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第八十六話 忍者VS黒騎士

 先に攻撃を仕掛けるのは当然だ。そもそも、この黒騎士アインだって、こちらに何かを確認する前に一撃御見舞してきている。


 そんな相手に容赦の必要なんてない。ただ――その意識は相手も同じだったのかもしれない。結果で言えば俺の拳は殆どダメージに繋がらなかった。


 理由は俺の攻撃に合わせて、アインも鞘から剣を抜いて横に一閃決めてきたからだ。


 おかげで俺も咄嗟に飛び上がり、避けながら攻撃を浴びせる形になったが、その為に体重も殆ど乗らず、纏わせた電撃の効果を考慮しても正直威力は微妙なところだ。

 

 しかもこの男、攻撃を受けながらも問答無用で上段の状態に切り替え、俺に向けて漆黒の刃を振り下ろしてくる。


 だけど、接近戦を仕掛けていたのが功を奏した。アインの鎧を蹴り飛ばし、その反動を利用して、後方に飛び退く。


 一回転して着地しようとして――そのすぐ正面、まさに紙一重の位置を刃が通り過ぎた。

 流石に肝が冷えた。黒騎士の剣、鎧と同じく刃が黒く、刃渡りは百十センチメートルってところか。


 そこまでゴテゴテしているわけではないが、ガード()の真ん中に黒真珠のような宝石が埋め込まれている。ガードは刃と相まって十字に見える形状で、途中で分かれる形で弧を描くような、ガードか持ち手か? といった形状になっている。


 それを、片手で振り抜き、直後構えを変えて両手で振り下ろした。片手でも両手でも行ける剣、片手半剣って奴か。


 万能な剣の代名詞ってところだ。ステータスに表示されていた技の多彩さがそれを物語っていた。


「随分と容赦のない奴だな」

「お互い様だろ」

「確かに、だが、妙な技を使う。拳に電撃を纏わせたかと思えば、分身まで出すとはな。アイツとは、タイプが違うようだが――」


 俺の背後でシェリナとマイラを守っている影分身を一瞥しアインが語る。


 アイツ? 誰の事を言っているかは判らないが、やはり知識と技術がある分、あの巨人より手強い。


 尤もあの巨人には明確な弱点があったから、それをつくことで割とすんなり倒せたというのもあるけどな。


 こいつにも明確な弱点があればな。現状、あえてあげるならやはり速度か。


 ステータスでもスピードだけは一歩劣っていた。勿論それでも下手な騎士よりは速いが、それでも俺と比べたら遅いのは間違いない。

 

 最初の霆撃に、攻撃をあわせられはしたが、あれは読みとタイミングによるところが大きい。


 勿論それだって、驚異的な技術と言えるかもしれないが、今のはあくまで様子見の一撃だ。

 ならば、ここからは相手を翻弄しながら戦っていくとしよう。速度でアドバンテージがある以上、何も正面からまともにやりあう必要はない。


「武遁・八方手裏剣!」


 俺は忍気で作成した様々な種類の手裏剣を大量に投げつける。それぞれ回転を加えたりで軌道に変化を持たせることで、あらゆる方向から手裏剣がアレンに襲いかかる。


「なるほど、子供だましだな」


 薄ら笑いを浮かべつつ、黒騎士が回転しながら斬撃を迫る手裏剣に向けて叩き込む。黒い嵐の二つ名に恥じない豪風一閃、発生した風圧すらも払いのけるのに利用し、多くの手裏剣が消え去った。


 だが――一部の手裏剣は爆発、悪いな、中にはしっかりと火車手裏剣も混ぜておいた。例えその大層な剣で叩き落されようと、爆発すれば関係ない。


 勿論、その威力じゃ倒しきれないだろうが、一瞬でも意識を逸らすことが出来れば十分だ。


 俺は爆発したその隙をついてアインの背後に回り込み、鎧に掌を当てた。丈夫そうなこの鎧では、霧咲丸でもそう簡単に破壊できないだろう。


 だが、鎧の内側に直接攻撃を叩き込むならそれも関係がない。体遁の内破跳弾で一気に決めてや――


「惜しかったな」

「ぐっ!」


 腹部に熱が走る。喉の奥から鉄の味がこみ上げる。


 すぐに飛び退いたが、思わず呻き声が漏れた。腹部を確認、するまでもない、奴の剣が俺の腹を抉ったんだ。忍に伝わる特性の鎖帷子を身に着けていたが、それも断ち、剣先が俺の腹に食い込んだ。


「思ったより、浅いか」

「お前、いかれてるのかよ――」


 思わず吐露する。俺が飛び退いたことで、傷が確認出来たのだろう。マイラが声を上げそうになっていたがそれは分身が止めてくれていた。


 既に一度悲鳴を上げてはいるが、出来るだけ正体に繋がる行動は控えたほうがいい。

 

 それにしても、こいつ、自分の身体に剣を差し込み、俺を狙ってきやがった。相打ち覚悟かよ――


「やれやれ、俺は、そこまで狂った事はした覚えはないんだがね」


 黒鎧が振り返る。だが、俺は絶句しかけた。こいつ、全くダメージを受けていない?

