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第八十二話 謎のヒーロー仮面シノビー

 時は少し遡り――死刑執行が行われる日の朝、グランガイム帝国に召喚された面々は、部屋に訪れた執事より処刑には立ち会うように説明を受けた。


 勿論、カコに関して言えば考慮され、宮殿に残ることとなり、マグマ、ガイ、キュウスケの三人に関しても未だ意識が戻らずという事で除外されてはいたが。


 しかし、それ以外の面々は、帝国の制度をよりよく理解して(・・・・)もらうために参加は絶対とのことであった。


 つまり、はっきりと名言こそしていないものの、これは暗に、例え異世界から召喚され特別待遇を受けている者であっても、場合によっては処刑もありえるのだと、伝えたいのであろう。


「……馬鹿な、僕たちは、ただでさえ掛け替えのない仲間を一人失っているというのに、この上、処刑などという悪趣味な物に参加しろと言うのですか!」

「その通りです」

「しかも、処刑されるのは、シノブ君に同行した騎士と言うではありませんか! 彼を助けるために危険を顧みず穴に飛び込んだ彼女を……結局シノブくんの命は助からなかったとはいえ、迷宮から苦労して戻り、その死を伝えてくれた彼女を! 帝国は本気で処刑する気なのですか!」

「陛下もご納得の上での執行です。お察し下さい、それでは後ほど、騎士が迎えにまいりますので」


 用件だけ告げ、執事が去っていく。ユウトの反論などはなから聞く気がないのだろう。


 閉められた扉を、思わず強く殴りつける。どうしようもない感情の乱れをどこにぶつけていいか判らず、無意味に部屋をウロウロした。


 ただでさえクラスメートの死を、しかもこの世界に来て随分と仲が深まったと(ユウトは)思っていたシノブが死んでしまったのだ。


 それを思うとまた胸が痛くなる。マグマの件も結果的に彼の歪みに気がつくことが出来ずカコの心を深く傷つけてしまった。


 勇者というクラスを与えられ、自分なりに頑張ったつもりだが、結局ユウトは自分がどれほど周りが見えていないか思い知らされる事となってしまったわけである。


「シノブ君……やはり、あの時僕が止めていれば――」


 再び悔みの言葉が漏れる。その時だった。


「……ミツルギ、ちょっといいか?」


 ケントの声が室内に届く。丁度一人でいたくないと考えていたユウトは、抵抗なく彼を受け入れた。


 少し話したいこともあったのでタイミングが良かったとも言える。


「実は、さっき執事がきて処刑に立ち会えなんて言われてしまったんだよ」

「……あぁ、俺のところにもきたな」

「そうか……それでね、僕はこれから直接皇帝に文句を言いに行こうと思うんだ。騎士の彼女には少なからず縁がある、そんな彼女がみすみす処刑されるのを黙っちゃ見ていられない。ケント君、友人を失ったばかりで君も辛いと思うけど、こういうのは人数が多いほうがいいと思うんだ。できるだけ僕も人を集めようと思うから、協力してくれないかな?」

「……やっぱりそうきたか」


 ケントがため息混じりに述べる。誰に言っているというわけでもなさそうだが、ユウトにしては珍しくその言葉に眉をしかめ、イラッとした顔を見せた。


「まさか、ケント君は反対なのかい? 正直彼をだしに使っているような言い方はしたくないけど、でも、シノブ君なら絶対に処刑なんて認めないと思うよ」

「……そうだろうな。本人がそう言っているぐらいだ」

「そうだよ! シノブ君なら絶対にこんなこと許すわけがない! 僕と同じ気持ちになるに、て、本人がそう言っていた?」


 一人納得し、話を続けようとしたユウトであったが、その一フレーズに引っかかりを覚えたらしく、ケントに顔を向け直す。


「気のせいかな? 本人って、まるでシノブ君本人がそう言っていたかのように聞こえたけど」

「……そうだな。まさにそのとおりだ。シノブから俺は聞いたからな」


 その言葉に、ユウトは顔を赤くさせて怒りを露わにさせる。


「ケント君! いくら友人でも言っていい冗談と悪い冗談があると思うよ! 既にシノブ君は!」

「……生きているんだよ」

「――は?」

「……だからシノブは、生きているんだ」






◇◆◇


「うぅ、やっぱりこういう場は嫌だなぁ。処刑なんてみたくないよぉ……」

「……落ち着けヒジリ、さっきも言ったが、シノブが色々手を考えているはずだ」

「う、うん、それはそうなんだけど――で、でもシノブくんが生きていて本当に良かった」

 

