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第三十六話 忍者と幼女

 結局、ネメアの意志は固いらしく、最終的には例え撒いても無理矢理でも帝都に来るとまで言い出した。


 こうなるともうどうしようもない。下手にここで突っぱねて帝都に来られて、ややこしいことになるのも面倒だしな。


 でも――


「お前、俺についてくるとか言っているけど、森の主だろ? 森を放っておいていいのか?」


「だからお前と呼ばれるのは好かんと言っておるのじゃ! ネメアと呼ぶのじゃ!」

「わ~ったよ! だからネメアは森の主の役目はいいのかよ!」

「あんなもの、適当に森で過ごしていたら勝手についただけなのじゃ。別になりたくてなったわけじゃないのじゃ!」


 そうだったのかよ……ガバガバだな称号の認定。そもそも、俺はお前が主だからトドメ刺さなかったんだけどな! その気持ち返せ!


 とは言え、幼女化したこいつみて、これから殺そうって気には当然なれないしな。


「はぁ~」

「なんじゃため息などついて、悩みでもあるのか?」

「お前のせいだろが!」

「だからお前はやめろと言うとるじゃろが!」

「うるせぇ! お前はお前だ! 俺にどうしてもついてくるって言うなら呼び方ぐらい好きにさせろ! それが嫌ならとっとと帰れ!」


 ネメアがぷく~っと頬を膨らませた。畜生、こいつこういう仕草だけ見てれば可愛らしいんだよな。勿論子供としてな!


「もういいのじゃ。でも出来るだけ名前で呼ぶのじゃ」

「はいはい、善処するよ」


 そんな悪態をつきながらも、既に俺は半分諦めていた。いや、名前のことじゃなくてこのネメアがついてくることをだ。


 本当、忍ぶ立場の俺が同行者見つけてどうすんだって話だけどな。


「そういえば、ネメアは二百年は生きているんだったな?」

「うむ、尊敬してもよいぞ」

「しねぇよ。それより、それだけ生きているなら、例えばこのグランガイム帝国と西のオリハルト王国の戦争について何かしらないか?」

「知らん、人間同士のいざこざなどに興味はないのじゃ。そもそも帝国の名前がグランガイムだというのも今始めて知ったのじゃ」


 だめだこりゃ。


「じゃあ、呪いについてはどうだ? 呪いの解き方とか知らないか?」

「人間の呪いなんぞに興味はないのじゃ。そんなことより料理の方が興味あるのじゃ」


 つかえね~これは情報に関しては全く期待できないな。


「何か今になってとんだお荷物拾ってしまったなって気になってきたぞ」

「むぅ! お荷物とはなんて言い草なのじゃ!」

「いや、だって、お前飯これからも食う気だろ?」

「勿論なのじゃ」

「だったらタダ飯ぐらいでしかないだろ……ただでさえあんだけ食うのに……」


 冷静に考えたらこいつ一人でホーンラビットの肉を三十匹分以上食ってるからな。

 そう考えたら恐ろしい存在だ。アルミラージ寄越せと言わなかっただけまだいいけど。


「むう、あ、あれは、戦いの後でやたら腹ペコだったからじゃ。普段はもうちょっとは少なくてもいいのじゃ! それに、我にだって出来る事はあるのじゃ!」

「出来ること? 例えば?」

「我は強いのじゃ!」

 

 えっへん! と胸を張って答えるネメア。いや、そう言われてもな。俺別にボディーガードが欲しいわけでもないし。


「……微妙だな」

「なんでなのじゃ! だ、だったら狩りは自分でするのじゃ! お前はそれを料理してくれればいいのじゃ!」


 妙な妥協案を提示してきたな。そのうち生姜焼きとか牛丼とか要求されそうな嫌な予感もしてきた。まあでも、食材を確保をしてくれるならそれにこしたことはないか。


「だから、だから! わ、我を見捨てるな、なのじゃ……」

「――ふぅ、わ~たよ、全く、ここまで来て見捨てやしないから安心しろ」

「本当か!」


 ま、拾ったら責任を持って育てるのも飼い主の役割だからな。この場合それがあてはまるか謎だけど。


 だから、とりあえず森を抜けて、帝都に戻りたいところだけどな。


「う~ん、やっぱその格好はあんま宜しくないよな」


 俺は改めてネメアの姿を観察しながら考えを述べる。


「何故なのじゃ? お前の言うように、大事なところは隠しておるぞ?」

「隠していればいいってもんじゃないんだよ。人には文化ってものがあるんだから、ネメアの今の姿はあまりにその文化からかけ離れている」

「なら、どうするのじゃ?」


 幼女化しているネメアが首をコテンッとさせて聞いてきた。あざとい仕草だ。


「仕方ないな、まあ、お前は問題ないと思うから俺の力を見せるけど、他言無用だからな? それを守れないようなら、問答無用で森に追い返す」

「判ったのじゃ。我は口は固いのじゃ、安心するが良い」

 

 口が固いね……まあ、人間社会にそこまで興味なさそうだしな。


「それじゃあ――武遁・影分身の術!」


 俺は自分の分身をその場で作成。既に城に一人分いるからこれで二人目だな。


「おお! 凄いではないか! 急にお前がふたりに増えたのじゃ~!」

 

 そして、意外にもネメアが食いついてきた。分身を見るのはやっぱ珍しいのか?


「凄いのじゃ! これでいくらでも料理を作ってもらえるのじゃ!」


 そっちかよ!


