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第六十七話 忍者、罠にはまる?

 俺達の班の担当になったという騎士二人には、俺も驚いたものだ。マイラは前にチラッと話を聞いていたから、まぁ偶然といえばそれで済むけどな。


 しかし、サドデスはな。曰く、どうやら始末書を提出した上で謝罪の言葉もあわせて述べたところ、反省していると認められ、指導官としての復帰が認められたそうだ。


 身内に対して甘すぎだろ帝国騎士団。

 しかもこいつ、そんな説明をしながらも、俺のせいで散々な目にあっただの、無職も姫騎士も腹ただしいだの、全く反省している様子が感じられないしな。


 上官は一体何を見ていたんだ? 職務怠慢もいいところだろう。


「さて、あまりのんびりもしていられないからな。すぐにでも攻略に向かうぞ」

「いよいよっすね! 楽しみっすねシノブ!」

「あ、ああ……」


 しかしマイラも遠慮がないというか、これだと俺と顔なじみだってバレバレなんだけどね。


「ふん、無職の癖にテメェはよく女に好かれやがるな。見境なしかよ」


 ほら来た。早速マグマに嫌味言われたよ。


「何だお前、あの無職と知り合いなのか?」

「いやいやサドデス様、彼にはシノブって名前があるっす」

「あん? 無職は無職だろ。一度胸を貸してやったから判るが、アイツはただの無職だそれ以上でもそれ以下でもない」

「あ、はははっ」

 

 全く、先が思いやられる会話だな。マイラも一応相手の方が立場が上なのか、愛想笑いしか出来てないな。


 とは言え、俺達の班の迷宮攻略がいよいよ始まろうとしているわけだが――そういえば迷宮にもステータスがあるんだったな。


 ちょっと試してみるか。看破の術っと。



ステータス

第三の封印迷宮

階層:浅層:地下五層

   深層:地下五十五層

難易度:G/S-

迷宮力:1340000/1855500



 なんだコリャーーーーーー!

 いやいやおかしいだろ! 表示表示!

 浅層とか深層ってなんだよ! そもそも名前ついているからこれネームドダンジョンだろ! 

 地下五層と地下五十五層って高低差ありすぎだろ!


 ふぅ、落ち着け俺。やばいやばい、あまりのことに冷静さを失うところだった。


 それにしても……迷宮力も、やたら高い上、既に五十万以上減ってるんだな。やっぱ地下五十五層もあると維持するだけで大変なのか?