 チユがそっと涙を拭いた。ケントは念のため、彼女にそのことがバレないように気をつけてくれと告げる。


 ケントはチユにもシノブが生きている事を伝えた。


 ただ、その死を秘密にすること、これは重要なことであり、ユウトにも厳守するよう告げてある。

 そして、シノブが何か作戦を立てているので、ユウトが余計な事をするのは止めたほうがいいとも。


「ケント、シノブが生きていたとユウトから聞いたが、やはり本当なのか?」

「……あぁ、やはりユウトもカミヤには教えたんだな」

「その様子からすると本当なんだな」

「そうなんです! あ、でも、その件は内密に――」


 チユが人差し指を立て、そしてマイも頷いて返す。


 ケントはあまり多くに知られるとどこから漏れるかわからないので、教えるのは必要最低限にしておきたいとユウトに伝えた。


 だが、それでもユウトが信頼できると思ったのが他にいるなら、一人ぐらいは教えても問題ないだろうと伝え、ユウトはマイに決めたようだった。


 だが、これはケントにも納得だった。シノブが死んだと知った時、少なからずマイもショックを受けていたようだったからだ。


「それにしても、マイのおかげで助かったよ。その、ケント君の言っていた迷宮に落ちたおかげで強烈な力を手に入れてパワーアップというのが、イマイチ僕には理解出来なかったのだけど、マイが詳しく教えてくれたからね」


 これに関しては、とりあえず忍者であることを隠すならこの設定を利用しようと、シノブからケントが聞いていたことだ。


 ただ、ケントも正直その手の話には疎いので、ユウトに説明しつつも、正直何のことかといったところであり、しかもユウトも同じく疎かった為、二人揃ってあまり理解していなかったのである。


 だが、ユウトいわく、それをマイに聞くとWeb系小説がもとのラノベではよくある話らしく、クラスメートに裏切られて穴に落とされた者は大体強力なチートを手に入れて返ってくるのだと教えてくれたそうだ。


 しかも、もとが不遇であればあるほど、手に入るチートが強力なことが多く、無職という不遇なクラスを手に入れたシノブであれば――


「チートというもので最強の力を手に入れてもおかしくないそうなんだ」

「……なるほどな」

「マイさん、詳しいのですね!」

「ち、違う! 兄さんが、その手の小説がす、好きで、借りて読んだことがあっただけだ!」


 何故かマイの顔は赤い。好きだとはあまり認めたくないようだ。


「でも、そういう物語でも大体勇者が出るそうなんだけど、マイは何故かその勇者がどんな活躍をするかについては教えてくれないんだよ」

「よ、世の中には知らなくていいことだって沢山あるからな!」

「……そんなに知られたら嫌なことなのか?」

「あ、あははははは~」


 何故か乾いた笑いを浮かべるチユである。


「あ、いたいたユウト様! 全く、マイは油断するといつも抜け駆けするのだから」

「本当だよ! ユウト様は皆のユウト様なんだからね!」

「あ、あははははっ」


 今度はユウトが乾いた笑いを見せる番であった。


「……でもやっぱり、カコがいないとしまらないよね」

「そ、そうね――」


 しょんぼりと肩を落とす二人。背中に隠れながらも何かを訴えるという流れが現状途絶えており、それがどこか物悲しいのだろう。


「それにしても、こんなに不謹慎な人が多いとは思わなかったわ」


 改めて、周囲を見回しながらマオが述べる。そしてこれは聴衆にではなく、同じく召喚された生徒達にだ。


 勿論全体的に見れば半分以上が忌避感を抱いていることが判るが、それでも結構な数が、処刑が見れることを楽しみにしている。


 それは笑いながら、処刑なんて見るの初めてでドキドキする、や、お菓子があればいいのに、や、処刑の内容を予想して笑いあっている連中や、どうせ処刑されるならその前に味見させてくれればいいのに、なんて事を平然と言いのける生徒たちの様子から判る。


 それはユウトですらも眉をしかめる光景だ。本当に同じ世界から一緒に来た人間なのか? と疑いたくなる。


 しかし、逆に言えばこういった世界に来たからこそ、本性のような物が浮き彫りになってしまっているとも言えるだろう。


 どちらにしても、少なくともケント達とは相容れない存在であり、シノブのことは絶対に知られてはいけない連中であろう。

 

