第四十二話 再戦! 忍者VSマビロギ!
「みつけた! まさかまたこの森に来るなんてな! ここで会ったが百年目!」
そんな事を叫んでいる魔物使いのマビロギは、俺のわりと頭上にいた。つまり空を飛んでいた。
尤も飛んでいるのはあの魔物使いじゃなくて、その下の大きな蝙蝠だけどな。
「ははははははっ、まさか空から来るとは思わなかっただろう? しかも今回は多数の空の魔物が勢揃いなのさ!」
確かにデカい蝙蝠に乗ったマビロギの周囲には空の魔物とやらが多い。メインはマビロギの乗っている蝙蝠のようで、名前はジャイアントエビルバット、LV30だな。後はフライシャークにキャットバッツ、ただのエビルバットなんかが続いている。
ジャイアントエビルバットを除けば大体LVは10~20前後だな。ただ、空の魔物は飛んでいるという時点でかなり厄介ではあるからな。地上の同レベルの相手とはまた扱いが変わってくるだろう。
ただ、それにしてもだ――
「お前、何か今日、妙に声が高くないか?」
「え?」
デカい蝙蝠の上に乗っているマビロギがあわあわしだした。そして、そういえば薬――とかブツブツ呟いている。
何だ一体?
「と、とにかく! 悦んでオークの群れに飛び込む裸の姫騎士とはまさにこのこと!」
いやそのことわざみたいのなんだよ! こっちの世界で流行ってるのかよ! それに前聞いたのとちょっと変わってるし! 姫騎士裸でオークの群れに飛び込んでるし! とんだ変態姫騎士じゃねぇーか!
「さあ! お前たちいけ!」
おっと、そんな事考えていたら、直ぐ様魔物をけしかけて来やがったな。それにしても今度は不自然に声を変えた気がしたけどな。
「まあ、いっか、とりあえず、風遁・風刃乱舞!」
わざわざ向こうから迫ってくる魔物たちを、腕に現出させた風の刃で切り刻んでいく。
これは自分自身を激しく回転させながらの斬撃なので全方位に対応できるのが特徴だ。
「な!? そんな……」
バラバラになって無駄に命を散らしていく魔物の姿に絶句するマビロギ。でもな――
「お前、わざわざ相手より高い位置を取って有利に立ってるのに、それをわざわざ地上に向かわせてどうするんだよ、意味ね~じゃん」
「あ、うぐぐぅ――」
なんとも悔しそうだ。フードで顔は見えないけど、グギギと奥歯でも噛み締めてそうだ。
「だったら! ブレイズキャノン!」
「うわっと!」
マビロギが指を突き出すのとほぼ同時に、俺のいた地面が爆発し大きく弾け飛んだ。
すげーな、まるで砲弾だ。
「ブレイズキャノン! ブレイズキャノン! ブレイズキャノン! ブレイズキャノン! ブレイズキャノン!」
「よっ! はっ! とっ!」
至る所が爆散し、地面がどんどん抉れていく。相変わらず自然に優しくない奴だなこいつは。
「なんで! なんであたらないんだ!」
蝙蝠の上でやたら悔しがってるマビロギだけど、確かに威力も高いし、発動から着弾までも速い。でもな、その魔法は位置を指で指定しなければいけないという欠点がある。
それは魔法を撃つ時にいちいち指を突き出していることから理解が出来る。それじゃあ当たらない。洞察力に長ける忍者なら、予備動作さえ判ってしまえば単発での攻撃は先ずあたらない。
「だったら、やれ! ジャイアントエビルバット!」
マビロギが命じると、今度は蝙蝠の口が開かれ、かと思えばその頭の動きに合わせて地面が抉れていく。
「どうだ! これは見抜けないだろう!」
超音波光線だな。オーラの力で圧縮した超音波を光線のように放出している。
あいつは見破れないだろうとドヤ顔だけど、実は看破の術でとっくに判ってはいるんだけどな。
「さぁ! 自慢の超音波で粉々に粉砕してやれ!」
「ギィ!」
そして再び超音波を放ってこようとする蝙蝠だが。
