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第六十一話 バーバラに告げる真実

 バーバラは、お礼の意味もあるんだし、と最初は少々高級そうな店に行くことを考えていたようだが、それは丁重にお断りした。


 そのうえで、安くていいからボリュームのある店をチョイスさせてもらった。本当にそれでいいのかい? なんてバーバラは気にしていたけど考えが甘すぎる。マスターやってるからそれなりに余裕もあるんだよとさえ言っていたが、いくら余裕があっても高級な店でネメアに奢ったら青ざめること間違いなしだろ。


 そして現在、テーブルの上に積み重ねられていく皿の山に――唖然となるバーバラがそこにいた。


「す、凄いねこれは……」

「な? この店にしておいて正解だったろ?」

「正解も何も、持ってきた分で足りるかな……」


 すでに心配そうなバーバラだ。それなりに余裕を持ってやってきたのだろうが、それでも足りなさそうで焦っているのかもしれない。


 やっぱり出そうか? とも声を掛けたが、知らない店じゃないから足りなかったら後で持ってくるそうだ。


「うむ、シノブ、ではなくて、シノビンほどじゃないにしても、旨かったのじゃ!」

「そ、それは良かったね。満足したかい?」

「うむ、ここからが本番なのじゃ! おかわりなのじゃ~~~~!」

「まだ食べる気かい!」


 思わずバーバラが突っ込んだ。俺もバーバラもとっくに自分の分は食べ終えているが、ネメアからしたらまだまだ足りないようだ。


 とは言え、流石に申し訳ないので、それぐらいにしておけよ、と遠慮を促したが、バーバラが、まあいいよ、と言ってしまった。


 そこ認めたら際限ないぞこいつ……。


「本当に大丈夫か?」

「あぁ、何とかなるさ。それに、見ていて気持ちいいしね、ここまで食べられると。一体どこに入っているのか不思議ではあるけどさ」


 確かに、少なくとも人化している間はただの幼女のこの身のどこにそこまでと思うことはある。胃がブラックホールなんだろうか?


「ふぅ~満腹なのじゃ~」


 とは言え、そんなネメアの食欲にだっていつかは終わりが来る。そう、テーブルに並べきれず、何度も回収する店員が大変そうではあったが、それでも終わりはきたのだ。


「なんか、つい呆気にとられてあまり話せなかったけど……この間は、その、本当に、あ、ありがとな」


 視線を逸し、頬を染め、照れくさそうに改めてお礼を言われた。なんかバーバラがいつもに比べると女性っぽく感じるぞ!


「いや、そのことはもういいんだ。それに、あれは俺にも責任があることだし。情報を色々集めて回っていた結果、狙われたわけだからな」

「そんなのあたいらの世界じゃよくあることさ。それに、協力したのはあたいなんだし、それについてはあたいこそなんとも思ってないよ」


 そう言われると少しは気が楽になるけどな。だけど、そこまで言われると。ここまで色々してくれてるのだから――やはり信じるなら彼女だろうとは思う。


「……バーバラ、実は丁度話したいと思っていた事があってね。それで、今がいい機会だと思うんだ」

「へ? な、なんだい改まっちゃって」

「大事な話なんだ。聞いてもらえるかな?」


 俺は顔を引き締めて、大切なことだと暗に伝える。すると、バーバラは若干戸惑っていたようだが。


「う、うん! 判った。し、真剣に聞くよ。ど、どんっと来な!」


 流石姉御肌だな。頼りがいがある。とは言え、当然これはあまり他者に聞かれて良い話でもない。


 だから――


「風遁・音遮の術――」


 印を結び術を行使する。バーバラはそれを見ながらキョトンとしていた。すでに隠す気はないが、見たところで初見では何をしているかも判らないだろうな。術だって日本語だし。


「これで大丈夫。周囲を風の壁で覆ったから、向こうの声は聞こえないし、こっちの声も外には漏れない」

「え? え? あ、そういえば何か静かになったような――」


 音遮の術は薄い風の膜で周囲を覆う忍術だ。外の音を遮断するか中からの音を漏れないようにするか、またはその両方かを忍気で調整できる。今はその両方を付与した形だな。


「さて、これで落ち着いて話せるかな。先ず、最初に――これを見て欲しい」

「え? あ――」


 バーバラが目を丸くさせた。俺の顔がまた変化したからだろう。尤もこれは、俺の本当の顔なんだけどな。


「え? 顔が変わった? 婆さんから聞いてはいたけど、そんなすぐに変えられるのね……」

「うん、コツがあってね。ただ、一つ大事な点は、これが俺の本当の顔だって事だ」

「え!?」

「むっ、何じゃ、言ってしまうのじゃな!」


 バーバラが再び驚き、ネメアも、むむむっ、と言った顔で述べる。


「お、驚いた……いや、今までのも若いとは思っていたけど――」

「もしかしてガッカリさせたかな?」

「え? な、何言ってるんだい! 顔が違ってもシノビンはシノビンじゃないか!」

「あ、ごめん。それも嘘で本当はシノブというんだ」

「へ? し、シノブ。ま、まあそういえば偽名っぽくはあったねぇ」


 身を乗り出すようにして訴えてきたバーバラだったけど、本名を伝えるとまた席に座って腕を組んだ。


「いや、そうじゃなくて、とにかく、そんなことは関係ないってことさ。そりゃ思っていたよりも幼くなった気がして、ちょっと驚いたけど、それだけだよ。そ、それに、結構可愛いかお、もにょもにょ……」


