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第八十話 それぞれの明日

「……それにしても、幼女化した魔獣に、塔に幽閉された姫様、そして傭兵ギルドのマスターもやはり美女か……チユが聞いたら泣きそうだな」

「いやいやちょっと待て! 最後のマスターは別に美女だとは言ってないだろ!」

「……でも美人なんだろ? しかも胸が大きめな」

「いや、だから何でそれが……」

「……話している時のシノブの顔を見ていればなんとなく判る」


 マジかよ……だんだん忍者の自信なくなってくるんだが……。


「……それで、シノブ、これからどうするんだ?」


 あっと、そうだったな。そこが一番大事なところだった。その為にケントに全て話したわけだしな。


 だから、俺は自分の考えている作戦を話す。そしてだからこそ、今あまりユウトに騒ぎ立てられたくはないとも――


「……全く、相も変わらず無茶な奴だなシノブは」

「それは何となくわかっているけど、色々知ってしまったしな」


 俺がそう説明すると、ケントはどことなく神妙な面持ちで腕を組んだ。


「……まぁ、止めても無駄なのは判っているけどな。だが、生きていることは伝えさせてもらうぞ?」

「あ、あぁ。そうだな、それはそうしてくれ。勿論、あくまで作戦の一つだからバレないようにしてもらいたいけどな。我儘言って申し訳ないけど」

「……それは判ってる。予想以上に色々クサいみたいだしな帝国は。俺たちも今後の身の振り方は考えたほうがいいだろう」

「そうだな、本当はその辺りも含めて俺も手を打ちたかったところなんだけど」

「……仕方ない、状況が状況だ。それに、いざとなったらその傭兵の姉さんとやらに頼ってみるのもいいだろう。どちらにしても、帝国側がすぐに何か仕掛けてくるということはないだろうしな」

「今後は、俺も何かしら連絡手段を考えて、知らせるようにするよ」

「……そうしてくれると助かる。後は、シノブの正体だが、それはやっぱり言わないほうがいいだろ?」

「それに関しては――そうだな。ただ、ここまで来たらケントに任せる。言ったほうがいいと判断したら告げてくれて構わない」

「……そうか判った」


 静かに頷きながらケントが答えてくれる。それにしても本当動じないな。

 尤もだからこそ、ケントに話してよかったと見るべきなんだろう。


「さて、じゃあ、俺はそろそろここを出るよ。あまり長居して怪しまれても事だしな」

「……そうだな、確かにそういう勘違いは勘弁願いたい」

「いや! どんな勘違いだよ!」


 俺の言っているのはそういうのじゃないからな! 本当にそういうのじゃないから!


「さて、じゃあなケント」

「……あぁ、頑張れよ」


 そして、俺達は暫しの別れを噛み締めつつ、俺はケントの部屋を出た。


 そして、時空転移で外に出て、市街でネメアと一緒にいる分身に今後の予定を共有させ――森の向こうに見える山へと向かった。


 一旦分身と合流するという手もあったが、ゴーストという忍、それにウィリアムの持っていた剣。


 迷宮にはご先祖様の刀まであった。色々と痛感させられた事もある。一つ言えるのはこのグランガイム帝国は一筋縄でいける相手ではないということだ。






◇◆◇


 朝が来た。野生の本能を取り戻そうと、夜は山で狩りをし、野宿もした。勿論、今日の計画に影響しない範囲ではあるけど、基礎訓練も含めた修行を行った。


 一日にも満たない修行なんて付け焼き刃もいいとこだが、何もしないよりはマシだと思った。時空遁の超重圧を負荷に利用した肉体強化も久しぶりに行ったな。

 

 野宿といいながら、一睡もしていない。狩りはしたが、最低限の水分しか口にしていない。やりすぎは良くないが、適度な絶食と不眠状態は、神経を研ぎ澄ますには役に立つ。


 一時的なものだが、今はその一時的な事が大事だ。


「さて、行くか――」






◇◆◇


「納得が出来ません! 何故マイラという女騎士の処罰がこうも早くきまるのですか!」

「それは陛下もご納得の上での処遇だ。もう決まった事だ」

「しかし、そのことよりもっと他に調べるべきことが!」

「決定事項だ。これ以上の審議は無用である」


 その日の夜、シノブ達の班の補佐の役目を担い、迷宮探索に向かっていたマイラが、無事迷宮から戻ってきたという知らせをカテリナは受けていた。


 だが、同時に行方不明と聞いていたシノブが、迷宮で命を落としたとも聞き、心を痛めてもいたのだが――しかしそれを知らせに来たマイラが地下牢獄行きになり、更に翌日の処刑が決まったという話にどうしても納得が行かなかった。