 別に迷宮の心配しても仕方ないけどな。


 それにしても、このステータスをみるとそこはかとなく嫌な予感がするんだが――


「おい、何をぼ~としている? さっさと行くぞ?」

「え? あ、あぁ」

「たく、無職は何をやってもグズだな。使えね~」

「むぅ、そんな言い方シノブに失礼っすよ!」


 サドデスに促され、仕方ないから俺も連中の後を追う。相変わらずマグマの俺に対する態度は変わらないな。


 ただ、マイラは俺を庇うように文句を言ってくれたが、だけど、そんな事でこんな連中に目をつけられたら申し訳ないしな。


「俺の事は大丈夫だよ。それに無職なのは事実だ」

「そんな! 言われっぱなしで我慢する事なんてないっすよ!」

「……チッ、ウゼェ女騎士様だな。そういえば、こいつ、前も俺たちの邪魔をしてくれたんだったな」

「邪魔とはなんすか! あたしだって覚えてるっすよ! あんた達いつもシノブに!」

「いい加減にしやがれマイラ! そこの無職とどんな関係か知らねぇが! テメェも騎士なら、仕事に私情を挟んでんじゃねぇぞ!」


 マグマの物言いにムキになるマイラだったが、そこへサドデスの檄が飛んだ。

 マイラの肩がビクリと震える。


「とにかく、俺達はあくまで何かあったときの為の支援役でしかねぇんだ。テメェもそんなとこにいないでもっと後方に下がれ」

「……判ったっす」


 サドデスに言われてマイラも渋々と下がる。その途中で俺は、悪いな、と声かけたけど、目で気にしないでと返された気がした。


 ふぅ、全く出だしから色々と幸先が不安になるな。


「テメェは使えねぇ無職の癖に、女に手を出すのだけははえーんなだなおい。その調子でもうチユとも何発もやったのかコラ?」

「……くだらないこと言ってないで、早く進めよ。お前たちが前衛なんだろ?」


 チッ、とマグマが舌打ちし、他のふたりも引き連れて迷宮へと入っていった。後衛の俺とカコも後に続く。






◇◆◇


「おい、マグマ、シャイニングヘッドだぞ。あまり近づくと――」

「関係ねぇんだよ!」


 シャイニングヘッド、見た目は何というか、ハゲた巨大な頭部に手足を付けたといった様相の魔物だが、敵が近づいてくると、頭を激しく発光させて目を晦ませ逃げていく魔物だ。


 正直肉体的ダメージはないが、かなり眩しい光なので目に来る。そんなのを喰らい続けるのは結構ストレスが溜まりそうで、そういった意味では厄介とも言える魔物だったが。


 しかし、ガイが忠告するも、確かにマグマには関係ないようで、頭が発光しようが問答無用で剣を振り、爆発を起こした。


 いくら逃げ足が速いと言っても、頭を光らせるのと同時に広範囲に及ぶ攻撃を喰らっては一溜まりもない。


 結局その場には消し炭となったシャイニングヘッドが残される事となった。


「ふん、大したことのない魔物ばかりだな」

「ま、まあ、最初からそんな話だったしな」

「だったらガイ、お前もちょっとは活躍してみろよ。ただでさえ鈍くさいんだからよ」

「あ、あぁ、悪いな」


 ガイは、一応口では謝っているが、納得はしてない様子でもある。

 何せこの迷宮攻略はほぼマグマの独壇場だ。魔物が出れば殆どはマグマが片付けてしまう。


 唯一違うのは――


「おっと、ラットマンが出たぜ。ほらキュウスケ、ラットマン狩り専門なんだから頑張って倒せよ」

「キキキッ、ベ、別にラットマン専門ってわけじゃないんだけどな」

「あん? 顔が似てんだから丁度いいだろうが。大体、お前はラットマンを倒すぐらいじゃないと肝心のステータスが上がんねぇんだから、とっとと片付けてこいよ」

「キキキッ、判ったよ……」


 出てきた魔物が弱いときだけ、そのときだけはマグマも他の二人に任せたりする。特にラットマンはほぼキュウスケだけに任せてる状態だ。

 

 理由も今本人が言っていたような理不尽な物だ。なんというか、マグマの増長ぶりが目に余ってきたな。


 ガイとキュウスケも最初こそマグマと一緒に俺なんかをからかって楽しんでいた――まぁそれもどうかと思うが、正直マグマに比べたらまだ可愛げがあった。


 そんな二人とマグマの距離感がだんだんとおかしくなっているのを感じる。

 確かにこれまでもマグマは三人の中では主導権を握っていた節があったが、ここまであからさまに偉ぶったり、少なくとも仲間のガイやキュウスケをあからさまに馬鹿にするような発言はしなかったはずだ。あるにしてもふざけ半分とかそんな感じだしな。