 妙に顔を赤くさせて顔を伏せちゃったけど、でも、特にそれで怒る様子もなくて良かった。


「それでバーバラ、俺を見て何か気づくことあるかな?」

「へ? 気づく?」

「ほら、よく見て」

「よくって、て、照れくさいじゃないのさ――」


 今更それを言われてもな……昨日なんてシャツの中に、い、いや! とにかく敢えてそんな事言われると俺も照れちゃうから勘弁して欲しいところだ。


「ど、どう?」


 とにかく、確認は取ってもらう。するとバーバラは何かに気がついたようであり。


「そういえば、あまり見ない顔立ちだね。それに黒髪黒目というのも珍しいし……」

「そう、それを知ってほしかった。そしてその理由は、バーバラにも思い当たることあるよね。昨晩聞いたばかりだし」

「え? 思い当たるって、それに昨晩って、さく、ばん――あ!?」

 

 腕を組んで思い起こすように目線を上げたバーバラだったけど、それでようやく判ったようだ。


「ま、まさか――召喚されたという?」

「ご名答、俺は帝国に召喚されてこの世界にやってきたんだ」






「……全く、何から何まで驚きだねぇ」


 俺はあの後すぐに顔を戻し、そして自分の素性とこれまでの経緯を掻い摘んで話した。

 結果的に無職であることも明かしたので、そこから忍者であることも明かさざるを得なかった。何故なら無職でこれだけの真似が出来るという事が普通ならありえないだろうからだ。


「本当、話が思っていたのと違うのは残念だけどね……」


 俺をチラッと見ながらそんな事を言う。思ってたの? 一体なんだろか? 


「でもね、あたいは嬉しいよ。そうやって明かしてくれたというのは、信用してくれたということだろうからね」

「ああ、それは勿論だ。それに、傭兵ギルドのマスターのバーバラなら今後も頼りになる」

「そこまで買ってくれるのは本当に嬉しいよ。ただね、一つだけ忠告だよ。今の中で無職である事、あとなんだっけ? え~と、にん、にん、人参?」

「いや、忍者だな……」


 俺は野菜じゃないしな。βカロチンは別に豊富じゃない。


「そう、それそれ。そのことは出来るだけ言わないほうがいいよ。無職についてどの程度知っているかは知らないけど、正直無職である事を知られる事が不味いんだ。鑑定持ちがそれを知ったら、間違い無しに狙われるよ」

「そうみたいだな。最初にバーバラの依頼を請けた後も、狙われたし」


 俺の話を聞いて目をパチクリさせるバーバラであり。だけど、すぐに見当がついたようだ。


「あの連中か……最近見ないと思ったけどそういうことかい」

「不味かったかな?」

「いや、色々問題点も多かった連中さ。今後更に酷いようならあたいが何とかしないといけないと思っていたところだしね。ちょうど良かったよ」


 連中がどうなったかは、どうやら察してくれたようだな。


「ただ、それならなおのことだよ。正直、無職という存在は相当に虐げられている。あんたはその召喚されたメンバーの一人だったからまだマシだっただけさ。それでも、その内無職の立場の弱さを擦り込まれて、いずれ仲間の見る目が変わっていた可能性もあるしねぇ」

「そんなに酷いのか? 無職の待遇は?」

「まあ、あたいも聞いた限りだけどね。無職はそこまで数が多いわけじゃないし、このあたりでは出たと聞いたこともないからさ」


 数が多いわけじゃないのか。と、いうことは無職がそれなりに多いと言っていたのも嘘だったということか。


 でも、なんでわざわざそんな嘘を言ったんだろな? 

 う~ん、何せあの性悪なイグリナが言っていた事だしな……。


「とにかく、問題なのは今のあんたが強いこと、それがつまり無職でも強くなれるという事に繋がるということさ。それはこの世界じゃ受け入れられない可能性が高い。特に帝国に限らず世界の王侯貴族がそれを知った途端敵意を剥き出しにしてくる可能性もある。出来るなら偽装や隠蔽のマジックアイテムを買ってでも正体を隠すんだね」


 なんだか、結構大きな話になってしまったな。ただ、そこまで聞くと確かにそれは言えてるのかもしれない。


 俺もこれまでは色々と安易に考えすぎていた。もう少し慎重にならないとな。


「そのマジックアイテムがあるとどんな感じになるんだ?」

「うん? あぁ、偽装は全く違うステータスに変わるし、隠蔽系だとステータスの表示が、何かぐちゃぐちゃになるんだ。よく判らない文字の羅列が出て、全く読めなくなる」

 

 う~ん、つまり――



ステータス

名前:シノビン

性別:男

レベル:Y#")'&A°

種族:人間

クラス:&'%#$

パワー:'&□

スピード:■$%

タフネス:■■

テクニック:◆&'

マジック:T◇aγ

オーラ :○●a


ス◎R

◇■β、g◆Σ


syπg▼

▼△◆aaxΑ%&

 

 

「こんな感じかな?」

「あ! うんそうだよ。凄いね、これもその人参だか仁丹だかの技なのかい?」

「び、微妙に違うけどそんな感じかな」


 どうも忍者という言葉にもかなり馴染みがないようで、覚えにくいようだな。まあ、この部分はどうしても日本語になるし発音とかの問題もあるだろう。


「――それで、ここからが重要なんだけど……」


 そして俺は改めてバーバラを見据え告げる。


「バーバラには、俺に何かあった時、他の召喚されたクラスメートを助けてあげてほしいんだ」

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