第四十五話 忍者、料理を振る舞う
ネメアと商業区に向かい、市場に顔を出して蜂蜜と赤ワインを購入した。
蜂蜜はわりと高級品扱いらしく、小さな瓶一本で千ルベルもするという。ただ、全く足りないからな、今回は十本購入して一万ルベル支払った。
逆に赤ワインはピンきりで、安いのであれば一本二百五十ルベルというのがあった。四本購入して千ルベル支払う。
後はハーブなんかも買っておく。
しかし、市場を覗いてみると色々と面白い。特に砂糖と塩は俺の手持ちのと差はなかった。試しになめさせてもらったがほぼ同じだ。
砂糖が白いのは不純物を取り除いた結果だが、よく考えてみれば魔法のある世界なら、不純物を取り除くぐらいは普通に出来ておかしくないな。
尤も、値段に関して言えば多少は張ったが、それでも許容範囲だ。もしなくなったらこれらは普通に買えばいいだろう。
酢はビネガーがある。ワインが売っているのだから、これは当然とも言えるだろうな。つまり、味噌、醤油、米以外はほぼ問題なさそうだ。
尤も、俺からしたらこの三つが結構重要なんだけどな。まあ、それも今手持ちは結構残ってるからな。
さて、後は水も瓶で購入してと、何せあそこはまともな水がないからな。
「よっし、これで購入完了だ。いくか」
「やったのじゃ! 料理なのじゃ~~~~!」
ネメアがやたらはしゃいでるな。
まあ、それはそれとして、俺達は料理できる場所まで移動を開始する。
そう、スラム街に向けてな。
「さて、熊の手をまずは料理するぞ」
「やったのじゃ!」
スラムで適当な空いてる場所を見つけ準備を始めた。それを認めたネメアがはしゃぐ。とはいえ、熊の手料理は中々大変だ。そもそも道具もそれなりのが必要になる。
流石に土鍋と飯盒だけじゃキツイしな。
だから――
「金遁・錬金の術」
俺は目立たないようにそっと術を行使。こっちにも錬金術師というクラスはあるのかもだが、俺の錬金の術は鉄を作成してそれを自由な形に変化させる忍術だ。
金遁は火遁と土遁を融合させたような忍術で、土から金属を作り出せるのが特徴でもある。
ただ、作成した道具は忍気を込め続けなければそのうち消える。
それでも最初にある程度忍気を込めておけば一定時間は持つけどな。俺だと簡単なものなら忍気を込め続けなくても半日ぐらいは持つし。
ただ、当然これで作ったものを売ったりは出来ない。詐欺みたいなものだしな。
そんなわけで、錬金の術で寸胴のような鍋と、大きなフライパンを作った。
鍋は熊の手を煮込むための物だ。フォクロベアーの手はかなり大きいからな。勿論下処理の段階でカットはするが、それでもこれぐらいの大きさは必要になる。この鍋は仕組みを圧力鍋と同じにしてあるからその分煮込むのも早くなるな。
そして熊の手の毛を先ず抜く。手作業でやっていたらかなり大変なんだが、そっと風遁で風を起こし、つむじ風に変化させ毛だけを綺麗に抜き取った。
これで熊の手もツルンツルンだ。うん、気持ちいいぐらいだな。
あとはこれを食べやすい大きさにカットして、火遁の術で起こした火にかけたフライパンで、塩コショウした熊の手を軽く焼く。
「おお! 既に旨そうなのじゃ!」
「なんだなんだ?」
「おい、何してるんだ?」
「何かいい匂いがする~」
「え~? 食べ物~?」
うん、やっぱ予定通り、匂いを嗅ぎつけてきた住人がどんどんやってきたな。
「おいコラ! テメェ誰の許可を貰って!」
そして、やっぱ予想通り、厳つい連中が現れて文句言ってきたな。
「はいはい、わ~ってるよ。出来たらちゃんとお前らにも食わせてやるから」
「は? いや、そういう問題じゃなくてだな!」
「ほら、そこに包丁あるだろ? あとこれ、ホーンラビットの肉だ。量があるから、お前らも手伝え。お~い子供たちも、食べたきゃちょっと手伝え、結構量あるんだ」
スラムの連中が顔を見合わせるも、渋々と言われたとおりに動き出した。包丁もそれなりの量作ってるからな。
