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第七十八話 忍の願い

 迷宮の出口を探して二十五階層を探索した俺達だが、途中エロ猿の魔物の手でマイラの装備品が剥ぎ取られたり、舌で舐め回す宝箱型の魔物を打ち倒して新しいマイラ向けの装備品を手に入れたりしながら、ようやく迷宮を出る為の転移陣が描かれた場所までたどり着いた。


 だが、どうやら迷宮はそう簡単に出ることを許容してはくれないようで、転移陣の前には骨の騎士(ボーンナイト)が陣を守るように探索者を待ち構えていた。


 すると、同じ騎士として何か感じるものがあったのか、マイラはボーンナイトとの一騎打ちを望み――そして今、女騎士と骨騎士の戦いが始まったわけだが。


「クッ、流石LV30っす! 手強いっす!」


 骨の騎士が言葉を返す事はないが、どうやらマイラは相手の強さを感じているようだ。


 お互い、最初は牽制の意味合いが強いのか、小技の応酬が続いている。一撃の重さよりも手数を重視させた突きや払い、なで斬りといったところか。


 あの骨の騎士は、骨でありながら柔軟な動きを見せているな。細かい攻撃もよく使いこなしている。


 ナイトの名前はお飾りではないって事か。なんとなくだが、もしかしたらこの迷宮で死んでいった騎士の記憶を受け継いでいるのかもしれない。


 何せフェイントを織り交ぜたりなど微妙に動きが人間臭いしな。


 ただ、そうなると、相手のLV30というのは只の数字的な意味ではみれなくなる。つまりそれぐらいのLVにまで達していた騎士が成り代わった姿とも言えるからな。


 実際単純な剣術の差なら歴然だろう。骨騎士は盾も駆使してマイラの攻撃を尽く防ぎ、受け流し、反撃に転じている。


 マイラは肌が露出している場所への攻撃はなんとか避けきっているが、胸当てにはそれなりに攻撃を受けている。


 大振りではなく細かい攻撃なので、元のハイ・ミソウルの強度に救われてはいるけどな。そう考えるとあそこであの装備を手に入れることが出来たのは僥倖だったか。


 だが、相手はいつまでも牽制に付き合ってはくれない。マイラの攻撃パターンを読んだのか、突如全身の骨を震わせ剣を振ってきた。


 とっさに彼女は手持ちの剣でそれを防ぐが、波紋のように広がる甲高い調べ。


 マイラの手がビリビリとしびれた様子を見せている。


 恐らくあれが骨振波というスキルなんだろうな。例え防御しても自らの骨を震わせたことで振動を伝え、次の行動を阻害するんだ。


 しかもそこからの切り返しが早い。ボーンナイトは骨の剣を天に掲げるようにして一気に振り下ろした。


 一瞬、助けに入ろうかとも思ったが、マイラの目は死んでいない。腕はしびれているが脚は動くと言い聞かせたのか、既の所で後方に飛び退いて難を逃れた。


 だが、あの一撃の破壊力は馬鹿にできない。空振りこそしたものの、剣が地面を掠っただけで亀裂が走った。


 恐らくあれが骨断切なんだろうけど、喰らったら骨どころの話じゃなさそうだな。


 余波でマイラの身体も軽く浮き上がったし。


 だけど、マイラも流石に剣術だけで勝てる相手ではないことを悟ったようだな。


 マイラの空いた方の手が紅蓮に染まる。避けながらもしっかり術式を刻んでいた証拠だ。


 確かにかなりの威力だが、どんな攻撃でも空振ればわずかでも隙は生まれる。


「ファイヤーボルト!」


 その隙を狙い、炎の礫が骨の騎士に向けて一直線に飛ぶ。避けきれないと思ったのか、盾を滑り込ませて受け止めるが、巻き上がる火の粉と熱に、若干怯んでいるのがわかる。


 マイラが倍近くLV差があるこの相手と戦って、果たして勝利を収めることが出来るのか? と考えもしたが、その鍵はこの火魔法にあると俺は睨んでいた。


 何せ相手は骨。骨と言えば火が弱点はよくある話だ。勿論絶対ではないが、スキルを見る限りは全く効果がないとも思えなかったしな。


 そして案の定、相手は火を嫌がっていた。盾で防いではいるが、剣と同じ骨の盾だ。火に対する耐性はそれほどでもないのだろう。


 それに、マイラも迷宮で戦闘を繰り返しているうちに、火魔法の威力が少しずつ上っている。ファイヤーボルトの礫も最初に見たときより一回りほど大きくなっているしな。


「フレイムランニングっす!」

 

 そして、今度は霧の巨人戦で活躍した魔法を行使。

 脚に炎が纏われ、その状態から果敢に攻め込んでいく。勿論、牽制のファイヤーボルトも忘れない。


 かなり熟れた感もある、魔法と剣のコンビネーションで、直前までとは打って変わって今はマイラが優勢に立っている。


 ボーンナイトも負けじと応戦し、互いに切り結び、剣と剣が激しくぶつかりあう。見たところ、動きに関してはやはりマイラの方が軽やかだな。


 勿論、単純なステータス上の数値なら、LVの高いボーンナイトの方が秀でているけどそういうのとは違う、天性の俊敏さがマイラにはある。


 そしてだからこそ、マイラは上手いこと相手を翻弄しながら、円の動きでボーンナイトを中心に一周。


 こうすることで、フレイムランニングの効果で地面を炎が舐め、ボーンナイトは燃え盛る炎に囲まれた。


 俺が忍術で援護した時に比べれば勢いは落ちるが、それでも火が苦手な敵さんにはかなり効果的だろう。


 実際、ボーンナイトは完全に動きが止まり、炎の中から抜け出せないでいる。

 