 だからこそ、上に再審議を求めたのだが、結局取り付く島もないといった態度で話を打ち切られてしまった。


 そもそも、二日目最後の迷宮攻略については、カテリナも事後報告として話を聞いたが、その采配はとても納得の行くものではなかった。


 何せ、マイラはともかくとして、以前カテリナが失格の烙印を押し、指導官から降ろさせたサドデスも補佐として、しかもマイラの上役として攻略に同行したというのだ。


 これには何故そんなことがまかり通るのか? とカテリナも憤ったものだが、上が反省を認め決定した事だった、とそれ自体には何も問題はないと判断されてしまった。


 しかし、問題がないわけがない。何故なら、現に最後に迷宮攻略に向かった班のうち、一人が死亡、二人が薬を打たれたことによる意識障害、一人は化け物に襲われたという事で完治は不能とされるぐらいの大怪我を負っていた。


 しかも化け物にはサドデスも襲われており、彼もまた二度と騎士として表舞台に立つことは不可能だろうとされる程の重体である。


 ただ、少なくともカテリナは化け物に襲われたという二人、マグマとサドデスに関しては全く同情が出来ないでいた。


 そのわけは、同じ女性ということで一旦カテリナ預かりとしたカコという少女にあった。

 彼女はシノブ達と同じ班で迷宮攻略に向かった付与魔術士だが、同じ班で唯一ほぼ無傷であったのだが、そのかわり精神的ダメージは計り知れなかった。


 その要因は、マグマとサドデスにあり――カコという少女は悪漢と化した二人によって危うく無理やり貞操を奪われるところだったというのだ。


 結果的には、化け物の乱入、少女の話を聞くに恐らくレッドオーガであろうが、それに助けられた形であり、外傷そのものは大したこともなかった為か、なんとかカテリナの前では落ち着いて話をしてくれた。


 だが、とにかく聞けば聞くほど胸がムカムカする話であり、そんな騎士団にマイラが不満を持っていたとしてもおかしくなく思う。


 何せ、今回の不祥事はサドデス一人のせいで起こったに近い。随行したのがあの男でなく別の騎士であれば、隠し通路の先に向かおうなどと馬鹿なことは言わなかったであろう。


 そう、だからこそ今は、上はマイラの件よりもサドデスについてもっと徹底的に洗うべきなのだ。

 

 だが、結果として上層部は未だ意識の戻らないサドデスからは、話を聞くことが出来ず、安易にカコの話だけを鵜呑みには出来ないとし、その件は一時保留となってしまった。


 しかも、何故かマイラの処刑だけはすぐに決まってしまったのである。

 このような理不尽な事があっていいものだろうか? と、しかしカテリナが誰に何を言っても決定事項とされ取り合って貰えなかったのである。


 カテリナは今ほど自分の不甲斐なさを悔やんだことはない。結局、姫騎士だ、騎士団長だ、などと言われたところでお飾りにしか過ぎないというのか、と。


 だけど、カテリナはまだ諦めてはいない。こうなったなら、自ら処刑の場に趣き、処刑を辞めるよう直訴してくれようと――






◇◆◇



「いい加減ここを出すっす! 説明させろっす!」


 地下牢に閉じ込められ、マイラは一人憤っていた。既にかなりの時間尋問も受けてしまった。


 あの手帳について、マイラは素直に非を認めた。ついつい、不平や不満を書き綴ってしまったと。


 だが、確かに只の愚痴のような物もあったかもしれないが、中には帝国の問題を提起するような物も含まれている、だからそこもよく考えて欲しいと、謝りつつも自分の考えを訴えたりもしたのだが。


 しかしそんな彼女に伝えられたのは、国家反逆罪にもつながる内容が記されているという話であり、当然その内容はマイラも書いた覚えのないものであり、そんな罪を勝手に着せられてしまい、憤っていたわけだが――そんな彼女の前に一人の看守がやってきて告げる。


「マイラ、お前の処刑が正式に決定した。明日、市街地、教会区の広場にて処刑を執り行う」

「ふぇ? え、えええぇえええぇえ! しょ、処刑ってなんっすか! しかも明日っすか! 急すぎっす!」

「だまれ逆賊が! 処刑だけで済むだけありがたく思うんだな!」

「おいおい、本当に俺たち何も出来ないわけ?」


 すると、更に二人看守が近づいてきて、不満そうに口にした。


「あぁ、残念だけど、流石に明日となるとな――そうでなければ、処刑される前に俺たちがたっぷりと自分のやった罪がどれほどのものか教えてやったというのに」

「な、あ、あんた達何を言ってるっすか!」

「はぁ? 何をも糞もないだろう。俺達にとってはそれが当たり前なんだよ。それなのによ」

「全く運のいい女だぜ、この逆賊の雌豚が!」


 そして看守達は去っていく。一人牢屋に閉じ込められたマイラは、壁によりかかり、膝の間に顔を埋めた。


「明日、処刑されちゃうんっすか。やっぱり、痛いっすかね……」


 肩をギュッと抱きしめた。震えを止めるために。


「シノブ、今、どうしてるっすか……もう、行ってしまったっすか? 助けて、助けてよぉ、シノブぅ――」


 そして、処刑の日がやってきた――

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