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第二十八話 傭兵ギルド

 とりあえずあの連中に聞いた傭兵ギルドとやらを目指すことにした。


 しかし、驚いたことに傭兵ギルドはどうやらこのスラムの中にあるらしい。

 なんでこんなところに? と思ったが話を聞いて納得した。

 傭兵が出入りするような血なまぐさいギルドが普通に街中に建てられるわけがないからだそうだ。


 なるほどな。そして妙に戦士然としたいかつい男達が散見できる理由も判った。


 ただ、どうやら傭兵は全体的にあまりイメージがよくないらしい。


 一方で冒険者ギルドは管理がしっかりしている組織という事もあって、まだ帝都にも所在していたころには商業区あたりに建てられていたようだな。


 まあ、そんなわけでスラム街を歩くが――う~ん確かに途中歩いてきた街並みとは様相が違いすぎるな。


 特に一等住宅区近くはゴミひとつ転がって無くて綺麗な印象だったけど、このあたりはゴミどころか犬猫の死骸や排泄物、よくわからないドロドロしたものや、腐った肉なんかがいたるところに放置してある。


 なんなら明らかに人骨っぽいのも転がってるし、蝿が集ったり蛆がわいたりなんて当たり前だ。


 俺が最初にあてがわれた部屋も中々だったか、ここら一帯も結構匂いがキツいな。


 それでも建物が赤で統一なのは変わらないが、しかし壁には明らかに後から塗られたと思われる朱色の染みがこびりついていたりもする。


 勿論それは塗装なんかではなく、まあもっと自然なものだろうけどな。


 当然だがこのあたりに住んでいると思われる人々も中々個性的な面々が揃っている。

 とりあえず地べたに腰をつけて虚ろな目でどこか遠くを見ているような人や、恵んでほしそうな目を向けてくる人、随分とけばけばしい客引きの女性、薬どうだい薬? なんて怪しい呼びかけをしてくる連中。


 そして――


「よう兄ちゃん、見ねぇ顔だな。まあいいや、とりあえず身ぐるみゴブぉ!」

「なあちょっと尻かしてくれよ尻、ゲブぁ!」

「金よこせオラ! 金だ金金! ぐぶぉマネぇ!」

「うぉぉおおおおおおおおおぉお! 尻を寄越せーーーーーーーー! ギャーーーー!」


 こんな感じで五十メートル置きぐらいにイカれた連中に絡まれる。全員ぶっ飛ばしといたけど、マジで金か尻なのかよ!


 やべぇな。色々パーツ組み合わせたけど、結果的に見た目はいい感じに変化してるのが裏目に出たか。


 いや、別に願望ってわけじゃないんだけどな。元の俺も顔は並だし。妹からは、お兄ちゃんはシャンとすれば二枚目と三枚目の中間ぐらいなのに、とかなんとも返答に困る微妙な評価されたりもしたけどね!


 そんな事を思って絡んでくる連中をぶっ飛ばしながら歩いていたらいつのまにか傭兵ギルドらしき建物についていた。


 らしきというのは、本当にそうか自信がもてなかったからだ。一応なんか兜と剣が刻まれた板が、入口の前にぶら下がっているけど、すげーボロっちい。


 建物も二階建てだけど、あっちこっちに簡易的な補修、つまり板を打ち付けただけみたいな修理の兆しが見え、しかもやたらと染みが多い。屋根だけは赤いけど、それ以外は素材まんまといった佇まいだ。


 大丈夫かこれ? 色々心配に――


「グボラァアアァアアァアアァ!」


 思っていたら板で打ち付けられていた壁がぶち破れて男が吹っ飛んでいきました。


 地面にしこたま体を打ちつけてゴロゴロ転がっていってます。


「てめぇ! 偽物であたいを誤魔化そうだなんて百万年早いんだよ! てめぇはもう出禁だ! 二度とこのギルドに足を踏み入れんじゃないよ!」

「ひっ、ひぃいいっぃいいい!」


 うん、かなりガタイのいい男だったんだが、それが情けない悲鳴を上げて脱兎のごとく去っていったな。


 さて――帰るか。


「チッ、また壁が壊れちまったよ。それで、あんたうちに何かようかい?」


 そう思っていたら、普通に目をつけられました。仕方なく振り返る。うん、男っぽい口調ながらもなんとなく雰囲気からわかったけどね。


 壁の穴から俺を見下ろしてきているのは――逞しいという表現がぴったりの女戦士だった。

 




