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現代で忍者やってた俺が、召喚された異世界では最低クラスの無職だった  作者: 空地 大乃
第一章 忍者召喚編

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第六十八話 暴走

(これを隠していたのか……)


 アサシはとある女騎士の部屋に忍び込んでいた。迷宮攻略を終えた後の流れは非常にスムーズに進み、ここまで全く問題なく計画が進んでいる。


 隙を見てあのドウシンに誘いを掛けた時は、案の定露骨に嫌な顔をされたものだが、彼の秘密を知っている事を告げたら、不承不承という態度ではあったが、仲間に加わることを承諾してくれた。


 これはあのミキに関しても一緒で、ミサが上手くやってくれていた。尤もミサの場合、ミキとは従姉妹の関係にあったというのが大きい。


 とはいっても、ミサはミキをあまり好ましく思っていなかったようなので、学校でもそのことは黙っていたわけだが。


 ただ、その為か、ミサはミキの弱みを一つ握っており、それを利用して上手く口説き落としてくれた形だ。


 尤もそのおかげで信頼関係は皆無に近いが、ただ、二人共今後の活動には役立つクラス持ちである。一緒に召喚された生徒のクラスとその能力は千差万別であり、その差も意外と激しい。


 その上、今日までの訓練だけでも将来性のある者とない者、そして実力をひた隠しにしているものなど様々だ。


 だから優秀な人材は多少強引でも確保しておきたいのである。特に今回は七つの大罪というコンセプトを決めたのも良かった。


 おまけにあのふたりは強欲と色欲にピッタリなクラスであり能力持ちでもある。それらも話の種として出すことで彼らの勧誘にも役立てることが出来た。


 そして自分も含めた七人が揃ったのを確認し、その後は隙を見て訓練を抜け出し、気配を消しながら西宮に向かい、そして例の狙いをつけていた女騎士の部屋に侵入した。


 部屋は、自分たちに割り振られたものと比べたら大分狭く質素な気もしたが、捜し物をする上では助かった。

 

 アサシが真っ先に目をつけたのはベッド横のサイドテーブルだった。引き出しが一つ付いており、そこを開けてみたが中には大したものは入っていない。

 

