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第八十七話 マジェスタは視ていた

 いかにも老獪といった雰囲気漂う一人の男、黒を基調としたローブを羽織り、その手には先端に金色のリングが備わった杖。輪の中心では特にこれといった支えるものがないにも関わらず、蒼い玉が浮遊を続けている、随分と変わった代物だ。


 そんな杖を強く握りしめながら、とある空間にて頭上にプカプカと浮かぶ球体を男は見上げていた。


 その目つきは鋭くもあり、どこか意地の悪さも感じさせる。自慢の白髭を擦りつつ、気に入らんな、と一言呟いた。


 球体の中では、とある森の様子が映し出されていた。グランガイム帝国の魔道大臣にして、帝国魔導師団元帥という立場でもある。


 それがこの男、マジェスタ・ランボルギニである。しかし、それほどの肩書を持つこの男は、現状騎士団の援護の為、感知魔法によって帝都周辺に広がる森を監視するという役割に回っている。


 当然、本来であればこんなことは本意ではない。不本意である。

 だが、結果的に不審人物を二度も取り逃がしたマビロギの責任は誰かが取る必要がある。


 その上マビロギは魔法師団に所属している魔術士扱いでもある。魔導師団は森の管理に関しては騎士がわざわざ出向かなくても我らだけで十分と自負していた。


 そして森の件を皮切りに、市街地から城、宮殿に至るまで、その管理と監視を一手に引き受けるまでに相成り、魔法師団の発言力も強くなっていった。

 

 だが、帝国騎士団がそれを潔く受け入れていない事は、マジェスタもよく理解していた。単純な人数の差で見れば、帝都とその周辺だけでも無数の団と兵力を抱える帝国騎士団に軍配は上がる。


 魔法師団は数だけで言えば騎士団の十分の一程度しかないからである。それだけある一定の水準を超える魔法の使い手は育ちにくいという事でもある。


 しかし、それだけの差があるにも関わらずマジェスタが元帥を務める魔導師団が、帝都における管理と監視という軍務において重要な役どころを、しかもそのほぼ全権を任されていたのである。


 魔道大臣という位も相まって、マジェスタが調子づくのも当然と言えた。

 

 結局数だけ揃えたところで烏合の衆である、脳筋揃いの騎士が唱える騎士道(・・・)よりも魔法に精通し魔導を磨く魔導師が誇る魔道(・・)の方が優れていたという事なのである。


 そう、思っていたのだが――ここにきて現れ始めた妙な仮面の男の存在が積み上げてきたマジェスタの地位を脅かし始めていた。


 最近は実は城内にまで侵入されていた形跡があるということで、それはますます加速した。


 なんとか、ゴーストの力を借り、それらしきものは排除したが、既に犯した失態については騎士団の元帥たるアモスにネチネチ言われ続けている。

 

 こんな調子だから、現状はマジェスタも騎士団に対して強くいえない。

 だからこそ、マジェスタは処刑の行われるこの日も、何かあった時のために援護を頼むと一応は頼み事を引き受ける体で、森の監視を行っていた。


 とはいっても、これも結局マジェスタがやることは騎士のサポートである。夕刻処刑されるマイラという女騎士について、どうやら少し気にかかる点があるようであり、騎士とマジェスタの共同で監視を行うことになったのである。


 その際、帝都ではなく森を主とする警戒を行なうことで、侵入者がいるにしても、帝都から逃亡を図るものがいたとしても両方に対応できるようにしたわけである。


 正直、本来であればマジェスタの魔法があれば、一人で十分とも思えたのだが、今回はあくまで騎士のサポート、しかもいつもならイグリナ姫の側に使えしあの黒騎士と白騎士が、今回はわざわざ森の警備に乗り出しているのである。


(つまり、ゴーストが持ち帰った遺体の人物以外にも仲間がいるかもしれないと、奴は考えているわけか)


 マジェスタはそう予想する。そんな馬鹿な、とは思わなかった。あのマイラという女騎士には確かに妙な点が多い。


 あの迷宮に隠された階層があることは、マジェスタも知っていた事だ。


 そして、普通に考えれば所詮は下級の騎士であり、しかも騎士としても魔術士としても中途半端な魔法騎士などというクラス持ちが抜け出せるような難易度の低い迷宮ではないことも。


 結局、その尋問は騎士団がやってしまった為、他に何者かがいたのか? などは聞けずじまいだったが、もし彼女を手助けしたものがいたとするなら、処刑されるという事実を知れば何かしら行動に移してくる可能性もある。


 どちらにしろ、あのマイラという女騎士は死んでもらわなければいけない理由があるが、その前に帝国に仇なる存在をあぶり出せるかもしれない、そう考えていたのかもしれない。


