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第六十五話 第五班

 とにかく、色々と厄介事が重なるが、それでも次の日はやってくる。


 結局俺はあの後、転移で宮殿近くまで移動し、そのまま部屋まで戻って分身と交代した。その場で分身は消したので今動かしている分身はネメアと一緒に行動している分身だけという事になる。


 そして今日はその分身にも動いてもらう。昨日のウィリアムの件があって俺もある程度心が決まったからだ。


 だが、それをなんとかするには確実にあるものを準備する必要がある。


 あの婆さんは情報通だと思うし、問題ないとは思うんだけどな。


 そして朝、久しぶりにまともに本体の俺が訓練場に向かったわけだが。


「シノブくん! お、おはよう!」

「うん? ああ、おはようチユ」


 朝、クラスメートが全員集まると、先ずチユがやってきたので朝の挨拶を済ます。


 しかし、分身経由で記憶があるとはいえ、冷静に考えたら何か妙に久しぶりな気もする。向こうからしたら毎日訓練で顔を合わせてるってところなんだろうけどな。


「……シノブ、なんか久しぶりだな」

「へ?」


 そして、今度はケントがやってきたんだが、妙な事を言われた。いや、久しぶりって――


「カンザキ君ってば、ずっと訓練で一緒だったじゃない」

「……あぁ、確かにそうなんだけどな。なんとなくそんな気になってしまった」


 何か頬を掻きながら自分でも良くわからないって様子だけど、ケント、どんだけ察しがいいんだ……。


「やあシノブ君、今日は確か迷宮攻略組に入る予定だったよね」


 そして続いてユウト参上。しかし、本体としては久しぶりに会うからか妙に新鮮に感じるな。


「でも、昨日僕達も攻略に向かったけど、落ち着いていけば大丈夫だよ! そうだ、何か聞きたいことがあれば!」

「いや、大丈夫だ。気にするな」


 とは言え、その申し出は丁重に断った。下手に聞くと長くなりそうだしな。


「あ~無職の癖にユウト様の気遣いを無下にするなんて生意気だ~!」

「全くです。最初の迷宮だからと舐めて掛かると、痛い目見ることになるわよ!」


 すると親衛隊のレナとマオに文句を言われた。うん、新鮮に感じたけど三分でもういいやって感じだ。


「でも、実際気をつけた方がいい、魔物もいるからな。イワメやシャイニングヘッドなどは要注意だ」


 すると、マイも気をつけた方がいい魔物について教えてくれた。しかしシャイニングヘッドって……。


「……イワメは岩と同化する、面倒な相手だ」

「でも、カンザキ君凄いんだよ。イワメが洞窟の岩と同化した後、洞窟の壁を破壊して倒しちゃったし」

「うん、確かにアレは凄かったね」

「凄いと言っても、ユウト様ほどではありませんわ」


 いや、何やってるんだよケント。壁を破壊ってそれ常人の域を出てるぞ。絶対大したことあるだろ。

 忍者でもそこまで出来るの中々いないぞ。これもスキルの恩恵ってやつか。いや、違うか。よく考えたらケントは地球でも十分に人外だった。


「全員集まったようだな。それでは二日目の班を発表する。なお昨日攻略に向かった者は今日選ばれることはない。なのでこのまま訓練に移るように」


 どうやら居残り組は引き続きここで訓練を受けることになるようだな。それに、他の班が迷宮攻略に向かっている間は待っている班は改めて迷宮についての説明を受けることになるようだ。


