第三十一話 忍者の狩り
「おっといたいた」
俺は発見した魔物を見て思わず呟いた。場所は森に入ってニキロメートルぐらい進んだ先にある開けた一郭。周囲は幹の太い喬木に囲まれているが、狩りをするスペースとしては十分だな。
そしてその隅の方で、あのバーバラの言っていた通り黄色い毛並みをしたドリル状の角持ち巨大兎が三羽、お食事中だ。
食べられているのは――狼系の魔物だな。中々の食欲ぶりだ。こいつら魔物同士でも食ったり食われたりするんだな。
そして、注目はアルミラージの周辺にいる五羽の別の兎の存在だ。それも角つきの兎だが、大きさはアルミラージほどでもなく毛並みは白。
まあ、それでも人間の子供ぐらいは余裕であるけどな。これが多分、ホーンラビットなのだろうな。とりあえず両方看破してみる。
ステータス
名前:ホーンラビット
レベル:8
種族:魔物
クラス:獣系
パワー:60
スピード:90
タフネス:50
テクニック:30
マジック:0
オーラ :0
スキル
突進
ステータス
名前:アルミラージ
レベル:24
種族:魔物
クラス:獣系
パワー:280
スピード:420
タフネス:200
テクニック:300
マジック:0
オーラ :220
スキル
突進、惑わしの視線、後ろ蹴り
称号
下兎の長
予想通り、目的のアルミラージとホーンラビットだったな。どうやらアルミラージは称号の効果でホーンラビットを手下みたいに使えるらしい。
でも、ホーンラビットはかなりLVも低いし、アルミラージからしたら雑兵扱いってところか。
とりあえず狩りを始めるとするかな。今回は課題もあるから、それに合う攻撃方法を選ばないとな。
何せフォクロベアの時は鎌鼬でバラバラにしすぎて素材としての価値を下げてしまった。忍者として同じ轍を踏むような真似はしたくない。
だから今回は素材も最高の状態で持ち帰ること、これが課題だ。
とりあえず食事中の魔物に数歩近づく。そこでようやくアルミラージが長い耳をピクリと揺らしてこちらに気がついた。
振り返り、そして俺と視線をあわせるなり――奇妙な感覚に見舞われる。アルミラージやホーンラビットの姿がブレて見えるようになってきた。
なるほど、これが惑わしの視線の効果か。おかげで俺の視界の中では魔物が分身の術でもしたかのように多く見え、その瞬間に一斉にホーンラビットが飛びかかってきた。
つまり、まずはアルミラージが敵を惑わし、その隙に雑兵のホーンラビットが突撃をかますと、そういう戦法なわけだな。
だけど――忍者なめるな! 体遁・覚醒の術!
これは敵が幻遁関係を行使してきた時に使用する忍術だ。精神を強化し、心を強く持つことで幻覚を打ち破る。
俺の視界がもとに戻り、角を槍のようにして飛び込んでくる五羽のホーンラビットの姿。
それを認めつつ、俺は覚醒の術から流れるように印を切り替え――
「氷遁・氷結輪の術!」
ホーンラビットの突撃が届く前に、術が完成し俺を中心に冷気の輪が広がった。あまりの温度差に俺の回りだけ白くなった気体がぐるぐると回り続ける。
まるで土星の輪っかのようなそれに、ホーンラビット達がぶつかると、ピキピキピキッと音を立て、角から尻尾まで凍りついていく。
活動限界をあっさりと超えた角つき兎達は、そのまま勢いをなくしポトンッポトンッと地面に落ちていった。
目は開いたままだが、確実に命の炎ごと凍てついている。つまりこれで死んだ。
ホーンラビットを倒す上で凍らすことを考えたのは、当然素材の価値を下げない為だ。今の状態のホーンラビットは瞬間冷凍した食材みたいなものだからな。
それによって当然品質は保たれる。肉質も損なわないですむ。
さて、後は雑兵のホーンラビットを瞬時に失って色めきだっているアルミラージ三羽だな。
バーバラは傭兵の質が悪くて討伐率が低くなっていると言っていたけど、正直これに苦戦しているとしたら確かに問題ありと評価せざるを得ないな。
何せこのアルミラージ、確かに惑わしの視線は厄介なのだろうが、それ以外のスキルは取り立てて凄いものはない。
勿論突進にしろ、後ろ蹴りにしろ、威力は高いのかもしれないが、突進は動きが直線的な以上、相手の直線上に立たなければいいだけだし、後ろ蹴りは後ろに回らなければどうということはない。
