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第六話 モテる勇者

「勇者様! 引き受けて頂き、ありがとうございます!」

「え!? ちょ、皇女様!」

「な!? 何しているのだユウト!」

「へ? ぼ、僕が悪いのこれ?」

「むぅ、イグリナ、皇女とはいえ油断できないわね……」

「本当だよ! おい、ユウトから離れろって!」

「はわわ、せ、積極的……」


 結局、ユウトはケントの話を聞いて、更に周りの状況から、ここで抵抗しても無意味だと悟ったようだ。


 だから、皇帝の願いを一旦は受ける事にしたって感じだな。


 そしたら、あの第二皇女様とやらが、いきなりユウトに抱きつきやがった。そのあたりが、すげーあざとく感じる。


 まあ、そのおかげで、親衛隊の女子からは敵視されてるっぽいけど。


「チッ、何から何まで気に食わねぇやつだぜ……」


 そんなユウトを睨みつけながら、マグマが面白くなさそうに述べる。

 皇帝の願いを聞こうと声を大にして言い出したのはマグマだが、結果的に決断したのがユウトのようになっているのが気に入らないってところか。


 本当、わかりやすいやつだけどな。


「ユウトよ、余からも礼を言わせてもらおう。引き受けて頂きありがとうとな。おかげでこの国の、いや、この世界の平和に一歩近づいた」

「そ、そんな、私程度にあまりに大げさです。勿論やると決めた以上、出来る限りの事はしますが」

「謙遜とは謙虚だな。だが、だからこそ勇者として相応しいとも言えるのかもしれない。だが、確かにこの場には勇者以外にも強力なクラスを手にした者は多い。だが、手にしただけでは意味がない、使いこなせなければな。だからこそ、今後はここにいる騎士や宮廷魔術師にも協力してもらい、暫くは基礎訓練に励んでもらおうと思う。それで構わないかな?」

 

 ユウトは一応全員を見回すが、文句を言い出す者はいなかった。俺もとりあえずは指示に従う必要があるが、ただ、無職とされてる俺がどういう扱いをされるかというのはある。


「……特に不満がある者もいないようですので、それで結構です。いきなり実戦というわけにもいかないのはよくわかりますので。ただ、一つだけ、シノブ君の事ですが――」


 うん? 何か唐突に俺の名前が出てきたな。


「彼は残念ながらクラスは無職で、ステータスもあまりに低すぎます。これでは皆と同じように訓練を受けることは不可能でしょう。ですので、その辺りを考慮して頂けると」

「……そのことか。勿論それは判っている。彼はどうみても戦力外であるしな、とりあえず余の願いからもあの男は除外する形で対応させてもらおう」

「ぷっ、おい、お前皇帝から役立たずって言われてるぜ?」

「惨めだなおい」

「キキキキッ! ただのお荷物じゃねぇか」


 本当しつこい三人だな。ケントが睨みつけて、とりあえずそれ以上は言わなくなったけどな。


 とは言え、戦力外か――それはそれで、ありかもな。俺の事は使えないと思われていたほうが、色々と動きやすい。


「さて、訓練とは言ったが、今日のところは知らぬ世界へとやってきた疲れもあることだろう。各人宮殿の東宮の一画に部屋を用意させ、本格的な訓練は明日からとさせてもらう。夕食の準備が出来次第声をかけるが、それまで東宮内であれば自由にしててくれて構わぬぞ――」


 そして俺達は皇帝に言われるがまま、東宮へと移動となった。ちなみにこの宮殿はコの字型になっていて、その東側の一部分が俺たちの自由が許された場所って事になるわけだが……。





「ほれ、ここがお前の部屋だ」


 あのマジェスタとかいう魔法大臣に案内されて俺は自分がこから寝泊まりするであろう部屋に連れてこられた。


 そして、うん? これがへや? 他の皆とは随分と違うというか、離れた隅の方に連れて行かれるなとは思ったけどな。


「ここで寝るんですか?」

「ふん! 無職の分際で一丁前に不満があるのか?」


 ギロリと睨めつけつつ言葉をぶつけてくる。

 

