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第三十三話 忍者と森の主

※第二十六話仮面シノビーの回において、最後の方でとある一文を追加してあります。

話の大筋にはそこまで影響いたしません。

 とりあえず――物理反射がどれほどのものか試してみるか……。


「武遁・忍気手裏剣の術」


 初っ端から咆哮を見せ、臨戦態勢で挑んでくる相手を迎え撃つ為、俺も着地後、移動しながら忍気で作り出した、棒手裏剣の穿孔タイプを五本投げつけた。


 だが、魔獣はそれを全く気にもせず疾駆し、手裏剣を俺に向けて弾き返しながら距離を詰めてくる。


 大胆だなおい! ただ、やはり物理攻撃は反射されるか。ダメージがそのまま反射されるわけではなく、攻撃そのものが反射される感じだな。


 俺のいた場所が爆散し、再び地面が大きく穿たれクレーターが出来上がった。

 

 なんとか避けたが、咆哮による強化もあってか動きがかなり速い。

 

「体遁・力王の術――」


 俺は先ず忍術で肉体の強化を図る。忍気が満遍なく回り、膂力が上がり肉体的な頑丈さも向上する。


 本来これらの強化系は剛力の術で膂力を剛体の術で頑丈さをというように術として分かれているものだが、力王の術はこのふたつを兼ねているのが特徴だ。


 ただしこの術には速度を犠牲にするという欠点がある。これは剛力や剛体にしてもそうだが、パワーやタフネスに特化した分スピードを犠牲にしているわけだ。


 なので、このままでは強化された魔獣の速度にはついていけない。かといって速度を強化する忍術を使用しても、そっちには逆の欠点があるから相殺されるだけだ。


 故に――ここは。


「風遁・風纏の術!」


 俺は続けざまに別の印を結び、全身に風を行き渡らせる。


 これは気流を忍気で強化した上で操作し、味方につけることで俊敏性を向上させる忍術だ。


 同じ系統で行うと相殺される事でも、別系統で補えば恩恵のみが残る。これが霧隠流足し算の法則だ。


 ただ、風纏は体遁と違って風の力を使っている分、慣れが必要な忍術でもある。感覚で言えば、スプリング付きのローラーブレードを履いて動き回っているようなものだしな。


 とは言え、俺は地面を蹴り風の力で滑るように走り、相手の横についた。力王の術でわざわざ攻撃力まで強化したのは試したいことがあったからだ。


 それは――


「体遁・内破の術!」


 獅子の横部に手を添え、地面を踏み込み、横隔膜を貫くように収束させた忍気を叩き込んだ。


 この忍術は体の外側には一切ダメージを与えず(・・・)、体の内側に直接ダメージを通す。


 もし物理反射というのが、体の内側にまで効果が及んでいるなら、この攻撃も直ぐ様俺に返ってくる筈だ。


 だが、そうはならなかった。攻撃を通した瞬間、黄金の獅子が苦悶の表情を浮かべ、唸り、そして自ら横へ飛び柔軟な動きで地面に着地する。


 その双眸には明らかな警戒心。だが、俺としては驚きだ。力王まで使って放ったのに、まさかこの程度とはな――


 予想以上に異世界の魔獣は頑丈だ。今の技、地球なら陸上生物最強のアフリカゾウすら百回爆散する威力なんだけどな。


 それだけこの世界の魔獣の強さが桁違いって事だ。全く、どれだけだよ異世界。


 そして俺をにらみ続けていたネメアレオンが爪を振るう。


 この一撃は、傭兵を瞬時になます切りにしたことからも察することが出来る。

 特徴的なのは、一振りでとんでもない量の斬撃を扇状にばら撒くことだ。


 ほぼ弾幕に近いこれは切れ味も凄まじく、土遁の石壁を使っても切り刻まれるのが落ちだろう。


 だから――跳躍! 確かに前方への攻撃範囲は広い獅子一掃爪塵だが、高さとなると話は別で、精々あの魔獣の頭より頭半個分程上の効果範囲ってところだ。


 だから気流も操作して一気に上昇、大きく跳躍したところで、相手の様子を探る。


 黄金の獅子は、俺の落下点を見極めようとしている様子。だが、風の力である程度落下中も移動可能だ。


 だが、俺だってただ避けて終わりってわけじゃない。そこから更に印を結び、地上で待ち受ける主に向けて――


「雷遁・百雷の術!」


 大量の雷槌をプレゼントしてやった。百雷の術は天から無数の雷槌を落とす術、が本来だが、俺の場合はその名の通り、一瞬にして百本の雷を落とすことが出来る。


 相手は全属性耐性をもってはいるが、これなら例え九割防ぐことが出来ても十本分のダメージは通る。


 流石にこれなら――て、おいおいマジかよ。念のため、落下地点も調整した俺だが、ネメアレオンがかなりの勢いで飛び込んできて、俺に牙を向ける。


 身体を捻り、躱そうと試みるが、しかし衝撃の範囲からは逃れきれず、そのまま俺の身が地面に落下し、バウンドしながら転がっていく。


「チッ、ここまで頑丈とはな」


 だが、転がりながらも手をついて、足を振り上げバク転して起き上がる。


 そんな俺の目の前には、追撃してくる魔獣の姿。再びその牙が、今度は俺の頭から喰らいついてきた。


「――!?」


 刹那――驚愕といった空気をにじませるネメアレオン。


 なぜなら、俺は既に奴の後方にいて、魔獣が牙を突き立てた筈の俺は、只の丸太へと変わり果てたからだ。


 そう、これぞまさに忍術の王道、幻遁・空蝉の術。攻撃を受けそうになった瞬間に自分と丸太が入れ替わるのがこの術だ。

