第六十六話 嫌な組み合わせ
「え? ぼ、僕達がこれからも、ぱ、パーティーを?」
迷宮攻略も終わり、今回の攻略について色々と話しておきたいというアサシの誘いで、第五班の面々は皆とは少し離れた位置に集まっていた。
迷宮攻略組は攻略後は暫く休憩時間が儲けられる。それを利用している形である。
「……そう、今回の迷宮攻略ではたまたま班が一緒だっただけだけど、僕は出来れば今後も皆と組みたいと思っている。どうかな?」
「う~ん、確かに皆といれば、ぼ、僕も少しは強くなれそうな気もするけど……」
「……もしかしていつも一緒にいるあの連中に気を遣っているのかい? だとしたらもうあの連中とは離れたほうがいい。奴らはただ君を蔑むための玩具にしているだけだ。あいつらでは君の力を活かせないし存分に発揮できない」
「で、でも……」
「……君のお母さんだって強いデクの方が嬉しいはずさ。それに、僕達と一緒の方が地球に帰りたいなら近道だ。君だって、少しでも早くお母さんに会いたいだろ?」
アサシの問いかけ。それに、デクは相変わらずおどおどした様子ではあったが――
「た、確かにアサシくんと一緒だと、何かが変われそうな気がする――判った、僕! パーティーを組むよ!」
決まりだね、とアサシは告げ、そして今度はアイに顔を向け。
「……アイも、一緒に来てくれるかい?」
下の名前で呼びかける。尤もこれは彼女が普段から自分を表す時にも使っており、アサシにも名前でいいよ~などと言ってきていたのでそれにあわせた形だ。
「う~ん、そうだね~アサシくん食べ物くれるし~うん、アイもついていくよ~」
わりとあっさりと了承してくれた。その理由もなんとも彼女らしい。正直餌付けは成功したとみていいだろう。
「……後は、カバネ君、君だけなんだけどね」
「――ミサさんには聞かなくていいのかい?」
「……彼女とはとっくに話はついているさ」
「なるほどね……でも、君とパーティーを組むことに、僕に何かメリットがあるのかな?」
「……あるさ。君は僕と組めば楽が出来る」
「なるほど、それは確かに僕にとって重要な事だ」
カバネはそう答えつつも、暫し考え。
「でも、なぜそこまで僕達に拘る? 僕たちはたまたま班として一緒になっただけだろ?」
「……そうかな? 僕は運命を感じるよ」
「運命?」
怪訝そうに目線を上げるカバネ。するとアサシは、ニッ、となんとも似合わない笑顔を披露し。
「……僕達にはある共通点がある。これは、偶然だと言うには運命としか思えない」
「共通点ね……例えば?」
「……例えば、君は今の話からも判る通り、随分と【怠惰】な存在だ」
「――ま、否定はしないけどね」
「……そして、アイは【暴食】と言える」
「……ふ~ん」
カバネは何かに気がついたようだが、とりあえず話を聞く。
「……そしてデクは――【憤怒】まさにそれにピッタリだと思わないか?」
「――つまり、七つの大罪ってわけか」
「そういうことね」
そこへミサが入り込んできて、アサシの代わりに回答を示す。
「ねえデクくん、七つの大罪ってなに?」
「え? え~とね、どこかの大きな教会が定めた罪でね、傲慢、憤怒、嫉妬、怠惰、強欲、暴食、色欲の七つあるから七つの大罪なんだ」
頭にはてなマークを浮かべながら聞いてくるアイに答えるデク。
そんな彼に、物知りだね! とアイが眼をキラキラさせた。
「とにかく、僕達の事は判ったけど、それだと君も何か罪と関係しているのかい?」
「ええ、私は【嫉妬】よ」
「嫉妬、ね……」
「そして、アサシ君は、やっぱり傲慢ってところよね」
アサシに顔を向けつつ、ミサがクスリと笑う。それについてアサシは肯定も否定もしないが。
「でも、七つの大罪といっても、僕たちは五人だ。残る二人はどうするんだ?」
「……その点は問題ないさ。男子と女子に適任が一人ずついる。シュテンとホウヅカの二人がね」
その回答に、カバネは目を丸くさせた。
「本気かい? あの二人はどう考えても僕達とはタイプが違う。協力してくれるとは思わないけど」
「……大丈夫、ホウヅカはミサにシュテンは僕が当たれば、間違いなく加わる」
それを聞くと、カバネは肩をすくめ。
「こういっちゃなんだけど、今回の組み合わせと言い、まるでそうなるように仕組まれたみたいだな」
「……気のせいさ」
カバネは若干訝しげにアサシと、そしてミサを見た。アサシはともかくミサのクラスは魔女だ。彼女ならもしかしてその手のまじないも可能なのかもしれないと考えたのかもしれないが。
「――ま、いいか。僕は楽が出来ればそれでいい。でも、それで七人集めて君は何をしたいんだい?」
「……僕は、もっとこの世界を自由に楽しみたいだけさ。だから勧誘も含めて僕の計画が成功すれば――その後は一旦僕達でこの帝都から脱出する……」
◇◆◇
「第七班の攻略も終わったようだな」
七番目の迷宮攻略組が戻ってきたのを認め、鬼軍曹が言った。
迷宮攻略は基本ひと班が終わってから入れ替わりで次の班が行く。
