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第三十話 ギブアンドテイク

 いきなり傭兵ギルドのマスター、女戦士然としたバーバラに欲しいのは俺の身体だと言われた。


 どうしよう……正直オレまだ経験が――


「あんた今、変な事考えてないかい?」

「え? ナンノコトデショウカ?」


 思わず片言っぽくなってしまったよ。とは言え、どうやら俺の思っていたのとは違うようだ。


「全く男ってのはどうしようもないね。言っておくけどあたいはあたいより弱い男に興味はないからね」

 

 あ~なんかそういうこと言いそうな感じはあったけど、見た目通りでしたか。


「それじゃあ、俺の身体が必要というのは?」

「そのまんまの意味だよ。あんたの相棒の話云々な嘘くさい話はどうでもいいとして」

 

 バレテーラ。


「フォクロベアーを倒した腕が本物なら、この依頼をやって欲しいのさ」


 すると、バーバラは壁に貼り付けてあった依頼書を一枚ベリッと剥がして持ってきてカウンターに乗せる。


「ふむ、アルミラージの素材収集?」

「そうさ。あんたアルミラージは知ってるかい?」


 う~ん、地球にいた頃の知識なら、兎みたいな魔物ってことぐらいだな。


「巨大な兎みたいな魔物であってるかな?」

「あんたそういう知識はあるんだね。そのとおりさ」

 

 あっていたな。日本のコンピューターゲーム様々だ。


「見た目はホーンラビットにも似てるアレだね。尤もホーンラビットとはデカさが違う。アルミラージは高さもあんたと同じぐらいあるし、それと毛並みも黄色い。角があるのは同じだけど突進力も違うし、レベルも24程度あるしねぇ」


 24か。フォクロベアよりは少し低いか。


「でも、なんでそれを俺に頼むんだ?」

「決まってるさ。市場で品薄が続いているからだよ。最近の帝都の傭兵もだらしなくてね、腕の良い傭兵も減ってるのさ。おかげでアルミラージクラスになると討伐率が一気に激減してねぇ。あんたがさっき持ってきたフォクロベアだって、三ヶ月ぶりぐらいの入荷だよ。まあ元々フォクロベアはそんなに数が多くない上に夜行性だから、あまり出回らないんだけどね」


 そうなんだな。まあ、あのフォクロベアも魔物使いに使役されていたのを狩っただけだけどな。


「でも、アルミラージは昼間でも現れるからね。あんたの実力が本物なら、ぜひ狩ってきて欲しいのさ」

「ふむ、それをこなせば情報をくれるのか?」

「ああ、勿論それぐらいの実力があると判れば、あたいも遠慮なく教えてやるよ」


 まさか情報を得るのに実力を試されるとはね。でもまあ、まだ時間はたっぷりあるしな。


「それで、どれぐらい狩ってくればいいんだ?」

「いくらでも構わないさ。ま、聞くとやるとじゃ大違いだし、最悪一羽でもいいけどね。ただ一つ注意点がある。アルミラージは惑わしの視線というスキル持ちだ。これを喰らうと幻覚をみてしまって思うツボだから気をつけるんだね」


 ま、目は見ないことだね、と付け加えてくれた。なるほど幻惑する眼ね。


「アルミラージはここから北側の森にいるから、そのあたりを狙うのが一番の近道だねぇ」


 おっと、それは結構重要だから聞こうと思っていたけど先に教えてくれてよかった。

 北なら城から最も近いしな。それなら行動範囲も広げられるってものだ。


 後気になると言えば――


「ところで、傭兵同士でいざこざなんかもあったりするのか? 素材の奪い合いとか?」

「そんなのはしょっちゅうだよ。勿論目的のために一時的でもパーティーを組んだりすることもあるけど、基本狩りとなればどう出し抜いてやろうとか考えてる連中も多いしねぇ」

「それじゃあ……例えば命を奪われる場合もあるのか? その場合責任とかはどうなるんだ?」


 俺がそう問うと、バーバラが声を上げて笑い出す。


「全く、そういうところは妙に甘ちゃんだねぇ。最初にも言った通り傭兵をやるなら生きるも死ぬも自己責任さ。殺されて素材を奪われたりしたら奪われたテメェのせい。逆に返り討ちに遭うなら自分の力量も考えずに手を出したそいつのせいさ」


 なるほどね。自己責任ってのはそういうのも含まれているのか。


「まぁとは言えね。何の罪もない人間を殺せば相手が一般人だろうと傭兵だろうと、称号には罪人の証がついちゃうだろうけどね」


 罪人の証――スラムに入ってすぐ因縁つけた連中も似たようなのをつけていたな。


「それがつくとどうなるんだい?」

「とりあえず、ある程度大きな街には簡単には入れなくなるね。閲覧許可を求めて称号チェックする場合も多いからねぇ。まあ、中には偽装のスキルでごまかしたり、そういう効果のあるアイテムを使う連中もいるね。あとは、帝都には多いけど、門番にいくらか握らせてるパターンさ。帝都は勿論帝国で一番デカい都だけど、門番なんかはスラムがあることも傭兵が出入りしているのも知っているからねぇ。ある程度はそれで済んでしまうのさ」