「そうそう、その包丁で悪さしようとするなよ? おいネメア」
「判ったのじゃ! よっ!」
どーーーーん! と轟音が鳴り響き、ネメアが殴った地面が陥没した。まあ、料理に問題ない場所だけどな。
それを見ていた厳つい連中が途端にだまりだした。
「判ったら余計なこと考えないで料理に専念しろ。子供たちは、手や指を切らないようにな」
『は~い』
「我は何かすることがあるかのう?」
「お前は子供たちが怪我しないように見ておいてくれ」
「判ったのじゃ!」
さて、分担作業も決まったところで続きだ。軽く焼いた熊の手からは肉汁も出てきてるから、鍋に赤ワイン、ビネガー、ハーブ、今出てきた肉汁、蜂蜜を入れてそれに熊の手を加えて煮込むと。
さて、その間に――
「あ! 兄貴なにやってんすか!」
「おお、お前らもきたか、ちょうど良かった手伝え」
例の小悪党もなんか来たから手伝わせる。一人は鍋の番をさせて、油の準備をさせて、唐揚げの下準備もさせていく。
量があるから流れ作業でやらせないとな。竈は何個か作っておいて鍋も量産する。どこから出したかはマジックアイテムだと言ってごまかす。
飯盒じゃもう間に合わないから、ご飯も大きな釜で纏めて作る。味噌汁も鍋でな。
「兄貴、なんかこっちよさそうですよ」
「どれどれ?」
熊の手を確認する。うん、上手く煮込めているな。流石圧力鍋だと早い。
それを取り出して、肉汁はソース用のを取り分けて、ワインと醤油とで上手いこと組み合わせてソースを作った。
このソースと煮込み終えた熊の手をフライパンに移し、今度は煮詰めるようにして焼く。
「よ~し完成、そっちはどうだ~?」
「唐揚げもオッケーでーす、どんどん出来上がってま~す」
「うむ、旨いのじゃ! 唐揚げは最高なのじゃ!」
お前もう食ってるのかよ! 何してんだよ!
ふぅ、まあとにかく、焼きおにぎりも作り方教えたからどんどん出来てるな。
結構人数増えてきたしな、こうなると焼きおにぎりにした方がわけやすい。
俺は即席で作ったテーブルの上に熊の手も乗せる。手の内二本分はネメアに、残り二本は皆にだ。
フォクロベアーの手は大きいから、本来一本分だってかなりの大きさなんだ。
「ぬふぉーーーー! この熊の手の煮込みというのは、な、なんとも美味なのじゃ! トロトロでプルプルで、何か凄いのじゃ! 顔もたっぷりの液でベタベタなのじゃ~~~~!」
「お前、子供もいるのに、最後のその表現やめろよ」
「? なんでじゃ?」
くそ、これだから天然は。
「いやしかし、この唐揚げというのも」
「うめぇ! 尻よりウメェ!」
何を比較対象にしてるんだ何を。
「美味しいねお兄ちゃん!」
「うん、三日ぶりのまともな食事だね!」
やめてそういうの! 胸に来るから! すごく胸に来るから!
「はぁん、この熊の手の煮込み、すっごくプルンプルンで、お肌に良さそうだわ~うふふ、これ以上美しくなったらどうしようかしら、うふふん」
うん、盛り上がってるけどあんた男だよな? しかもかなりゴリゴリの。
「兄貴! このやきおにぎりとかいうの初めて食べましたよ! これは材料はなんなんですかい?」
「米だよ、俺のいた地方じゃ普通に栽培されてたもんだ」
「米……こんな旨いなら毎日でもあきませんぜ!」
そうか、まあ毎日やってたらすぐ在庫が尽きるけどな。
「こっちの味噌汁も、なんかすげーあったけぇ味だぁ。体中から汚れが抜けていきそうだぜぇ」
そうか、まあ、そのまま本当に抜けてくれればいいけどな。
「シノビン! もうそろそろ料理が尽きるのじゃ! もっと作るのじゃ!」
「はぁ!? おい待て! これだけ食ってまだ――」
と、思ってたら集まった住人たちも期待に満ちた目で見てきた。
くそ! 仕方ないから結局その後、シャドウウルフの肉を焼肉にしたり、とっておくつもりだったジャイアントアースボアの肉も角煮にして振る舞った――




