第九十一話 ケントVS白騎士
今ここに仮面シノビーが集結した。仮面シノビー二号、そして仮面シノビーピンク。
すると目の前の妙に気障ったらしい優男の白騎士が何故かピンクを口説き始めていたが、ピンクは見事一蹴して見せる。
そして――何故か二人の視線がシノブに注がれた。どこか期待に満ちた目だ。
だが、残念ながら今、分身のシノブは仮面を被っていない。被っていないのだ。
だが、しかし――
「お、俺は! 仮面シノビーβだ!」
結局、その場のノリに合わせる形で仮面を現出させ、分身のシノブもまた名乗り上げてしまった。ただ、数字と色は言われてしまっていたので、もう半分焼け気味にβを名乗ったわけだが。
「フッ、なるほど、つまり君たちは同じ仮面に導かれた同士というわけだね」
そして、その様子から判った風な事を述べる白騎士である。その顔はなぜか少しだけ羨ましそうな感情が滲んでいた。
「……β、折角変身してくれたところ悪いが」
「これ変身になるのか?」
「あ、あたいは格好いいと思うよ!」
思わず眉をしかめるβ。つい雰囲気に飲まれたことを若干後悔。
とは言え、ケントはβを見やり。
「……お前は少し休んでおけ、ここからは俺がやる」
「だったら勿論あたいもやるよ!」
「いや、だけど――」
「……今の状態じゃ逆に邪魔だ。それに、直接戦っている時よりも、離れてみていた方が判るって事もある。セコンドみたいにな」
そう言い残し、ケントが白騎士との距離を詰めていく。ピンクもといバーバラも、任せておきな! と胸を叩きケントの後に続いた。
βは迷い、同時に情けなくも思えてしまうが、しかしケントの言っている事も尤もだと思いその気持ちに甘えつつ、相手の一挙手一投足に神経を集中させた。
「なるほど、仲間を助けるために、か――麗しの友情劇だね。そういうの、僕は嫌いじゃないよ」
「……いいからとっとと掛かってこい」
「強気だね。でも、君、武器は?」
ケントの構えを見て不思議そうに白騎士が尋ねた。確かにケントは武器らしい武器を持っていない。
精々両手にバンテージを巻いているぐらいだ。
「……俺はこの拳が武器だ」
「なるほど、拳闘士って奴かな?」
そんなケントの返答に、得心を示す白騎士であり。
「あたいはこの斧だよ!」
「ハハッ、ピンクちゃんは勇ましいなぁ」
「ちゃんって……」
バーバラが両刃の斧を見せつけると、白騎士は感心したように述べ、両手を広げた。
それに不服そうな表情を見せるバーバラ。ちゃん呼ばわりされたのが気持ち悪いのか、首元を掻き毟っている。
「まぁ、でも、一つ言っておくよ。ピンクちゃんはともかく、二号君じゃ絶対に僕には勝てない」
「……そんなものやってみなければ、判らないだろう」
「判るさ」
その瞬間、数体の分身が飛び出しケントにその細剣を突き出した。
「……フンッ!」
すると、ケントはジャブを連発して分身を全て消してしまった。
「……どうした? 偉そうな事を言った割に、大したことがないようだが?」
「ふふっ、いや、十分さ。それでは君の拳は絶対に届かない」
「……言ってろ」
そして更にケントが前に出るが――その途端、ケントの上半身がズタズタに切り裂かれた。
分身の高速の突きが、またもや実体化しケントの身体を捉えたのだ。
「――糞、そういうことか……」
すると、それを観察し続けていたシノブもといβが歯噛みする。
彼の視界では、白騎士の攻撃で更に傷が増えていくケントの姿。
それをケントはなんとかしようと、白騎士に詰め寄ろうとするが――白騎士は常に距離を取って実体化した突きを繰り出し、そしてケントの身を傷つけていった。
しかし、ケントの反撃は当たらない。いや、手が出せない。何故なら、そもそも素手のケントと細剣を持った白騎士ではリーチの差がありすぎる。
細剣そのものは、そこまで長い武器というわけでもないが、それでも、突きを主体とした攻撃が要の白騎士だ。当然、突きを出した時には白騎士の腕の長さに細剣のリーチが加わる。
ケントも腕のリーチは長い方だが、それでも対ボクサーならともかく、相手が得物を手にしているとなると話は別だ。
流石に腕の長さプラス武器のリーチに勝るほど、ケントの腕が長いわけもなく。
それに加え、白騎士は動きも素早い。これではケントのパンチはいつまでたっても届かない。
「あんた、あたいの事を忘れるんじゃないよ!」
だが、そこへバーバラが乱入し、白騎士に向けてその斧を大胆に振り回した。まるで竜巻のような振り回しで、白騎士の分身が次々と消え去っていく。
「どうだい!」
そして、腕を突き上げ得意がるバーバラ。するとその正面には残った白騎士が一人。
「こ、これは参った。まさかここまでとは! クッ、こうなったら!」
「あ、待ちな! 逃げる気かい!」
「うん? いや、ちょっと待てバー、いや、ピンク!」
「待ちやがれーーーーーー!」
白騎士が随分と大げさな仕草でピンチなのを訴え、そして森へと逃亡したのを、バーバラが追いかけていく。
βが止めようと声を上げるが、とき既に遅し、バーバラは白騎士を追いかけていってしまった。
「ふぅ、単純で良かった。女の子は傷つけたくないからね」
すると、脇の森から別の白騎士達が姿を見せ、再びケントと対峙する。
βは頭が痛くなった。
「あの、単細胞……」
これでは何のために来たのかわかりやしないのである。
「さて、君は男だから、流石に容赦できないかな」
そして剣を上下に揺らしながら、笑みを浮かべる。そんな白騎士を睨めつけ。
「……あまり、調子に乗らないことだな」
「そういうことはせめて攻撃が当たるようになってから言ってほしいものだね!」
そして白騎士の分身たちが迫る。とは言え、狙いはやはり一緒なのか、射程範囲内にケントが入ったところで脚を止め、一斉に突きを放ち、ケントが反撃を狙ってきたら下がる戦法だ。
だが――
「……舐めるな」
今度は逆にケントからバックステップで距離を取り、相手の突きを避けた上で、反動を付けるようにして白騎士達に突撃した。
「なるほど、緩急をつけて不意をつこうって事か。でも、甘いよ!」
白騎士の分身たちが一斉に地面を踏み、突きを放つ。それはリーチの差を活かすために行っていた逃げながらの攻撃とは違い、しっかりと体重の乗った仕留めるための一撃。
相手の突進を逆手に取った、フルカウンターだ。
まともに受ければ、これといった防具を装備していないケントでは致命傷は避けられない。
まさにいま、死を届ける突きがケントに迫る、その時――ケントの動きが急停止し、かと思えば地面を蹴り上げ、跳躍。
何!? と分身たちが驚愕するが、既にその動きは止まらない。
ケントは白騎士の身体を飛び越え背後へ回り込む。その時には白騎士は突きを放っており、背中はガラ空き。
これがボクシングであれば、背後からの攻撃は反則に繋がるが、生きるか死ぬかの戦いにおいては関係がない。
なので、ケントは容赦なく相手の背後からパンチの連打を浴びせるが――しかし、その全てが見事に消え去った。
すると、横の茂みから飛び出す影、そして突きを一撃、体を捻って直撃は避けるケントだが、しかし肩の辺りを掠め、血が滲んだ。
「惜しかったね、君も僕も、だけど、僕を捉えきれない限り君は絶対に勝てないよ」