 だけど、今はまるで俺がリーダーだと言わんばかりの態度だ。おかげでキュウスケもブツブツ言いながらラットマンを狩ってるような状況だ。


「キキキッ、終わったぜ」

「なんだ、時間かかりすぎだろ。それで、少しは強くなったか?」

「……キキッ、いや、流石にラットマンじゃそこまで大きな成長はみこめねーよ」

「んだよそれ、折角俺が獲物を提供してやってんのに、そんなに使えないんじゃテメェも無職と一緒だぞ? なぁ?」

「キキキッ……俺だって、もっと他の魔物を狩らせてくれれば――」


 目を伏せて不平を吐露してしまったといったところか。実際、キュウスケの吸収は相手のステータスを完全に吸い取れるというものじゃない。


 しかも相手の方が弱い場合は更に吸収率は下がる。ラットマンだと十匹程度狩って、ようやく少しステータスにプラスされるといった程度だろ。


「あん? 何お前? この俺に文句があるわけ? 大体テメェはその糞みたいなステータスで他の魔物が狩れんのかよ! なぁ、おい!」

「おい! マグマいい加減しておけって。言い過ぎだぞ」

「うっせぇ! テメェもだガイ! 所詮二人揃ってこの俺様におんぶに抱っこなんだから大人しく言われたとおり動いてればいいんだよ!」


 仲間割れか……いや、違うなマグマが一方的すぎるんだ。

 ただ、二人もそれ以上は何も言い返せないでいる。マグマのLVがあの三人の中で一番高いのは事実だし、訓練で爆裂の力も大分伸びている。


 だから言い返したくても言い返せないといった状況なんだろう。


 まぁ、俺からすれば三人共に随分と色々やってきたから敢えて間に入る気もないけどな。


 ただ、カコが完全にビビってしまっている。


「チッ、くだらねぇことで時間つぶしたぜ。おらカコ! また付与かけろや!」

「え? あ、は、はい……」


 マグマに言われカコが付与魔法を行使した。それにしても、マグマの奴ちょっと付与魔法に頼り過ぎじゃないか?


 今の実力ならそこまで付与を必要としないだろうに――





「オラッーーーー!」


 爆音が鳴り響き、迷宮が揺れ、マグマが斬りつけた壁が激しく粉砕された。


 爆裂の力を壁に行使したからだ。理由は、壁の部分にイワメがいたからだ。

 

「へっ、ケントがすげーすげー言ってやがるけどよ。俺にだってこんぐらいできるんだよ!」

 

 そして睥睨しながらケントを引き合いに出し、語気を強め嵩にかかった態度を見せた。


 確かにイワメは、岩と同化するも爆発によって粉砕され砕け散った。岩もマグマによる爆発で、恐竜にでも噛み砕かれたように抉られている。こうなってはいくら岩と同化しても意味はない。


 ただ、ケントは迷宮内に随分と大きな横穴を一つ追加したらしいけどな。

 まぁ、敢えては言わないけど。


「さて、おいカコ付与だ! さっさとしろ!」


 するとマグマが、またもカコに向かって付与魔法を掛けるよう命令した。彼女の肩が震えている。表情も不安そうだ。


 既に浅層の最下層となる第五層なのだが、ここに来るまでの間、マグマは何かにつけてカコに魔法を行使させた。


 ある意味、ガイやキュウスケよりもカコのほうが酷使されている。おかげでか随分と魔力が減っているようにも思えるしな。


「おい、魔法はさっき掛けてもらったばかりだろ。大体お前強いんだから無理してまで彼女に頼る必要ないんじゃないのか?」

「あん? テメェ無職の癖にこの俺に意見しようってのかコラ! 随分と偉くなったもんだなおい!」


 チッ、あの三人が仲違いしようとどうでもいいが、カコへの負担があまりに大きいからな。それで反論したが、こいつは本当二言目には無職無職とそればっかりだな。


「シノブの言うとおりっすよ! さっきからあんたちょっと横暴すぎっす!」


 するとそこへ、マイラが助け舟を出してきた。実はこの途中も何度かマグマに意見していたんだが、その度に越権行為だとサドデスに怒鳴られてたんだよな。


「チッ、またおまえかよ。これは俺達の問題なんだから、ただついてきているだけの騎士が口出しすんなよ」

「これを黙ってみてろというのが無理っす! 大体さっきからなんすか! あんた自分ばかり前に出て、他の仲間に活躍の場も与えず、そのわりにそこのカコさんにだけ自分への付与ばかりさせて!」

「俺が一番活躍してるんだから当然だろが!」

「この迷宮攻略はあんたの為だけにあるわけじゃないっす! 全員の適性を見るのもあたし達の仕事っす!」



 負けずと食らいつくマイラ。言っていることは恐らく正しい。わざわざ班分けしてパーティーで行動させているのも、全員の実力や、連携がどの程度取れるかなどを確認したいという意味合いも強いのだろう。


 しかし現状はあきらかにマグマの独壇場で、それにカコが巻き込まれているようなものだ。


「マイラ! いい加減にしろ! さっきから貴様は口出しするなと言っているだろう!」

「うっ、で、でも!」

「でももくそもない! 大体テメェはさっきから何を見ていた。あのキュウスケはラットマンを狩り続けていたし、ガイはマグマの命令で壁になり、カコは付与魔法で付与を掛けている。マグマの独壇場などではなく、奴がそれだけのリーダーシップを発揮していると言うだけだろが!」