 そして、俺と顔なじみの中だと、ユウト、ケント、チユは昨日の内に攻略は終わっている。ユウト親衛隊もカコ以外は昨日の段階で終わってるようだ。


 そして――マグマ、ガイ、キュウスケの三人は昨日は呼ばれていないので今日ということになる。


 マグマは終始俺を睨みっぱなしで、それが気になるところだな――


 さて、どういう組み合わせになるか――


「二日目、最初の攻略となる第五班は、アサシ、アイ、ミサ、カバネ、デクの五人だ。準備ができ次第直ちに出発するように」


 二日目の最初はアサシか……暗殺者のクラス持ちという物騒な奴で、妙に俺の事を観察してきていた奴だな。


 マグマとは別な意味で要注意といった相手だが、ただ、途中からは奴の視線を感じることはなくなった。


 一応は俺も分身も普段は無難に過ごしていたからな。興味をなくしたのかもしれない。


 そしてそのまま発表は続けられたわけだが――


「さて、これが最後だな。本日の迷宮攻略で最終組として向かう事となる第八班だが、マグマ、ガイ、キュウスケ、カコ、そして――シノブだ」






◇◆◇


 迷宮攻略二日目、最初の攻略組となる第五班は昨日と同じように支援役の騎士二人を引き連れ、迷宮の第一層を探索していた。


「やっちゃってクレイちゃん!」


 人形 愛が命じると、彼女の魔法によって生み出されたクレイゴーレムがノッシノッシとラットマンに近づいていき、その豪腕を奮った。


 クレイゴーレムは土から生まれる人形で、生み出した術者の言うことを聞き行動してくれる。


 アイが生み出したのは、上背が二メートル程ある土人形である。土は自動的に粘土質な物に変わっているのか関節の動きは滑らかだが、見た目は樽に手足と頭がついたといったもので、決して良くはない。


 ただ、訓練で何度も扱ってる為か、アイは愛着が湧いているようで、名前のようなものも付けている。

 

 そんな人形だが、ゴーレムの動きは決して速くなく、鈍重と言って差し支えないものだ。


 ただ、最初に向かっていたラットマンは自分から攻撃を仕掛けてきているため、そこまで問題にならない。


 何より、クレイゴーレム(土人形)であればラットマンが爪や牙に宿している病気も問題とならない。それは人形使いの彼女にとって大きなアドバンテージともいえるだろう。


 クレイゴーレムの振る豪腕は、見事ラットマン二体を叩き潰した。パワーだけならこのあたりの魔物程度では叶うわけもなく、落下してきた大岩に押しつぶされたが如く、地面に窪みを残し圧殺されている。


 それは中々見事な手腕だが、しかしラットマンの逃げ足は速い。残った三体のラットマンは戦いが不利と見るや否や、背中を見せて逃亡を図る。


 だが、その瞬間彼らの逝く手を阻む影一つ。アサシだ。その手に持たれたナイフが残りのラットマンの喉笛をあっさりと切り裂いた。


「すご~い、いつの間に前にいたのアサシくん?」

「……別に、僕は気配消すのは得意だから」


 アイが戻ってきたアサシを称えるが、事も無げに彼は返す。どこか冷めた様子だが、このあたりの魔物は弱いため、達成感がわかないのかもしれない。


「……ミサさん」

「判ってるわ、契約を結びし黒鴉よ。我が命に従え――」


 魔女のクラス持ちであるミサが何かを呟くと、その目の前に鴉が一羽姿を見せた。


 そして彼ら第五班が先へと進む前に鴉が動き――しばらくして戻ってきた。


「カーカー」

「この先、道がふた手に分かれていて、右は行き止まりだけど奥に宝箱が一つあるわ。ラットマンとダンジョンウルフが数匹守っているようだけど、それだけね。左はそのまま進んでいける道ね――」


 これらのやり取りを見ていた騎士二人はすっかりと感心したようである。


「全く、大したものだ。アイ殿はゴーレムを使った戦い方はかなり頼もしいがまだまだゴーレムの鈍重さが気になるところであった。しかしその欠点をしっかりアサシ殿が補っている」

「ミサ様はミサ様で、戦闘において役立つスキルや魔法はまだまだ少ないようですが、使い魔を利用して迷宮探索に十分役立てています。おかげで三人だけ見ても凄くバランスがいい」