 そしてその考えは、見事的中した。マジェスタにもすぐに魔術部隊から伝令が入ったが、何者かの乱入により、騎士の処刑は妨げられ、しかも騎士のマイラを抱えてどこかへと飛び立ったと――


 だが、ここまでは当初の予定通りだったと言えるが、その直後思いがけないことが起きた。

 城近くの幽閉の塔に大量の雷が落ち、一瞬にして塔が崩れ落ちたのである。


 しかも一部情報によると、女騎士を抱え塔に向かう仮面の男の姿を見たという話が上がっており、仮面の男が塔に入った直後に雷が落ち塔が崩落したというのだ。


 その件もあり、情報が錯綜する。マジェスタもこの時は多少は焦ったが、それでも外の警戒は怠らなかった。


 その結果、マジェスタは何個かの妙な反応をキャッチした。一つは上空から森へと降下し、移動する三人の姿。


 プカプカと浮かぶ球体に映るは、一人は仮面を被り、二人は全身を覆う外套にフードという姿。フードは目深に掛けてあるため顔はいまいちはっきりとしない。


 仮面姿の一人は帝都に現れた男と一緒に思えたが、よく見ると情報にあったものと髪の色と雰囲気が異なっていた。


 ただ、同じ仮面を被っている以上、全く関係がないとも言えないだろう。本来ならマジェスタ自身が捕獲したいところでもあるが――今回は基本的には騎士に任せるという約束がある。


 なのでマジェスタはそちらに近くにいた黒騎士アインを、もう一方(・・)の方へは白騎士ロイドを向かわせた。


 そして見事森を疾駆する三人と対峙したアインだが、思いの外妙な仮面を被った相手もやる様子であった。


 マジェスタが注目したのは、仮面の男が妙な魔法のような物を使う点だ。ただ、一見魔法のように見えるそれも、術を行使するまでの挙動は魔術士のそれとは大きく異なっていた。


 それに使用している魔法もよく見ればマジェスタの知識にあるものと微妙に異なっている。


 おまけに妙な分身まで出して戦っている。これは帝国騎士であってもそれこそ帝国でも腕利きと言われるような騎士であっても、この仮面の男を相手しては勝利は厳しかった事だろう。


 だが、今回に関しては相手が悪かった。アインは帝国屈指の腕を持つ騎士である。役職こそ副団長などという立場に収まっているが、本来は団長でも全くおかしくない程であり、もっといえば帝国の四大将軍に引けをとらないほどの腕を持つ。


 そしてこれは、アインと共に普段はイグリナ姫の護衛の任についているロイドも一緒である。


 そして、案の定仮面の男はアインに追い詰められていった。これでも本来ギアを一段階上げさせただけで大したものだが、これでこの有様では、勝負は決まったようなものだろう。


 何せアインのギアにはまだまだ先がある。身体が十分に温まるまで次のギアにいけないという点を踏まえても、通常時(・・・)で六段階まで上げられるのは十分驚異的といえるだろう。


 だが、アインにこのままでは敵わないという事は、仮面の男も理解したようだ。突然強烈な閃光を発し、かと思えば空へと逃げたのである。


 まさか飛翔系の能力まで使えるとは――魔法とは違うように思えるが、どちらにしても腕利きの魔導師でも使い手が極端に少ない魔法だ。


 だが、やはり相手が悪かった。確かにアインの隙を作ることには成功したが――マジェスタにはしっかりと確認できていたのだから。


「くくっ、確かに今回、基本的にはサポートするのが役目だが、これであれば仕方ないであろう」


 そして、マジェスタは精神を集中させ、球体の中に見える仮面の男とその仲間に向けて魔法を行使する。


「――コメットブレイク」


 それは上空から対象に向けて隕石を一つ落下させる魔法。


 そして――マジェスタが魔法を発動すると同時に、はるか上空に隕石が現出し、高速で落下し真っ赤に染まる。


 迫る隕石に、どうやら連中も気がついたようだが、しかしその時には既に遅く――仮面の男が仲間らしき二人を庇うようにしながら迫る隕石を受け止めようとするも無駄なこと、空中で隕石に巻き込まれながら地上へと落下。


 森全体が鳴動し、震え、強烈な爆轟――そして、隕石の落下した地点には、見事なまでのクレーターがぽっかりと大口を開けていた……。

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[一言] カオス化したチャクラルギーをパージして、ディメンションフィールドにアクセスし、高次元忍空間にてトランスし、ホワイトライセンスでフルチャージしスーパー仮面シノビーダイナミックチェンジを行なう …
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