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第五十四話 追い掛け回される忍者

「これ! 迷惑料込みで!」


 全く、厄介ごとというのは重なるものだ。分身が何者かに消されたかと思えば、今度は店に屈強で厳しい漢どもが乱入してくる。


「ふぇ? やっと~きめてくれらんらねぇ、じゃあ、早速ギルりょへいってぇ~シェッーークス、しゅるぞ~!」

「馬鹿! 何呑気な事言ってるんだ! 追われてるんだよ俺達は!」

「ほぇ? あはは~そういえばわらしぃ~お姫様りゃっこしゃれてる~こんなのひゃじめて~」


 あ~はいはい、そうだろうね。全く、それにしてもなんなんだこいつらは?


『おい! こら! 待ちやがれ~~~~!』


 夜の街に怒号が乱れ飛ぶ。しかし、待てと言われて待つ馬鹿はいない。


 とにかく、店では嫌な予感しかしなかったからすぐに体遁で肉体強化して、バーバラを抱っこ、つまりお姫様抱っこ宜しく、両腕で抱え上げて、そのまま迷惑料込みで二万ルベル置いて店を出た。


 流石に前食べた高級レストランっぽい店よりは安いと思うし十分だとは思うんだけどな。

 まあ、バーバラの馴染みの店なようだし、足りなかったら何か言ってくるだろう。

 そもそも俺バーバラの分も立て替えてるし。


 それにしても、店に入ってきた連中は六人で、出入り口を塞いでいたのは四人だったんだけどな。


 勿論塞いでいた四人は仕方ないから蹴り飛ばしたけど。


 でも、今後ろを見ると――


「待てこらぁあぁあああああ!」

「ぶっ殺すぞこらぁぁぁあああぁ!」

「女だ女だ女だ女だ女だヒャッハーーーー!」

「尻尻尻尻尻尻尻尻しりぃぃぃいぃいい!」


 こんなのが数を増して追ってきてやがる。なんだかよくわからない連中も混じっているけど、捕まったら俺もバーバラも操が危ない事だろう。

 

 まあ、捕まったらの話だけどな。それにしても五十人ぐらい追ってきてるな。一体何なんだよ。俺が帝国の事嗅ぎ回ってるとか言ってたな。


 つまり俺の行動が筒抜けだったという事か? しかしだとしたらその情報でこいつら動かしているの一体だれなんだ?


 色々気になる点はあるけど、とりあえずこいつら何とかしないとな。


 勿論倒そうと思えばいくらでも手はあるけど、天下の往来でそこまで派手なことは出来ない。確実的に向こうが悪いという状況ならともかく、今回は俺達が帝国の情報を嗅ぎ回っているという理由で追い回されているから、いざ倒して衛兵がやってきても体裁は良くないだろう。


 下手したら俺の方が妙な罪を着させられてしょっぴかれかねない。それは勘弁して欲しい。


 かといってただ逃げてるだけじゃ詳細は掴めない。と、なると現状俺の味方が多いところまで逃げるしかなく、そんな場所といえば――


「お~っと、そこまでだ! 懸賞金は俺達が頂くぜ!」


 て、正面にも大量にガラの悪そうな連中が集まっていた! 百人はいるだろ! 道を塞ぐ姿はほぼ壁だし、何だよ懸賞金って! 一体何がどうなってそうなるんだ!


「うぅん、ベッドまらぁ~?」

「いやいや! いつまで馬鹿言ってるんだよ! それどころじゃないんだって! 追いかけられてるんだから!」

「う~ん……?」


 俺がそこまでいうと、抱っこされた状態のバーバラが横を見て――


「うん、わかっら~~! あたしを投げろ~傭兵~!」

「は? いや、投げろって何を言っているんだよ! そんな事できるわけないだろ!?」

「い~から~正面の奴らになぎぇろ~あんなやつら~あたしが蹴散らしてや~る~ギルドマスター舐めるなーーーー!」

「わ、ちょ、暴れるなって!」


 急に手足をバタバタさせてきた。駄々っ子か! 第一バーバラだって一応女なんだから、そんな投げろっていわれても――


「もういいも~ん、あたしが勝手にいくも~ん」

「へ? て、何いきなり立ち上がってんのこの人!」


 バーバラがお姫様抱っこ状態から自力で立ち上がった。しかもなぜか走る俺の肩の上にだ。


「しゅか~とだったら見えたのにね?」


 そしてニカッと笑ってそんな事を言い出す。いやいや! そんなパンチラ望んでないから!


「せ~の、とおぉおおおおおお!」

「お、俺を踏み台にした!」


 バーバラは俺の肩を使って蹴り上げ、思いっきりジャンプして見せた。何してんのこの人! すげー酔っ払ってる筈なのに、酔っぱらいの動きじゃないよ!


「女が来たぞ~~~~!」

「うぉおぉおぉおお! まさに悦んでオークの群れに飛び込む淫乱な雌豚だぜ!」


 それどんだけレパートリーあるんだよ! いや、さっきまでとんでもないこと口走っていたからもしかしたらあながち間違いでもないかもしれないけど!


