第五十話 忍者とバーバラ
結局図書館には閉館となる夕方5時までいた。バーバラとの約束は二時間後の7時だったな。
ならばその前に分身の記憶を認めつつ、今日泊まる宿を取った。結局前と同じ宿だな。
そして部屋に入り、風呂に湯を溜めている間にネメアを待たせて時空転移の術で城に戻った。
分身と部屋で合流し、着替えを何着か拝借した後、念のため仕掛けを施しつつ、夜の件も分身に任せる。
「判った。とりあえず明日からの迷宮探索の件、調べられそうな事は調べておくよ」
「ああ、頼んだ」
そして宿に戻り、小型の獅子にした状態のネメアと風呂に入り、身体を洗った後風呂を出る。
昨晩からずっと着ていた服を次元収納に放り込んだ後、拝借していた服に着替えた。
なんか洗濯もしないでずっと同じ服ばかり着ていると思われるのも嫌だしな。
そしてそうこうしている内に、時刻はもう午後6時を回っていた。
なので俺はその場でもう一人分、影分身を作り出す。
それにしても今日は影分身が大忙しだな。呪術師の見張りも含めると既にこれで七体目だ。
忍気も大分消費している。後一体生み出せるけど、これは慎重に考えないとな。
「さて、俺はそろそろ出るけど、後はネメアはこっちと行動を共にしてくれ」
「うん? お主はどこへ行くのじゃ?」
「だから、バーバラと約束があるんだよ」
「……交尾?」
「なんでだよ!」
幼女の姿で何言ってるんだこいつは!
「ゆくのは良いが、我は晩飯を所望するのじゃ!」
本当、飯ばっかだなこいつ。まぁ元の目的が人間の料理なんだが。
「だから後を分身の俺に任せるんだよ。食材は分身も次元収納から取り出せるし道具も作れるぐらいは忍気を分けてるからな。まあ、連中には毎回食事を振る舞うわけじゃないと言ったけど、スラムしか場所がないし、またそこで作って食べてくれ。ただし、食材を使いすぎるなよ!」
「わ、判ったのじゃ! 善処するのじゃ!」
なんともあてにならない善処なんだけどな……。
「俺も頼んだぞ」
「ああ、でも結局は俺も俺だからな」
……まあ、そうなんだよな~。
「とにかく任せたよ。それじゃあそろそろ行くな」
「うむ、頑張って来るのじゃ!」
いや、何を頑張るんだよ。だから、ただ情報を貰ってくるだけだからな。全く――
◇◆◇
「お、約束通り来たねぇ。偉い偉い」
傭兵ギルドに向かったらバーバラが入り口の鍵をかけているところだった。
一応鍵とかあるんだなこれ――壁とか穴あきまくってすげー簡単な補修しかしてないけど。
いや、それ以前に――
「バーバラはどこか行く用事でも出来たのか? それなら悪かったかな?」
「は? 何言ってんだいあんたは。あたしはあんたと約束しただろ?」
うん? いや、まぁ確かに約束したけどな。
「まあ、情報をもらう約束はしたけどな」
「ああ、そうだよ。だから、これから出るんだろ?」
「へ? 出るってどこへ?」
「……はあぁあぁあ~全くあんた腕はいいくせにこういうことはからっきしなんだねぇ。こういう時に情報をやり取りするのに行く場所といったら酒場に決まってるじゃないか。全く本当に仕方ないねぇ」
ふぇ? さ、酒場ァ! いや、定番といえば定番だけど聞いてないし!
「ほら、行くよ」
そしてバーバラはつかつかと歩いてきたかと思えば、俺の腕に自分の腕を絡めるようにして無理やり引っ張り出した。
「全く、本来は男が女をエスコートするものなんだよ。しっかりしなさいな」
「い、いや、そう言われても……」
なんとも強引だな。見た目通りと言えば見た目通りか。
けど、近くで見ると俺より背が高いし、胸もデカいし、迫力が半端ないな。
ただ、格好はシャツにズボンとシンプルなんだけど、妙なエロさも感じるな。元々顔は美形だし、その上、今は髪を下ろしているからかな。あとシャツだけど谷間が凄い。
本当、圧倒されるぜ。それにしても、着替えは済ませておいてよかったな。風呂も入っておいて――て、これじゃあまるでやましいことを考えてるみたいじゃないか!