そして視線は、俺みたいに術でなんとか出来ないにしても相手と目を合わせないよう気をつければいいだけだ。
一人の場合は、それでも中々苦戦する相手かもしれないが、パーティーを組んで挑むなら、しっかり役割分担が出来ているならそこまで恐れる相手じゃないだろう。
まあ、とにかく、今はこのアルミラージを倒すのが先決か。
さて、ホーンラビットは氷遁で倒したけど――実はもう一つ、素材を傷つけずに倒せるいい方法がある。
それを試そうかなっと。
さっきから俺を惑わそうとスキルを狙っているけど、悪いけど俺にはもう通用しないからね。
と、思ってたらホーンラビットみたいに角で突撃してきた! でも――
「風遁・颶風の術!」
俺は素早く印を結び、風遁で相手をふっ飛ばした。とはいってもこの術ではダメージを与えることはない。
術としては突風を起こして正面の相手を吹き飛ばすというものだ。
出来るだけ相手を傷つけずに追い払いたい時には使える術だな。
そしてふっ飛ばしたアルミラージが他の二羽の下へ飛んでいったのを認めると同時に疾駆し、印を結びながらある程度近づいたところで――
「雷遁・電鎖の術!」
突き出した掌から電撃が迸る。先ず一羽のアルミラージに命中し、そこから電撃が鎖のような様相に変化し、残りのニ羽へと連鎖していく。
『ピキィイィイィイイイ!』
最後にそんな鳴き声を上げて、三羽のアルミラージは逝った。
俺の足元にはプスプスと香ばしい匂いを残して煙を上げる魔物の遺骸。
この雷遁も相手を感電で倒せる忍術だけに、素材の価値を下げることもなく片付ける事が出来る便利さがある。
アルミラージにしろホーンラビットにしろ肉も食材として取引されているらしいが、このやり方なら素材の味も損なわないしな。
風遁や火遁に比べたらやはり雷遁や氷遁の方が素材を集めるには役立つかな。
土遁や水遁もあるけど、水場以外での水遁は効率が悪いし、土遁は意外と物理的な攻撃寄りになるしな。
さて、今回は武遁でクナイを作り、それを利用して素材をさばく。教わったように心臓が変化した魔石を抜き取り、皮を剥ぎ、角も外した。
解体が終わった後は、魔法の袋という事にしてある普通の袋に素材を入れるふりして、次元収納の術で取り込んで、と。
別に誰も見ていないだろうけど、癖にしておかないといざという時に行動に移せないかもしれないしな。
さて、まだ時間はあるし、素材はいくらあってもいいって話だったしな。もう少し狩ってみるか。
結局、あれからアルミラージが三十羽、ホーンラビットは百羽も狩ってしまった。
ちょっと調子に乗りすぎたかな。まあでも、あって困るものでもないらしいしな。
そんなわけで、時間はまだちょっと早そうではあるけど、帰路につく事にする。
まあ、だけどな――俺はある程度進み、緑の密が薄くなり始めたところでため息をつき、足を止め呼びかける。
「それで、一体全体先輩方は俺に何のようですか?」
すると、ガサゴソと葉の擦れ合う音が周囲から響き――俺を四方から囲むようにして、ぞろぞろと武器を手にした男たちが姿を見せた。
そして、正面には見覚えのある三人組の姿もあり――
「へへっ、どうやら狩りは終わったようだな。無職さんよ」
霧隠れ流忍び豆情報~遁の巻~
現在は火遁、水遁、木遁、土遁などは遁術と呼ばれ、敵から隠れたり逃れたりするための忍術とされ、遁という文字にもそういった意味が含まれているが、これは忍者界においてその多くが下忍であった事が背景としてある。
つまり、多くの下忍は忍気を戦闘に活かせるまでに昇華させること叶わず、逃げたり隠れたりと言った用途に使用していた為、それを目にした当時の大名や侍が勘違いをし、忍者の遁術は逃げ隠れるための物だ! と広めたことでそのような意味合いで取られることが多くなった。
しかし実は古来より忍者界に伝わる遁というのは、己の命も顧みず任務のためになら盾になることも厭わず忍術を駆使し果敢に戦い続けた忍の者を指す言葉であり、故に遁術が戦闘に特化したものであることは当然の事なのである。
忍「と、俺は爺ちゃんから聞いたんだ!」
妹「へ~凄いね~(ミーをモフりながら聞き流す)」