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現代で忍者やってた俺が、召喚された異世界では最低クラスの無職だった  作者: 空地 大乃
第一章 忍者召喚編

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第八十九話 ピンチにはいつだってヒーローが駆けつける

「むぅう、視力を奪いに来るとはな。中々小癪な真似をしてくれる」


 片手で目を塞ぎつつ、アインはどこか嬉しそうに相手の攻めについて評した。

 この男、相手が手強ければ手強いほど気持ちが高揚していく性格である。


「だが、甘いな、【ギア・セカンド】――」


 しかし、すぐに真剣な表情に戻り、瞳に被せた手をどけ、鉄血の(アイゼンブラッド・)歯車(ギア)によるギアを更に一段階引き上げた。


 この固有スキルは血流を操作することにより、ステータス値を大幅に向上させる。体温も急上昇するため、次第に肌も赤みが強くなっていくのが特徴だ。


 ただ、勿論ギアを二段階まで引き上げたからといって、視力がすぐに元通りになるというわけでもない。


 ただ、身体能力の向上に伴って、気配を察する感覚もより鋭敏になる。故に、多少見えづらいからといっても、相手の位置をある程度把握することは、アイン程の実力ある騎士なら造作もないことだ。


「この位置か――」


 そして腰溜めになり、構えを取る。

 狙いは攻撃スキルの【天裂閃】、文字通り天を裂くほどの一閃により空中の相手でも容赦なく切り倒す。


 しかも、ギアを引き上げた恩恵で、射程も効果範囲も遥かに上がっている。これであれば、多少狙いが逸れたところで強引に落とすことが可能だ。


 そして、溜めた力を、まさにいま解放しようとしたその時――チッ、とアインが舌打ちを見せ構えを解く。


「どういうつもりだマジェスタ。聞こえているんだろ?」

『ふん、呼び捨てとは随分と偉そうなやつだ。これでも私の立場は大臣だぞ?』

「そんなものは関係ない。俺は騎士だ、魔法使いなど敬う義理はない」


 はっきりと言い放つアイン。そんな彼の視界が、ここにきて段々と戻っていた。閃光の影響が消えてきたのである。


 そして黒騎士が感じたとおり、マジェスタが魔法によって生み出したと思われる隕石が、あの三人を巻き込み落下していくのが見えた。


「あれは、俺の獲物だった筈だがな」

『ふん、あんなその場しのぎ程度の技で怯んでおきながら何を偉そうに。私はお前の尻拭いをしてやっただけだ』

「それが余計なことだと言っている。貴様の手助けなどなくても、俺なら落とせた。大体、生け捕りにする必要があるというのにあんな物を喰らわせては、とても生きてはいられないだろう」

