第二百十話 目覚める時
少しずつ、意識が覚醒していった。俺は、どうなったんだったか?
いや――そうだ。確かあのセイレンとかいう野郎にやられそうになって……結局俺はマビロギのおかげで助かったんだったな。
あの時、マビロギは敢えてゴブリンの事を持ち出し俺の急所を狙うと言ってきた。そこでもしやと思った。
だから俺はマビロギの使役した魔物が放った光線を受ける直前に心臓をずらした。賭けだったが忍気を利用すれば心臓一個分ずらす程度は出来る。
その上でやられたふりをしたが、まさかダメ押しに爆破までとはな。一歩遅かったら土遁で潜るのも間に合わずまさしく消し炭だったぞ。
たく。だけど近くに海賊共の死体があったのが幸いだった。咄嗟に死体を引き寄せ身代わりにして土遁で土に潜った。
本当ギリギリだったけどな。今思えばあいつ、本気で俺を助けるつもりがあったのか訝しく思えもする。
ま、相手の実力を考えたら中途半端な真似してもバレていただろう。本気で殺すつもりでやったからこそ何とかごまかせた。
そこまではよかったが――
「ここはどこだ?」
地中から這い出た後、俺はボロボロだった。満身創痍もいいところだったがそんな俺に近づいてくる奴がいた。意識を失ったのはその直後だ。
そして――俺は今ベッドの上で寝かされている。知らない天井が見えた。
「この包帯――誰かが手当してくれたのか……」
改めて俺は置かれた状況を確認する。全身に包帯が巻かれていた。治療は結構しっかりしている印象だ。もともと傷の治りが早いのが忍者だが、それにしても包帯の巻き方といい手慣れた感じだ。
周囲は――所々木の板が貼られているが土壁の目立つ土の匂い漂う部屋だった。
俺が寝かされていたベッドは木製か。上から布が掛けられていたがシーツと呼べるような上等な物ではない。部屋は薄暗く剥き出しのロウソクの灯のみが頼りといったところか。
さて、どうしたものか、と色々考えを巡らせていると正面の木製のドアがギギッと鈍い音を残し開かれた。
「あ――」
中に入ってきたのは帽子をかぶった、少年? 少女? ちょっと判別がつかないがまだ幼い子どもだった。手には燭台がありその明かりでこっちを照らしている。
「や、やぁ。君が俺を助けてくれたのかな?」
とにかく状況を知りたいから尋ねてみる。その子は俺を見て目をパチクリさせた後、ハッとした顔になってまた部屋を出ていった。
「神父様ーーーー! 目を覚ましたよ~~~~!」
高い声で叫ぶ。神父様――あの子がこの包帯をしたようには思えないしもしかしたらその神父が俺を助けてくれたのかもしれない。
そして暫くしてからまさに神父といった出で立ちの男が部屋にやってきた。白髪をした面長の男だ。年齢的にはだいぶ上の初老の神父だ。ワンドを手にしているが子どもたちと違いワンドの先端に明かりを灯している。これは魔法なんだろうな。
「良かった。気が付かれたのですね」
神父が温和な笑みを浮かべる。人当たりは良さそうだ。部屋の向こうから子どもたちの声が聞こえてくる。
一人二人――多いな。神父が一人。子どもは十二人か。
「貴方が俺を?」
「はい。申し遅れました。私はこの町で長年神父をしているクリアと申します」
頭を下げ名前を教えてくれた。名前か――
「……俺はシノビンだ。助けてもらって感謝する」
やはり名前はシノビンで通すべきだろう。しかし――ここ、おそらく地下にあるな。妙にジメッとしてるし子どもたちも神父も土の匂いが染み付いている。
様子を見るに元からと言うより隠れ潜んでいるといったところか。
「体調は大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。怪我もしっかり手当してくれたんだな。本当に助かったよありがとう」
「礼にはお呼びません。貴方の命が助かったのもきっと神の思し召し」
神父が胸の前で十字を切る。神のね……まぁ忍者の世界も神と全く無関係ではない。俺も一応お礼を言っておくか。ありがとうな神さん。
さて、話しながらも気になるのは分身の動向だな。一応確認してみるか――これは、そうかやはり合流していたか。だが忍気の消費が激しい。
不味いなこれはもう持たない――時間的に記憶を完全に同期する暇はなさそうだ。とにかくお互い最低限必要な情報を……
「ところでお腹は減っておりませんか?」
情報交換をしているところでクリアに声をかけられた。言われてみれば、空腹感はかなりある。忍者はいざとなったら数ヶ月は飲食がなくても大丈夫なように訓練を受けているが腹が減らないってわけじゃないからな。
「確かに空腹感はあるかもしれない。俺はどれぐらいここに?」
「三日は経ちますね。本当に心配いたしました」
三日かどうりで――