第七十三話 霧の巨人
ステータス
名前:ヨートゥン
性別:男
レベル:65
種族:巨人
クラス:霧の巨人
パワー:6580
スピード:1240
タフネス:8520
テクニック:1650
マジック:4290
オーラ :5200
固有スキル
霧の肉体、霧魔法
スキル
巨人の咆哮、霧の息吹、物理攻撃透過、魔法効果半減、電撃無効、ア%&■■ウ$ヴax■
称号
霧を操りし巨人、暑がり、■av&を喰らいし巨人
多くの霧が熱で霧散し、残された忍気を含んだ霧が一箇所に集まり巨大な真っ白い人の姿へと変貌した。
随分と筋骨隆々な体躯をしている。目も口も大きく、当然上背もかなり高い。ちょっとした城ぐらいはあるな。
とはいえこれで相手の形ははっきりした。そこで俺は試しに看破の術を使ってみて、無事ステータスを見ることが出来た、のだが。
一部表示がおかしいのがある……これは一体なんだ?
「な、何か凄いのが現れたっすね!」
「あぁ、俺の看破、まぁ、ようは鑑定によると、こいつは巨人という種族のヨートゥンというようだ」
「きょ、巨人っすかーーーー!」
凄い驚かれたな。目玉飛び出そうな勢いだぞ。
「そんなに凄いのか巨人?」
「何をのんきなことを言ってるっすか! 巨人と言えば魔獣と一緒で魔物より遥かに手強い上位種っす!」
あ~魔獣もそういう扱いなんだな。それにしてもこいつ、LVもステータスもネメアより遥かに高いな。森の主の威厳どこいった。
「確かにLVも65だし強敵といえば強敵なのか?」
「ろ、65ーーーー! 無理っす! 普通LV差が倍あったら勝ち目なんて0っす!」
「安心しろ、マイラの場合、その差は倍じゃなくて四倍強だ。だから大丈夫だ」
「あ、なるほど、倍じゃないから大丈夫、て、そんなわけないっす! 何をバカなこと言ってるっすか!」
わりとノリはいいんだよなマイラ。とは言え――
「何かしかけてくるぞ」
「ヒッ――」
巨人が大きく息を吸い込んだ。マイラもつられるように息を吸い不安そうな声が漏れる。
「瞬間移動するぞ!」
「へ?」
なので、俺は次の行動をマイラに告げ、印を結びマイラの手を取った後、瞬間移動でその場を離れた。
ほぼ同時に、霧の巨人が、口から濃霧に近い濃ゆい霧を吐き出してくる。
地面に向けて吐き出された霧は、そのまま大きく広がっていくが――途端に霧の触れた地面が凍てついた。
あの霧、触れたものを凍らす効果があるのか? もしくは急速に熱を奪っているとも言えるか。
どっちにしろ避けておいて正解だったな。俺はともかく、マイラはあれを受けたら無事ではいられないだろう。
「うぅぅ、見ているだけで体の芯まで冷えそうっす」
「ああ、実際に温度は下がってるだろうな。しかも――」
あの巨人は、更に周囲に息吹を吐きつつけ、マイラが発生させた炎も消し去ってしまった。
このままだと再びアイツが霧化するかもな。
「マイラ、魔法だ。俺も忍術を合わせる」
「わ、判ったっす!」
「火遁・爆炎弾!」
「フレイムアロー!」
俺は口から爆発する火の玉を吐き出し、マイラは炎の矢で巨人に攻撃を仕掛ける。
だが、マイラの矢は巨人の身体をすり抜け、俺の火遁は、その足元で爆発するもダメージを受けてる様子はない。
「や、やっぱり効いてないっす!」
「あぁ、だが妙だな。ステータスで行くと、魔法はダメージが半減してしまうようだが、全く無効というわけではないはず」
「え? そ、そうなんすか?」
「あぁ」
更に、称号の暑がりというのを見るに、熱にはやはり弱いのだろう。尤も今の火遁とマイラの魔法だけでそこまで急激に温度は上がらないだろうが、それにしても色々不明点は多い。
そもそも、俺の看破でも判然としない表示がある。スキルと称号にな。特に称号は何かを口に入れたのだと見るべきだろうが――もしかしたらそれが奴から感じる忍気と関係しているのか?
