第四十四話 忍者! 素材を持って再び傭兵ギルドへ!
「念のため、あの婆さんは見張っていてくれ」
「判った」
俺は店を出てすぐ影分身を生み出し、ババアの店近くで張らせる事にした。
基本的には信じたいが、呪われた相手を気づかれた可能性があるなら、念には念を入れておく必要がある。
尤もこういった慎重さや心構えも、あの婆さんに言われて思い出したんだけどな。
もしかしたら俺も気づかないうちに異世界に来たことで浮かれてしまっていたのかもしれない。
「おお! 待ちくたびれたのじゃ! それで、これからどうするのじゃ~?」
俺が店を出たのを認め、外で待ちわびた様子だったネメアが駆け寄ってきて俺に聞いてくる。
なので――
「おいおい、本当かいこれ?」
バーバラが目を丸くさせて驚いていた。婆さんの店を出た後はその足で傭兵ギルドに向かったからな。
夜の約束もあったが、狩りを終えた素材は早めに納品しておきたかったし。
だけど、並べられたフォクロベアー、ジャイアントアースボア、シャドウウルフ、ジャイアントエビルバットはやはり普通じゃないらしいな。
「これ、全部あの森で夜にしか現れない魔物じゃないか……ジャイアントアースボアとかジャイアントエビルバットとか久しぶりに見たし、あんた、随分と勇気があるんだねぇ」
「いや、勇気というかな、依頼で行くことがあっただけなんだけどな」
俺は、もう特にすごいとも思うこと無く、平然と話す事にする。驕り高ぶりは厳禁だ。
「依頼? 依頼って?」
「昨日教えてもらった店で、婆さんに満月の夜にしか咲かない花とやらの採取を頼まれたのさ。このギルドに依頼を出したと言うけど、断ったんだろ? だから俺が引き受けたんだが、問題あったか?」
まあ、あったとしてもこっちは急いでるから、いちいち確認とっていられないんだけどな。
「ああ! ブルームーンロリアの件かい! いやそれにしても、あんな命知らずの依頼を請けちゃうなんてね……それにしても、あの婆さんの事だから、また空の瓶だして、その、なんというか、おかしな事を言い出すかとも思ったんだけどねぇ」
「いや、それも言われたぞ」
少し赤面しながら、あの事を話しだしたが、やっぱバーバラも知ってたか。
「え? じゃあ、そ、そっちも差し出したのかい?」
「差し出さねぇよ! それが嫌だからブルームーンロリアの依頼を請けたんだって!」
「ああ、そういうことかい」
得心が言ったような顔をバーバラが見せる。全く勘弁してくれっての。
「じゃあ、あんたその花を探しながら、ついでに狩りもやったのかい……」
「いうておくが、狩りは殆ど我が行ったのじゃ」
「へ? お嬢ちゃんが?」
「あ、いや! 戻ってから解体を少し手伝って貰ったって意味さ!」
ネメアの口を塞ぎながらごまかす。全く、お前は今、見た目幼女なんだから余計なことは言うなっての。
「とにかく、そういうわけで、解体も済ましているけど、今回も肉の一部はこっちで頂いているから」
「ふ~ん、まあ、それはかまわないけどねぇ。それにしても、あんた一体何者なんだい?」
そう聞かれてもな。まさか忍者ですとも言えないし、言っても判らないだろうけど。
ちなみに今回残した肉はフォクロベアーの四本腕を含めた肉、とシャドウウルフの肉、これは五匹狩っていたから、そのうちの三匹分だ。そしてジャイアントアースボアの肉だな。
ジャイアントエビルバットも肉としては食えるが、ネメアはあまり好みではないようなのでそのまま売ることにした。
「フォクロベアーはねぇ、あの四本の手も含めて食材としての価値が高いから、それがないなら買取価格は二千ルベル、魔石は五千ルベル、合計で七千ルベルだねぇ」
前回より大分減ったな。前はバラバラにしすぎたけどそれでも肉としてまだ売れるのが残っていたから本体を五千ルベルで買い取ってくれたってわけだな。逆に言えば毛皮としての価値はそれほど高くないって事か。
「ジャイアントアースボアもね、毛皮も土属性に耐性があるって事で魔法使い系のローブだったり、鎧の下に着る服だったりに利用されたりするけどやっぱり食材としての価値が高いからね。肉ありなら二万五千ルベルだけど、なしなら五千ルベルになるよ。本当にいいのかい?」
そんなに下がるのかよ! 思わずネメアを見る俺だが。
「肉は絶対なのじゃ!」
くそ、仕方ねぇ!
