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第八話 やっぱり俺は忍者だ

「こうやって見てみると、やっぱ結構広いんだな」


 俺は帝都の周囲に築き上げられた防壁の上、正確に言えばその防壁沿いに建てられた尖塔の天辺を陣取り街を俯瞰していた。


 まあ、ここまでくると都市といった方がいいんだろうけどな。詳しくは判らないが、帝国の主要都市だからなんとなく帝都って認識でいる。


 尖塔は間違いなく見張り用のものだが、月と星の明かりだけじゃ俺の動きは追えない。闇に完全に同化してるし、気配も断っているしな。


 ただ、そんな闇でも俺にはしっかり都の様相が映し出されてるけどな。忍者たるもの夜でも昼と同じように視界が確保できるなんて基本中の基本だ。


 まあ、忍気を目に集中しているのが大きいんだけどな。


 でも、この帝都、かなり広いのは確かだ。目算ではあるけど、壁の内側の規模は地球の新宿ぐらいなら軽く収まるぐらいはあると思う。


 帝都だけにと言うべきか、建物も立派な作りが多く、全体的には赤を基調とした都市づくりを意識してるように思える。


 実際丘の上に見える宮殿や城も赤いしな。そういえば、明日からの訓練は城の方でやるって話だったな。


 一つ気になるのは城から少し離れた場所にある赤い塔だ。かなり高さあるけど何に使うものだろうな。


 そんな事を考えつつも、今度は壁の外側に目を向ける。帝都に入るための門は東西南北に一箇所ずつってところか。

 堀もあり、水が溜まっている。何箇所か堀に流入している河川が見えるな。


 まあ、このあたりは基本的な造りだろうな。ただ、この帝都、周囲は鬱蒼と茂る森に囲まれている。

 

 街道が敷設されている部分だけは上手く開かれているようだけど、基本的にはその多くが森だ。


 ただ、これは俺にとってはむしろ都合がいい。森のなかに入ってしまえば、こんな時間に誰かに見つかることもないだろうしな。


 そんなわけで、俺は一呼吸し、そして尖塔の天辺を蹴り上げて跳躍する。何かここまで伸び伸びと飛べたのも久しぶりな気がするな。


 日本でも普段は学校だし、任務中はここまで大きくは飛べないからな。

 俺は一瞬とは言え鳥になった気分を堪能しつつ、森の一画へと降下する。


 とりあえず比較的開けた場所を選んだつもりだ。ぐんぐんと地面が近づいていく。高度で言えば軽く百メートルぐらいの位置から落下してるから普通なら当然死ぬ。


 だが、そこで忍気を集中させることで肉体を強化、更に慣性を制御することでバランスも崩さず見事に着地を決めた。


 衝撃もまんべんなく地面に逃したから、地形に変化もあらわれないだろう。


 さて、位置的には帝都の壁から一キロメートルぐらい離れた場所ってところか。軽く力を入れただけでひとっ飛びでここまでこれたことを考えると、やはりステータスで見えた能力と実際の俺が持ってる能力とではかなりの齟齬があるな。


 とは言え、それが判っただけでも収穫ありだな。ただ、重要なのはここからだ。


 俺がわざわざ宮殿を抜け出してこんなところまで来たのは、この世界と地球では明らかな違いがあるからだ。


 勿論細かい点を言えば、違いぐらいいくらでも出て来るが、俺にとって大きいのは気の存在だ。


 実は忍気というのはある程度訓練することで、体内で忍気を生成する器官が出来ることは忍者界の常識ではあるのだが――


 しかし体内で生み出す速度は決して速いものではなく、例えば今俺が忍気を全て使いつくしてしまうと全快まで二十時間以上は掛かってしまう。


 まあ、その分俺が有してる忍気保有量はかなり大きいらしいんだけどな。

 ただ、どちらにせよいざという時に忍気が切れると忍者としては致命的だ。


 だから、忍者自身が内側から生み出す分とは別に、外側にある、つまり酸素と同じぐらいに日常的に溢れている自然界の気を取り入れそれを忍気に変換することで忍気器官だけでは足りない分を補っているわけだ。


 そして勿論自然界の気を忍気に変換する利点は他にもある。それは外側の気を忍気に変換することで、体内の忍気だけでは扱うことの出来ない強力な忍術も使用可能になるという事だ。


 つまり外側の気を掻き集め、更に自身の忍気と組み合わせることで、より多くの忍気を生み出すわけだ。


 そうすることで本来の自分の忍気だけでは使いこなせない忍術も使用可能になる。尤も、これもうまくやらないと術が暴走しかねないからな。そうやすやすと会得出来るものでもない。


