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第六十二話 塔での再会

 まさかあんなに怒り出すとは思わなかったな……バーバラだけじゃなく、ネメアまで、何を言い出すのじゃーーーー! と声を荒げたしな。


 まあ、今思えば俺の言い方が悪かったな。何かあったらと言うのは、つまり帝都から離れたらという意味だったんだけど、後からそう説明したらやっぱり怒られました。


 紛らわしいこと言うなと、まぁ、あの言い方だと何かのフラグみたいだしな。


 ただ、帝都から離れる可能性を伝えたらちょっと寂しそうだったな。だけど、真実を聞いたときからもしかしたらと思っていた節はあったようだ。


 結果的にバーバラはそれを潔く承諾してくれた。その代わり、落ち着いたらまたふたりで食事に行くことを約束させられたけどな。


 まあ、いつになるか判らないけど、それぐらいは仕方ないし、約束はさせてもらった。


 そんなわけで、ネメアも宿に送り、俺は久しぶりに宮殿と城のあるこの場所まで戻ってきた。


 明日には迷宮の攻略があるからな。それにはやはり俺自身がいっておきたい。


 そして――同時にあの子にあっておかないとな。何せ場合によっては暫く会えない可能性もある。だけど、また会いに行くとは約束していたからな。


 だから、宮殿に戻る前に風遁・飄揺(ひょうよう)の術を行使。

 飛天の術でも良かったけど、あれは高さを得るのに少し掛かるからな。

 

 飄揺は風を操り風に乗ることである程度自由に空が飛べる忍術だからな。慣性が働くから慣れは必要だけど、高度は飛天より早く取れる。


 空から向かうことを決めたのは当然、入り口にはあの門番がいるからだ。装備品とスキルの恩恵で俺が姿を消しても気付かれるからな。


 そして風に乗って塔の上空を飛行し、あの窓のある場所まで移動――したんだけど……。


『仮面シノビーさん!』


 うん、すぐに見つかった。だってシェリナがずっと外を見ているんだもの。

 う~ん、もしかして俺を毎日待っていてくれたのか? いや、思い上がりか?

 でも、とにかく申し訳ない気持ちになった。

 

 窓から中は確認できるから、そこから瞬間移動で中に入る。時空遁の印を結んだ瞬間には飛行状態は解けてしまうけど問題ない。


 すぐに移動できるからな。


『凄い! こんな事も出来るんですね! 流石暗黒将軍と実は血が――』

「いや! その設定はいいから!」


 俺のシノビー設定まだ覚えていたのかよ……しかもワクワクした様子で、

『ワクワク』

と、うん実際石版にも書いてるしね。とにかく仮面シノビーの続きを聞きたいと言った様子。


 ふぅ、これは――本題に入る前に、その話かな。





「と、こんな感じだったんだけど……」

『感動しました……(ウルウル)特に闇落ちした忍獅子が改心して腹ペコ金獅子として仲間になり、新たな仲間の筋肉くノ一ババーラさん、謎の老婆アババさんも登場し、まさにここからが本番!』


 うん、とりあえず心のなかで謝っておこう。すまんネメア、バーバラ、あとババア。黒歴史に追加しておきました。


『でも、負けてしまったのですね、仮面シノビーさん……(クスン)』

「あぁ、そうだな……」


 なんとなく今の実情とリンクさせて話してしまったな。それを聞いたシェリナは悲しそうだ。やはりヒーローが負けるのは受けが悪いのか……。


『――でも、大事なのはこの先ですね! 例え負けても、それで立ち止まったら駄目です! 英雄は何度倒れても、必ず立ち上がるものですから!』


 ……英雄は立ち上がるか。ま、俺は英雄なんて柄じゃないけど、そうだな。


「ありがとうシェリナ、だいぶ気が楽になったよ」

『ふぁ!?』

「あ! ごめん!」


 やべぇ、ついネメアのノリでシェリナを撫でてしまった! 俺何やってんだ! 仮にも相手はこの帝国の皇女様だぞ!


「いや、本当申し訳ない。なんというか、つ、つい――」


 一歩引いて、跪く。流石にそれぐらいしておかないと不味いと思ったからだ。下手したら不敬にあたるかもしれないし。


『ち、違います! 驚いただけ。それに――』


 だけど、シェリナはすぐに俺の目の前に石版を持ってきた。彼女の顔を見たらあわあわしていて、逆に申し訳ないぐらいの様子だ。


『そ、その、嫌じゃなかったのです……』


 何故か石版で顔の下半分を隠すようにしながら見せてきた。

 それにしてもちょっと焦ったけどな。嫌がられなくて良かった


 ホッと胸をなでおろす俺。とは言え、そろそろ本題に入らないとな。


「それでシェリナ。実は、俺なりにその首飾りについて調べたんだ」

『え?』


 目をパチクリさせるシェリナ。彼女からは首飾りについて何も言えないんだろうから、そこは俺の方で一方的に話すことになる。


「その首飾り、外す方法があるかもしれないんだ。呪術師を色々当たっていて手掛かりを掴んだ。勿論絶対とはいえないけど、出来るだけ何とかしたいと思っている。だから――近いうち帝都を出ることに……」