「し、シノブ! 何か上に霧がっす!」
「うん?」
マイラに言われ頭上を見ると確かに霧が集まっているのが判る。上にあるから最早霧というより雲だけどな。
そして完成した雲から――
「雹か――」
「す、すごい量っす!」
完成した雲から大量の雹が降り注ぐ。しかも一粒一粒が握りこぶし大程ある代物だ。
確かステータスで見るに、霧魔法というのがこいつは使えたんだったな。
これがその霧魔法ってわけか。
とにかく、印を結んでいる暇もないし、足さばきだけで弾丸の雨を思わせる雹を躱していく。
地面に雹が当たると、その部分が凍りつくから、これもあの息吹と同じ効果があるようだな。
「うぅ、心臓に悪いっす」
「落ち着けって」
とりあえず全弾回避したが、俺の腕の中で若干怯えた様子の彼女の頭をポンポンっと叩く。
だが、落ち着かせるつもりだったんだけど、妙に身体が強張ってるな。逆効果だったか? 頬は紅いけど。
「で、でも攻撃が効かないとどうしようも、あ、また、ね、熱でいくっすか?」
「いや、あれは決め手に欠ける。それに巨人と化したあの体積じゃ、それに影響を及ぼすだけの熱量を準備するのも骨だ」
あれは霧が広範囲に及んでる分、分散していたから出来た手だからな。
それに霧だけ消してもダメージにつながってるとも思えない。
なら――
「開眼の術――」
とにかく先ずは相手の忍気を探る。そこにヒントが隠されているかも知れない。
そして――
「――なるほどな。判ったぞマイラ、あいつの弱点」
「え! 本当っすか?」
「あぁ、だから今から――突っ込むぞ!」
「へ? つ、突っ込む、す、か?」
「あぁ、痛くはないと思うから、ちょっと我慢してろ」
「痛くは……な、何言ってるんすかこんな時に! い、一体何を考えてるっすか!」
なんだ? 急にジタバタし始めたぞ。何なんだ一体。仕方ないだろ、一緒にいかないと危険だし。
「とにかく、イクぞ!」
「い、イクって、まだ心の準備が!」
「四の五の言ってる暇はねぇ!」
俺はマイラを引き寄せ、腰に力を入れて突っ込む! そう、巨人に向けて!
「狙いはここだぁあああぁああ!」
「へ? そ、そっちにすかぁあああぁ!」
巨人の拳を避けながら、大きく地面をける。マイラと一緒に、巨人の胸に向けて、突っ込んだ!
案の定、霧の身体はすり抜けることができ、そして一点だけ妙に忍気が集中してる箇所に片腕を伸ばし、掴む!
俺たち二人は巨人の背中を突き抜け、そしてマイラと空中で反転しながら反対側の地面に着地する。
「び、びっくりしたっす! シノブ、大胆過ぎるっすよ!」
「悪かったな、怖い思いさせて。でも、相手は霧の固まりだからな。すり抜けられることは予想できたし、それに――これの力は感じていたからな」
そして俺は、巨人の中に眠っていたソレを掲げて答える。
「それは、武器っすか?」
そしてマイラが不思議な物を見ているような口調で述べた。
彼女にとっては、あまり馴染みがない武器なのかもな。一応剣豪というクラスはあるから、全く知られていないというわけでもなさそうだが、そこまで多く出回っているわけでもないのかもしれない。
だけど、これは俺にとっては馴染みの深い武器だ。何せ、忍者も武器として扱う、刀、だからな。
しかも形状は間違いなく日本刀。そして長さは携帯しやすい程度であり、脇差しと侍が持つような刀との中間程度の長さである辺り、ほぼ間違いなく【忍刀】だ。
それにしてもまさかこんなところで忍刀が手に入るとはな――しかも、この刀、驚いたことに鞘には霧隠家の家紋が入っている。
つまり、この刀は霧隠に関係するものが持っていたという事になるんだが――こんな異世界にどうしてそんなものが?
正直謎は深まるばかりだが――とりあえずこうなったら仕方ない。
「マイラ、念のため、少しだけ俺から離れていてくれ」
「へ? どうしたっすか突然?」
「だから、この刀を抜いて見るんだよ――」