『しっかり手加減はしているさ。それにあの程度でやられるような連中なら大した情報も持っていないだろう、だが、安心しろ、生命反応はしっかり残っている』


 マジェスタの答えに、やれやれと黒騎士は肩をすくめた。


 とは言え、あれだけ派手な轟音と鳴動を伴う隕石の落下だ。いくら手加減したとはいえただではすまないだろう。


「セカンドまで入れたのが無駄になったかもな――」


 そんな事を呟きつつも、黒騎士アインはマジェスタの落とした隕石の方向へと足を向けた。






◇◆◇


「シノブ! しっかりするっす! シノブ!」


 樹海の一画に生み出された大きなクレーター――シノブはその中で土砂に埋もれてしまっていた。


 なんとか半分ほど土を掻き出し、引き上げたマイラであったが、一言だけ、逃げろ、と口にし、シノブはそのまま意識をなくしてしまった。


 あの隕石が落下してきたとき、シノブはマイラとシェリナを庇い自らを盾にして隕石の衝撃を一身に受け止めた。


 そのおかげで、マイラもシェリナも奇跡といえるほど怪我は少ないが、その分シノブは全身がぼろぼろであり、半死半生といって良い状態である。


 この状況に、思わずボロボロと涙をこぼすマイラであったが――ふと優しい手の温もりが、マイラの右手に伝わった。


 え? と隣を見やると、ニコッと優しく微笑むシェリナの姿。


「しぇ、シェリナ様、でも、でもシノブが――」


 マイラが訴えるように口にすると、シェリナの表情が引き締まり。


『ここは私に任せて。シノビーは、私が絶対救います!』


 決意の篭った目で、石版を掲げる。しかし、助けると言っても一体どうするのか? とマイラも思うところであろうが――


 すると、シェリナがシノブの横で、一旦祈るようなポーズを見せた後、その手を彼に掲げた。


 その時であった、先程マイラも感じたような、どこか慈しみを感じる優しい光が、シノブの全身を包み込む。


「こ、これは――もしかして回復魔法っすか!」


 マイラが興奮した口調で述べる。確かに光に包まれてから徐々にシノブの傷は癒えていっているようでもある。

 

 シェリナは集中しているようであり、明確な答えはなかったが、その様子から治療に専念していることがわかる。


「凄いっす……これなら――」

「随分と派手にやったものだな」


 マイラが安堵の表情を浮かべるが、そこにあの黒騎士の声が届く。どうやら三人が落ちた場所めがけてやってきてしまったようだ。


「……シェリナ様、シノブの事は任せたっす。その代わり、あいつは絶対あたしが食い止めるっす!」


 すると、治療を続けるシェリナに後を任せ、マイラは窪みの中から這い上がった。


 ちょうど窪みから飛び出た位置、その正面に件の黒騎士の姿があり、思わず腰が引けそうになるがなんとか気持ちを奮い立たせ剣を抜く。


 シノブは念のため、剣も持たせてくれていた。奪われたミソウル製の長剣とは比べ物にはならないが、今はこれで凌ぐしかない。


「ここから先はいかせないっす、いや、いかせない!」


 折角正体がバレないようにシノブが色々用意してくれたのだが、マイラも下手なことは出来ない。声を低めにし、口癖も出ないように気をつけた。


「――あの男の仲間か。その様子だと、やはり生きてはいるようだな。ならば、素直に諦めたほうが身のためだぞ。貴様のようなのが出てくるということは、あの男はやはりただでは済まなかったのだろう?」