「あはは、褒められちゃったねアサシくん」

「――別にそこまで大したことはしていないし」

「確かにね。それにまだ攻略は始まったばかりだし」

「確かにそうですな。それに、カバネ殿やデク殿の実力も見てみたいところです」

「――僕は面倒なのはゴメンだよ」

「ぼ、僕は自信ないし……下手に動いても邪魔になるかも……」


 しかし騎士たちの期待のこもった視線とは裏腹に、ふたりはあまり戦いに関して乗り気ではない様子である。


 そして――第五班はミサの意見を参考に分かれ道の道を選んだ。幅は若干狭くなったが、それでも三人程度が横並びに歩けるほどの幅がある。高さはこの中で一番図体がデカいデクより頭一つ分高い位置に天井がある。


 地面は入り口からそれほど変わらず、特別良いことなく、やはり石と土で出来たような洞窟だけにある程度凸凹しているが、かといって特別不自由を感じるほどではない。


 女の子ならば、転んだ時に思わぬ怪我を負う心配があるぐらいか。勿論だからといって泣き言などいってもいられないわけだが。

 

 暫く進むと、鴉の知らせ通り、突き当りに宝箱が置かれ、それを守るように四体のラットマンと三匹のダンジョンウルフが待ち構えていた。


 ラットマンとダンジョンウルフでは、ダンジョンウルフの方がLVが2、3程度高い。


 だが、ずる賢いラットマンは上手いことダンジョンウルフを手懐け、こうして一緒に行動する場合がある。


 尤も高いと言ってもダンジョンウルフのLVは高くても7だ。このメンバーなら先ず負けることはないが。


「――デク、ちょっとこの場は君が戦ってくれないかい?」


 そこでアサシが提案。騎士が顔を見合わせ、デクは心底驚き、その巨体を揺さぶった。


「む、無理だよ僕には! 無理無理! 絶対に無理!」

「……でも、君だっていつまでもただ見学だけして過ごすわけにはいかないだろ?」

「で、でも――」

「いや、確かにここはアサシ殿言われる通りですぞ」

「それに、我々もこの迷宮攻略では全員の実力を見極めるよう言われております。戦える時に戦って頂かないと……」


 アサシの提案にはついてきていた騎士二人も追従する形で乗っかってきた。

 やはり騎士は騎士で、実力を把握する役目もあったのだろう。


「でも、でもやっぱり僕は、戦いなんて――」

「……なるほど、これは予想以上の木偶の坊ぶりだな。ウドの大木という言葉もあったかな。そんな性格じゃ、弄るという名目で馬鹿にされて蔑まれて、ストレス発散のはけ口の為だけのおもちゃにされても仕方ないな」

「あ、アサシくん……」


 デクが、悲しげに眉を落とした。図体はデカいのにこの覇気の無さは問題だろ、と騎士たちも思っているかもしれない。


「それにしても、君のお母さんは中々冗談が上手いよね。木偶の坊の息子にデクなんて名前をつけるなんてさ。まともな神経じゃ無理だよそんなの」

「……え?」

「ちょ、アサシくん、いいすぎじゃ……」

「いいのよ――」


 アサシが暴言とも取れる発言を行い、デクの表情にわずかな変化。それを見ていたアイはオロオロしだすが、ミサが彼女の動揺を抑えるように声をかける。


 カバネに関しては静観を決め込んでいる様子だが。


「それにしても本当に君も君のお母さんも使えないね。特に君の母親はとんだ木偶の坊を産んでくれたものだよ。きっと、母親が駄目な人間だから、生まれてきた子供も駄目なんだね。子供の成長は親で決まると言うし、君を見ていればよくわかるよ。君の母親がどれだけ無能なのかって事が――」

「お母さんの、お母さんの悪口を、言うなぁああぁああぁああ!」


 突如、歯牙をむき出しにデクが手持ちの斧を振り回した。


 その風圧だけで、騎士たちもバランスを崩しそうになる。アイからも悲鳴が上がった。


「なんだい? ただ力任せに振るだけなら馬鹿でも出来るよ。君のお母さんは武器の振り方も教えてくれなかったのか?」

「母さんの事をーーーー悪く言うなーーーー!」


 アサシはデクから距離を取りつつ、更に挑発行為を続ける。明らかに理性を失ったデクは、長柄の斧を片手で握りしめ突撃し、やたらめったら振り回した。


 その結果、迷宮内に舞い上がる肉片と悲鳴。頭が飛び、腕が飛び、両断された上半身が飛んだ。


 そう、気がついた頃には、宝箱の前を陣取っていた魔物が全て絶命していた。


 勿論、アサシに関して言えば全ての攻撃を避け、デクの矛先が魔物に向かうよう誘導していたわけだが。


「僕の! 僕のお母さんを! よくも!」

「……うん、そうだね。ごめん、今のは嘘だ。君のお母さんは素晴らしい息子を生んだ。心優しくて本当は強い、そんな男に育て上げた君のお母さんが最低なはずはないね。むしろ最高だと僕は思うよ」