「どっかぁああぁあぁあああぁあん!」

『ギャアアァアァアアァアァアアア!』

「……マジか」


 うん、間違いでしたね。なんだこれ、バーバラが両手を広げてフライングラリアットみたいな状態で突っ込んだら、まるでボーリングのピンの如く百人の屈強な漢達がまとめて吹っ飛んでいった。


 見事なストライクだな! バーバラこんなに強かったのかよ!


「どうりゃ~! 人の恋路をじゃましゅるから、こうなるのら~~!」


 腰に両手を当てて倒れた連中に言い放つ。全員まとめて伸びてるから聞こえてないだろうけどな。


 とは言え!


「バーバラやりすぎだ! さっさと逃げるぞ!」

「ほえ?」


 再びバーバラを抱き上げてダッシュする。何せ百人が吹っ飛んだんだ。凄いけど派手すぎなんだよ。確実に目立つし!


「うふふん、シノリンってばぁ~そんなに興奮しれぇ~エッチ」

「違う! そうじゃない! そもそも興奮してないしシノリンってなんだ!」


 俺の胸元を指でグリグリしながら熱のこもった瞳を見せる。それ、地味に痛いからな!


『てめぇらぁあぁあ! もう許さねぇえぇえええぇ!』

「また増えやがったーーーー!」


 なんなんだ一体! 既に追いかけてきてるのが三百人ぐらいいるぞ! 相手するにしても三百対一じゃねぇか! 俺は不死身の侍じゃないんだぞ!


「キャハハハハハッ! ねぇダ~リン~あたし達に嫉妬した雄どもが~必死こいておいかけてきゅてりゅよ~みっともな~い」


 何故いま焚き付けるような事を言う!?

 

「てめぇこら!」

「ふざけんじゃねぇぞ!」

「絶対にぶっ殺す!」


 この状況でヘイト溜めてどうする! ば~かば~か、とか更に挑発してるし。バーバラの精神状態が安定しねぇ!


 え~い! とにかくもうすぐスラムだ! そこで決着をつける!






◇◆◇


「はぁ、はぁ、たく手間取らせやがって」

「だけどな、これでもう逃げられないぜ」

「は、こんな入り組んだスラムの路地に入りこんだのが間違いだったな」

「全くだ、結局テメェから袋小路にぶち当たってるんじゃどうしようもないぜ」


 正面の連中が追い詰めたぞというニヤケ顔を見せながら近づいてくる。

 

 確かに奴らの言うように俺は結局スラムの細長い(・・・)路地の突き当りにぶち当たってしまった。


「ス~ス~……」


 しかも、バーバラは散々連中を焚き付けてヘイトをためた挙句、俺の腕の中で眠ってしまった。いよいよ酒が回ったらしいな。


 だからとりあえず後ろの壁際によりかからせるようにして眠らせている。しかし、寝顔は思ったより可愛かったな……。


「ははっ、だが安心しな。殺すといったけどな、懸賞金の事もあるから身動き取れないぐらいに、そうだな十分の九殺しぐらいで勘弁しておいてやるよ」

「ははっ、殆ど殺してるのと一緒じゃねえかそれはよ」

「まあな、ああそれと、女の方は安心しな。傷物にはするが、ボコったりはしねぇよ。勿体無いしな」

「そうそう、ちょっとここにいる三百人相手に頑張ってもらうだけさ。たっぷりと可愛がってやるぜ。まぁ、別の意味で壊れるかも知れねぇけどなぁ」


 それにしても、次から次へとゲスい台詞を吐き出してくるもんだなこいつら。


「まあ、少しでも痛い目にあいたくなかったら、大人しくされるがままにしとけば――」

「お前らは、自分より相手の方が圧倒的に数が多い場合でも、勝てる可能性が上がる基本的な兵法を知っているか?」


 は? と先頭のふたりの内の一人が疑問符が浮かんだような顔を見せ、もうひとりが鼻で笑った。


「は! そんな夢のような戦法があったら誰も苦労しねぇだろうが。そんな魔法みたいな手があってたまるかよ!」

「そうか、だったら――もうお前たちの負けだ」

「は? 何言ってんだテメェ? あまりに絶望的な状況に、頭がイカれたか――」

「雷遁・電鎖の術!」


 高速で印を結び、術を発動させる。突き出した手から鎖状の電撃が放出され、正面の一人に命中した。

 

 ギャッ! という悲鳴を上げ、となりの男がギョッとした顔を見せかけるが、その瞬間には鎖状の電撃が伸び、隣の男も感電、更に次いで後ろの男たちにも電撃が連鎖していく。


 電鎖の術は、放った鎖状の電撃が先ず一人を捉え感電させ、近くに別の目標がいた場合はそこから次々と連鎖していき感電者を増やしていく忍術だ。


 つまり、この忍術は相手が密集していればいるほど有利に働く。この路地は道が細く長い為、三百人もはいってきたらどうしても密集せざるを得ない。


 そもそもこういった場所なら、例え忍術を使わないにしても地形的に相手はせいぜい同時に二人でしか攻撃できない。その程度の幅しかないからな。おまけに狭いから武器によっては思うように振れなくなる。