 うん、ま、なんとなく予想は出来たけどな。そんな俺に割り当てられた部屋は、最早部屋というより物置か、(ごみ)置き場かといった様相だ。


 荒屋ならまだ上等といったところか、狭隘でしかも足の踏み場がないほどにわけのわからない物が散乱している。そして臭い。


 見たところ布団なんかもなさそうだし、この場所を片付けたとしても地べたに直接寝ろってことのようだ。辛辣だな。


「それじゃあ後は適当にやれ。それと夕食の件だが、当然お前は勇者様やその御一行と一緒になどはならん、黒パンでも持ってくるからそれでも齧っていろ。貴様のような無職で無能の屑が雨風をしのげる場所を提供してもらい、パンとはいえ食べ物を恵んでもらえるだけでもありがたいと思うのだな。この穀潰しのロクでなしの蛆虫が!」


 言いたいことだけ言ってマジェスタはその場を離れていった。臭い臭い全く堪らん、なんていいながらな。


 その臭い部屋を俺はあてがわれたわけだけどな。まあ、とは言え、確かにステータス上(・・・・・・)は無職で無能な俺だ。


 とりあえずは仕方ないと見るべきか。ふう、まあとにかく、先ずは片付けを――


「……シノブ、こんなところにいたのか」

 

 とりあえずその辺の臭い塵をどかす作業から始めてたわけだが、そんな俺に声を掛けてきたのはケントだった。


「ああ、さっきここに連れてこられた。中々快適そうな部屋だろ?」

「……まるで塵置き場だ、俺の部屋とは大違いだな」


 うん、そうだよなやっぱそういう風にしか見えないよな。


「ケントの部屋はどんなだったんだ?」

「……広すぎて落ち着かねぇ。メイドなんて初めて見た」


 基本口数が少ないケントだが、それでも今のでなんとなく察したついた。確かにこことは大違いだな。


「おいおい、ここが無職の部屋かよ」

「うぇっぷ、臭すぎて鼻が曲がりそうだ」

「キキキッ、でも塵にぴったりな塵溜めだぁああ、ヒャッハーーーー!」


 で、ケントも塵を片付けるのを手伝い始めてくれたんだが、そこへ例のごとくあの三人がやってきた。

 

 それにしてもウザいな、特にキュウスケ。


「……何のようだ?」

「あん? なんだケントまた来てたのかよ。テメェら本当に出来てんじゃねぇのか?」

「……てめぇ」

「おいケント、構うなって。そいつらも暇だからこんな子供じみた真似して喜んでんだろ」


 マグマが、あん? と舌を回して威嚇してくるが知ったこっちゃない。さっきは俺もつい熱くなったが、こんな連中にいちいち付き合ってても体力と時間の無駄だ。


 まあ、ケントはニヤッと口端吊り上げたけどな。中々言うな、的な感情だろうか。


 とにかくこういう連中は無視しておくに限る。


「な、なんだいこの部屋、いや、この部屋とも言えないような空間は!」


 そんな事を考えながら片付けてると、また別の意味で面倒そうなのが来たな……。


 マグマ達も舌打ち混じりに一旦は引き上げたな。流石に勇者として皇帝にも(今のところ)一目置かれているユウトとこれ以上揉める気はないのかもしれない。


「信じられない! シノブ君! 僕達の部屋とこの、部屋とも言えない何かは違いすぎる! これじゃああんまりだ!」


 何かユウトが一人で憤っているな。正直俺は面倒はごめんだから、これはこれでとりあえず仕方ないと思ってたんだが。


「いや、ミツルギ、何か俺の為にと思って言ってくれてるならそれはありがたいけど、気持ちだけで十分だ。俺の状況を考えれば」

「大丈夫だよシノブ君! 君をこんな部屋に閉じ込めさせたりしない! 僕がきっちり話を付けてくるからね!」

「あ、いや、だから俺は別にこのままでって、聞けよおい!」

 