『嫌だ!』

「……え?」


 いつものシェリナらしからぬ、強い目つきで石版を掲げる。声にはなっていないけど、凄い拒否感が垣間見えた。


『私は、そんなこと望んでいません。この首飾りについては放っておいてください! 貴方が、貴方がそんな事に関わる必要ないのです! ですから、このまま帝都に――』

「それはダメだシェリナ」


 だけど、俺だってはいそうですと済ませるわけにはいかない。シェリナが俺を気遣っているのが、心配しているのが、凄く伝わった。


 だけど――


『どうし、て? 私が、私がいらないと、余計なお世話だと言っているのです!』

「余計なお世話で結構。だけど、俺はもう知ってしまった。それなのに放っては置けない」

『……そんなの、自分勝手過ぎます。私は、そんなこと頼んでないのに――』

「本当にそれでいいと思っているのか?」

『え?』


 俺はシェリナの目をじっと見つめて、そして告げる。


「シェリナ、君がどうごまかそうと、その首飾りのせいで声を失い、言いたいことも言えない状況にあることは既に知ってしまっている。それなのに、それでいいなんて、そんな事があるわけないだろ?」

『…………』


 シェリナは石版に沈黙の表示だけして、黙りこくってしまった。俯いて俺を見ようとしない。


「それはずるいだろシェリナ」


 だから、俺は彼女に告げる。


「君は仮面シノビーにこう言った。例え負けても英雄は何度でも立ち上がると、立ち止まったら駄目なんだと。でも、今の君はどうだ? 立ち止まってないか? 現実から目を逸らして立ち上がることを放棄していないか?」

『……私は、私は――』


 俺の問いかけに、サラサラと石版に文字を書き、迷いのある返事。

 だけど、迷うということはやはりシェリナだってこのままじゃいけないと思っているという事だ。


「……ごめん、俺はきっと、卑怯な事を言っている。君を救いたいという気持ちも勿論ある。だけど、同時に君の首飾りが外れたら、俺にとって必要な情報が手に入るかもしれないと、そんな打算もあるんだ。全く、偉そうに言っておいて、最低だよな俺」


 その答えを、シェリナは首を左右に振って示してくれた。


『正直に、言ってもらえて嬉しい』

「……そうか」

『……お願いがあります』

「お願い?」

『はい、もう、一度、頭を、頭を撫でて貰えますか?』


 へ? あ、頭を? あ、改めて言われると、照れるけど――

 だけど、俺はその願いを聞き入れ、優しく撫でてあげた。

 俺なんかが恐れ多い気もしないでもないが――


『ありがとう、ございました』

「あ、いや、俺こそなんか、ありがとうございます」


 つい頭を下げて、それをシェリナがきょとんとした目で見て、そしたらなんかおかしくなって自然と笑いがこみ上げてきた。


『……でも、きっとシノビーさんの言うとおりなのだと思います』

「俺の言うとおり?」

『……私は、逃げていた。でも、それじゃあやはり駄目なんですね……』

「……俺はさ、シェリナの素の声もやっぱ聞いてみたいよ」

『ふぇ!?』


 な、なんか湯気が吹き出そうな勢いでびっくりされたな。いや、素直な気持ちを口にしただけなんだけど、ここまで驚かれるなんてな。


「とにかく、俺はシェリナの声が聞きたい。だから、呪いを解けるよう、いや、解くために、近いうちに帝都を離れるよ」


 はっきりと宣言する。帝都を離れるのはシェリナには申し訳ない気もするけど……。


『私も決めました。貴方の言うとおり、逃げてばかりはいられません』

「ああ、そうだな。だから――」

『はい、だから、その時は、私も連れ出してください』


 うん、そう。だから、俺が戻ってくるまで気をしっかり、て――


「え? えぇえええぇええ!」

『仮面シノビー様のお力なら出来ますよね?』

「いやいや! ちょっとそれは唐突すぎというか。いくらなんでも、それはまずくないか?」

『どうしてですか? 立ち上がれといったのは、シノビー様ですよ!』


 感嘆符付きでグイッ! と顔を近づけてきたよ。いや、確かにそれを言われると……いや、でも――


 正直、ほとほと困り果てる俺だが、その時だった。何やら階段を上がる音が部屋の中にまで響き渡って来た。


「うん? 誰か来たのかな? もしかして、あのお姉さんかな?」

 

 勿論それは、姫騎士カテリナのことなのだが――


『!? この足音は、違います! ウィリアムお兄様の! いけません、シノビー様、今日のところはもうお戻りください!』


 だが、シェリナの反応はどこか切羽詰まったものだった。とにかく俺がいるのは不味いと、何か案じてくれているような様子。


 そして、表情がやたらと固く、青ざめているようであり。


 しかし、ウィリアムといったら、あの時食事の席で見た時期皇太子とかいう男だよな? それが、何かあるのか?


 確かに、今回の毒の件は、ウィリアムに毒が盛られたという事があって、このような自体に陥っているようなのだが――


『シノビー様! 早く!』


 とは言え、この様子はただ事じゃないな。なので、とにかく一旦シェリナの言うとおりにして、俺は瞬間移動で塔の外へと抜け出た――

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