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第五十九話 迷宮攻略

 案内人の手で導かれ、第一班となるユウト、ケント、チユ、マオの四人は迷宮に足を踏み入れた。勿論後ろからは何かあったときの為にと騎士ふたりも同道している。


「な、何か不気味な洞窟だね――」


 ビクビクとしながら、聖女のクラス持ちであるチユが呟く。迷宮攻略に辺り、彼らにはそれぞれ装備品が支給されたが、チユの格好は彼女の白い髪色にもよく似合う神官衣にも似た白いローブ。そして癒やしの力を高めるという効果がついた樫の木の杖である。


「確かにジメッとしているし、あまり長居したいと思える場所じゃないわね」


 その横に並んで歩いているマオもチユに同意を示す。ただ、彼女の場合は恐れというよりは不快感の方が大きそうだ。そんな彼女はいかにも魔導師といった丈が長く裾の広がったローブを身にまとっていた。蒼を基調とした色合いで、うっすらと幾何学系のデザインが施されている。


 持っている杖はチユと同じく木製だが、先端が渦巻きのようにグルグルしている。


「でも、こういう迷宮に挑むことが多くなるなら慣れておかないとね。今回は地下五層程度らしいけど、もっと長丁場になることもあるのだろうし」


 マオとチユ、女性二人から四、五歩先を歩くユウトが振り返り、考えを述べた。彼は頭に鉄の額当て、鎧は銀色の軽鎧、あまり仰々しくはない動きやすさを重視した鎧で、関節部分は伸縮性のある植物性の素材を用い外側を鎖で補強している。

 それでいて急所部分はしっかりと丈夫な鋼で保護されている。


 左腕の籠手には一体化する形で小型ではあるが丸型の盾も備わっていた。


 そして右手にはロングソードとまさに勇者の旅の始まりを予感させる出で立ちであろう。


「確かに勇者様の申されるように、世界は勿論、帝国内でも十層以上ある迷宮などザラにありますから」

「ここは五層といっても規模も大きくないので、それほど時間も掛けず探索できると思いますが、例え五層といえど規模が大きければ迷宮内に何日も篭もることなど珍しくありません。その上迷宮は定期的に構造を変えますからね。構造が複雑であれば、迷宮の変化と相まって延々と彷徨い歩く結果にもなりかねません」


 迷宮が構造を変えるというのは迷宮攻略の話が決まってから教官などに教わっていた事だ。

 その為、迷宮を攻略する上で役立つ地図というものは存在しない。ただ、スキルや魔法としてこれまで辿ってきた道のりを地図化してくれるものや、周囲の状況を把握するスキルや、周囲の様子を表示できる魔法という物も存在する。


 前者に関して言えば、迷宮がその形を変えた時にはこれまでの記録は役に立たなくなるという欠点があるが、迷宮もそこまで短時間の間に何度も変化するわけではないので、その間は攻略の要になるのは確かだ。


 後者は、迷宮が変化した後でも対応できるのが大きいと言えるだろ。勿論、その分後者の方が取得する為の難易度は高い。


「……何か出てきたぞ――」

 

 そんな中、前を歩く前衛の要、ケントが何かに気がついた。拳闘士の彼は、手に革製のグローブを装着している以外は、Tシャツにズボンといった冒険というにはあまりにラフな格好であった。


 勿論彼にも、鎖帷子や鎧などどれでも好きなものを選んで良いという話はあったのだが、動きにくいのは自分にとって逆にマイナスという理由で、結局この格好に落ち着いた形である。