 だが、よくよくその深さを見ると、外側と比べて若干浅いことに気がついた。

 中身を一旦外に出し、指をかけると案の定二重底になっており、その中から一冊の手帳が出てきた。


 表紙には秘密の手帳と書かれ、更にデカデカと『絶対に見たら駄目っす!』と書かれていた。


 これの持ち主は一体何をしたいんだ? と首を傾げたくなるアサシだが、とりあえずこれが何か関係あるのは間違いないだろう。


 前にアサシはここの女騎士にシノブが耳打ちしているのを見ている上、その前にも女騎士と一緒にこの西宮に向かったのを見ていた。


 その上で、シノブのおかげで助かったと言っていたあの顔――本来怪我を治したのがマイラならお礼を言うべきはシノブの筈だ。しかし彼女はシノブに向けてお礼を言っていた。


 そうなると、考えられることは限られる。耳打ちしていた事からもふまえると、何か隠さなければいけないことがあり、それをシノブが手助けしたのだと。


 そしてそれは同時にシノブはマイラを助けてあげるぐらいは心を許しているという証明でもある。


 アサシは――ここのところ妙に勘が鋭くなっている事に気がついていた。感覚が研ぎ澄まされていると言っても差し支えないだろう。


 これがステータスやクラスの恩恵によるものなのかと、最初は思ったものだが、それとは妙に違うような気がしている。


 勿論それがなんなのかはっきりとはしないが――ただ、そのおかげかシノブが只の無職ではないということにも朧気ながら気がついていた。


 今の彼は道化を演じているだけなのだろうということにも――だが、それならそれでアサシは構わなかった。


 だからこそアサシにも準備を整える時間があったとも言えるだろう。シノブも何やらコソコソと動き回っているようだが、それはアサシの目的と重なっている事はない。


 だから互いにとって現状害はない。ただ、今回に関してはやはりシノブを利用したほうがいいだろう。


 だからこそ、アサシは手帳の中身を確認し、ほくそ笑む。


 これで材料は揃った。後はシノブ次第というのもあるが、きっとアサシの思っているとおり事が進めば間違いなくシノブは動くことだろう。


 引き出しの中身をもとに戻し、部屋の状態も侵入した形跡がバレないように全て確認し――そして部屋を出た。


 気配を消し、訓練に戻ろうとする。

 その時だった――


「随分と気配を消すのが上手いんだな」


 背後から声を掛けられ、弾かれたように振り向いた。馬鹿な!? と驚愕もした。アサシは気配を察する能力にも自信はある。


 だから、今周囲に誰もいないと確信を持っていた。


 だが、振り返った先には黒に包まれた何者かが立っていた。唯一判るのはフードの奥で妖しく光る赤い瞳だけだ。


「ふむ、見つけたのはコレか」

「――ッ!?」


 そして二度目の驚き。いつの間にかアサシが懐に隠していた手帳が、謎の誰かの手にあったのだ。


 そして彼はペラペラとそれを捲り中身を確認する。


「ははっ、これはとんでもないな」

「――お、お前何者だ! 僕に何のようがあるんだ!」


 黒尽くめのソレに向かって誰何する。声の感じから男であることはなんとなくアサシにも理解が出来たであろうが。


「俺は帝国で雇われている観察者だ。ゴーストとも呼ばれてるな」

「ご、ゴースト?」


 思ったよりあっさり白状され戸惑う。アサシの声は震えていた。正直いま目の前にいる存在に対しての恐怖心が拭いきれない。


 確実に強くなってると思いこんでいたが、この黒尽くめの男から発せられる雰囲気に完全に飲まれており、例え今の自分でも逆らったら殺されると確信してしまう。


「……ふむ、強者に対して鈍くないのは悪くないな。やはり、ただステータスやスキルだけ与えられて喜んでるような連中とは一味違うか」


 ゴーストは手帳をパタンっと閉じ、かと思えば一瞬にしてアサシに肉薄していた。

 

 その紅い双眸が彼の両目を捉え、何かを探るように凝視してくる。


「……お、お前、僕をどうする、つもりなんだ? 衛兵にでも、つ、突き出すのか?」

「――お前が只の愚かな盗人野郎ならその首を刎ねていたな」

「――なッ!?」


 心臓を抉られたような衝撃がアサシを襲った。このままだと本当に殺されかねないと言いようのない不安にかられた。


「だが、安心しろ。コレは返してやるよ。どうやらお前は混ざってる(・・・・・)ようだしな。気配を消すのもスキル頼りは半分ってところか。中々面白そうだしなお前は」


 そう言われたその瞬間、アサシの懐に手帳は戻っていた。


 思わずアサシは目をパチクリさせるが。


「ま、お前の考えは悪くないだろう。尤も、アレが期待はずれじゃなければだろうけどな――そうだな、それが上手くいったら、色々と手ほどきしてやってもいい。だから、まぁ、頑張るんだな」


 そして最後にそう言い残し、ゴーストを名乗った黒尽くめの男はその場から消え失せた。


 アサシは暫しその場で立ち竦んでいたが――男が完全にいなくなったのを認め、へなへなとその場に座り込む。


(……なんだったんだアレは? くそ! とにかくあんなのがいるなら、やっぱり帝都からは早く出ないと――)


 そしてアサシは立ち上がり――再び歩みを再開させ、一旦は訓練の場に戻っていった。






◇◆◇


 シノブが地面に出来た裂け目に、吸い込まれるように落ちていった。

 その姿は、一瞬見ている側からしたらスローモーションのようにも感じられたかもしれない。


 そして、裂け目の中に完全にシノブが消えていったその瞬間。


「き、キャアアァアアァアアアアァアア!」


 カコの絹を裂くような悲鳴。その直後、今度は女騎士であるマイラが怒声を上げる。


「し、シノブ! あ、あんた何してるっすか!」

「あん? んなもん決まってるだろうが。使えない無職を処分したんだよ。ザマーミロだ! ア~ハッハッハッハッハ!」


 今まさにシノブをその手にかけたマグマへ、突き刺さるマイラの声。

 だが、悪びれもせず、狂気じみた笑い声を上げるマグマ。


 その姿を睨めつけるマイラだが。


「と、とにかく早くシノブを助けるっす!」

「それは駄目だマイラ。あいつは事故で勝手に穴に落ちたんだ。そんな無能な無職を助ける必要なんてない」


 すると、マイラの背中にぶつけられたのは無情なサドデスの言葉。


「何を言っているっすか! 今のはマグマが明らかにシノブを殴って、しかもスキルまで発動させていたっす! こんな事が許されるわけ無いっす!」

「は? 何を言っているんだ? お前が何を言おうが俺はしっかりと見ていた。シノブは足を滑らせて穴に落ちた、それが事実だ」

「な……ま、まさか、あんたら、最初から、最初からこうなると判っててここに来たっすか!」


 マイラはどうやらここに来てようやく、この二人がグルだった事に気がついたようだ。

 

