第五十八話 班決め
「ほら、死体だ。確認してくれ」
ゴーストは宮殿につくなりマジェスタを呼びつけ、それを認めさせた。
こんなところで広げるな、などと文句を言ってはいたが、部屋を移り、台に乗せ、改めてマジェスタが死体を確認する。
「こいつがそうなのか、それで、間違いはないのか?」
そしてマジェスタは視線を遺体からゴーストに移し確認する。
「一応話の筋は通ってたと思うぞ。持ってきた連中も俺が話を広めた中の一人だ。尤もこの遺体の男は、丁度森で妙な男が現れ始めた頃に、街に出現し帝国について調べて回った男、程度でしかないがな」
「……むしろそれだけ条件が揃っていれば、確かにこの男と考えて良いか――」
一人呟くように口にし、マジェスタが納得を示す。
「とは言え、後から聞いた話だとアレも相当な辱めを受けたらしいからな。生きていればこの私自ら目にもの見せてやったものを」
「怖い爺さんだな。笑顔も不気味だ」
「……この城でそんな口を平気で聞いてくるのはお前ぐらいなものだな」
ジト目で訴えてくるマジェスタだが、ゴーストは肩をすくめるだけだ。
「……ふん、まぁ良い。ただ、念のため暫くは宮殿や城の監視を怠るなよ」
「ああ、了解だ」
そしてゴーストは部屋を出て、廊下を歩く。
「仕事が早いのですね、紅眼族のゴーストさん」
すると、歩いていた彼の横から掛かる声。ゴーストはメイド姿のその女性をみやり。
「気配を消してる俺に気がつくとは流石だな。バトルメイドのハミットさん」
その返事に一旦瞑目する彼女だが――目を開き目配せをし、そして一瞬にしてその場から消え失せた。
「やれやれ、大した身のこなしだ――」
そしてゴーストもまた、そう言い残し一瞬にして消え去り――
「こんなところで綺麗な女と二人きりとは、中々お前も大胆だな」
「残念だけど、タイプじゃないですね」
宮殿の屋根の上から都を一望し、ハミットが答える。柔らかな風がその艶やかな黒髪を撫でた。
「それで――霧隠の後継者は、どうでしたか?」
ゴーストを振り返ると、棚引く髪をバックにその美貌が映えた。普段から感情に乏しい表情しか見せないのが欠点でもあるが、しかしだからこそ逆に素の美しさが際立つというものなのかもしれない。
少なくとも――そういう世界で生きてきた彼女ならば、女の武器の使い方も心得ている事だろう。それはただ立っているだけで様になるその様子からも明らかだ。
「――油断すると、色香でどうにかなりそうだな」
「貴方が? 冗談ですよね?」
表情は変えていないが、そんなことはありえないだろうといった口調である。お互い、その素性は明かし合っているような、そんな空気が滲む。
「質問の答えだが――悪くはない。だが、まだまだ荒削りだ。俺達と生きてきた世界が違うというのもあるだろうが、全体的に甘ちゃん気質が抜けきれてないなあれは。ま、あいつの話を聞くに、俺達のいた国は、時代が変わって平和ボケした国になってしまったようだしな」
瞑目し、意外にも饒舌な物言い。その評価は、霧隠の名を継ぐ彼を認めているようでもあり、辛辣でもあった。
「――そう。ですが、忍び達人や業火遁の玄蕃とまで称された貴方に悪くないと言われたならかなりのものですね」
「皮肉か? 生前のことなんて、こっちじゃ何のステータスにもならないだろ。この世界流にいってもな」
「……貴方でも冗談を言うのですね」
「ニコリともせず、そういうこと言うのは止めろよ」
やれやれと肩をすくめゴーストが返す。
「でも、よく耐えられましたね。うっかり燃やしたりしないかと、少々心配でしたが」
「はっ、一応はアイツの言いつけだからな。それなりに恩もある、アレも後継者とは言え前のアイツとも多少は関わりもある」
そこまで口にし、尤も、と言葉をつなぎ。
「そもそも、あれは焼くにはまだまだ若すぎる。もっと成熟してくれないとな。そうなったら、機会があれば焼いてみたいもんだ」
「……お手柔らかに。貴方も知っての通り、後継者なのですから」
「……判ってるよ」
そこまで言った後、ゴーストはフードの奥の紅色に染まった双眸を向け。
「それで、聞きたかったのはそれだけか? あまり抜けていて怪しまれても面倒だろうから、それだけならもう行くぞ」
「……二人、寄越すそうですよ」
「――二人?」
一旦は背中を見せた玄蕃だったが、ハミットの呟きに振り返る。
「そう、連絡が来ましてね」