まぁ、とにかく、俺は結局完全にバーバラにエスコートされるような形で、彼女がよく行っているという酒場に向かうこととなった。
「それにしても、まさか商業区の酒場に来ることになるなんてな」
バーバラと一緒に連れてこられたのは、商業区の歓楽街っぽいところにある店だった。とはいっても人の往来が激しい表通りではなく、路地を抜けた先の隠れ家っぽい場所にあるこじんまりとした酒場だけどな。
そしてバーバラと店に入り顔なじみらしい店主と彼女が二、三言話した後、奥の個室に案内された形であり――
「なんだい? 一体どこだと思ったんだい?」
席につくなり感じたままを口にした俺に、バーバラが問い返してくる。
「そりゃ、スラムのちょっと怪しい酒場かなと」
なので、ここでもやはり意外に思った理由を伝える。
するとバーバラは一度目をパチクリさせ。
「スラム? アハハッ! 本当にあんた何も知らないんだねぇ。スラムなんかで酒場が開けるわけないじゃないか。先ず許可が下りないよ。それに水だってスラムじゃ手に入れるのが面倒さ。わざわざそんな苦労してまでスラムで酒場を開く意味なんてないだろう?」
大笑いしながらそんな事を言ってくる。むぅ、なんか俺が馬鹿みたいじゃないか。
「いや、普通に酒場としてならそうだけど、例えば裏の情報を扱うときとか、そういう意味なら――」
「あんた、それでその酒場はどうやって儲けだすんだい?」
「へ……?」
だから反撃を試みたのだが、ジト目でツッコまれてしまった。まあ、そう言われるとな……。
「大体あのスラムなんかに酒場を作ったりしたら、それこそここで怪しいことしてますよって公言しているようなものだしね。ただでさえ許可なく酒場なんて開いたら重罪なんだ。そんなリスク犯してまでやっても得られる利益はないんだよ。それなら普通に商業区で表向きは普通の酒場を演じている方がいい」
なるほど、演じているか。つまりここは確かに一見普通の酒場だけど、客層にはこだわらないスタイルって事か。
「まあ、少なくともこの個室での話が外に漏れることはないよ。安心していい」
「そうか、それじゃあ早速――」
「は? 何言ってるんだい。わざわざ酒場まで来て酒も呑まずに話なんて出来るわけ無いだろ? ほら、何にするんだい?」
「へ? あ、いや、俺は酒は――」
「何だい? まさかここまでついてきて酒が呑めないなんて言わないだろうね?」
ぐいっと顔を近づけてジト目で問い詰めてくる。いや、それ以前にもう有無も言わせない雰囲気だ。これはもう頼まないと完全に機嫌を悪くさせそうな気配がビンビンに伝わる。
「そ、それじゃあ任せていいかな? 俺あまり酒に明るくないんだ」
「なんだいなんだい男のくせに。女に選ばせるなんてねぇ。仕方ないねぇ」
バーバラは店員を呼び、とりあえずラガーが二つ、と何かを頼んだ。
そしてジョッキに注がれたそのラガーがやってきたけど、見た目は普通にビールだった。
「それじゃあ、未来ある傭兵と、この出会いに、乾杯――」
そしてジョッキを軽くぶつけ、早速バーバラがラガーを呷るように呑んだ。
俺も仕方ないから喉に流し込んでいく。とは言っても、アルコールは摂取しない。いざという時の判断力が鈍るかもしれないからな。
だから体遁で瞬間的に体温を急上昇させ、胃液を沸騰させる事でこのラガーのアルコール成分を全て気化させて飛ばす。
これで酒は呑んでないのと一緒だ。
「プハ~! やっぱりエールよりラガーだねぇ」
そしてすぐにジョッキを空にしたバーバラが爽快といった表情でいった。