「ラットマンですね。ある程度知能を有するタイプの中では、最も弱い魔物です。ですが、爪や牙の攻撃で病に侵される場合がありますので、そこだけ注意ですね」


 キィキィという鳴き声を上げながら近づいてくるソレを認め、騎士の口から魔物の素性が明かされる。


 二本足で歩く小柄な魔物であった。顔はまさに鼠のようであり、口には齧歯類の特徴である一対の門歯も備わっていた。


 同道した騎士によると、ある程度の知能は備わっているらしいが、これといった武器や防具の類は見受けられない。


 キィキィという鳴き声以外、意味のある言語を口にしている様子も感じられないが、数は六体おり、意思疎通はとれているようでもある。


 その六体のラットマンの内、四体が迫る。それにユウトとケントが迎え撃つ姿勢。


「ラットマンのLVは4前後です。落ち着いて対処すれば大丈夫なはず」


 後ろから騎士達の声。確かにそのLVならふたりにとって問題にならない相手だ。爪と牙には注意しつつも――


「でも、油断大敵だね!」


 そういいつつも、ユウトは迫るラットマンを撫でるように斬りつけ、二体のラットマンはあっさりと切り裂かれ絶命する。


 更にケントも、バックステップで先ず二体のラットマンを視界に収め、飛び込んできたところで目にも留まらぬ速さで左の拳を連打。


 それは只のジャブでしかなかったのだが、ラットマンにとっては重い槍のように感じられた事だろう。


 ケントの拳を喰らった二体のラットマンは、まるで風船が破裂したかのような骸へと成り果て地面を汚した。


「キィ!」

「キィ!」


 仲間の半分以上が一瞬にして死に、残った二体のラットマンは顔を見合わせた後、スタコラサッサと逃走を開始する。


 だが、そんな魔物の後ろから迫る火炎球。ラットマンの間を通り過ぎ、地面に着弾。外れたかと思えば小爆発を起こし、逃げようとしていたラットマンを粉々に吹き飛ばした。


「逃がすわけ無いでしょ」


 マオがふんっと威勢よく発した。そしてユウトに顔を向け、蕩けたアイスのような表情に早変わりし。


「どうでしたかユウト様、私のファイヤーボールは?」

「え? あ、うんすごかったと思うよ。流石マオさんは判断が速いよね」


 やった! 褒められた! とぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶマオであり。


「確かに、今のは良い判断ですね。ラットマンは危険と判断するとすぐ逃げ出しますが、その後は更に多くの仲間を引き連れて戻ってくる性質があるので」

「そ、そうだったんだ~……」


 チユが目をパチクリさせつつ呟く。仲間を呼ぶ魔物は確かに厄介とも言えるので早めに倒しておくにこしたことはないだろう。


「さて、ラットマンそのものに素材としての価値はありませんが、一応魔石は一つ十ルベルで買い取って貰えます。決して高価とは言えないですが、練習になりますから解体をしてもらいましょうか」


 解体、と聞いて少々及び腰になるチユだが、今後必要になるのは確かだろう。とは言え、大抵魔法職にいるものは解体することは少ないので、見ているだけに留まり、解体作業はユウトとケントが行った。


「流石ユウト様だ。全く痛みを感じさせない解体技術、とても初めてとは思えない」

「いや、それほどでも――」

「け、ケント様も中々変わってますな」

「……そうか?」


 ユウトは解体用としても支給されていたナイフを使い、中々の器用さで魔石を回収して見せる。


 一方ケントは、ナイフも使わず手だけで解体作業を終わらせてしまった。元々破壊力と切れ味の両方を備えた拳を持つケントならではの方法と言えるだろう。


 こうして魔石を無事回収した後は、更に迷宮の探索を進めていく。


 迷宮内には宝箱もあり、罠なども心配されるところだったが、それほど大きなトラブルもなく探索は進んでいった。

 