「判った、それでいいよ……」
「なあ、あんた、まさかと思うけど、その子がこれ食うってわけじゃないだろうね?」
「育ち盛りだからな」
「いやいやいやいやいや! 何言ってるのさ! 一体この肉だけで何キロあると思ってるんだい!」
まあ、キロで言ったら二千キログラムぐらいは余裕でありそうだけどな。
「はあ、なんだかとんでもないねぇ。ま、自己責任だからかまやしないけどねぇ。じゃあジャイアントアースボアは本体の肉を抜かした買取金額が五千ルベル、魔石は二万ルベルだねぇ」
「お、魔石高いな」
「魔法を使う魔物は大体魔石の値段は高めになる事が多いね。あとはシャドウウルフは肉としての価値はそうでもないからね。肉付きで一万二千ルベル、なしでも一万ルベルさ。魔石は八千ルベルだね。後はジャイアントエビルバットだけど……折角狩ってきてもらって悪いんだけどこれはあまり値がつかないのさ。本体の素材としての価値が五千ルベル、魔石は一つ三千ルベルだねぇ」
確かに、ジャイアントエビルバットはLVのわりに低いな。空も飛び回って超音波を光線にして飛ばしてくるような魔物なのにこれじゃあ、傭兵もやってられないか。
「それじゃあ合計だけど、フォクロベアーが一匹で七千ルベル、ジャイアントアースボアが一匹で二万五千ルベル、ジャイアントエビルバットが一匹で八千ルベル、シャドウウルフは三匹が肉無しで五万四千ルベル、肉込みのが二匹で四万ルベル、と、これで合計十三万四千ルベルだけど、これだけまとめて珍しいものを狩ってきてくれたんだ、特別に十五万ルベルで買い取るよ」
「おっと、太っ腹だな。ありがとう」
「ふふっ、まあ、これだけあればあたいにとってもかなり美味しいしねぇ。だけど凄いじゃないか。昨日の分も含めたら、かなり懐は温かいだろ?」
いえ、昨日の分は殆どこの幼女のおかげでなくなりました。今日の分だって油断したらすぐなくなるぐらいこいつは食うんだ畜生め。
「まあ、とにかくありがとね。そして、夜を楽しみにしてるよ」
楽しみ? 情報貰うだけのはずなんだけどな……まぁ、とりあえず今日は結構忙しいな。
昼過ぎにはまたババアの店にいかないといけないし。やっぱ城の方は引き続き分身に任せておいて正解だったな。
それにしても、向こうは向こうで中々不気味な感じだな。訓練も普通に受けているし、何よりマグマ、ガイ、キュウスケが全く手出ししてこないってのがな。
……なんとなくだが、迷宮攻略が怪しい気もするんだよなぁ。
杞憂だといいんだが、とりあえず夜にでもちょっと分身に動いてもらうか。
さて、ギルドを後にした俺達だが、とりあえずババアとの約束まではまだ時間があるな。
「我は食事を所望するのじゃ!」
「もうかよ! 途中で串焼き食わせただろ!」
そう、ババアの店に向かう途中、屋台で串焼き三十本は食わせてやったんだ。朝飯代わりにな。宿は素泊まりにしていたからな。
ちなみに俺は三本食った。結構デカい肉が刺さってたからそれでも十分だったんだ。それで一本三十ルベルは良心的だと思ったけどな。
しかしネメアは平気でその十倍食った。ま、それでも合計三百九十ルベルで、しかも大量に買ってくれたという事で一本分おまけしてくれたんだけどな。
「あれっぽっちじゃ全然足りないのじゃ」
「勘弁してくれ、またお前と外食とかお金がいくらあっても足りない」
「そんなものする必要ないのじゃ! 我はお前の料理が食べたいのじゃ!」
俺の料理? そうは言ってもな。
「一体どこで料理するんだよ。いくらなんでもあの宿の中じゃ無理だぞ」
「だったら、森にいけばいいのじゃ!」
「森って……流石に時間がな。昨日はともかく、わざわざ料理のためだけにあんな場所までいこうとは思わないぞ」
「むぅ、だったらどこか場所を探すのじゃ! これだけ広い都なら、料理できる場所の一つや二つあるはずなのじゃ~~~~!」
そうは言ってもな――場所って……ああ、そうだ。
「場所を提供してもらう代わりに、こっちも作った料理を少し振る舞う必要があるかもしれないぞ? それでも大丈夫か?」
「むぅ、少しなら仕方がないのじゃ」
だったらまあ、あそこを利用させてもらうか。ただ、こいつ熊の手が特に食べたいみたいだからな。
そうなると――調味料が少し足りないか。商業区にいって、補充もしてこないとな……。