 なにはともあれ、この世界において問題なのはこの気というものが存在しないことだ。


 似たようなものはあるけどな。ステータスに見えたオーラがそれだ。どうやらこの世界の生物は体内にこのオーラを生成する器官、オーラ器官とでも言うべきか? それが、あったりなかったりするようだ。


 なんとも曖昧に思えるかもだが、ステータス上ではオーラが0の場合もあるからな。全員が全員持っているわけでもないのだろう。


 そしてどうやらこのオーラ器官は地球人であってもこの世界にくることで開かれる事があるようだな。実際ケントやユウトはオーラを持ってたし。


 ただ、このオーラはあくまで体内から作られるのみだ。オーラがなんなのかはオーラを持っている人物からある程度判断できるが、自然界に存在するものではないようだしな。


 でもそうなると、気の代わりになるものはないのか? という話になるが、ここからが重要だ。


 なぜなら確かに俺の知っている気というものはこの世界に存在しない。だが、その代わり魔力というものが普通にその辺に転がっているのだ。


 つまりこれが地球での気の代わりといったところだろう。魔法使いなんかはこの魔力を一度体内に取り込んで魔法を使ってるみたいだな。


 で、ここからが重要だ。何故か? つまりこの魔力を地球の気のように取り込んで忍気に変換が可能か? という話なわけだ。


 そしてそれさえできれば、この世界での不都合はほぼなくなる。忍者として地球と何ら変わらない動きが可能だろうな。


 だから、とりあえず俺はこの魔力を取り込んで忍気に変換できるか試してみたわけだが――





 あれから三十分ぐらい過ぎただろうか? そして結論から言えば――可能だ。


 そう、可能。かなりかっては違うが、魔力から忍気への変換は何とか可能だ。


 ただ、変換方法に大きな違いはある。地球での気を忍気に変換する場合、慣れてしまえばそれは呼吸のように可能だった。

 

 つまり、自然と一定量を取り込み続ける事が可能だったわけだ。しかも必要に応じて吸引量を変化させる事で、かき集めるなんて事も可能だった。


 だが、こっちの魔力の変換に関してはやはり性質が違う分、意識してそれを行う必要がある。そして変換して呼吸のように取り込むのはかなりキツい。


 例えるなら魔力から忍気への変換は一度氷にして取り込むようなものだ。つまり自然と呼吸のように取り込むのではなく、固体化して一度に取り込む、そんな感じだ。


 だから、やはりどうしても効率は落ちるな。しかも変換率が少々低い、現状だと魔力から忍気への変換効率は五十パーセントといったところだ。

 

 つまり百の魔力を忍気に変換すると五十しか得られないという事になる。

 これは結構でかいな。ちなみに地球の気の場合、変換効率は百パーセントだ。


 ふむ、このあたりは今後の課題だな。とは言え、全くのゼロよりはマシかなっと。


 さて、後は……。


――ガサガサッ。


 うん? 何か葉擦れ音が聞こえるな――それにこの気配、確実にこっちに近づいてきてるか……。


「――出たか」


 そして俺が身構えて待ち構えていると、緑の中からそれが飛び出し、そして俺を睨めつけ唸り声を上げてきた。


 これが、俗にいう魔物ってやつか。相手は見た目には熊、毛は焦げ茶色で、立ち上がればその大きさは俺の二倍半ぐらいあることだろう。


 そして、何よりこの熊が普通の熊と大きく違うのはその前肢の数だ。何せ普通の倍、つまり四本あるからな。


 腕としてみれば四本腕の熊ってところだな。

 ふむ、でもちょうどいい機会かもしれない。折角だから相手のステータスを覗いてみよう。


 俺は早速印を結び、忍術を使用する。


「偵遁・看破眼」



ステータス

名前:フォクロベア

レベル:25

種族:魔物

クラス:獣系

パワー:480

スピード:220

タフネス:520

テクニック:200

マジック:0

オーラ :320


スキル

強筋、真空爪、雄叫び


称号

人食い


スキル

・強筋

筋肉が強化されて攻撃力が向上する。


・真空爪

爪を振る事で、爪型の斬撃を飛ばす。

実際の真空とは全く関係がない。


・雄叫び

雄叫びを上げることで相手を竦ませる。


称号

・人食い

大量の人を食べた魔物などに付く称号。

人を食うことでLVUPに繋がるようになる。



 これが奴のステータスか。それにしても上手くいったな。自分のステータスが見れるって事はベースがあるってことだからな。


 だから後は目を強化しつつ、偵遁と組み合わせれば相手の情報を知ることは容易い。こっちでは鑑定で似たような事が出来るらしいけどな。


 もともと偵遁は偵察目的、つまり感知や索敵に特化してる忍術だしな。特殊忍術になるから使用者は限られてくるけど、俺は基本大体どんな忍術もそつなくこなせるから問題ない。