 攻略が難しくないとされていた迷宮ではあったが、宝箱には少しとはいえ魔石が入っていたり、貨幣や、宝石などが手に入ることもあった。


 ポーション系の薬も手に入ったが、このあたりの敵で苦戦することはない為、使う機会はなく。


 そして第三層まではラットマンやダンジョンバットなどの魔物を倒し、そして第四層につくと、また新しい魔物も見受けられるようになり。


「キャッ! 眩しい!」

「あれはシャイニングヘッドです。頭を光らせる魔物ですからご注意を」

「た、確かに目がクラクラするね。でも、もういないみたいだけど……」

「シャイニングヘッドは基本、ツルリとした頭を光らせて逃げるだけの魔物ですから。まあ、たまには頭突きで攻撃してくることもありますが」

「……微妙に嫌らしい魔物だな」


 ケントの言うようにこのあたりからは中々嫌らしい変わり種の魔物も多いようだ。


「……でも、何か私、申し訳ないかも。何の役にも立ってないし――」

「……ヒジリはサポートがメインだ。でもこのあたりの魔物はまだ弱い。だけど、今後、ヒジリの力は間違いなく必要になると思うぞ」

「そうだね。それに回復役はいるといないとではやっぱり安心感が違うよ。僕達がこうやって存分に力が振るえるのも、ヒジリさんが後ろに控えていてくれるからだと僕は思うよ」

「そうね、ヒジリさんがいてくれたら、私も安心できます」

「み、皆……」


 チユが瞳をウルウルさせた。中々の青春の一コマであり、後ろの騎士もちょっとウルッとしている。


 こうして更に迷宮を突き進む一行であったが、いよいよ最後の五層につき、もうすぐ初の迷宮攻略も終わる、と思われたその時。


「キャッ!」

「マオさん! ホワイトシールド!」


 天井から突然の落石。岩がマオに降り注ぐが――咄嗟にチユが術式を構築、魔法を行使した事で、マオの頭上を守るように光の盾が生まれ落石から彼女を守った。


「気をつけてください。イワメです! 壁と同化した魔物で目を開くと落石を起こします!」


 騎士の一人が忠告。

 イワメ? とユウトが周囲を見回すと、左右の壁に大きな目が現出、今度は落石がユウトやケントに降り注いだ。


「こいつ!」

 

 落石を躱すユウトとケント。そして開いた目に向かってユウトが剣を振るが、瞳が閉じられると同時に壁に戻り、攻撃は虚しく跳ね返された。


「な!? 消えた!」

「イワメは、目を閉じると再び岩と同化します。LVは決して高くなく、自分の力では一切移動も出来ないですが、この迷宮では厄介なタイプと言えるでしょうね」

「……なるほど」


 騎士の解説を聞きケントが呟き、左右の壁を見た後、構えを取る。


「イワメは移動が出来ないので、無視するのも手ですが……」

「……問題ない」

「はい?」


 ケントの言葉に、疑問の声を発する騎士。だが、その疑問は直後に響いた轟音で解消されることとなった。


「な、め、迷宮の壁が――」

「破壊、され、た……」


 騎士の二人が驚愕する。何せイワメが現れた左右の壁には、新たな横穴が出来上がっていたのだから。


 しかもケントの生身の拳でである。穴の大きさも成人男性が十人ぐらい横並びで歩けそうな程、高さも天井を超えて二層分ほど貫いている。


 奥行きも恐らくは迷宮の端を捉え更に打ち抜いていることだろう。何せ地平線が見えてしまっているほどだ。


「驚いたよ。凄い威力だね」

「……駄目だな、この程度じゃ世界チャンピオンにはとても届かない」

「か、カンザキ君ってそういえばボクシングの世界チャンピオン目指しているんだものね」

「でも、これでも世界とれないって、世界の王者って凄いのね――」


 そんな四人の会話を耳にした騎士は唖然となる。一体彼らのいた世界には、どれほどの猛者が暮らしていたのかと――


 そして、地下五層の迷宮ボスの部屋にまで遂にたどり着く四人。そこに待ち受けていたのは、ジャイアントバットという蝙蝠の魔物であった。


 それはLVも12と確かにこのあたりの魔物よりは強い巨大な蝙蝠であったが、しかし四人に掛かれば大した相手ではなく――結局程なくして倒され、四人の初の迷宮攻略は無事終わりを告げたのだった。

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