 もしかして、これが自然回復の効果なのか? いや、違う! こいつ――


「身体には通さず、鎧だけ貫いたのかよ……」

「当然だな。相打ちではとても勝ちとは呼べないのだから」


 よく見ると、こいつの鎧に孔が穿たれているのは脇を通る部分だけだ。更に鎧の中の身体の位置を微調整して鎧だけを通して、俺に攻撃が届くようにしたのだろう。


 どちらにせよ、並の精神じゃ出来ない芸当だ。少しでも位置がずれれば己の肉体を傷つける。かといって躊躇していたら気づかれる。


 絶対の自信を持って迷いなくやらなければ成功しない荒業だ。


「チッ、だけど、悪いが大した傷じゃない。折角の鎧が傷ついた事を考えれば、割に合わなかったな」


 勿論強がりだ。傷はそれなりに深い。鎖帷子にある程度救われたとも言えるが、気を抜くと動きが間違いなく鈍る。


「何、心配には及ばないさ。見てみるがいい、すでに鎧は修復されている」

「な……」


 アインが敢えて鎧の傷を見せつけるような姿勢を取る。すると、確かに孔は完全に塞がっていた。


 どうやら、そういう効果のある鎧なようだな。俺の鎖帷子も、形状記憶合金に近い性質を併せ持つから、忍気さえ流せれば後で修復も可能な作りにはなっている。


 だけど、ここまで瞬時に直すとなると無理だ。今まさに戦闘中といった状況で、すぐに修理可能といえるほど万能なものではない。


 そう考えるとこの鎧の修復力は驚異的だ。


 全く、厄介なやつに厄介な装備が揃ってくれているもんだ。


「さて、今度は俺の方からいかしてもらうとするか――【地動剣】」


 アインが地面に剣を突き立てる。その瞬間、俺の足元が盛り上がり、刃が伸び上がる。


 地面から巨大な剣が生えてきやがった。四の五の言っている暇なんてもうない。俺は霧咲丸を抜き跳躍しつつ迫る刃を刀の腹で受け止めた。


 地面から伸長した刃は容赦なく俺を空中に飛ばす。


 こっちの世界じゃ珍しい武器だろうし、広場で一瞬とはいえお披露目しているから出来れば抜かずに済ませたかったが、俺が甘かったと痛感する。


「良い剣だな――」

「――ッ!?」


 とにかく、アインの位置を確認し、術を展開しようかと思ったが、既に奴は俺の真上にいた。こいつ、行動に無駄がなさすぎる!


「【地落撃】――」


 圧の篭った剣戟が上から俺に降り注いだ。既の所で霧咲丸を重ね合わせるが、オーラが込められているのか衝撃で腕がビリビリとしびれ、俺の身体は地上に向けて急降下を始めた。


 落下速度が早く、印を結ぶのもキツイが――


「体遁・力王の術!」


 忍気を巡らせ、肉体を大幅に強化させる忍術。着弾し、もうもうと土煙が上がり、地面も大分凹んだが、おかげでこの攻撃のダメージはそうでもない。


 この強化状態を利用して、筋肉を締め傷口も強引に閉じた。本当に、かなり無理やりではあるけどな。


 とにかく、立ち上がり、息を整え、ようと思ったが、ゾクリと全身に襲いかかる怖気。正面に目を向けると、地面に剣を突き刺したまま、強引に距離を詰めてくるアインの姿。


 あんなもの、剣を駄目にするだけだろと普通なら思いそうだが――違う、むしろあれは地面を砥石代わりに利用して、その距離が長いほど切れ味が増していく。


「地裂幻月――」


 そして、間合いに入ると同時にその剛剣を振り上げた。その軌跡はまるで地上に月が浮かび上がったかのように感じられるものであり、そして、破壊力は絶大。


 振り上げた余波で、斬撃そのものが本来の間合い以上に伸び、地面に刻まれた傷が深く、長く、伸びていった。


 俺の鎖帷子が断裂し、皮と肉の浅いところに薄い傷を残す。出血もしたが、しかしこれは見た目ほどダメージは大きくはない。


 力王の効果で、なんとか最小限にダメージを食い止めた。


 着地し、再び黒騎士と距離を取る。

 仕切り直しとも言えるが、ダメージは明らかに俺の方が大きいか。

 

 この状況、出来れば後ろの二人は先にこの場を離れて欲しいが――ただ、俺が守りにつかせた影分身は、少ない忍気でなんとか行使したものだ。


 その分、能力的にはかなり落ちてしまう。例え逃したとしても、他の何者かに襲撃された時対応できるか……出来ればネメアや一緒の分身と合流できれば――特にネメアはこの状況だと重要だ。