まぁ俺も、術のおかげでわりとあっさり空にしてしまったけどな。
「うん? なんだいなんだい、呑めないようなこと言っておいていける口じゃないかい。それじゃあどんどん追加していくよ。つまみも頼まないとねぇ」
だけど、それがあってか、結局酒を追加注文されてしまった。マジかよ……全くいつ話が聞けるのか。
そして結局それから一時間ほどは、酒を呑むのに付き合わされただけだ。そしてバーバラはやたらと呑みやがる。
最初はそのラガーというのを呑んでたが、途中からはラム酒に切り替えていた。バーバラの話だと帝都みたいな大きな都市には蒸留酒も置いてあるようだな。
とはいえ、もう二樽分ぐらい呑んだんじゃないか? 俺は常に蒸発させてるからいいけどな。
「それにしても、あんた強いねぇ。なかなか私に付き合えるのはいないんだけどね」
「そりゃどうも。でもさ、俺も呑み比べしたくて来ているわけじゃないし、そろそろ」
「いいたいことは判るよ。だけどそれをみたらねぇ。よっし! ドラゴンフレイムを頼むよ!」
突然バーバラがニヤッと口元を吊り上げて更に酒を追加した。
一体何だよドラゴンフレイムって――なんか頼まれた店員がぎょっとしてるし。
そして――やってきた酒はやたらと真っ赤でしかもなぜかジョッキの中でグツグツと煮えたぎった溶岩のような状態になっていた。
何だこれ? 本当に酒か? 飲み物か?
「これはね、竜が呑んで思わず炎を吹き出すぐらい強い酒と言われていてね。だからこそのドラゴンフレイムさ。何せこの酒のアルコール度数は250度だ。どれだけ凄いか判るだろ?」
「は? 250度? いやいやありえないだろ! なんで100度超えてるんだよ!」
いくら俺でもアルコール度数で100度超えるはずがないことぐらい知っているからな。
「甘いね。常識だけで物を考えちゃいけないよ? いいかい? このドラゴンフレイムはね、呑むとすぐに体内の水分をアルコールに変えてしまうのさ。つまり呑んだ酒より体内に摂取されるアルコールの方が遥かに多くなる。だからこそのアルコール度数250度さね。さぁ! 一気に呑むよ!」
いや一気ってマジかよ! すげーな異世界こんな酒まであるんだから。
とはいえ、これ呑まないとやっぱ情報は聞けないんだよなぁ……仕方ない、俺はまぁ摂取する前に蒸発できるしな――
霧隠れ流忍び豆情報~くノ一の巻~
忍者界において、女性の忍者はくノ一とされる。くノ一は女性としての利点を活かした仕事も多く、特に潜入において相手を惑わし懐に入るのに長ける。忍術においても相手に幻覚を見せるような幻遁系はくノ一が得意とされる。そしてくノ一の特徴はなんといってもその衣装だ。くノ一の衣装といえば露出度が高いことで有名だが、当然これにも意味はある。くノ一はこういった際どい衣装を着ることで敢えて相手の目をひかせその隙をついて攻撃に転じたり、場合によって逃亡を図ったりするのだ。
父「つまりくノ一がこの衣装を着るのは意味があるのだ!さぁ娘よすぐ着ろ!」
シノブ「お兄ちゃん、妹の晴れ姿みたいな~可愛らしいくノ一姿、目に焼き付けたないな~」
爺ちゃん「孫の際どいくノ一姿を是非!この800k超高画質ハイパーハイビジョンフルダイブ対応VRカメラに撮らせて欲しいのじゃ!(ハァハァ)」
妹「お巡りさん、こいつらです!」
警官「少し署の方でお話を……」
父「ち、違うこれは決まりとして!」
シノブ「妹の可愛い姿をみたいだけで!」
爺ちゃん「毎晩孫の際どいくノ一姿を肴に晩酌を楽しもうと!(ハァハァ)」
警官「よ~し、とっとと全員連行しろ~」