 り、リーダーシップ? あれでか? 大体ガイを壁にしてたのも、お前は壁にしかなれないんだから突っ立てろみたいな横暴なものだったし、ラットマンはマグマがそれしか狩らせてないからだろ。


 カコに関して言えば掛けさせてる意味が全くわからないぐらいだ。


「お、お言葉を返すようっすが、だったらシノブはどうなるんですか?」

「あいつは無職だ。そもそも活躍させる場がない。そんなこと火を見るより明らかだろうが」


 ここまではっきり言われると清々しいぐらいだな全く。


「……騎士様は随分と俺たちの事を見てくれたようだけど、だったらカコの状態にも気づきませんか? これ以上魔法を行使させるととても魔力が持たないと俺は思うんですけどね」


 とは言え、カコの事は流石にこのままというわけにはいかないしな。そこだけはサドデスにも意見するが。


「フンッ、無職風情が。まあいい、どうせもうすぐここも終わりだ。それにそこまで弱ってるならもう魔法を使わせる事はないだろう。マグマも判ったな?」

「チッ、おっさんがそういうなら仕方ないな」


 サドデスの言うことはわりとあっさり聞くマグマだ。それにしてもマグマだけじゃなく、サドデスもこんな調子だからな……。

 





「キキキッ、こ、ここから、な、何か妙な気配を感じる――」


 迷宮の第五層を進み続け、遂に迷宮ボスがいるという部屋の前まで来た俺達だったが、そこでキュウスケが妙な事を言い出し始めた。


 最初はクンクンと何かを嗅ぐような仕草を見せ、部屋にはいるのはちょっと待ってくれといい出したのがきっかけだ。


 そして扉から数メートルほど離れた位置にある壁を調べ始め、その結果が今のキュウスケの言葉だ。


「なんだキュウスケ、お前何かを嗅ぎ当てたのか? その鼻も役に立つ時があるもんだな」

「キキッ、あ、あぁ、まぁね」


 そして、マグマがキュウスケに近づいていく。それにしてもキュウスケも、妙に口調が辿々しいから怪しいことこの上ないけどな。


「うん? この壁、動くぜ――」


 そしてマグマが壁の一部を強く押すと、そこがガコンっと引っ込み、かと思えば迷宮全体が揺れ――


「おお、これは隠し通路って奴かぁ?」


 マグマが嬉しそうに言う。確かにマグマが仕掛けのような物を押した途端、壁が開き、先に進む道が現れたな。


「こ、これは大発見すよ! まさかこの迷宮に隠し通路があったなんて!」

「落ち着けマイラ。隠し通路自体は迷宮なら十分に可能性はあるんだからな」


 そしてマイラが興奮気味に叫ぶが、サドデスは妙に落ち着いていた。不気味なほどにな。


「こ、この奥に、い、行く気ですか?」

「んなもんあったりまえだろが。こうなったら迷宮ボスより前にこっちだぜ」


 カコが不満そうに述べるが、さも当然といわんばかりにマグマが口にし。


「おら、無職もさっさとついてこいよ」


 そして俺に特に言い聞かせるようにして、しかもガイが俺やカコの後ろについて、早くいけと目で訴えてきた。


 まるで逃げ道を塞いでいるようですらあるな。


「マグマの言うとおりだ。何かあったときのために全員で向かう。勿論俺たちも後からついていく。だからさっさと進め」


 ……仕方ねぇ。嫌な予感しかしないけど、とりあえずマグマとキュウスケの後についていく。


 隠し通路は幅はそれなりにとれていて、天井も十分に高かった。途中で分岐していることもなく、まっすぐな道が十メートルほど続き――


「こりゃスゲーなー」

 