「それで、お前は何人まで増えることが出来るのじゃ?」

「うん? ああ、結構忍気を消費、といってもわからないか。まあ、魔力みたいなものを使うからな。最大で八人が精一杯だ」


 ま、それでもかなり凄いらしいんだけどな。何せ親父でも影分身の術で作れる分身は最大で四人だ。


「八人とは凄いのじゃ! これで食べられる唐揚げも八倍なのじゃ!」

『どうしてそうなるんだ!』


 俺と分身が同時に突っ込んだ。思考は似た感じになるからな。


「ふぅ、それとだ、別に呼び方は好きにしていいが、帝都では基本シノビンという名前で通してある。そこだけは覚えておいてくれ」

「ふむ、シノビンじゃな、判ったのじゃ!」


 無邪気に答えるネメア。こうして見てると子供っぽいけどな。

 ただ、本名は、まだかな。もう少し過ごして大丈夫そうなら明かすかもだが。


「それで、俺はネメアの服を買ってくればいいのだな?」

「ああ、頼むよ。一応念の為、商業区で冷やかして回っていた時、目立たなさそうなところにマーキングしてあるからさ」

「ああ、当然知ってるさ。それじゃあ行ってくる」


 そして分身は時空転移の術でおつかいに行ってくれた。


「お前、大した魔法が使えるのじゃ。中々凄いと思うぞ」


 なんか幼女に感心されたぞ。喜んでいいのかよくわからんけど。


 ただ、時空遁はとかく扱いが難しい。忍気の使用量も大きいし、時空移動も最初は細かい調整が大変だった。マーキングのおかげで楽にはなったが、それにしても最大でマーキングできる数は四箇所分が限度だ。


 今は城の近くの分も含めて既にふたつマーキングしている。つまりマーキングできるのは残り二回。


 ま、マーキングを外すのはどこにいても出来るから、必要なくなれば外して付け替えればいいけどな。


「戻ったぞ」


 そんなことを考えている間に、分身が戻ってきた。流石に早いな。


「ご苦労さん、幾らだった?」

「靴や下着と合わせて二千ルベルだな」


 結構したな。まあ、工場での大量生産が不可能な分、服飾系は高くなっても仕方ないか。


 ちなみに、貨幣は次元収納の中にしまっているから、分身も術さえ使用すれば自由に取り出せる。


 俺は、分身から買い物した服と下着を受け取り、分身には消えてもらった。分身を維持している間、割り振った忍気は減ったままになるからな。

 

 用事が済めば消すのは基本だ。


 分身が購入してきたのは、下着はシンプルな上下。流石にゴムではなく紐で締めたりするタイプ。


 服に関してはワンピースタイプのドレス。ベースカラーは黒で、所々に白いフリルがついている。

 靴もやはり黒だが、子供っぽい丸みを帯びたもの。それでいて作りはしっかりしているので、外を出歩いても問題はなさそうだ。


「ネメア、早速これに着替えてくれ」

「我はこの格好でも問題ないのじゃがのう」

「俺についてくる気なら、今後は人間社会に溶け込んでもらわないと困る。その為にはまず服装からだ」


 俺がそう伝えると、下着や服に袖を通してくれた。靴だけは気持ち悪いと言って中々履いてくれなかったが、料理作らないぞ、と言ったら渋々ながら履いてくれたが。


「おお! この靴というの、意外と悪くないのじゃ」


 わりと気に入ったようだ。全く、料理に興味あるなら食わず嫌いな真似はよしてほしいぜ。


 とは言え――中々どうして馬子にも衣装とはよく言ったものだ。


 正直言えばかなり似合っている。金髪と黒のドレスの組み合わせは中々に上々だ。みようによってはどっかの貴族のお嬢様にも感じられるかもしれない。


 ただ、やたらと動き回るなよな。スカート翻しすぎだ! 下着が見えてるだろ!


「お前はもう少し落ち着きを持て。いいか? 帝都にも怖い男どもというのはいるんだ。そんな連中の前で下着なんて見せて歩いていたら、どうなるかわかったもんじゃないぞ?」

「そんなもの、噛み殺せばいいだけなのじゃ」


 ああそうだった。こいつ元は魔獣だった。


「念のため言っておくが、相手が誰だろうと、俺が許可しない限り、絶対に殺すなよ?」

「えーーーー! なんでじゃ! なんでなのじゃ!」

「それが社会のルールだからだ! 俺を襲ってきた連中みたいなのや賊のたぐいならともかく、街中での殺しは基本ご法度なんだからな!」


 まぁ、これから行くことになるであろうスラムはまた別だが、むしろあそこだからこそしっかり忠告しておかないとな。あんな金と尻しか要求してこない地帯に幼女なんて、腹すかした猛獣の群れに餌をぶら下げるみたいなもんだ。


 しかも厄介なことにこの場合、その餌こそが罠で、逆に食い殺しかねない。いくらスラムだからって、気に入らない相手を見つける度に殺されていたんじゃたまったものじゃないからな。


「むぅ、なるべく気をつけるのじゃ」

「なるべくかよ……全く、不安しかないけど、とりあえず行くぞ」


 そして俺はネメアを連れて、改めて帝都へと向かうのだった。

霧隠れ流忍び豆情報~火遁の巻~

忍術の中では基本忍術とされる中の一つ。印を結び忍気と酸素を組み合わせる事で炎を生み出すのが基本形。一応忍気百パーセント使用で酸素を使わず炎を生み出したりも可能だが、印が複雑になる上、制御が難しいため酸素を利用せずに使いこなせる忍者は稀である。


母「しのちゃん、今日も火遁で竈の火、お願いね~」

シノブ「いい加減、炊飯器買おうぜ母さん……」

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