第二百二十五話 マイラの困惑
「一人はぶっ殺した。残りも自慢の大筒でやってやるぜ!」
肩に大筒を担いだ巨漢が高々に叫んだ。一方でフードを目深に被った男が羅針盤のような物を取り出しじっと針を見ていた。
そしてほぼ同時に地面に丸太が落っこちる。
「変わり身か――」
ローブの男がそう口にした瞬間、パッと二人がいた位置に影分身のシノブが現れた。シノブは咄嗟に忍術でタイホウの攻撃を避け二人の背後に回り込んでいた筈だった。だが、今は位置が完全に逆転している。
「陰陽逆転――」
「こいつ!」
「チッ、これだから忍は姑息で嫌いだぜ! 武術・回転乱筒!」
「風遁・風幕の術!」
シノブが印を結び術を行使――タイホウの振り回した筒を風の幕で防ぎつつ地上に落下した。
「シノブ大丈夫か!」
「中々大丈夫とも言えない状況だな」
カテリナに声を掛けられシノブが答えた。シノブはあくまで分身であり忍気が切れれば消えてしまう。そういう意味ではあまり余裕がない。
「どういうつもりっすか! 何故こんな真似を!」
一方で少し離れた位置ではマイラがペデルに向けて問いかけていた。声からは悲痛な思いが感じられる。
「何故? むしろ僕たちに普通に話しかけてきているあんたが不快で仕方ない。村を見捨てたお前が!」
「え?」
ペデルの答えにマイラが目を丸くさせていた。一体何のことかわからないといった様子だ。
「待つっす! 一体何を言ってるかわからないっす!」
「わからない? なにそれ意味がわからない――」
マイラの反応にグリルの様相が変化した。周囲の温度が高まりその背後から炎の天使が姿を見せたのだ。
「な、なんすかそれ?」
「村のみんなみたいに――焼け死んじゃえ」
炎の天使がマイラとの距離を詰めた。
「グリル、どうしてっすか?」
「何をぼっとしてるっすか!」
ピサロが駆け出しマイラの首根っこを掴んだかと思えば槍を利用して飛び上がりギリギリで炎の天使の攻撃から逃れた。
「よくやったぞピサロ!」
「たく、まどろっこしいのは嫌いだぜ! 武術・火筒乱破!」
マイラが助かったことに安堵するカテリナだったが、直後タイホウが肩に担いだ大筒を利用してめちゃくちゃに撃ちまくった。
「無茶し過ぎだろう!」
周囲に砲弾が命中し弾け飛んでいく。その様子にシノブもつい叫んでいた。
「ペデル、グリル。さっさとしろ。目的を見失うな」
黒ローブの男が静かに命じた。マイラを睨み続けていたペデルだが、はいと一言呟き、かと思えば印を結びだす。
「あいつ! 忍術を!?」
「木遁・根の束縛」
シノブが目を見張った。なにかの間違いかとも思えたがペデルの印が完成すると同時に地面から伸びた根があっというまに子どもたちを捕らえた。
「なにこれッ!?」
「嫌だ、怖いよぉ」
「どうして、ペデルお兄ちゃんグリルお姉ちゃんどうして!」
泣きわめく子どもたちだが問答無用で根によって地面に引きずり込まれてしまった。
「ペデル、あんた、何やってるっすかぁあああ!」
マイラが叫んだ。だがペデルは極めて冷静に口を開く。
「これは――救済だ。僕はお前とは違う」
「よくやったぞペデル。後は我らに任せてお前らはセイレン様の元へもどれ」
タイホウと黒ローブが二人のそばに着地しそう告げた。ペデルがコクリと頷くと再び印を結びだす。
「させるかよ!」
シノブがクナイを投げた。だが黒ローブが羅針盤を回すとクナイが消えシノブの背後からシノブ自身に襲いかかった。
「チッ――」
クナイから逃れるシノブ。しかしその隙にペデルとグリルは地面から生えた根に呑まれ地面に消えていった。
「二人はどこに!」
「はは、お前らはその前に自分の心配をするんだな! 武術・爆裂大破!」
タイホウの大筒が火吹きを上げ火の玉と化した砲弾が一同に襲いかかった――