 そこへマイラは術式を刻み、今度はフレイムアローで勝負に出た。


 炎の矢を引き絞り、ボーンナイトに向けて、放つ! 炎の帯を残しながら矢は進み、ボーンナイトの口を貫いた。


 そこから炎が顔に燃え移っていくのが判る。このまま広がっていけば、マイラの勝利は間違いないが――しかし、ここでボーンナイトが意地を見せ、燃え盛る炎を突っ切って、マイラに肉薄した。


 その剣が大きく振り上げられ――


「あたしにだって、新技はあるっす! 兜割り!」


 しかし、一足早くマイラが軽く飛び上がり、ボーンナイトの兜に守られた頭部にその剣を思いっきり振り下ろした。


 全体重の篭った一撃によって、ボーンナイトの兜が破損し、頭蓋がむき出しになる。


 まぁ、これは元々骨だから当たり前なんだが。重要なのはこの攻撃によって、ボーンナイトの足元がふらついたという事だ。


「二段切りっす!」


 更にそこからマイラの追撃。文字通り二発の斬撃がボーンナイトを切り裂き、更に完成したフレイムアローを放つ。これにより再びボーンナイトは後ろの炎の中に押し戻され――結果的にこれが決め手となって、見事マイラは倍近いLV差のあったボーンナイトを打ち倒した。

 





◇◆◇


 ボーンナイトを倒した後は、魔石を回収し、転移陣に二人で乗ったことで、あのミストラルという迷宮支配王の言っていたとおり、俺達は浅層の地下五階層に戻ってきた。


 戻った直後には、浅層の迷宮ボスのジャイアントバットに遭遇したが、ボーンナイトとの戦いでLVが22まで上昇していたマイラの敵ではなかった。


 当然、そこから更に一階層まで全く苦労すること無く戻れたわけで。


「ふぅ、これでいよいよ地上だな」

「そうっすね! あたし、シノブには感謝してもしきれないっす! LVもかなり上がったし、おかげで魔法騎士として自信をもってやっていけそうっす!」

「そうか、それなら良かった」


 帝国の考え方が変わらないと中々茨な道が待ってそうだけど、でもきっとマイラなら大丈夫だろう。


「そ、それで、その、ぜひともお礼がしたいっす! な、何かあるっすか?」


 そして、いよいよ後もう少しで外に出れるといったところで、どこか気恥ずかしげにマイラがそんな事を言ってきた。


 何をそんなに恥ずかしがっているのか判らないけど、でもお礼か……。


「それなら丁度良かった。実はマイラに一つ頼みたいことがあったんだ」

「え? 本当っすか! そ、それなら何でもやるっす! あ、ただ、その場合によっては心の準備が――」


 何か俯き加減に頬を赤くしてもじもじしているマイラだけどな。

 ま、そんな難しい話じゃない。俺が頼みたいことは――






◇◆◇


「はぁ……」


 迷宮を出て、思わずマイラはため息をついた。理由は、既に別れてしまったシノブにあると言って良い。


「……シノブ、本気なんすかね――」


 しょんぼりとした表情で呟く。かなり落胆している様子だ。シノブはマイラに一つお願いをした。それがマイラにとっては意外過ぎる内容であった。


 出来れば考えなおしてほしいとも思うが、なんでも言うことを聞くと言った手前、引き受けるしかなかった。


 そういった事情もあり、暗い顔でトボトボと歩くマイラであった。


「おい! マイラ! お前マイラか! 無事だったのか!?」

 

 すると、突然マイラを呼ぶ声。目を向けると数人の騎士が駆け寄ってきているところだった。


 マイラとしては、迷宮の前に番がいなかったので、最終組が終わったことで一旦全員引き上げたのかなと思ったわけだが。


 よくよく考えてみたら、マイラとシノブは行方不明扱いになっていた筈だ。勿論あのサドデスが素直に穴に落としたと言っていたなら話は別だが、そんなことは先ずないだろう。


(そう考えると、だんだん腹が立ってきたっす!)


 ふと、穴にシノブが落とされた事を思い出し、胸がムカムカしてきたマイラであり。


「おい! まさか戻ってくるとはな。それで、もう一人お前の班にいただろ? 無職の男だ。あいつはどうした?」

「……シノブは、シノブは残念ながら、迷宮で命を落としてしまったっす……」


 できるだけ暗い雰囲気を匂わせマイラが述べる。そう、これこそがマイラがシノブに頼まれていた事であった。


 俺はどうか死んだことにしておいて欲しい――そうシノブに頼まれていた。


 だけど、マイラはただシノブを死んだことにして終わらす気はない。そう、当然あの事は問題に――


「そうか、やはり無職じゃ生き残れなかったんだな」

「そ、そんな言い方ないっす! 大体これも全てあのサドデ――」

「まぁいい、そのことはとりあえずいい」


 マイラはサドデスについて訴えようとするが、途中で騎士によって遮られ、そんな事って! と反論しようとするが。


――ガシャン。


「……え? なんすか、これ?」


 突然近くで鳴り響いた異音に、マイラが目を白黒させる。何故なら、突如騎士たちに手枷を嵌められたからだ。


「見ての通りだ。マイラ! 貴様は国家反逆罪に問われている! よって、これより貴様を地下牢獄まで連行する!」

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