第二百九話 分身シノブ対ダイダル
お待たせいたしました。
母娘を連れて皆のいる場所に向かうと随分なデカブツが暴れていた。しかも結構な奴なようだ。
「ここで大人しくしていてくれ。俺は皆を助けないといけない」
「わ、わかりました!」
「お兄ちゃん負けないで!」
母娘に頷き返し、そして俺は印を結びデカブツに術を行使した。
「火遁・烈火連弾!」
「ヌゥウウゥゥウゥウウウ!」
俺の放った火球は全てデカブツに命中。しかし、そこまでのダメージには繋がっていないなこりゃ。
「ここぞってタイミングで真打ち登場ってな」
「きたっすねシノビン!」
マイラの声が耳に届く。思ったよりは元気そうだな。
「マイラ。向こうに領主の奥さんと娘がいる。見てやってくれ」
「わ、わかったっす!」
そしてマイラが母娘の下に向かってくれた。これで向こうは大丈夫だと思うが、と!
「あぶねぇなぁおい」
巨大な鎚をデカブツが振ってきた。全く容赦なしだな。
「何だお前は?」
「攻撃してから聞くかねそれ?」
鉄槌を肩で担ぐようにしてデカブツが誰何してくる。そういえば表にはいなかったなこいつ。
「誰でも構わん! とっとと殺ってしまえダイダル!」
向こうで喚いているのはルギラウか。そしてこのデカブツの名前がダイダルってのはわかった。
「気をつけろ! し、し、シノカメン! そいつは手強いぞ!」
「誰が死の仮面だ!」
カテリナが注意を呼びかけてきたが、俺の名前がよくわからんものになってるぞ!
「油断するなっす! えっと、お前はたしかシンデイルでしたっすか?」
「……シッキンでは?」
「お前ら絶対わざとだろ!」
「うぉおぉぉぉおぉおおおおお!」
と、そんな馬鹿なことを言い合ってる時でも容赦なくダイダルが俺に巨大な鉄槌を振り下ろしてきた。
床に当たると同時に発生した突風で流されそうになる。全く大した馬鹿力だ。
「ちょこまかと、ならば! ダイダルブレイク!」
ダイダルの肩が盛り上がり、放たれた一撃でとんでもない衝撃波が発生した。
「金遁・鉄壁の術!」
印を結び、咄嗟に鉄の壁を生み出し衝撃から身を守る。しかし、鉄の壁もビリビリと振動していた。
「むぅ、こんな壁! ダイダルウェイブ!」
壁で視界が塞がったがダイダルが鎚を振ったのは音でわかる。次いで地面を削りながら何かが迫る音。
ヤバそうだから横に飛ぶと鉄の壁を破壊して衝撃が突き抜けた。指向性を持たせた衝撃波かよ。
「全くデカい割に嫌らしい技をもってやが――」
言ってる途中で巨大な火球が迫った。俺を飲み込み爆発する。
「ははぁ! 馬鹿め! この私を忘れていたな!」
「あぁ、すっかり忘れていたがあんたも戦えたんだな」
「何ィ!」
別の場所に姿を見せた俺を認めルギラウが驚いていた。ちなみに火球が爆発した場所には丸太が転がっている。
「変わり身の術だよ。基本だろ?」
「殺す!」
「やれダイダル! 私がサポートする!」
「そんなことさせるわけがないだろう!」
ダイダルが俺に迫り、一方でカテリナがルギラウに向かっていった。
「チッ、フレイムローパ!」
カテリナが近づいて来ていることに気が付き、ルギラウが杖を掲げると、触手のような炎がカテリナに迫っていく。
「……エッチぃの駄目」
するとハーゼが飛び出し、水風船みたいのを投げつける。床に当たり破裂すると水柱が発生し触手を飲み込んで消した。
いや、てかエッチぃってなんだよ! 一体何を想像してるんだ何を!
「ダイダル――」
おっと、俺も向こうばかり気にしてられないな。
「風遁・颶風の術」
「ぬぉおおお!」
奴め、なにかしようとしていたようだが突風を発生させダイダルを狙い撃つ。一瞬ひるんだが――これにも耐えるか。なかなか頑丈だな。
だがこれならどうだ?
「雷遁・霆撃の術!」
突風に怯んでる隙に接近し電撃を纏った拳での連打――ダイダルの巨体に拳がめり込むたびに激しい稲光が迸る。
いくら頑丈な体でも外と内、同時に蹂躙する電撃に耐えられるもんじゃない。これで――
「インパクトーーーーーーーー!」
だが、相手は予想以上のタフネスだった。電撃を受けてもなおカウンターを狙うだけの精神力――そしてこの技は恐らく衝撃を一点に集中させたダメージ特化型。
これをまともに受けたら影分身の俺では一溜まりもないだろう。
「もらった! これで終わり、何ッ!?」
ダイダルが驚愕に満ちた顔を見せる。確かに奴の鉄槌は俺に命中した。タイミングも完璧だった。しかしすり抜けた。霧となった俺の肉体をだ。
「霧遁・霧体の術だ残念だったな」
これは術者の肉体を霧にする忍術だ。霧咲丸があれば刀をなぞるだけで使用できる霧遁。そのため分身の俺は印を結ぶ必要があった為、結構ぎりだったな。
しかし、間に合った。霧化する為、もし大きな衝撃が外側に向かっていたら厄介だったが、今の一撃は衝撃を一点に集めていた。その分威力は飛躍的に向上するようだが効果範囲は狭くなる。
だから霧化しても問題ないと考えた。そして今の一撃によってダイダルに致命的な隙が生まれる。
「これで終わらせるぞ! 雷遁・百雷の術!」
出来れば消費の激しい忍術は控えておきたかったが仕方ない。こいつはチマチマやるよりも一撃大きいのを決めた方がいい!
「グウォオォォオオォォオォオオオオォオォオオオ!」
百本の落雷により、ダイダルが悲鳴を上げそして片膝をついた。所々が黒く焦げた肉体が前のめりに倒れていく。
これで、こいつはもう起き上がれないだろう。
「おお! 流石はシノブであるな!」
カテリナの喜ぶ声が聞こえた。いや、もう普通に名前を言っちゃってるし。
「く、くそ! デカいだけの役立たずが! こうなったら――ナパームレイン!」
ダイダルを倒して安堵するも、ルギラウが杖を掲げ魔法を行使した。天井が赤く染まりかと思えば灼熱の雨が降り注ぐ。
「はっはっは! どうだ! 燃えろ燃えろ! 全て燃やし尽くしてしまえ!」
「いい加減に――しろっす!」
「ぐべぇ!」
高笑いを決めるルギラウにピサロの蹴りが炸裂した。吹っ飛んでいったルギラウが壁に激突し気絶する。
「……愚者は死ね」
「くっ、倒したはいいが火の手が回っていくぞ!」
辛辣なハーゼと緊迫した声を上げるカテリナ。確かに今の魔法で城に火が燃え移っていっている。
「たく、仕方ない! 水遁・放水の術!」
印を結び広がる火に向けて放水していく。水のないところでの水遁は忍気をガリガリ削られていくんだがつべこべ言っている場合ではないな。
とにかく、俺の水遁でとりあえず城が大火事になるのは避けることが出来た――