 駄目だ、鼻息荒くして行っちまいやがった。あいつ、一体何をする気だよ。まあ、勇者ならある程度は優遇されるとは思うが、余計なことはしなくていいんだがな……。


「……あいつ、わりと一方通行だな」

「ああ、そうだな――」


 こうと思い込むと周りが見えなくなるタイプだなアレは。


「お、おいキリガクレ、ユウトの事を見なかったか?」


 すると、親衛隊の一員でもありユウトの幼馴染でもあるマイが今度はやってきた。

 そういえば、さっき見た彼女のステータスはこんな感じだったな。



ステータス

名前:マイ カミヤ

性別:女

レベル:17

種族:人間

クラス:剣豪

パワー:260

スピード:300

タフネス:200

テクニック:300

マジック:0

オーラ :250


固有スキル

居合

スキル

刀強化、燕返し、飛斬

称号

武士道精神



 改めて見ると結構優秀だよな。マジックがないことを除けば平均的に高そうだし。

 それになにより、剣豪とか武士道精神ってなんだよ! そういうのはあるのかよ!


 そんな疑問が頭に浮かんだりはしたがとりあえず質問には答える。


「ユウトなら何か向こうに行ったぞ。嫌な予感しかしないがな」

「嫌な予感? 一体何があったのだ?」


 とりあえずマイにさっき起きたことを簡潔に話す。すると、彼女が頭を抱え始めた。


「あの馬鹿、また余計な事を……なんであいつはこう――」

「気持ちは判るぞ」

「……何かよくわからんが、幼馴染というのも大変そうだな」


 全くだ、とマイもため息を吐いた。しかし一つ一つの所作が凛々しいなこの子。


「――そういえば、その、何だ、気を落とすなよ」


 うん? なんか俺に顔を向けて同情の目を向けてきたな。

 まあ、あの事だろうけど。


「大丈夫だ、俺は全然気にしてない」

「ぜ、全然か? それはそれでどうかと思うが……」


 呆れたように半目を向けられてしまった。そう言われてもな。


「それより、カミヤさんの方が何か凄いな。ステータスもだけど、剣豪とか武士道とかそんなものこの世界にあるなんてな」

「私の事はカミヤでいい。私もキリガクレと呼んでるわけだしな」


 まあ、言われて見ればそうだな。


「あと、その件は私も気になってな。兵士や騎士にも聞いてみたんだが、どうやら東の島国とやらにそういったクラスや考え方があるらしい」


 なんとなくそんなこったろうとは思ったが、その東の島国に忍者はいないのかよおい!


「おっと、こんなところで立ち話している場合ではないな。すまん、ユウトを追う」

「おう、頑張れよ」


 そしてスタタタッと走っていた。あいつよく見ると走り方も武士っぽいな。


「さて、かたすか」

「……そうだな」


 そんなわけで、再び片付けを再開させようとしたわけだが。


「きゃ! うそ! これがキリガクレ君の部屋?」


 今度はチユがやってきたよ。片付け進まねぇ~。


「酷いよこんなの、職業差別だよ! 人権無視だよ! 鬼畜蹂躙だよ!」

「うん、ヒジリさん、最後のはあまり他の人の前では言わんほうがいいと思うぞ」


 少なくとも大声で言うことじゃないぞ。


「……人気者だな」

「望んでないことばかり起きてるけどな」


 目を細めて返す。大体きたのはあの暇人三人と、お節介焼きと、その幼馴染だしな。


「え? わ、私邪魔だったか、な?」

「いや、違うぞ、さっきまでちょっと色々あってな! 別にヒジリさんが邪魔とかそう言うのじゃないから!」


 正直言えばあんま色んなやつに来られると作業が進まなくて参るんだが、そんな涙目で言われると拒否できないしな!


「……わ、私の事は、よ、呼び捨てでいいよ!」


 え? なんだよチユもかよ。


「うん、わかったヒジリ、これでいいかな?」

「……うぅ、ま、まあしょうがないよね」


 うん? 何か気落ちしているような? 何だ、何かまずかったか?