 しかし、感覚的にはもう少し掛かるか……それまでなんとか――


「なるほどな」


 うん? 何か黒騎士が一人納得したように顎を引いたが。


「視線は動いていなくても、何となく判るぞ。お前は後ろの二人を気にしている。そして、位置取りは常にそっちの仲間を意識してのものだ。分身に守らせているのもそういうことなのだろう? つまり――」


 こいつ――正体には気がついていないかもしれないが、俺にとって重要な相手だっていうのは気がついたか……。


 だけど、距離は離れている。分身も守っている。俺だって、そうやすやすとふたりを狙われるような真似は――


「丁度身体も温まって来た頃だ、【ギア・ファースト】――」


 刹那――俺の横を影が駆け抜ける。

 言ってる側から! ギア? 固有スキルか!


「え?」

「チッ!」

「とりあえずお前は邪魔だ」

 

 唐突に出現したアインの姿にマイラは驚きを隠せない。影分身がなんとか二人を守ろうと間に入っているが、その正面では既にアインが剣を振り上げている。



ステータス

名前:アイン マスタング

性別:男

レベル:52

種族:人間

クラス:鉄血騎士

パワー:3160→4740

スピード:2280→3420

タフネス:3080→4540

テクニック:2800→4200

マジック:0

オーラ :4000→6000


 

 そしてこのステータスの強化だ。固有スキル

――鉄血の(アイゼンブラッド・)歯車(ギア)


 ギアを上げる毎にステータスが強化される。それは判っていた。だが、ここまで上がるとは……今の分身ではこの攻撃を防ぐのは不可能。


「時空遁・超重圧(グラビトン)の術!」


 もう忍気がどうの言っている場合じゃない。そして目的も忘れてはダメだ。


 印を結び、術を行使。アインに急激な重力変化を浴びせる。


「ぐむぅ! これは!」


 アインの動きが鈍る。奴の脚が地面にめり込んだ。ようやく、少しだけ狼狽した表情を見ることが出来たが――


「ぐむぅううう!」


 しかし、唸り声を上げながらも分身に向けて剣を振り下ろす。

 十倍の重力を掛けてるんだぞ? あんな重そうな鎧まで着ているのに化物かよ!


颶風(ぐふう)の術!」

「キャッ!」


 だが、分身はアインに生まれた一瞬の隙を見逃さなかった。風遁で突風を起こし、シェリナとマイラを吹き飛ばす。


 勿論ダメージがない程度に、アインから距離を離すことが目的だ。


 マイラの悲鳴が漏れてしまったがこれは仕方ない。


 アインの剣が遂に振り下ろされた。分身は刀で防ごうとするもやはりしのぎきれず、一刀両断にされ消え去ってしまう。


 だが、その間に俺はシェリナとマイラの元へと駆け寄っていた。


 そして黒騎士を振り返ると、アインの野獣のような瞳が俺に向けられる。

 だが――


「ここは退く! 二人共俺に掴まれ!」

 

 そう、今大事なのはこいつと戦うことじゃない。二人を連れて無事帝都から離れる事だ。

 目的を履き違えたらだ駄目だ。だけど、ただ逃げようとしても難しいだろう。既に重圧の効果は切れている。一瞬でも隙を作りたい。


 霧を発生させるという手もあるが、霧で覆う前に詰められる可能性がある上、この黒騎士は直感と気配察知を持っている。霧で確実に逃げられるという保証もない。


 ならば――


「二人共目を瞑れ!」

 

 叫ぶと同時に直ぐ様印を結ぶ。確認している隙はない。既にアインは動き出している。二人を信じて――


「雷遁・雷閃の術!」

「ぬぅううぅうう!?」


 術を完成させると同時に、激しい閃光があたりを包みこんだ。

 この術に攻撃力はない。だが、強烈な光で相手の目をくらませることが出来る。


 本当は目がぁ! 目がぁ! とでも言って慌てて欲しかったけど、唸ってる姿までなんかダンディで腹が立つ。


 とにかく、隙は出来た。シェリナとマイラも俺の身体にしがみついてくれている。

 再び印を結ぶ、慌てず急げ俺。

 

飄揺(ひょうよう)の術!」


 術が完成し、風が強烈な上昇気流に変化する。後はこれに乗って飛び立ち距離を離すだけだ。


「少し速度をあげるけど、辛抱してくれよ」

「わ、判ったっす、て、もう目を開けても大丈夫っすか?」


 あぁ、と俺が返すとマイラが目を開け――


「し、しの、ぶ、シノブ! 上っす! 上!」


 は? 上? マイラが突然騒ぎ出し、ふとシェリナを確認すると、彼女も目を見開いていた。


 なんだ? 黒騎士はまだ下にいる筈だが上に一体――て、え?


「おいおいマジかよ、い、隕石だと?」

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