 そして魔物が一掃された途端、手のひらを返したようにアサシが彼の母親を評価した。

 すると、振りかぶった長柄の斧をピタリと止め――デクが照れ始めた。


「そ、そうなんだよねぇ。お母さんは本当に僕の事を大切にしてくれて。あ、でもそれは言いすぎだよ。僕なんて強くないし――」

「……周りを見てみなよ」


 後頭部を擦りながら巨体がナヨナヨした動きを見せ、直前の様相とはまるで別人なようだ。


 そんな彼にアサシから一言。へ? と目を丸くさせ、周囲を確認するデクだが。


「ひゃ、ひゃ~~~~! い、一体誰がこんな事を? ス、凄いことになってる~~!」

「いや、誰って……」

「やったのは君だろ?」


 騎士たちが呆れ眼で教えるが、へ? 僕? とやった本人が信じられないといった顔を見せる。


「……これが君の狂戦士の力さ。本当なら君はこのあたりの魔物なんて一掃出来るぐらい強いんだよ」

「ぼ、僕が、強い?」


 自分の手を眺め、ワナワナと震えるデク。何やら思うところもあるようだが、とにかく宝箱の中身を回収し、一行は先を急いだ。


 こうしてアサシ達は時折デクの力を解放しながらも迷宮を突き進み、遂に迷宮のボスが待つ部屋へとたどり着く。


「それにしても、カバネ殿は全く戦う様子をみせませんな」

「流石に、全く戦わないというのは……」

「だって、面倒だし」


 気だるげな顔でそんな事を述べるカバネ。だが、アサシは彼を振り返り。


「……ここにいるのは迷宮ボスだ。今こそ君の出番だよ」


 アサシが彼を振り返り述べる。だが、カバネはため息一つ。


「だから、面倒な事はやらないって」

「……そう、君はそういうタイプだ。だから、そこから一歩も動かなくていい」

「……はい?」

「――面倒なら動く必要なんてないといったんだ。君の死霊魔法ならそれも可能だろ? それに僕達の事も顎で使ってくれて構わない」

「だから、なんで僕がそんなこと」

「……君シミュレーションゲームが好きだろ? 特にリアル(R)タイム(T)ストラテジー(S)系のが。ネットでは結構有名人だったのも知っている。なら、この場面はむしろ君にとって美味しいだろ? 相手は迷宮のボス、それを君の手で倒すんだ。ゲームのようにね」


 カバネはアサシをマジマジと見やる。その様子を騎士たちは不思議そうな顔で眺めていた。RTSなどと言われても彼らには理解が出来ないからだろう。


「ゲームとリアルは違うだろ」

「……一緒だ。勿論それは君次第でもあるけど、この世界にはステータスやスキルだってある。魔法だって使える、ちょっとリアル寄りなゲーム程度に思っていればいいのさ」


 カバネに告げられたアサシの言葉。どうやらそれが彼の心を動かすきっかけとなったようであり。


「僕は本当に戦闘には参加しないぞ。出来るだけ動かないし、でも命令はする。それでいいのか?」

「……構わないさ」

「私もそれでいいわよ」

「う~ん、アイもいいよ~」

「ぼ、僕は怖いことがなければ――」


 こうして四人の反応に、肩をすくめつつも、カバネは現在呼び出せる最大数のアンデッドを用意した。


「じゃあ……いくよ――」


 そしてカバネの指揮のもと迷宮ボスであるジャイアントバットに挑み――第五班は見事勝利を収め迷宮攻略を終えたのだった……。

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