第七十六話 猿退治
迷宮から出るための転移陣というのが、この二十五階層の何処かにあると知り、マイラと一緒に迷宮探索を続けることとなったのだが。
途中、天然の柱が並ぶ空洞で、ハンズモンキーという猿みたいな魔物の襲撃にあった。
しかし、この猿、とんでもないエロ猿で、高速剥ぎ取りというスキルによってマイラの鎧を瞬時にして剥ぎ取り、半裸状態にした上、直ぐ様逃亡。
掠め取った鎧は何か猿から猿へと投げ渡され何処かへ持ち去られてしまった。
全くなんともけしからん猿だ! うん、本当にけしからん! 凄く眼福だけどな!
「ひどいっす、これじゃあもうお嫁にいけないっす~~~~!」
マイラの悲痛な叫びがこだました。羞恥心にまみれ両手で胸と股間のあたりを必死に隠している。
まあ、下着は残っているんだけどそこはやはり気分的なものなんだろうな。
それにしても、なんかこういう姿を見ると、なんというか来るものがあるな。こっちの世界にも下着はあるけど、ゴムなんかは使われてないから紐で縛るタイプになる。
つまり紐ブラと紐パンって事だ。しかもマイラはなんというか、俺の勝手なイメージだと胸はそうでもないんじゃないかなと思っていたんだけどな。
鎧姿だったから判らなかっただけで、中々どうしてしっかり谷間が見えるぐらいは盛り上がっている。
それを必死に見られまいと隠すようにし、恥辱にまみれた表情を見せるマイラは、わりとエロい。
「し、シノブいつまで見てるっすか~~~~!」
「あ、悪いついな。わりとスタイルいいんだなと思ったりして本当ついな」
「な、ななっ、何言ってるっすか!」
顔真っ赤にしたマイラから怒鳴られてしまった。今のは流石にデリカシーに欠けていたか。
それはそれとして、問題はあの猿か。何せ柱の上でやたらテンション上げてウキャウキャ騒いでる。
たた、相手の鎧を脱がして喜んでるだけならまだ可愛げあるんだが、ステータスを見る限り、どう考えてもヤバいのが一つ混じっているからな。
本当、強制って……つまりやり方としてはまず女の鎧なんかを剥ぎ取り半裸にして抵抗する力を削ぎ落とした後で、無理やり行為に及ぶって事だろ? 猿だからといって看過できる話じゃないな。
つまりここにいる猿の思考は揃いも揃ってあのマグマと一緒って事だ。そう考えるととんでもないな。魔物なら遠慮もいらないし、まとめて駆除すべきだろう。
「マイラのこともあるしな、さっさとケリを付けるか」
「ふぇ?」
とりあえず、猿からしたら俺がとにかく邪魔なんだろう。四方にそびえ立つ柱の上から、その握力で柱を砕き、それで作り上げた石で、一斉に投石攻撃を仕掛けてくる。
スキルに投石とある以上、狙いに自信はあるようで、投げられた石は全てよどみ無く俺に向かってきた。マイラは全く狙ってないな。別な意味の獲物だからか。
「土遁・囲壁の術」
だけど、そんなのは全く関係がない。この程度の投石は、俺の忍術で全て防げる。囲壁は石壁を正面だけじゃなく術者を中心に囲むように生み出す忍術だ。
「な、なんすか?」
「壁を作ったのさ。暫く残せるから、猿については心配するな。じゃあ、片付けてくる」
「へ? か、片付けるって――」
マイラが目をパチクリさせていたが、構わず俺は跳躍。この壁はどちらかと言うと足場の意味合いが強い。
勿論、相手の投石も全て防いでくれたが、俺は壁の天辺に飛び上がり、霧咲丸の柄に手をかけつつ、先ず柱の一つに向けて飛び込み――
「雷遁・紫電一閃!」
霧咲丸に紫電を纏わせ、まとめて切り伏せた。刀はそこまで長くないが、リーチのなさは忍術で補える。
柱を陣取っていた猿どもの全身を紫色の雷光が駆け抜け、一撃のもとにその生命を刈り取った。
周囲から猿どもの慌てふためく鳴き声が聞こえてくるか、関係ない。柱から柱へと飛び移り、紫電一閃を繰り返すことで、全てのハンズモンキーを殲滅した。
その頃には丁度、囲壁の効果も切れていたな。とりあえず猿の骸は次元収納に突っ込んでマイラの下へ戻る。
「終わったぞ」
「す、凄いっす! 流石っす! そ、それで、あの、あたしの、よ、鎧は?」
「……あ~すまん。なんか見つからない」
「ふぁ!?」
マイラが、後ろからふいに胸を鷲掴みにされたかのように驚いた。顔が更に紅い。恥ずかしさもここに極まりってところか。
「な、なんでなんすか、どうして見つからないんすか~」
「いや、そんな泣きそうな顔で言われると罪悪感が……どうもあいつら鎧に興味はなかったみたいでな。だから鎧はどっか適当に放り投げたみたいなんだ」
「鎧に興味ないって……それなら一体何でこんな事したっすかあの魔物は!」
「……それ、本当に聞きたいか?」
目を細めつつ、聞かないほうがいいぞ~と暗に訴えておいた。まさか、無理やり交尾する為だったなんて知りたくないだろ。
「何か激しく嫌な予感がするから聞かないでおくっす。でも、一体どうしたらいいっすか……」