 マグマが感嘆の声を発す。直進する通路を抜けた先は円形の空洞だった。


 どうやらこの箇所は天井も上の層まで突き抜けてるようで、かなり高い。


 ただ、何よりこの空洞で目を引くのは――


「な、なんすか、その穴は――」


 マイラが若干の恐れを含んだ口調で述べる。


 そう、この空洞の三分の一程は、大きく裂けていた。クレバスを思わせるその光景に、カコも心なしか震えている。


 そしてその裂け目からは時折妙な唸り声のようなものも聞こえ、それがより恐怖心を煽っているのかもしれない。


「ふぇ~下がまるで見えないぜ。これはどんぐらい深いのか見当もつかないな」


 すると、マグマが先ず穴の前まで移動し感想を述べる。そしてくるりと振り返り、その視線が俺に向けられた。


「おいシノブ、テメェもちょっと覗いてみろよ」

「……俺が? なんでだ?」


 一応はそう問い返す俺だが。


「あん? 何だお前、もしかしてビビってるのか? なんだ無職野郎はステータスだけじゃなく心も弱いのかよ。情けねぇな」

「全くだ、ビビってんじゃねぇぞシノブ」

「キキキッ、マグマ、こいつは無理だぜ。既に脚も震えてるしよぉ」


 すると、マグマが俺を挑発し、そしてガイとキュウスケもここで元の調子を取り戻したように俺を煽ってくる。


「シノブ! そんな挑発に乗ることないっす! なんかその穴嫌な予感しかしないっす!」

「そ、そうだよ、あ、危ないよぉ」


 だが、マイラとカコに関しては俺の身を案じてくれているようであり、無理することはないと言ってくれているがな。


「はっ、シノブちゃんはいつも女から心配されてもらって羨まちぃでちゅねぇ。テメェ、少しは情けないと思わねぇのかよ!」

「マグマの言うとおりだな。大体、お前はここに来るまで全く見せ場がなかったんだ。このままだと俺もお前に最悪の評価を付けざるをえないぞ。それが嫌なら、せめてここで根性の一つも見せるんだな。お前はただでさえ筋肉が足りないんだからよ」


 筋肉関係ねぇだろ……とは言え、マグマだけじゃなく、サドデスまで一緒になって俺を煽り始めたな。しかもほぼ命令に近い。


「サドデス様! それはあまりっす! 大体マグマが見たならもうそれでいいではありませんか! 納得がいかないっす!」

「馬鹿いうな。一人だけに確認させて終わりってわけにもいかないだろう。それともお前が代わりに行くか? 俺はそれでも構わないぞ?」


 サドデスが抗議してきたマイラにそんな事を告げる。

 

 マイラは一考するも――


「わ、判ったす。それも騎士の役目なら仕方――」

「判った判った。俺が見るよ。大体、ただ下の様子を探るだけだろ? なんてことはないさ」


 マイラならそう言うと思った。だけど、流石にそれは見過ごせないしな。それに、元々ある程度話したら折れるつもりだった。


「シノブ! 無理する事ないっすよ!」

「別に無理なんてしてないって。大体、脚を踏み外すようなドジをしなければ、こんな穴を覗くぐらい大したことじゃないしな」

「シノブ……」


 マイラが妙に不安そうな顔で訴えてきたけど、俺は軽い口調でいいのけ、そして裂け目の前まで移動する。


 覗き込んでみたが、確かに闇穴は底がまるで見えない。こんなの落ちたら普通なら一巻の終わりだな。


「ほら、確認したぜ。マグマの言うとおり、確かに穴は深い――」

「そうかよ!」

 

 そして振り返り、俺が見たままの感想を述べたその時、俺の正面には拳を振り下ろすマグマの姿。


 かと思えば――爆裂、耳をつんざく轟音と共に目の前が炎に包まれ、同時に衝撃波で俺の身体が後ろに吹っ飛んだ。その先にあるのは、あの裂け目であり、俺の身は底の見えない闇穴へと吸い込まれていく。


「キャアアァアアァアアアアァアア!」

「し、シノブ! あ、あんた何してるっすか!」

「あん? んなもん決まってるだろうが。使えない無職を処分したんだよ。ザマーミロだ! ア~ハッハッハッハッハ!」


 そして裂け目へと落下していく俺の耳に届いたのは、少女二人の悲鳴と、マグマの勝ち誇ったような馬鹿笑いだった――

シノブの運命は!



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