 サドデスも、はっ、とまともに答えこそしないが、暗にソレを認めているような不敵な笑みをこぼす。


「おいおい、上官に向かってとんでもない言いがかりだなぁマイラ。これは少し、しつけてやる必要があるか?」

「へへっ、それはいい。俺も丁度こいつにはムカついていたところだ。あんな無職と仲良くしやがって、おまけに助けるだ? 寝言は寝てから――」

「何を馬鹿な事を言ってるっすかーーーー! あんたらこれは絶対問題っすからね! 絶対に後で問題にするっす! でも、その前にあんたらがいかないというなら、あたしがシノブを助けるっす!」

「――は? お前なに言って……」


 激昂するマイラ。かと思えば、全員にそう言い残し、なんとマイラは裂け目に向かって駆け出した。


「お、おい! テメェ何勝手に!」

「シノブ、今あたしが助けに行くっすーーーー!」


 そしてなんと、今度はマイラが穴の中に飛び込んでしまったのだった。


「あ~~~~! もったいねぇ! 畜生! 俺がやる前に勝手に落ちやがって! おいあんた! どうなってんだこれ! 話と違うじゃねぇか!」

「チッ――仕方ねぇだろ。俺だってまさかあいつがここまで馬鹿だと思わなかったんだからよ。たく、この穴は一度落ちたら生きて戻ってきたのはいねぇってのに」


 落下していくマイラを認め、直ぐ様裂け目の前に移動し覗き込みながら、口惜しそうに述べるマグマ。


 そしてサドデスに文句を言うマグマだが、サドデスもまさか彼女が自ら穴に飛び込むとは想定外だったようだ。


「お、おいちょっと待てよ。なんだよそれ、落ちたら生きて戻れないって」

「キキキッ、それって、シノブもあの騎士も、し、死んだも同然って事か?」

「あん? 当然だろそんなことは。今更何を言ってんだテメェらは」


 そんなマグマに掛けられた二人の声。

 するとマグマは彼らを振り返り、事も無げに返す。だが、二人はどうやら思っていた結果と違っていたのか、愕然となる。


「ちょ、ちょっと待てマグマ! 話が違うだろ! 確かシノブをちょっとビビらすだけだって!」

「キキキッ、穴もそこまで深いなんて聞いてなかったぜ?」


 ふたりの責めるような問いかけに、マグマはチッと舌打ちし、髪を掻き毟った。


「あぁ、うっせんだよテメェらは! ビビらすのも落として殺すのも一緒だろうが! そんなことでビビってんじゃねぇ!」


 彼らの訴えを上から押しつぶすように吠え上げるマグマ。

 それに、なっ!? と二人は揃って目を丸くさせた。


「うぅ、ひ、酷いよ、こ、こんなの、ど、どうして、どうして……」


 すると、あまりの事に地面にへたり込んでいたカコが、涙を流し悲しみに暮れる。


 そんなカコを見やり、ニヤリとマグマが口角を吊り上げた。


「ふん、仕方ねぇな。あの騎士がいなくなって二人から一人に減ったが、その分この女に頑張ってもらうか」

「グス、グス、え?」


 カコがマグマを見上げて呆然となる。眼鏡の奥の瞳が涙で濡れているが、マグマは全くお構いなしにガイとキュウスケに命じた。


「おい、お前らさっさとその女の着ている物脱がせ。とっとと全員でやっちまうぞ」


 その残酷な宣告に、カコの表情が絶望に変わった。その意味を理解するのに、多少の時間を要したようだが、理解した途端、全身がガクガクと震えだす。


 だが――ガイとキュウスケは動かなかった。


「おい、どうした! さっさとしろよ!」

「――なあマグマ、それ本気で言っているのか?」

「あん? 本気に決まってるだろうが」

「キキッ、な、納得出来ないぜ。なんでだよ、こいつは関係ないだろ?」

「あん? 関係ないわけ無いだろ。その女はあのユウトの親衛隊なんてやってるような女だ。俺は野郎にも腹が立ってんだよ! だったらその落とし前はこの女につけさせて当然だろうが! 考えてみろよ? この女を壊れるぐらい甚振って、それを勇者とか呼ばれて調子に乗ってるユウトが知ったらどんな顔するか。たまんないぜ! それでこそ自分がどれだけ無力で無能か思い知るってもんだろうが。なぁ?」


 最早正当性も何もない、八つ当たりでしかない理由である。だが、マグマ本人にとってはこれが正当な理由なのだろう。


 すると、それを聞いていた二人がカコの側に寄り、そしてガイがその華奢な肩に手を添えた。


 マグマの笑みが更に深まり、カコの肩がビクンっと震える。


「そうだそれでいい。どうせそいつはもう魔力だってろくに残ってねぇんだ。逆らえや――」

「キザキ、大丈夫か? 立てるか?」


 だが、マグマの思惑とは裏腹にガイはそれ以上カコに何かする様子も見せず、むしろ彼女を気遣う様子すら見せた。

 