「時空遁・時空連穴!」
印を結ぶと、俺の正面、その空間に黒い穴が開かれ、放たれた超音波光線を飲み込んだ。
え? と目を白黒させるマビロギだが、その横の空間に別の穴が開き、あの蝙蝠が放った超音波が吐き出される。
「う、うわぁあぁああああ!」
マビロギが悲鳴を上げた。下のジャイアントエビルバットも暴れまわっている。
自分が放った超音波を自らが喰らったんだら当然か。
時空連穴は、空間にあけた時空の穴で相手の攻撃などを飲み込み、別の位置に現出させた穴からソレを吐き出す術だ。
これは元々、穴をひとつだけ開き攻撃などを飲み込む時空穴が元であり、次元収納からヒントを得て編み出した忍術でもある。
ただ、穴が一つの場合は一つ問題があった。それは運動エネルギーの生じているものを飲み込んだ場合、時空に閉じ込めている間は俺の忍気が減り続けてしまうということだ。
だから飲み込んだものをすぐに吐き出せる効果を追加した時空連穴の術に変化させたってわけだ。
尤もそのおかげで、相手にカウンターを決めるには最適な術に変化したんだけどな。
「もうそろそろ諦めたほうがいいんじゃないか?」
そして俺は、なんとか耐えたものの、中々フラフラしてそうな魔物使いに告げる。
すると、杖を握る手が強まり。
「だれが! こうなったらもっと上昇だ! 更に高度から魔法で倒してやる!」
なるほど、悪い手ではないな。だけど、それはそれでうざったいし。
「時空遁・超重圧の術――」
「へ? う、うわぁあぁあぁあ!」
印を結び、術が発動した瞬間、再びマビロギが悲鳴を上げた。そしてジャイアントエビルバット共々、瞬時に地面に押しつぶされる。
この術は重力を操作し、相手を重力圧で押しつぶす事が可能だ。
どの程度重圧を掛けられるかは込める忍気などによっても変わるけどな。
とりあえずは地面に落ちて身動き取れなくなる程度には掛けてある。
時空遁は強力な忍術が多い。次元収納もだが、瞬間移動や時空転移など様々な面で万能でもある。
ただ、時空遁には他の忍術と併用できないという欠点がある。時空を操っているという関係からか、他の術が同時に作用されないんだよな。それに忍気の消費量もやはり他の系統に比べると多い。
そのあたりはしっかり考慮しておかないと、思わぬ竹篦返しを受けかねないからな。
とは言え、今回はこれで勝負も決着だろうな。とりあえずジャイアントエビルバットの眉間には手裏剣を打ち込み絶命させた。
これで空を飛ぶことも出来ないだろう。
「さて――」
重圧から解放する。うめき声を上げながら、マビロギが立ち上がった。
「お前、よくも、許せない、ゆ、ゆるせ――」
そして悔しそうに怨嗟の言葉を投げつけてくる。そう言われてもな、仕掛けてきてるのはそっちだし。
『大量大量~戻ったのじゃ~え~と、仮面シノビー?』
すると、森の奥からネメアが何か咥えたり背中に乗せたりして戻ってきた。
おいおい、フォクロベアーにシャドウウルフにジャイアントアースボアかよ。全て俺も倒したことある魔物だけど、見事に一撃で仕留めてきてるな。おかげで素材はほぼ傷んでないけど。
そして地面にドサリと仕留めた獲物を置き、俺とマビロギを交互に見やり、コテンッと小首を傾げる。可愛い、モフりたい。
『ふむ、どこかで見た奴なのじゃ。匂いにも記憶があるのじゃ』
うん?
「な、なんあなんなななっあぅちいなぅいあなぁあああぁああ!」
な、なんだ? 突然マビロギがネメアを指差して驚き出したぞ。後ろに逃げるように移動した後、すげーのけぞってるし。
「な、なな、なんで森の主がこんなところにいるのよー!」
なんだなんだ? 一体どうした? 驚きすぎたのか、口調もおかしなことになってるぞ?