◇◆◇


 とりあえず立ち話も何だから中に入りな、と有無を言わさない雰囲気で言われたので素直に中に入った。


 ちなみに壁の穴から入ろうとしたら、ちゃんと入り口から入れ! と怒鳴られた。

 そういうところはこまかいのだな。


 何はともあれカウンターの前で彼女と対面する。う~ん、ところでこの人は一体どんな立場の人なんだ? 受付嬢にしてはごっついし、さっきの感じだと問題が起きた時も彼女が対応してるみたいだしな。


 いや、それにしても壁破壊するのはどうかと思うけど。


「初めて見る顔だから一応挨拶はしておくよ。あたいはこの傭兵ギルドのマスター、バーバラだ。女だからって舐めた口聞いたら承知しないからね!」


 まさかのギルドマスターでした。

 いや、よく考えたら腕っ節も強そうだしありえるのか?

 それにマスターなら壁を壊してもそりゃ平気か。そして何かいきなり恫喝された。


「それで、あんた名前は? 答えにくかったら偽名でもいいよ」

「いや、偽名でもいいのかよ!」


 思わず突っ込んでしまったよ。なんだそりゃって感じだ。


「ここをどこだと思ってるんだい? 傭兵なんて脛に傷持ってる連中の集まりさ。名前すらも明かしたくないなんて珍しくもない」


 そ、そうなのか。傭兵って大変なんだな。まあでもよく考えたらスラム街に建ってるようなギルドだしな。素性が判らない連中ってのも多いのか。


「それで、名前は?」

「じゃあナナシで」

「舐めてんのかい!」


 えええぇええぇええ! 偽名でいいって今言ったじゃん!


「あたいはそういう適当な付け方が一番腹立つんだよ! 偽名でも気合い入れて考えな!」

「あ、じゃあシノビンで」

「そう、シノビンね」


 そこはいいのかよ。それもわりと適当に考えたんだが。


「それにしても何か力の抜けそうな名前だね~」


 悪かったな。


「ところで、登録とかはやはり必要なのか?」

「登録? は、何を言っているんだい。全くどこの世間知らずだいあんた? それとも何かい元冒険者か何かかい?」

「いや、冒険者はやったことないな。目指そうと思っていたが、帝国ではなくなってしまったからな」

「ふん、まあそうだね。帝国では冒険者ギルドが撤退したから、ま、そのおかげで傭兵ギルドも仕事が増えたっていうのはあるさ」


 女性の割に逞しい腕を組み、一つ頷く。それにしても、よく見ると顔は結構整っているな。なんかシュッとしていて、美人なんだろうけど同時に勇ましい。なんかアマゾネスって感じだ。


 髪は黒、それを後ろでまとめて下に落としてる。ポニーテールってとこだけど、そこまでおしゃれにこだわった感じではない。


 女性にしては肩幅が広く、下手な男は顔負けなぐらい背が高い。そして胸がデカい。

 うん、背が高くてそこがデカいからなんか押しつぶされそうな雰囲気があるな。

 

 そして腹筋がバキバキだ。本当に逞しい。


「だけど、うちは冒険者ギルドみたいにお上品には出来てないのさ」


 冒険者ギルドがお上品なのか……まぁ、向こうは受付嬢とかいるイメージだし、もしかしたら建物ももっと立派なものなのかもな。


「だから、依頼を受けるのも自己責任。生きるも死ぬも自己責任さ。大体一流の傭兵なら、ランクなんてなくても自分の腕がどれぐらいか、この依頼ならこなせる、これは厳しいなんてことぐらい理解できないとな」


 まあ、そう言われてみるとそんな気もしないでもないが、ただ忍者でも下忍、中忍、上忍で仕事が分かれていたりしたんだよな。


 ちなみに俺は中忍だった。実力的には間違い無しに上忍だけどまだ若いから暫く中忍だとか言われていたな。


 実際は上忍になると事務的仕事も増えるし、仕事もある程度は下に任せないといけなくなる。だから稼げる俺は中忍ぐらいが一番いいというのを親父と爺ちゃんがこっそり話しているのを聞いてしまったけどな。


