第二百十七話 港町ハーフェンに向かうもう一人の友
海賊船を奪ったケントたちは船でハーフェンに向かっていた。なお先に乗っていた海賊の殆どは船の中に用意されていた牢屋に閉じ込められている。
とは言え、ケントたちはこの船の操作には詳しくなかった。川渡りの時に使用した船とは規模も違い操舵も決して簡単ではなかったからだ。
故に船の操縦が可能な海賊だけは牢屋から出して操舵させていた。
「全くなんで私がこんなこと」
「いいから黙ってハーフェンに向かうんだよ」
操舵をしているのは女だった。見た目には鎧を着こなす女騎士と言った様相でありあまり海賊っぽくなかったりする。
「お前らわかっているのか。今向かってるハーフェンは水滸海賊団が占領しているんだ。お前らただでは済まないぞ」
「……それを聞いたらますます黙ってられないな。親友を放ってはおけない」
女騎士から話を聞きケントが答えた。その表情は真剣そのものだった。
「……ところで、お前らの中に刀を持っていたり忍者のような格好したのがいたな。あれは一体どういうことだ?」
「そんなこと私が答えると思っているのか」
「いい度胸だねぇ。この状況で意地になってもいいことないよ?」
ケントの疑問に答えようとしない女騎士相手にバーバラが凄んだ。他の仲間が全員牢屋に入れられている状況では女騎士も何も出来ない。
「殺すなら殺せばいい。だが私がいなきゃこの船を動かすものはいないと思うが?」
「テメェ……」
「……やめておけ。この騎士の言うとおりだ。それに別に無理して聞きたいわけでもないからな」
憤るバーバラをケントが止めた。ケントの質問はあくまで興味本位から来たものでありそこまで重要なことでもなかったのだろう。
「……あたいもちょっと頭に血が上りすぎたね。海風でも当たって頭を冷やしてくるよ」
そう言ってバーバラが船首に向かった。
「で、でもよく船の操縦を引き受けてくれましたね」
「フンッ。仲間が助かるために仕方なしよ」
リョウが不思議そうに口にすると女騎士が答えた。それを聞いていたケントは射抜くような視線を女騎士に向けていた。
「ケントくん。怖い顔してどうしたの?」
ケントの様子を気にしてかチユが問いかけた。
「あぁすまない。ただ油断は出来ないな……」
ボソっとケントが呟く。ケントは女騎士の理由を言葉通りには捉えてなかった。この状況であっさり船を動かしているのは恐らくハーフェンにまでいけば仲間の海賊がなんとかしてくれると思っているからだろうと察していたからだ。
そして船は着実にハーフェンに近づいている。女騎士の話では後一日もあれば十分だと答えていた。
「いざという時の心構えは必要かもな」
「や、やっぱり危険なことが起きるんですか?」
カコが不安そうに問いかけた。ケントは静かに頷いた。
「……もしかしたらその予想は早くも当たったかも知れないよ」
船首に立っていたバーバラがポツリと呟く。その言葉にケントたちは一斉に船首に目を向けた。
バーバラは目が良いようだがケントも負けてはいない。だからこそ気づけた。
「船が近づいてきている。真っ黒な船だ」
「アハハハハハハッ!」
話を聞いた途端、女騎士が突然笑い出した。何だ? とケントたちの目が女騎士に向けられる。
「どうやら早速来てくれたようね。貴様らが見てるのは水滸海賊団で鉄壁を誇るアイアンウォール号さ。覚悟を決めることね」
女騎士は誇らしげに語った。そんな一行の下へ徐々に近づいてくる漆黒の鉄甲船に緊張感が増していった――