第二百十二話 隠れ潜むもの
「子どもたちを守るのが目的なのです」
俺の質問にクリア神父が答えた。どことなく心苦しそうにも感じられる。
「守るというと海賊からか?」
「はい……奴らは水滸海賊団と名乗る海賊です。ある日突然町にやってきてここを占拠すると……」
まぁ最初から海賊がこの町にいたわけないしな。
「この町には騎士か何かはいないのか? 見たところかなり好き勝手やられているようだが」
「勿論最初は騎士や冒険者が抵抗しようとしました。しかし奴らの力は凄まじく多くが犠牲になりました。しかもあの海賊達は妙な力で子ども達を爆弾に変えたと……実際何人かの子どもも犠牲になりました。子どもたちまで人質に取られ……」
つまり町を守る騎士や冒険者も為すすべもなくやられ、更に子どもの命まで奴らの手のひらに乗せられどうしようもなくなったってことか……
「その子どもについては俺も知ってる……済まないな。そんなことになってるなんて知らずに縛られていたのを助けようとして……」
皆の表情が一気に沈む。その子どもがどうなったかなど聞くまでもないのだろう。
「――仕方ありません。それが奴らの手でもあるのです。この町の大人はもう子どもに近づこうとしません。だから近づくものがいた場合にはそれが侵入者だとわかる。そういう考えなのです」
つまり生きたアラームってわけか……忌々しいやり方だな。
「大人たちは助けようとはしないのか?」
まぁそれが出来るならとっくにやってるだろうとは思うけどな。神父も険しい表情で首を左右に振る。
「皆完全に恐れてしまってるのですよ。子どもについて奴らは全員が爆破するとは言ってませんでしたがそれが逆に不信感を強めたのです。親も自分の子どもを守ろうとしますが他者の子どもには警戒心が強まるようになる上、ちょっとでも奴らにとって気に入らないことがあればどこかで子どもが爆発し近くにいた人間は巻き込まれてしまう……」
神父の悲痛な叫びに俺も心が痛くなる。とんでもなく陰湿な手だ。そうやって奴らは町の人間の精神さえも蝕みそして逆らえないようコントロールしてしまったのだろう。
「しかし、だとして神父さんは大丈夫なのか? 地下に隠れて子どもを匿ってそれこそ危険なんじゃないか?」
「私は死んだことになっていますので」
「うん? 死んだことに?」
「はい。私のスキルに神のお導きというものがありまして……教会が近くにあればたとえ死んでも教会で蘇生出来るのです」
そりゃまた……随分と便利なスキルもあるものだな。
「それって事実上死なないってことか?」
「いえ。そこまで万能ではありません。先ず教会で生き返るまでにそれ相応の時間が必要です。それに一度復活するとそこから四十九日間は再発動は出来ません」
なるほどな。確かにそれだけ強力なスキルを無条件でポンポン発動できるわけないか。
「私は海賊の行為を見逃すことが出来ず口を出して一度は殺害されました。ですが、おかげで私は死人として自由に動くことが出来ます。その上で自分なりに調べて回り、気がついたのです」
「気がついた?」
「はい。奴らの力も無条件でどこからでも爆破出来るわけじゃない。認識外にいる相手は爆破出来ないのです。それならばと密かに子どもたちを連れて地下に潜むことにしたのです」
……なるほどな。それが事実なら奴らに気づかれさえしなければ子どもは助けることが可能か。
だが――俺の脳裏にあのセイレンという男の顔が思い浮かぶ。
あいつの忍術は強力だ。水遁系だがそれだけに港町のここで強い力を発揮できる。
にしては――こんな致命的な穴に気づかないものなのか?
しかし、実際俺は助けられてここにいるしな……とにかくこの事は分身に伝えておくか。
その上でだ。
「とにかく話はわかった。改めて助けてくれた事にも感謝している。だが、このまま、というわけには当然いかないよな?」
「……それは――」
神父が難しい顔を見せた。そうクリアだってわかっている筈だ。このままこそこそ隠れているだけじゃ何も解決しないことぐらいな。
その後、神父はとにかく今日はゆっくりお休みくださいとだけ答え、何もいうことはなかった。
まぁ、この町の問題ではあるが、だからといって神父一人でどうにかなる問題ではないだろうけどな――
「あ、あの……」
部屋に戻った俺の下に二人の少年少女がやってきた。一人は最初に俺と目があった少女で、もう一人は少女より二つ三つ年が上そうな少年だ。
「どうかしたのかい?」
何か話したそうだから聞いてみた。すると少年の方が真剣な目を俺に向けてきて答える。
「あ、あの! 僕たちを助けてください!」
……ふむ、助けるねぇ――