 地形を味方につけるなんて兵法の基本中の基本だ。だが、こいつらはそれを理解していなかった。当然だな、それを少しでも知っていれば、揃いも揃ってこんな狭い路地に近接武器だけ手にして飛び込んでくるなんて馬鹿な真似はしないし。


「ひ! な、なんか突然前の奴らが倒れたぞ!」

「な? 何だ何が起きてる?」

「と、とにかくやべぇよ! 逃げろ!」


 感電して転がってる連中を見ていた俺だが、後方からどうやら俺の雷遁を免れたらしい連中の慌てる声が聞こえた。


 くそ、やっぱ影分身をほぼフルに使っていたのが大きかったか、一体消えてたし。


 忍気の量を気にして、ついセーブしすぎてしまった。だけど、また仲間でも呼ばれても面倒だし、とにかく追いかけて――


「なんだかよくわからないけど、やっつけるのじゃ!」

「ふぎゃ!」

「な? なんだ! 幼女が降ってき――」

「おらぁ! テメェら俺達のシマで勝手な真似してんじゃねぇ!」

『な、なんだお前ら? ギャッ!』


 一気に追いつこうと足に力を込めた俺だが、聞き覚えるのある声の登場で動きを急停止させる。


 そして――


「うおおぉぉお、スゲー! 兄貴~~これ兄貴がやったんですかい! 流石兄貴! パネェ!」

「全く、やるならちゃんとやるのじゃ。面倒を掛けるななのじゃ~~!」


 そして倒れている三百人の屍(生きてるけど)を踏みつけながら、姿を見せたのは腹ペコ幼女と、あのえ~と。


「……まぁ、モブ五人衆でいいか」

『いやいやいやいや!』


 名前を思い出すのも面倒だから、一括りにしたらお気に召さなかったようだ。

 ああ、そういえば一人はサンシタだったか。一人だけ違うと逆に目立つな。


「ところでネメアはなんできたんだ?」

「うむ、なんかお前がお前が追いかけられてると言っていたのじゃ!」

「へ? 兄貴が兄貴が追いかけ――」

「ゆ、夢でも見ていたんだろ!」


 全く分身の俺もわざわざそれを教えなくてもいいだろうに。あ~でも酔っ払っていて記憶の共有が上手くいってなかったから念のためにと思ったのか……。


「それにしても兄貴が追いかけられてると聞いて駆けつけやしたが、こいつらは一体なんなんすか?」

「それはこれから聞くけどな。でも、スラムの連中じゃないのか?」

「知らないっすねぇ~」

「あ、俺こっちのは見たことあるかも」

「何人かはスラムをウロチョロしてたのもいるかもな。だけど、住人じゃない」


 なるほどな、スラムの住人ではないけど、顔を出していたのがいるってわけか。


 まあ、とにかくだ――


「おい、おい、起きろおい」


 とりあえずこの中で一番偉そうだった男の頬を叩く。


「うん? うぁ、あああ! て、てめぇよくも! 俺らにこんなことして!」

「うっせぇ、この状況で何偉そうにしてんだ。周りを見てみろ」


 相手を圧するような声と態度で告げる。すると男は仲間の状況を確認し、そして青ざめた。


「これだけの数を、お、お前何者なんだ?」

「それはこっちの台詞だ。テメェら、なんで俺の事知った? 懸賞金ってなんだ? 誰から持ちかけられたんだ?」

「…………」


 ちっ、そっぽを向いてだんまりかよ。仕方ないこうなったら――


「やれやれ、随分と派手にやらかしたもんだねぇ」

霧隠れ流忍び豆情報~雷遁の巻~

忍術の中では上級忍術とされる中の一つ。火遁、風遁、水遁とを融合させることで生み出された。原理としてはまず火遁の要領で体内の水分の一部を水蒸気に変化させ風遁の要領で体の周りを視認できない程度の薄い雲の層で覆う。この雲に螺旋運動を繰り返させ、その上で次いで風遁と水遁を融合し、水分を氷晶と霰に変え、忍気と組み合わせた上で雲の層の中でぶつかり合わせその摩擦によって電気を発生させている。こういった複雑な工程を必要とするためか、忍術の中でも命令式が複雑であり制御も困難なため使いこなせる忍者は非常に少ない。また、方法としては体内の電気を忍気で無理やり増幅させるという手もある。


父「さぁシノブ、この雷遁専用バッテリーに電力を蓄えるのだ!」

シノブ「いや、こないだ充電した分はどうしたんだよ」

父「あれは売り、いや、近所に配ったのだ!」

シノブ「俺……成人したら絶対に家をでるんだ……」

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