 その事に、目をパチクリさせた彼女だが。


「え? あ、あの……」

「キキキッ、立てなかったら俺達が手を貸すぜ。とにかく、とっととここを離れよう」

 

 戸惑うカコにキュウスケも意外な事を述べる。どうやら二人には、カコをどうにかしようなんて考えは微塵もないようだ。


 だが、ガイとキュウスケの反応に、マグマは顔を歪め、そして怒鳴り上げた。


「テメェら! どういうつもりだ! 今言ったこと聞こえてなかったのかよ!」

「聞こえてたさ。だから判ったんだ。俺達はもうお前についていけないよ」

「キキキッ、流石にこれはシャレにならないぜマグマ。俺らだって協力したから人のこと言えないけどよ、それも含めてこの迷宮を出て全て話すことにするぜ」

「は? なんだと?」


 今度は、マグマがプルプルと手を震わせ、握った拳を掲げ、叩きつけるように声を発す。


「ふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞコラ! テメェらまさかここまで来てビビったのか! 俺らは誰にも負けないワルになるって決めてただろうが! それも忘れたのかテメェらは!」

「……ワルか、確かにそうはいったさ。でも俺らだってそこまでマジに考えていたわけじゃねぇよ。ただ、ちょっとアウトローな感じのお前に共感して一緒にいただけだ」

「キキッ、でもよ、これは違うぜマグマ。シノブの事も生意気だから痛めつけるってところまでは協力したけどよ、殺すことはねぇだろ。それに、無抵抗な女を襲うなんて、そんなゲスい真似には乗れねぇよ」


 ガイとキュウスケははっきりと決別の意思を示す。マグマとこの二人の間には明らかな温度差があった。特にこの世界に来てからはそれは顕著であった。


 その差が、ここにきてはっきりした形だが――


「お前ら、勝手に話を進めてるけど、俺のこと忘れてないかい?」


 ふと、キュウスケとガイ、ふたりを挟み込むように肩幅の広い筋肉達磨の騎士が、両腕を添えた。


「サドデス……」

「マグマ、お前も仲間は選ばないとなぁ。こんなくだらないことを言い出して臆病風に吹かれるような連中、このままじゃとても使いものにならないぜ? そう思わないか?」


 そう言いながらも、サドデスの二人を締め付ける力は更に強まり、ガイとキュウスケの表情が苦悶なものに変わっていく。


「くっ、は、離せよ」

「キキッ、ば、馬鹿力が――」

「はいはい、判った判った。大人しくしてろや。お前らもくだらないこと考えずに、雄の本能だけで行動できるようにしてやっからよ」


 ふと、サドデスの右手と左手に一本ずつ握られたソレを目にし、マグマが目を丸くさせた。


 そして――サドデスはそれをプスリと二人の首に刺し、筒を押し込むことで、何や薬液のようなものが注入されていく。


「それは、注射器か?」

「あぁ、そうだ。ある国から入ってきているものでな。出回ったのは割と最近なんだが、これがまた効くんだ」


 中身を全て注入し終え、注射器を外す。マグマは目で、一体何をしたんだ? と訴えたが。


「別に大したものじゃないさ。今も言ったとおり、雄の本能を呼び起こすもんでな。まぁつまり――」

「ぐぉ、ぐおぉおぉおおおぉおお!」

「キキキキキキキィイイィイイィイ!」

「え? きゃ、きゃっぁあああぁああ! いや、止めて! 止めてーーーー!」


 こうなる、と暴走した二人をみやり、マグマに告げた。薬を注入されたガイとキュウスケは完全に理性を失っているようであり、先程までの様子から一変し、カコに襲いかかり、その服を引き裂きに掛かる。


「ははっ、なるほどなぁ。これはいい。ザマァねぇな。この俺に逆らうからそうなるんだよ。だけど、これでちょっとはらしくなったじゃねぇか。さぁ! さっさとその女を、やっちまおうぜ――」


『グオオォォオオオォオオオオォオオオオオオ!』


 マグマが下卑た笑みを浮かべ、ふたりの変わり果てた姿をむしろ喜んだ。


 そして、マグマも参加するつもりなのか、カコに向けて動きを見せた――その時だった。地の底から響く咆哮。


 ビリビリと空洞内が、周囲の大気が、震え上がり、かと思えば、あの裂け目からニョキッと伸びる赤い腕――そして這い上がるようにして姿を見せた巨躯に、その顔に、マグマが思わず顔を歪め口にした。


「お、鬼だと? なんで、そんなものがここに――」

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