「……俺が言うのも何だが、お前鈍感だな」

「は?」


 何だ突然……わけわかんねぇよ。


「あ! いたいた! おいキリガクレ! ユウトとマイ見なかったか?」

「だからなんでいちいち俺に聞くんだよ!」

 

 今度はユウト親衛隊の残り三人がやってきた。なんでわざわざここに来るんだよ。


「それはユウトが何故か貴方を気にかけていたのと、マイがこっちに来ているのを見た人がいたからよ! さあ! 白状しなさい!」

「し、しなさ~い……」


 マオが眼鏡をくいっと押し上げた後、俺に指を突きつけてきたけど、なんで推理モノの犯人探しみたいになってんだよ。


 あと、後ろでビクビクしながら会話に参加しているカコ、無理すんなって……。


「はあ、カミヤならユウトを追って向こうに行ったよ」

「むぅ! やはり抜け駆けする気でしたか!」

「幼馴染だからってやっていいことと悪いことがあるんだぞ!」

「……ぬ、抜け駆けは、だ、駄目ですぅ」


 そして三人は嵐のように去っていった。なんなんだよ一体――






◇◆◇


 一方その頃、当の本人であるユウトは直談判の為、東宮から正宮へ向かおうとしていたのだが――


「勇者様のお願いでも、今はここをお通しできません。お食事の準備が整うまでは、どうか東宮でお休み下さい」

「だから! 僕は今すぐ陛下と話をしなければいけないんだ! クラスメートが困っているのに、放ってはおけない!」

「そう言われましても――」


 ユウトの熱気に兵士たちもタジタジだ。すると、兵士の背後の扉がゆっくりと開かれ、彼らが驚きの声を上げる。


「へ、陛下!」

「ど、どうかなされましたか?」

「……何、客人の様子がどうか聞こうと思ったのだがな、ふむ、まさか勇者が目の前にいるとはな」


 顎を擦り、ライオネルがユウトを見下ろす。すると、お願いがあります! とユウトがその場に跪いてみせた。


「――そのような真似はせずともよい。お主は勇者なのだからな。余と対等ぐらいに思って貰ってもかまわぬぞ」

「……それでは、お言葉に甘えて」


 ユウトは立ち上がり、皇帝と目を合わせた。その様相に、ビクビクしている兵士たちである。


 いくら勇者とはいえ、皇帝に失礼があっては、自分たちの責任も問われるのでは? と、そんな不安が去来しているのかもしれない。


「それで、余に願いとは何であるか、勇者よ」

「はい、私と同じように召喚された、シノブのことについてですが」

「シノブ、あの無職の男か。ふむ、その男がどうかしたかな?」

「はい、先程、私が部屋を確認しにまいった所、シノブの部屋だけが明らかに他の面々と違いました。もはやあれは部屋と言うよりは塵溜めです。流石にあれでは、あんまりです。たとえ無職であろうとシノブが私達の大切な仲間であることに変わりはありません。ですので、どうか陛下から、全員を平等に扱うようお伝え頂けないでしょうか?」


 兵士の顔に緊張が走った。ユウトの言っている事があまりに馬鹿げていると思ったからなのかもしれない。


 なぜなら、クラスが無職である以上、待遇に差が出るのは当然の考えだからだ。ましてやシノブは今回戦士としても期待されておらず、戦力外通告をだされている。


 そんな相手に温情を与えるほど、皇帝は甘くないはず、これは場合によっては勇者と言えど不敬とされておかしくない――そう思ったのであろう。


「……ふむ、つまり勇者ユウトよ、お前はシノブを他の皆と違いを付けず、平等に扱って欲しいと、そう申すのだな?」

「はい、その通りでございます。私のいた世界では、どのような境遇のものでも平等に扱うのが基本です。差別などとは縁遠い世界で生きてきたのです。それが急にこのような待遇をされては、彼も精神的に参ってしまいます。ですからどうか、ご理解の程を――」


 益々兵士の顔がこわばる。だが――


「ふむ、判った。そういうことであれば、あのシノブという男も平等に(・・・)扱うとしよう。勿論すぐにでも部屋は替えさせるし、食事も同じように振る舞わせてもらう、それで良いのだな?」

「は、はい! ご理解頂き、本当にありがとうございます!」


 だが、皇帝の判断に、兵士たちは目を丸くさせ、ユウトは感謝の言葉を何度も述べ、そしてその場を後にした。


 そして、この直後約束通りシノブには他の皆と同じような広々とした部屋が与えられる事となったのだが――

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