「おいおい、わざわざ海を渡って別なのがか? 俺達だけじゃ不十分だとでも言いたいのかアイツは」
「……貴方ぐらいでしょうね。あの御方の事を知ってなおアイツ呼ばわりするのは」
「アイツはアイツだろ? それでどういうつもりだ? 俺たちはお役御免という事か?」
問い詰めるように尋ねるゴースト。するとハミットは首を左右に振り。
「来るのは、霧隠の事があるからだそうです。だから来るのは関わりのある二人、同じく後継者の……三好姉弟よ――」
◇◆◇
「よ~し、それじゃあ今日の攻略班を発表するぞ」
「き、緊張するねシノブくん!」
「え? あ、ああ、そうだな」
その日俺達はいつも通り、先ずは城の訓練場へと足を運んだ。
結局、迷宮攻略当日も、本体は別な件で城にはこれず、分身の俺が残り、城に向かうこととなってしまった。
そして迷宮攻略当日の今日、まさに今、各班のメンバーがあの鬼軍曹の口から発表されているわけだけどな。
まあ、こうやって聞いているのも同じ俺なんだが、チユやケントなんかと話していると妙に申し訳ない気持ちになるのはなんだろうな。
とは言え、本体も本体でかなり厄介な事になっているのは確かだ。尤もそれだってこの帝国絡みなんだが。
しかし、この胸騒ぎ、本体だって気がついていると思うが、それでも遺体の引き渡し場所に向かうというのだから、そういうところだけは我ながら律儀だ。
「え、嘘! シノブ君! わ、私一班だって! 一班ってもしかして!」
「ああ、もしかしなくても一番最初、つまり先陣を切る役目だな」
「そ、そんなぁ~」
そして発表を聞いたことで、チユは腰が砕けたようにその場に座り込んだ。そんなにショックだったのか? でもこういうのは最初に終わらせたほうが楽だと思うけどな。
まあとにかく、鬼軍曹の口から初日の攻略組である、一~四班が発表された。
今日の分はあくまで今日の分だけで、明日の分は明日発表というのが嫌らしいな。普通に考えたら早めに班を伝えておいて作戦を立てさせるべきだろうに。
その時点色々と怪しい。尤も今日の班分けされたメンバーに俺の名前はなかった。それだけでも、まあ、良かったと見るべきか。
ただ、そうなると流石に明日は本体が来るだろうけどな。
「……俺も一班だぞ」
「あ! そうかカンザキくんも!」
「僕もだよヒジリさん。大丈夫! 前衛は僕とケントくんに任せておいて貰えれば、ヒジリさんは回復魔法だけで大丈夫! 適材適所だからね!」
「ちなみに、私も一班です。ユウト様と一緒だなんて! あぁ! なんて幸せなの!」
同じく一班のメンバーに選ばれていたマオが鼻血を出しながら喜んでいた。こいつこんなキャラだったか? そういうのがなければ知的なクールビューティって感じなのにな。勿体無い限りだ。
「とにかく! 後衛からの魔法による援護はお任せください! エキセントリックバーストやサンダースパイラル! スーパーゲイルなどでバッチリとフォローしますから!」
「あ、うん、それ全部広範囲殲滅系の大威魔法だよね。ちょっとそれは迷宮内では勘弁してほしいかな……」
鼻息荒く張り切るマオだが。確かに迷宮内でそれは味方の被害の方が大きそうだ。特に今回行く迷宮は洞窟タイプらしいし。
「でも、私達だけ四人だけなんですよね……」
「ははっ、心配しなくても大丈夫ですよ。その分、我々帝国騎士が常にふたり、皆様の支援の為、同行しますから」
「とは言え、一班の皆様は異世界からやってきた英雄の中でも特に実力者揃いの四人ですから、我々の出番などないかもしれませんが」
そういってふたりの騎士が笑う。確かに一班にこの四人が選ばれたのは実力によるところが大きい。
俺たち生徒の人数が三十九名である以上、どうしても四人の班が一つ出来ることになるが、それならば四人の班は尤も実力の高いメンバーにしようと、そういう考えなのだろう。
何よりこの四人はバランスも良い。ユウトとケントは前衛でバンバン敵を狩っていける実力を備えているし、マオは魔法で後方から援護が可能。そして怪我などをしてしまった場合もチユの回復魔法で治す事が出来る。
この四人なら、まず間違いないだろうな。
「さて、それでは勇者様、準備が整いましたら、こちらへ――」
そして、案内役に導かれ、第一班が初の迷宮攻略に向かった。
残ったメンバーは、引き続き訓練となる形だが、さて、迷宮はどんな感じなのか――