 なるほどな。地獄の沙汰も金次第ってわけか。


「相手が襲ってきたのを返り討ちにした場合はどうなるんだ?」

「その場合は称号に犯罪の証が付くことはないよ。それにしてもあんた本当にそういうのは疎いんだね。変わった男だよ本当」


 呆れたような逆に感心したような、そんな目を向けつつバーバラは肩をすくめた。

 とは言え、これで聞きたいことはだいたい聞けたな。

 

 なので、一旦ギルドを辞去し、そして先ずマジックアイテムを扱っている店を冷やかし、魔法の鞄や袋がどんなのかを見ておく。


 一応、商品として見た目に拘った物もあったけど、普通に使う分には、地味でパッと見は普通の袋や鞄にしか見えない物もある。勿論そっちのほうが安価だが――


 俺はそれをチェックしてから今度は普通の(・・・)袋や鞄の売っている店に向かう。


 そこであまり邪魔にならない程度の袋を購入した。百ルゼルだった。


 後はこれを適当に巻きつけて行動すれば大丈夫だ。見た目じゃ魔法の袋かどうかの区別がつきにくいしな。だから俺は、これに素材などを入れるふりして時空遁の次元収納を使うことにする。


 これならバレないですむしな。

 さて、これで準備は万端だ。さっきから色々見られている(・・・・・・)のが気になるところだけどな。


 さぁ、初めてまともに帝都を出ることになるな。バーバラから聞いていた通り北側の門から森へと向かう。


 門番には傭兵であることを告げれば、出るのは問題ない。むしろ入るときのほうが大変なようだ。


 帝都の住民としての登録(プレートみたいなのがもらえるようだ)が済んでいるならともかく、傭兵みたいなのは基本根無し草みたいなものだ。


 だから傭兵が戻ってきて再び帝都に入るには仕事をしたっていう証明が必要だ。つまり狩りなら素材を見せたりそういった事が必要になるって事だ。


 中々に面倒だが、まぁしゃあないことだな。


 さて、門を抜け森に入る。あとはあてもなく獲物を探して、というのも非効率だから、ここで偵遁を使う。


 俺は諜報専門忍隊所属ってわけでもなかったから、流石にそれを専門としている上忍の偵遁には負けるけど、それでも――


「偵遁・偵知の術――」


 偵遁には周囲の地形を把握する感知の術や、敵の場所を探る索敵の術みたいな術が多い。そして、その中でも偵知の術は究極系の忍術だ。


 なぜなら、偵知の術は忍気を網の目状に細かく張り巡らせ広げることで、周囲の地形把握から敵の察知、周囲の生命体やその他様々なものの位置情報をこれ一つで仔細に知ることが出来るからだ。


 尤も、その分忍気の使用量はかなり多い。だから常時展開というわけにもいかないけど、まあ俺も記憶力いいし、一度やればその時の情報は全て把握できる。


 俺が使用した場合の効果範囲は半径ニ、三キロメートルってところだ。偵知の術で展開する忍気は球体のようにも変化可能だから、上空や地下にも対応できる。


 さて、後はこの情報を頼りに獲物を探すだけだな。偵知では流石に看破の術ほど個別の詳細な情報はつかめないけど、それでも大体の強さは経験から把握できる。


 それでも、似たようなLVの相手がそこらに徘徊していたら、ある程度は虱潰しに探すことになったかもだけど、どうやら本来昼間はそこまで強い魔物はいないようだな。


 昨晩のあれは夜行性の魔物が強いという特性から来るものなのか、それとも単純に夜は魔物使いの使役している魔物が多いからなのか、その辺りは不明だが、調べて見る限りあの魔物使いも近くにはいないようだ。

 

 まあ、見張りは夜専門なのかもな。昼は城の警備の目も厳しいからわざわざあのマビロギとかいうのに任せるまでもないって事なのかもしれない。


 さて、そんなわけで偵知の術で調べる限り、魔物は(・・・)LV10から高くても15程度といったところか。勿論あくまでこのあたりの話であり、樹海と言っても差し支えない広さを誇るこの森の奥はまた別かもしれないけどな。


 ただ、少なくとも今回の獲物に関してはそこまで奥に行かなくても良さそうだ。そう、その程度の魔物が多いからか、逆に目立っているんだよな。


 LV20超えのアルミラージの気配がな。

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