 尤も別に入れ替わるのは丸太でなくてもいいのだけど、忍者界では基本的に丸太を扱うのが通例となっている。


 しかも、それに火遁を組み合わせたのがこれであり――丸太が炸裂し、爆発がこだまする。衝撃が木々を揺らした。


 そう、これぞ合わせ忍術・空蝉発破の術。入れ替わった丸太が更に続けざまに爆発し不意打ちを喰らわせる。


 ふぅ、それにしても中々の相手だった――ッ! おいおいこいつまだ倒れてないのかよ! 爪の斬撃が俺に迫る。


 しかもどうやら左右の爪で地上と空中に放ったようで、こうなると逃げ場がない。


 俺は――魔獣の爪撃を全身で受け止めざるを得なかった。この状況じゃ、それしか手がなかったからな。


 煙が晴れて、俺を認めたネメアレオンの目が――驚愕に揺れている。


 そう、確かに俺は迫る斬撃を一身で受け止めた。だが、その攻撃は俺の皮一枚を傷つける程度に留まった。


「リソースを変えたのさ」


 理解できるか知らないが、魔獣に向けてそう告げる。力王の術で俺の肉体は攻撃面でも防御面でも強化されている。


 しかしそれがどの程度のものなのかは、込められた忍気によって変化する。


 さっきまで俺は力王の術に忍気を全体の十パーセント割り振っていた。だが、今の攻撃は躱せないと判断し、それを二十パーセントまで割り振り直した。


 この手の忍術は、割り振る値が増えれば増えるほど、自然に消費されていく忍気が増えていくという欠点もあるが、当然より多く忍気を込めれば、効果も増加する。

 

 故に、あの獅子一掃爪塵を喰らっても、ダメージは殆ど無いってわけだ。

 

 そしてここからが本番。自然回復があるお前には、中途半端に攻撃を続けても仕方がない。


 だから――


「火遁・烈火連弾!」

 

 まずはこれで火炎弾を連射。魔獣の視界を埋め尽くすほどの弾幕。


 ネメアレオンも避けきれないだろうが、しかし別に下手な鉄砲数撃てば的なものを狙っているわけではない。


 真の目的は、弾幕で相手の視界を奪うこと。そして――烈火連弾に相手が気を取られている隙に。


「雷遁・電光石火の術!」

 

 雷と同化し、まさにイカヅチの如き速さを手にすることが出来る忍術。

 

 これで烈火連弾の終わり際を狙って瞬時に魔獣の横を取り、手を添えて――


「体遁・内破跳弾!」


 そして再び相手の内側に忍気を通す。だが、これは当然只の内破じゃない。普通の内破は、内側の一点にダメージを集中させるが、内破跳弾は内側で忍気が爆散し、細かくなった忍気が飛散して跳弾と化し、内部から全身を蹂躙する。


「グ、グォオオォオォォオォオオッ!」


 手応えはあった。流石の魔獣も全身に及ぶ忍気の攻撃には耐えきれなかったようだ。


 ただでさえ身体の内側は物理反射も効かないしな。


 大きく吹っ飛んだネメアレオンは、森の木々をなぎ倒しながら着弾し、土煙を上げる。


 それから、魔獣はピクリとも動かなくなった。とはいっても死んだわけではない。

 

 ダメージが大きすぎて、動けないのだろう。

 俺は、倒れたネメアレオンに近づき、その姿を見下ろす。


 魔獣の双眸は――どこか諦めに似た感情が滲んでいた。これから迫る死を予見しているようでもあった。


 きっと自分はここで死ぬ――そう思っているのだろう。


 武遁で作り上げたクナイを片手に、じっと魔獣を見やる俺だが――


「……やめた」


 クナイを消し去り、思わず呟く。獅子の瞳が、戸惑いに揺れ動いた。


「――お前、この森の主なんだろ? だったら、ここで殺したら生態系に悪影響を及ぼすかもしれないしな。殺されたあの連中だって、お前がやってなかったら俺が殺ってたしな。だから、殺さないでおいてやるよ。だけどな、その代わり――」


 俺は黄金の獅子の前で屈むと、その毛並みに手をやり――モフモフした。もう、モフりまくった!


「ふぅうぅ、気持ちいいなぁお前の毛並み。同じネコ科だからかな? 何かミーを思い出すぜ」


 そう言われたところで判らないだろうけどな。でも、中々いいモフリ心地だったぞ。こいつも悪い気はしてないのかな? ちょっと気持ちよさそうにしているし。


「さて、モフモフも楽しんだしな。お前も自然回復があればその内回復するだろ? だから達者で暮らせよ。それじゃあな」


 踵を返し、黄金の獅子の前から離れていく。後悔はないさ。いい戦いだったし、拳を交えるとってわけでもないけど、何か憎めなくなってしまうしな。


 だが、そんな俺の背中側から妙な光を感じたような、そんな気がした。


 そして――


「おい! お前、待つのじゃ! 我は、お腹が減ったのじゃ! お前に食べ物を所望するのじゃー!」


 背中に響き渡る、妙に可愛らしい声。幼子のような声、幼女の声。


 振り返る――その視線の先には、何故か何も着ていない裸の幼女が立っていた。


「……いや、誰だよ――」

のじゃー!


霧隠れ流忍び豆情報~印の巻~

忍者が忍術を発動する際に結ぶ印だが当然これにも意味はある。印は一つ一つの動きが術を発動する際に必要な命令式となっており、それを組み合わせるつまり印を結ぶことが忍術を発動させる絶対条件となるからである。また印を結ぶことは集中力を高めることにも繋がり、同時に忍気を高めるのにも役立っていることは忍者界ではあまりに有名な話である。


シノブ「と、俺は親父から聞いたんだ!」

ミー「ミ~(アクビをしながら)」

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