 尤も幻遁とか(人並みではあるけど)若干苦手なのもあるけどな。あれはくのいちが得意としているタイプだし仕方ないってことで。


 そんなわけで看破眼は相手の能力を見破れる忍術だ。向こうでは対忍者戦で有効だったけど、こっちではかなり役立つかもな。


 それにしても名前はフォクロベア、やっぱ魔物か。問題はLVだな。LV25ってクラスの誰よりも強いぞ。

 

 ステータスは完全に脳筋だけど、パワーとタフネスならクラスでトップの数値を叩き出したケントよりも上だ。

 

 おまけに……人食いって、物騒すぎるだろ。まあ、野生の熊だって人を食うんだから魔物が喰わないわけないが、大量のってのがヤバいだろ。


 どんだけ人食ったんだ、こうなるともう害獣だな。片付けない理由がない。


 ただ、俺無職だしな~ステータス低いし。ヤベェ、こんなの俺軽く死ねるじゃん。


「グオォォオォオオォオオ!」


 そして雄叫びを早速上げてきた。これで普通なら体が竦んで動くことが出来ず、更に――ブン! ブン! ブン! ブン! と四本の腕を勢い良く振って、爪型の斬撃を飛ばしてきた。


 これはもう避けようがない。完全にこの魔物の必勝パターンだろうな。こんなので切り刻まれたらもうバラバラだ。このフォクロベアという魔物もわざわざ解体しなくても一口サイズの餌にありつけるってわけだ、なるほどなるほど。


「ま、やられないけどな」

「――!?」


 俺は瞬時に加速して相手の背後に回り込み、体遁で強化した延髄斬りを御見舞する。


 まあ、思いっきり回転してからの蹴りだから、威力はかなり高い。俺よりも遥かに逞しそうな巨体が軽々と吹っ飛んでいき、木々をなぎ倒しながら地面に着弾した。


 派手に土煙が上がって、一瞬熊の姿が煙に巻かれる。


 まあ、うざったいから風遁・風起こしで掻き消したけど。


「グルルルゥ――」


 おっと、やはりLV25のタフネス520は伊達じゃないな。手加減したとは言え、まだまだ戦えそうだ。


 尤もそうでないと、こっちも色々試せないんだけどな。


 さてと、俺は手早く印を結び、次の術に取り掛かる。


「武遁・忍気手裏剣――」


 俺の手の中に忍気を練り上げて作った手裏剣が生まれる。右手に平型の十字手裏剣タイプ、左手には棒型の穿孔手裏剣タイプだ。


 武遁は忍気を武器にまとわせて切れ味を良くしたり、今みたいに忍気をイメージした武器に変化させたりが可能だ。


 手裏剣なんかは持ち歩くと結構嵩張るからな、これがあればいちいち持ち歩かなくてもいいから便利だ。


 そして生み出した手裏剣だが、十字手裏剣はそのまま十字型をしているものだ。


 そして穿孔手裏剣は通常の棒手裏剣の先端がドリルのようになっているタイプとなる。


 回転を加えること前提だが、威力が非常に高いのが特徴だ。


 その手裏剣を投げる――平型タイプは回転音が結構するのが特徴だな、棒型ならそれは全く無い。


 だから隠密時には棒型のほうが有利だ。そして魔物に向かって先ず、鋭く回転しながら速度を増した穿孔手裏剣が突き刺さった。


 ドリルみたいになっているおかげで分厚い筋肉の塊のような胴体に軽々と食い込んでいき、最後には貫通した。


 フォクロベアが仰け反り悲鳴を上げる。すると今度は背後から十字手裏剣が迫り突き刺さった。


 身を捩って暴れまわる。平型手裏剣は棒手裏剣に比べると威力は低いが、投げ方によって軌道に変化を持たせやすいのが特徴だ。


 今のも回転を加えたことで外側に一旦外れつつ、ブーメランのように戻ってきて背中を強襲したからな。


 とはいえ、とりあえず体遁、武遁、偵遁というこれから必要になるであろう忍術は全く問題なく使えることが判った。


 そしてこれが使えるなら後はどれも問題ないだろう。さっきちらっと風遁使っても違和感なかったし。


 さて、検証も終わったし、流石にあまりいたぶるのもかわいそうだから、ここでケリを付けておこう。


 トドメは、そうだな――俺は再び印を結び。


「風遁・鎌鼬の術」


 術が完成すると同時に突風が吹き、フォクロベアの巨体を通り抜けた。


 すると、痛みに暴れまわっていたその動きもピタリと止まり――かと思えば、ピシッ、ピシッ、ピシッ、とその全身に切れ目が刻まれていき、そのままあっという間にバラバラになり絶命した。

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