 そして、そうこうしている間に、遂に裁判官とやらが広場に特設された壇上に立ち、マイラの罪を読み上げ始めた。


 どうやら裁判官がいても検事や弁護士などはいないようであり、やはり法に関しても現代の地球とは大きく異なるようだ。


「ケント君、このままでは本当にマイラ様が処刑されてしまうのでは?」


 確かに今のところ、広場にこれといった変化はみられない。聴衆だけはやたら多いが、このまま何事もなく進めば、広場から少し離れた位置に佇む教会堂の鐘が夕刻を知らせるのと同時に処刑が執行されてしまう。


『ならば、そこにいるマイラの代わりに私が述べよう!』


 だが、裁判官がマイラに最後に言い残すことがないか? と尋ねたその時、凛とした声が広場に響き――


 事情を知っているケント、チユ、ユウト、マイの四人はシノブが何かしたのか? と声の方へ視線をやるが、そこにいたのは訓練にも乱入したことがある姫騎士カテリナであった。


「も、もしかしてシノブ君が頼んでくれたとか?」

「……恐らく違うと思うな」

「あ! カコがいるわ!」

「本当だ! なんだよ元気そうじゃないか。良かった~」

 

 そしてマオとレナが安堵の表情を浮かべる。


 ただ、姫騎士の乱入によってシノブが何かするまでもなく、処刑が中止されそうな雰囲気が漂い始めてしまった。


 それならそれで問題ないのであろうが、だが、そこへ皇帝が姿を見せ、カテリナに威勢をみせつける。


 これによりカテリナも完全に意気消沈といった様子であり。


「くっ! こうなったら僕が直接皇帝に!」

「……待て、落ち着け」

「そうだユウト! ここで出ていっては余計な不興を買ってしまうぞ!」


 案の定ユウトが飛び出しそうになったので、ケントとマイが必死に止めた。


『その処刑、天が見放しても、この俺が見放さねぇ!』


 その時、教会堂の上から落とされる、強気な声。

 全員の注目が声の主に向けられ。


『空が叫び、地が震える! 海は荒れ、そして山が歓喜するだろう! 俺の言葉を聞け! この姿を目に焼き付けろ! この俺こそが、仮面シノビーーーーーーッだ!』


 声高々に口上を述べるその姿に、思わずケントも――目が点になり、頭を抱えそうになる。


――あいつ、本気でこれでごまかせると思っているのか、と思わず唸ってしまうケントである。

 

 そう、確かに髪の色も茶色に変え、仮面を掛け、声だって変化している。

 

 だが、それでも見る人が見れば、いくらなんでもバレるだろうと、そう思えて仕方がないケントであり。


「か、カンザキ君、も、もしかしてあれって……」


 そしてチユが何かに気がついたように声を上げた。流石にチユはごまかしきれなかったかと、どう伝えようかと悩むケントだが。


「シノブくんのお仲間さんかな!」

「……は?」

「だ、だからシノブくんに頼まれて! あんなことをしてくれているのかな!」

「……そ、そうかもな」


 全く気がついていなかったのだった。


「仮面シノビー……一体何者なのかしら――」


 マオも全くきがついていなかった。知的美人に見えて中々残念だ。


「戦隊モノは僕も大好きだよ!」


 レナはベクトルが違う方を向いていた。ちなみに遠目に見えるカコはなぜかうっとりとした顔を見せていた。


「仮面シノビー……か、かっこいい……」


 そしてユウトは尊敬の眼差しを向けていた。

 あれはかっこいいのか? と首を傾げそうになるケントでもある。


 そして――


「――カンザキ、あれ、キリガクレだよな?」


 マイがケントに耳打ちする。思わずマイをガン見するケントであり、それにたじろぐ彼女だが。


「……良かった、てっきり俺だけが非常識なのかと……」

「あ、あぁ、そういうことか、気持ちは判るぞカンザキ……」


 結局マイ以外には全く気が付かれていないシノブであり、直後、シノブが広場に降り立ち、大立ち回りを演じ、マイラを取り押さえていた連中を蹴り飛ばし、処刑人の斧も恐れること無く退け――その後、皇帝と何かを話したかと思えば、突如あたりが霧に包まれるのであった。

次回は再びシノブ側からの話で、最後の部分はもう少しは詳しくやると思います。

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