 別にそれはそれでいいけど、だったら小遣い上げろよ。


 まあ、今更だけどな。


「それで、傭兵の仕事というのはどんなのがあるんだ?」

「仕事はそこの壁に貼ってあるのがそうだよ。皆そっから適当に選んでいくのさ」


 バーバラが指差した方を見る。護衛依頼が数件あるけど、全て受注済になってるな。


 後は森にいる魔物の素材集めってところだ。


「見る限り迷宮攻略というのがないな?」

「そりゃそうさ。帝都近くの迷宮と言えば今は迷宮区にある迷宮だけだからね。だけどその迷宮も城からの御達しで許可が出るまで関係者以外立ち入りを禁ずると来たもんだ。このあたりが傭兵ギルドの弱い点だね。冒険者ギルドなら迷宮探索の権限はギルドが強いからねぇ」


 関係者――俺達のクラスの初攻略の事か。まさかそれが決まった裏側で割を食っているのがいたとはね。

 

 とは言え、こればっかりは仕方ない。流石に俺がどうにかできる話じゃないしな。

 それより――


「折角だから迷宮について聞いてもいいかな? あまり詳しくなくて」

「なんだい、質問ばかりだね。まあ、今は忙しくないし、かまやしないけどさ」


 そんなわけで迷宮について聞いてみた。基本的な事は俺が前もって集めていた情報と同じだが新たな情報として、迷宮にもステータスがある事を知った。


 それによると――

 


ステータス

階層:地下五層

難易度:G

迷宮力:5000/5000



 こんな感じのステータスが迷宮に存在するらしい。ちなみにこれは今度俺達が挑戦する迷宮のステータスだ。


 迷宮のステータスを見れるのは迷宮鑑定という特殊な鑑定スキルを持っているものらしい。

 世界的にもこの鑑定持ちは数が少なく、帝国内でも数名しかいないようだ。


 なので、基本迷宮のステータスというのは帝国なら国が、他国なら冒険者ギルドが公開している情報を頼りにすることになる。


 このステータスの内、階層は見ての通りだ。地下の場合は下に降りていくタイプ。地上の場合は上にのぼっていくタイプだ。


 難易度もそのままの意味で総合的な迷宮の難易度を示す。バーバラの話によると最低がGで最高難易度はSとのことだ。


 迷宮力は迷宮が活動する源で生命力みたいなものらしい。迷宮に関してはこれがかなり重要で、迷宮はあらゆることにこの迷宮力を使っている。

 

 例えば迷宮内に生まれる魔物などは勿論、資源やお宝もこの迷宮力が使われている。


 また、迷宮は定期的に構造を変える事があるが、この作業にも迷宮力が使われている。

 そして迷宮力が0になるとその迷宮は崩壊する。ただし迷宮には迷宮核というものが存在し、これが壊されない限りは迷宮力が0になる事はない。

 

 逆に言えば、迷宮核こそが迷宮力を溜め込んでいるタンクみたいなものなので、どれだけ迷宮力が残っていても核さえ壊せば迷宮は崩壊する。


 迷宮も崩壊はしたくないため、核に迫ったあたりの部屋で番人を用意するらしいが、これが俗にいう迷宮ボスとの事だ。


 ただ、迷宮は資源を生み出す宝庫でもあるので、どこの国でも勝手に迷宮核を破壊するのは禁止されているようだけどな。


 後は事前に調べていた時もわかったが、迷宮の中には名前付きの迷宮が生まれる場合もあるらしい。これはネームドダンジョンとも呼ばれていて、大体どれも普通の迷宮よりも難易度が高いようだ。表示されている難易度もそのままの意味では見れないらしく、通常の迷宮の二つ上ぐらいに見ておいたほうがいいらしい。


 つまりネームドダンジョンの難易度の表示がCだった場合、普通の迷宮の難易度A相当に値するってことだ。


 ちなみに今度行く迷宮は、あの皇帝が試練の迷宮と呼んでいたけど、初心者向けだからそう呼ばれることがあるってだけで、ネームドダンジョンってわけではないらしい。


 ふむ、つまりこれってAランクやSランクのネームドダンジョンがあったら、どれだけ攻略が難しいんだって話だよな……。

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