第二百二十三話 逃げる子どもたち
「本当に神父様が悪いことを考えているの?」
逃げている途中、子どもたちの一人が不安そうに呟いた。他にも怯えている子どもたちは大勢いる。
「そうだよ。あの神父は僕たちを海賊に差し出そうとした悪者なんだ」
「でも安心して。今はシノビンお兄ちゃんがあの悪者を引き付けてくれているから、今のうちに逃げ出しちゃおう」
「でも、逃げてどこに行くの?」
「それならもうお家へ帰りたいよぉ」
「ママぁ……」
子どもたちが不安を口にしてた。その様子にペデルが顔を顰める。
「いい加減泣くのはやめろ。大体家にだって? お前たちの親が一体何をしてくれた? 海賊が現れても助けることもなくただの案山子に過ぎなかった筈だ。子どもだからって甘えるのはもう終わりにしなければいけない。僕たちはもっと強くならないといけないんだ」
「え?」
「ど、どうしたのペデル? なんだかお顔が怖いよぉ?」
ペデルの言葉に皆一様に困惑している。だがペデルは気にせず続けた。
「それにね。もし仮に僕たちが逃げたとしても、きっとあいつらは追ってくると思うんだ。だったら戦うしかないよ。どうせこのままじゃいつか捕まってしまうんだから」
「ペデルの言う通りなんだよ。だから私たちが頑張って強くなって、皆を見返してやろうよ。そうすればもう裏切られることもないんだから」
グリルがニコッと微笑む。だが子どもたちはやはりどこか不安げだった。とは言え現状は二人についていくしかない。
子どもたちは大人しくペデルとグリルに従ってそして地上に出た。
「いたっす! シノブ、いやシノビンの言っていた通りっすね」
「まぁ俺は分身だがな」
「本体はこの中にいるのか。お前たち大丈夫か? 私達が来たからにはもう安心だ」
ペデルとグリルが子どもたちを連れて外に出るのとほぼ同時に何者かが駆けつけてくれていた。
一人はシノビンでありこれにはペデルも驚いた様子。だが何よりその目は一緒に来ていた少女に向けられてそして固まっていた。
「嘘……マイラお、姉ちゃん?」
「え? あ、あぁあああ! まさか、ペデルっすか! それにグリルまでどうしてここに二人がいるっすか!?」
「何? マイラの知り合いなのか?」
マイラは随分と驚いた様子だった。それに一緒についてきていた姫騎士のカテリナも困惑していた。
他にも何人かついてきているが全員シノブの仲間だ。シノブは影分身の術で生み出した分身に頼み子どもたちが逃げ出そうとしている為、サポートしてほしいと前もって伝えていたのだ。
「……あたしが育った村の子どもっす。でもてっきり……」
「てっきりなんだ? お前が見捨てた村の生き残りがいて驚いたのかい?」
「え? 見捨てた、な、なんのことっすか!」
「だまれぇえええええええぇえ!」
ペデルが怒鳴り声を上げ、子どもたちの肩がビクッと震えた。泣きそうになっている子どもまでいる。
「グリルお姉ちゃん、ペデルくん何かおかしい」
「うるさい黙れ――」
グリルの側にいた子どもがグリルの袖をつかもうとするも振り払われ今まで見たこともない形相で睨まれた。
子どもたちはもう何も言えなくなっていた。かと思えばペデルがナイフを取り出しマイラに向けて投擲していた。
「え?」
投げられたナイフは八本。だがそのナイフはマイラに届く前に別なナイフで弾かれそして爆発した。
「……爆薬を塗布したナイフ。それ完全に殺す気だったな。洒落になってないぞ」
「ハーゼ。よくやったっすね」
「……お前喋るな。マイラと一緒だとややこしい」
「相変わらずおいらの扱いヒドイっすね!」
マイラへの投擲を防いだのはカテリナに同行している暗器使いのハーゼだった。その少し後ろで槍を構えているのは同じくカテリナに同行している槍使いのピサロである。
「一体どういうことだこれは。我々はお前たちを助けに来たのだぞ。それなのに何故マイラを攻撃する!」
カテリナが叫んだ。そのすぐ横では影分身のシノブが苦い顔をしていた。
「どうやら嫌な方の予感があたったようだな」
「嫌な方の予感? それは一体なんなんす――」
「チィィイィイイイ!」
ピサロがシノブに聞こうとしたその時、シノブが空中に飛び出し、そして爆発した。轟音が鳴り響き黒煙が空中に広がった。
「シノブ!」
「な、一体何が?」
「ガハハハッ。どうやらハエを一匹仕留めたようだな」
「……タイホウ。お前は考えなさすぎだ。それで回収予定の奴らも壊したらどうするつもりだ」
全員が見上げると大筒を肩に担いだ巨漢と黒ローブ姿の男が屋根の上に立っていた――