『あ! 思い出したのじゃ! こやつ、前に我を隷属化しようとした愚かな魔物使いなのじゃ! 身の程知らずの馬鹿なのじゃ!』
「……あ、なるほど――」
俺はやたらとビクビクしているマビロギを細目で見ながら納得する。
「お、お前のせいで! 前は折角隷属化した魔物が大量に殺されたんだ! しかも、僕の隷属化も操作のスキルも通じなかった!」
『当然なのじゃ。お前程度の小物にどうにか出来るほど我は安くないわ』
「食い物がほしいという理由だけでついてきたやつが何を偉そうに」
『そ、それとこれは別なのじゃーーーー!』
別かよ。都合のいい考え方だな。
「ま、まてまてまてまて! お前! まさかその魔獣と! 森の主と会話しているのか? この僕でも隷属化できなかった! その魔獣と!」
驚愕って声だな。まあ、こいつは念話で語りかけてきているから、何を話しているかはわからないんだろうけどな。
「……まあ、そうだな。こいつは、俺のペットだ」
『お前も、中々調子のいい男じゃのう』
利用できそうなら利用するのが忍なんだよ。
「ぺ、ペット? 盗賊如きが、森の主を、ぺ、ペットだと?」
「あぁそうだ。だから、今度俺にちょっかいかけてきたら、この森の主様が黙ってないぜ? さあ、吠えろ!」
「グオォオオォォォオオオォオオォオオオ!」
「ひ、ひぃぃいいぃぃいいい!」
ネメアも中々乗りがいいな。そして百獣王の咆哮を受けたマビロギは腰が砕けたようにヘナヘナと地面に臀部をつけ、そして――うん?
――チョロチョロチョロチョロ……。
『こやつ、漏らしたのじゃ』
「ああ、漏らしたな」
「い、い、いやぁあぁあああぁああぁああ!」
森に絶叫がこだました。まあ、こんな醜態を晒したらな。
ふむ、流石にちょっとかわいそうになってきたな。
だから――
「土遁・石牢の術!」
「へ? ま、またこれぇええっぇえ! 折角空から狙ったのにィィイィ」
石の牢にマビロギは閉じ込めてあげた。この中なら人目に触れないし、おもらしもバレないだろう。
うん、俺優しい。
中から、狭いよ暗いよ怖いよお爺ちゃ~~ん! みたいな絶叫が聞こえてくるけど、お漏らしが見られるよりマシだろ。
そして俺は折角だから残ったジャイアントエビルバットの遺体を回収する。他のは……バラしすぎたし駄目だな。
さて、ネメアが狩ってきたのも含めて、まだ解体してないけど、それは後でもいいか。この状況じゃ落ち着いて出来やしないし。
「……さて、いくか」
『お前、やっぱり鬼畜じゃのう……』
ネメアも失礼な事いいやがる。俺のどこが鬼畜だってんだ。この程度で済ましてるんだから十分優しいだろう――
霧隠れ流忍び豆情報~世界の忍者事情の巻~
忍者といえば日本のイメージが強い。勿論発祥は日本にこそあるが、近代化にともない世界中から忍者に興味をもった者たちが修行にやってきたことで今や世界中に忍者はいる。また日本の忍者にも世界に支部を置く流派は多い。世界の忍者はその国独自の忍道を突き詰めている場合も多く、例えば欧米忍者などはニンジャマンなどスーパーヒーローとして活躍する者が多く、また忍具として銃を用いて(勿論忍気が込められる特別仕様である)いたりもする。
爺ちゃん「なんと四年に一度は世界ニンニンピックが開幕されるのじゃよ。世界的にも忍気を用いた術は人気でニンチューブにも数多くアップされとる。忍者は既に世界の文化なのじゃ!」
シノブ「いや、もう忍ぶ気ないだろ」