「ま、まあ全裸ってわけでもないし、そのままとりあえず移動するしかないんじゃないか?」
「う、うぅ、シノブはまるで他人事っす……」
そう言われてもな……まぁ、こんな格好で迷宮を歩き回るのも心配なんだろうけど。
「大丈夫だ。とりあえずマイラは俺が守ってやるから、魔物には指一本触れさせないよ」
「へ? ま、守るっすか?」
「あぁ、まあ、マイラからしたら、もしかしたら頼りないかもしれないけど……」
「そ、そんなことないっす! 信じてるっす!」
食い気味に言われたな。立ち上がって顔をぐいっと近づけてきて、その、位置的に悪くない眺めではあるけどな。
「あ、ああ判った。しかし改めて考えると目のやり場に困るな」
「ふぇ? ひゃっ! あ、あんまり見るなっす!」
「……善処するよ」
とりあえずマイラには俺の手だけ取ってもらい後ろからついてきてもらうことにした。一応マイラの剣だけは残っているけど、防御力が不安すぎだから、暫くは黙ってついてきて貰う形かな。
剣も下げるところがないから鞘を直接手に持っている形だしな。
なんとなく後ろが気にはなるけど、ちらっとでも見るとマイラが、む~っ、とした顔を見せてくるから、できるだけ見ないようにした。
だけど――
「ひゃっ! な、なんすか!」
背中に思いっきりくっつかれた。柔らかい感触が……。
「あれは、ミストレイスとファイヤーボーラ、それにスカルフライだよ」
「き、気持ち悪いっす……」
ミストレイスは霧状の亡霊、ファイヤーボーラはつまり火の玉。スカルフライは頭蓋骨に羽が生えた魔物だ。
マイラが気持ち悪がってるのはスカルフライだろうな。何せこれ頭蓋骨といっても三分の二程度腐肉がこびりついている。
おかげで何とも言えない気持ち悪さを醸し出してるんだよな。羽も昆虫みたいのだし。
そしてこいつら全員死霊系だったり屍系だったりするから、本来物理攻撃は通りにくい。
尤も、俺の霧咲丸には関係ないけどな。ただ、マイラがやたら後ろからしがみついてくるから動きにくい。
「ちょっと動きにくいからこっちにいろ」
「ひゃん!」
背中にくっつかれるのは勘弁願いたいからな。横につけさせて腰に腕を回し、ちょっと脚を浮かせるようにして運びながら魔物を切り捨てていった。
「ふぅ、終了っと」
マイラも地に足をつけさせて一息つく。このタイプの魔物は倒すと魔石だけ残すから回収は楽だな。
「し、シノブ、その、いつまでもそうされてると、恥ずかしいっす……」
うん?
「あ! ごめんごめん」
俺は腰に回していた腕を外し、改めてマイラが背中に来るよう位置を変える。
「あ、謝ることないっす。あたしの為にやってくれてる事っす……」
キュッと俺の手を握りしめながらマイラがそんな事を言った。
マイラ……やっぱ性格はいいんだな。こんな状況とはいえ、俺みたいのに触られるのなんて本当は嫌だろうに。
「気を遣わせて悪いな」
「ふぇ? そんな事ないっす。それに守られているのはあたしっす!」
そう言ってもらえるだけでも報われるってものだけどな。
そして更に迷宮を進む俺達だが、途中何度か分かれ道を進んでいくと――
「行き止まりっすね……なんか申し訳ないっす……」
「何言ってるんだよ。ほら、よく見ろ宝箱があるだろ?」
「た、たしかにあるっすが……」
たどり着いたのはこじんまりとした空間だが、その奥にポツンっと宝箱があった。迷宮が作り出してるというアレだな。
「でも、ここまで罠も多かったっす。だから心配っす」
「宝箱に罠があるってことか?」
「それもそうっすが、宝箱に化けてる魔物もいるっす」
あ~そういうのよく見るな。ゲームとかで。
それにしても、マイラも本当やたら気にしてるな。たしかにマイラの選んだ道で、あれからも岩が転がってきたり、落とし穴が開いたり、ギロチンが起動したりとあったけど、大した事じゃないぞ。
でも、まぁそこまで気にするなら。
「じゃあ、この宝箱が魔物だったらマイラが相手するって事で」
「ふぇ! う、うぅ、仕方ないっす……」
いや……冗談のつもりだったんだけどな。
ま、とにかく先ずは武遁で作った手裏剣を投げてみる。
「グォオオン!」
……バクンッ、と手裏剣が喰われたな。で、宝箱が蓋の部分をガッシャンガッシャンやりだした。縁に牙までついてるのな。
ステータス
名前:ハングリーボックス
レベル:29
種族:魔物
クラス:擬態系
パワー:450
スピード:80
タフネス:520
テクニック:50
マジック:0
オーラ :200
固有スキル
宝箱のフリ
スキル
大食い、吐き出し、舐めまくり
称号
宝箱に扮する物
これがこの魔物のステータスだ。攻撃力は中々高くて防御力もある。ただスピードはないな。ドンドン跳ねるぐらいだしな。
「よし、頑張れマイラ」
「ふぇ!?」
肩を叩くと目を白黒された。目の前では宝箱から魔物になった相手が舌を出してベロベロしてる。これは気持ち悪い。