別に途中からでもいけばいいようにも思えるが、どうやら迷宮のボスは一度倒してから再度出現するまである程度時間が掛かるようだ。
なので全ての班でボス戦は経験してほしいという点から、この方法を取っているようである。
ちなみに迷宮が普通にオープンになっている場合は当然こんな配慮はなされない。なので、妙な話だが迷宮の最深部でボスが現れるまで待つといった事も攻略者の中ではよくあるようだ。
さて、そんなわけで第七班が終わったという事は――
「さぁ、いよいよ迷宮攻略もこれで最後だな。第八班出発だ」
「おう! 待ちくたびれたぜ!」
マグマが返事する。そう、最後の班はマグマ達三人に俺とカコといった組み合わせだ。
正直カコ以外の三人にうんざりする思いだけどな。
待ってる間もマグマは終始俺を睨みつけていたし。一応鬼軍曹から迷宮の説明があったりもしたが、この軍曹も俺が聞いているかどうかなんてどうでも良いって感じだったしな。
それから暫くは訓練して、ある程度のところでマグマ達三人は何やらコソコソと話し合っていた。
ちなみにその間、カコは攻略済みのユウト達から話を聞いたりしつつ、時折俺の側にきておどおどしながらも話しかけてくれたりもした。
色々気を遣ってくれているのかもしれない。まぁ、俺は俺でチユやケントとも話していたんだけどな。
やっぱあのふたりも俺がマグマ達と同じ班というのが気がかりらしい。
そして、カコはカコであの三人が苦手な様で、あまり近づこうとはしない。結局のところ三対ニで分かれてしまっているような状況だ。
「おい無職! とっとと来いや! 足引っぱってんじゃねぇぞ!」
マグマが俺に向けて叫ぶ。全く、迷宮攻略の順番が回ってきた途端、以前の調子が戻ってきやがった。
とは言え、ここで面倒事はゴメンだから、怯えているカコにも声を掛けて、鬼軍曹の下へ急ぐ。
チユが心配そうに見ていたけどな。まぁ、こっちもある程度は危険を想定している。
「……迷宮攻略で大事なのはチームワークだ。にも関わらず一人だけ足並み揃わず足を引っ張っていては全体に迷惑が掛かるのだぞ? 貴様は唯でさえ未だに無能の無職でしかない。故に、人一倍気を使わなければ行けないのは当然判っているのだろうな?」
「……当然、判っているさ」
「ふん、どうだかな。今の貴様の動き一つとっても、真剣味が足りないのがよく判る」
「全くだ、そんなんでくだらないミスをされて巻き込まれたんじゃたまったものじゃないぜ。カコもそんな野郎の側にいないでこっちにこいや」
「わ、私は、こ、後衛だから……こ、こっちのほうが――」
カコは俺の背中に隠れるようにしながら声を振り絞って答える。
マグマに対してかなり恐れを抱いているようだな。チッ、と舌打ちして不機嫌そうだが、カコはそもそも気が弱い方だ。
だから、マグマみたいなタイプは尤も苦手とするところだろう。それにしても本当相当ビクビクとしているが。
チユが思わず守ってあげたくなるような女の子なら、カコは守ってあげないといけない! と使命感を感じさせる子だ。見ててどこか危なっかしいんだよな。
「まぁいい。だが何度も言うがお前のような無職のくせに危機感のない男が一番危ないんだ。そういう奴が全員の言うことも聞かず無茶をして勝手に前に出て自滅する。言っておくが、万が一自分勝手な行動で命を失うような真似があっても責任はとれないからな」
鬼軍曹はまるで俺だけが無茶をするような口ぶりで忠告する。それを聞きながらただただニヤニヤするマグマが不気味だ。
「とりあえず、迷宮まではそこの案内人についていけ。それとお前たちを担当する騎士に関しては既に迷宮の入口の前で待機している。いい加減待ちわびているだろうから急ぐんだな」
騎士は迷宮前に既にいるのか。これまでは騎士もここからついていっていた筈だけどな。
どうも俺たちの場合だけ、説明から騎士の対応まで微妙に異なっている気がする。
「ま、死なないように精々気をつけるんだな。お前みたいな無職でも死なれたら寝覚めが悪い」
「……お気遣いどうも」
そして案内人に従う俺の背中に鬼軍曹の声が刺さる。全く最後の最後まで俺が死ぬような物言いしかしてこなかったなこいつは。
「よぉ、久しぶりだな。待ってたぜ」
「あ! シノブと一緒の班なんすか! こんな偶然あるもんなんすね~」
そして案内人に連れられ、迷宮の入り口までやってきたわけだが――そこで待っていた二人の騎士は俺もよく知る騎士だった。
尤も、一人は別に俺じゃなくても知っている者は多いだろう。逆に、もう一人の女騎士に関しては覚えていない者も多いかもしれない。
まぁ、マグマ達は一度俺に因縁つけていた時に見つかっているから覚えてる可能性はあるか。あの三人は忘れていても、女騎士、つまりマイラは覚えているかもしれない。
そして、もう一人の男。このハゲについても勿論覚えているが、まさかここにいるなんてな。確か指導官からは外されたと言っていたはずだが。
そう、目の前でマグマと同じようにニヤニヤと醜悪な笑みを浮かべているのは、あのサドデスだったわけだ――
サドデス再登場