 マイラは特に何も語らず、オーソドックスな構えで迎え撃つ姿勢を見せる。


 それが答えと判断したのだろう。アインもその剣を構え、言葉を返した。


「既に更に一段階引き上げている。生け捕りにするつもりだが、加減しきれないかもしれない。死んでしまっても――文句を言うなよ」


 刹那、マイラの視界には漆黒の剣を振り上げる黒騎士の姿があった。

 ソレを目にした時、抗いようのない差を感じ、マイラは思い知ることとなる。


 相手の動きにピクリとも反応できなかった。いつの間にか相手の射程内に捉えられていた事も気づかず、それどころか、今も圧倒的なオーラに呑まれ脚が竦む始末だ。


 今さっき、自分が食い止めると言ったばかりなのに、先には進ませないと決意したのに――心が折れ、意志がガラガラと崩れ落ちていく。


 涙が出そうになった。だが、そんなものが瞳からこぼれ落ちる前に、きっと自分は切り裂かれてしまっている事だろう――諦めに似た感情。


「グウォオオオオオオォオオオオオ!」

「何!?」


 だが、その時だった、金色の毛並みが印象的な一匹の獣が木々の間から飛び出し、一足飛びでマイラと黒騎士の間に入り込んだ。


 え? と目を丸くさせるマイラと、若干の驚きを見せる黒騎士。振り下ろされた騎士の剣は――しかし突如乱入した獣に命中し、かと思えば大きく弾き返された。


「むぅ!」


 反動で後方に飛び退き、唸る黒騎士。乱入した獣はアインの方へ身体を向け、グルルと唸り声を上げ、歯牙を剥き出しに相手を睨めつけた。


「こ、これはどうなってるんっすか?」

『お前! シノブの知り合いか?』


 狼狽するマイラだったが、その脳裏に響く声。


 マイラは小さな声で、え? はい、とだけ返事する。


『そう、じゃあシノブを守ってくれていたのじゃな。感謝するのじゃ』

「て、これ貴方が話しているの?」

『そうじゃ、我はネメア。シノブとは――シノブは我の家来なのじゃ!』

「へ? け、家来っすか?」


 やはり黒騎士には聞こえない程度の声で返し、目をパチクリさせるマイラだが――


「よ、よくわからないっすが、シノブは今後ろの穴の中で治療を受けてるっす。それが終わるまで、この黒騎士から守りきらないといけないっす!」

『……事情は判ったのじゃ! 何、我に任せるのじゃ! 伊達にこの森の主をやっていたわけじゃないのじゃ!』


 森の主? と更に驚きを見せるマイラであるが。

 すると黒騎士が改めて構えをただし、興味深そうにネメアに目を向け言った。


「……その風貌、魔獣か――何故魔獣が邪魔立てするか知らぬが……そっちの仲間よりは楽しめそうだな」






◇◆◇


「さぁ、どうしたのかな? 手も足も出ていないようだけど」

「クッ!」


 ネメアを先に向かわせた後、分身のシノブは白騎士と戦いを演じ、思わぬ苦戦を強いられていた。


 何せ、白騎士が妙なステップを踏み出し生み出された多数の分身は、いくらシノブが切りつけたところで掻き消えるばかり。


 開眼の術で、その正体を見破ろうともしたが、その反応からどれもが幻影であることが判ったが、肝心の本体がどれかが判らず、それでいて相手の攻撃はどれも現実化し襲い掛かってくる。


「それにしても、君もタフだね。それに散々切りつけているわりに出血も少ないみたいだし」

「俺は低血圧だから血の量が極端に少ないんだよ」


 そして、戦いを続けるうちに白騎士もシノブの身体に疑問は抱いたようだ。そう、分身のシノブは分身故に傷がついても血が出る事はない。


 とは言え、中々苦しい言い訳でもあるだろうが――ただ、傷つかないと言っても全く影響がないわけではない。忍気で作られた分身は、傷つけられればその忍気がどんどん漏出していく事になる。


 そして当然込められた忍気が尽きれば、もう分身は消える他ない。


(参ったな、これ以上攻撃を受ければ、流石に持たないかもしれないし、忍術も使いにくくなる)


 忍術を使えば当然、忍気が減る。分身にとって忍気は生命線でもあるので、無駄打ちは出来ない。


「そう、まぁいいや。そろそろ決着付けさせてもらおうか。【疾風怒濤】――」


 白騎士がスキルを発動したかと思えば、分身の内の一体が急加速し、怒涛の突きの連打をシノブに浴びせてくる。


 その圧力に後方まで一直線に吹き飛ばされるシノブであり。


(クッ、流石にこのままじゃヤバいか――)


 そんな事を思った直後の事だった。何かが飛び出し、飛ばされてきたシノブを受け止めて見せる。


「え? これは……」

「……大丈夫か?」


 疑問の声を上げるシノブ。すると、よく聞き覚えのある声が上から振ってきて、思わずシノブもその姿を認め目を丸くさせる。


「な、なんでお前……」

「……偶然だ、気にするな」


 そしてシノブを地面に立たせ何故か仮面で顔を隠した男が前に出たわけだが――


「これは驚いたね。まさかまだ仲間がいたなんて。それで君は一体誰なのかな?」


 そんな彼に向けて誰何する白騎士であり、すると仮面の彼は仁王立ちのまま堂々と言い放った。


「……俺は、仮面シノビー二号だ!」

分身視点も今回は三人称だったりします。

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