると、白騎士の分身に騙されて追いかけ続けていたバーバラもとい仮面シノビーピンクが戻ってきて声を大にして発した。


 そして、ケントから少し離れた正面、その場所に出来ていた窪みに、その眼を白黒させる。


「な、なんだいこれは、一体何があったんだい!」

「……βが、自爆したんだ」

「――はっ?」


 すると、バーバラがツカツカとケントに近づいていき、ドガッ! と無言でケントを殴りつけた。


「いった~~~~い! なんで殴ったあたいの方が痛いのさ!」

「……そう言われてもな」

「大体! どうしてあんた止めなかったんだ! そんな、自爆なんて、自爆、な、んて――」


 ケントの首を掴んだその仮面の奥の瞳が涙で濡れている。頬を涙がボロボロと伝ってきた。

 

「……念のため言っておくが、あれは分身だぞ」

「――へ?」


 だが、ケントが口にした事実に、バーバラが目をパチクリさせ。


「ぶ、分身?」

「……分身だ」

「じゃ、じゃあ本人は無事なのかい?」

「……おそらくな」


 ケントの首から手を放し、バーバラは罰が悪そうな顔を見せ、ポリポリと頬をかいた。


「な、なんか悪かったね」

「……別にかまわないさ。それに――」

「あ! そういえば!」


 謝罪し、ケントが何かを言う前に、バーバラが思い出したように窪みに向かって駆け出す。


「……どうした?」

「その中に、あのいけ好かない騎士の剣が落ちていたのさ。念のために、拾っておこうと思ってね」

「……剣が、落ちてる(・・・・)?」


 小首を傾げるケント。すると、あったあれだよ! とバーバラが飛び込もうとするが――フワリと浮かび上がる細剣。


 まるで羽が生えたように空中を舞い、かと思えば奥から飛び出てきたその手に吸い込まれていく。


「ふふっ、残念だったね」

 

 そして、一回転しながら着地する白騎士。みたところ、全くダメージを負っている様子がない。


「あ、あんた生きていたのかい……」

「当然さ。僕があの程度で死ぬわけがないからね」


 フフッ、と笑顔を見せその手に戻ってきた細剣の刃を指でなぞる。


「それにしても、自爆とは無様だね。もしかしたら武器ぐらいは奪えるかもとも思っていたのかもだけど、僕の剣はどこにあっても手元に戻せる。その点に於いても、彼はとんだ無駄死にだったというわけさ」

「……無様、無駄死にだと?」

「え?」


 ケントが呟く。その瞬間、弾かれたようにバーバラがケントを見た。


「あ、あんた……」


 バーバラが目を丸くさせる。その瞳に映ったケントの顔が、激しく荒ぶっていたからであろう。

「……悪いな、さっきは俺もあぁいったが、それでも、例え分身でも、やっぱりあいつは今の今までここにいたんだよ」

 

 バーバラにだけ聞こえるような声で口にし、その拳をギリリと握りしめ。


「……例え分身でも、あいつが俺の親友(ダチ)であることには変わりがねぇ。それを無様だと、無駄死にだと言われて平気でいられるほど、俺はクールじゃいられねぇんだ」


 そして自らの胸を握りしめ。


「……熱いのさココが、やっぱ怒ってんだよ俺は。敵を討てと俺の本能が訴えてんだ。だから決着は、俺が付ける――」


 ケントが前に出て、キッと白騎士を睨めつけた。


「なんだい? また君がやる気なのかい?」

「……インターバルは終わった。そして次が最終ラウンドだ。テメェは俺の拳でしっかり片を付ける。テンカウントも必要ない、完璧なKOでな――」

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