第二百七話 分身とカテリナ達の戦い
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「向こうは大丈夫だ。とっくに気がついている」
夫人や娘を救出し、俺は城の大広間に向かった。夫人は偽物が大広間にいることを教えてくれたがそれは向こうも気がついているだろう。
とは言え何が起きるかわからないし俺も二人を連れて先を急ぐが、やはり途中には海賊共が配置されていて、俺を排除しようと躍起になっている。
「キャッ!」
「ママ! ママ!」
「土遁・粘土人の術」
母娘が不安そうな顔で声を上げる。海賊の攻撃が迫ったからだろう。だが地面から生まれた兵士が二人を守ってくれた。
「大丈夫だ、とにかく出来るだけ動かずその場にいてくれ!」
二人は俺が作り出した土人形に守らせておく。下忍程度の海賊が苦無や手裏剣で攻撃してきてるが二人を守る人形が妨げた。
「雷遁・震電の術!」
拳の形をした雷が地面を撃ち、城を揺らした上で電撃が地面を伝った。忍者たちが痺れて倒れていく。
「ウィンドミル!」
チッ、向こうから魔法が放たれる。海賊は何も忍者だけじゃない。魔法使いや侍もいるし、こっちのスキル持ちもいる。和洋折衷もいいとこだな。
周囲の壁を切りつけながら迫る風か。
「金遁・鉄壁の術!」
術を発動。鉄の壁が地面からせり上がり魔法の進行を防いだ。
「まさか、私の魔法、ガッ!?」
壁に飛び乗り投げた棒手裏剣が魔法使いの頭を貫く。これで後何人だ?
「女を殺すとは酷いやつだな」
頭が下を向いた状態の男が迫り俺の頭上から得物を振った。飛び退くと鉄の壁が細切れになって地面にバラまかれた。
「へっ、これを躱すかよ」
「他の連中よりはマシっぽい奴だな」
空中でしかも逆さまの状態からの斬撃であれだけの威力が出るとはね。
「当然だろう。俺は三番隊隊長の虎王。お前を殺す男の名前だ」
虎刈りの男が宣言してくる。随分と自信のありそうな奴だな。
「それにしてもお前のそれ、刀なのか?」
「かーっかっか! これが俺の愛刀【虎爪】よ。どんなものでも膾切りに出来る最高の一品よ」
自慢気に語ってるが、本当見た目が爪みたいな刀だな。逆に使いにくくないのかあれ。
「いくぞオラァ! 虎襲爪!」
虎王が刀を振り下ろすと爪の形をした斬撃が飛んできた。こいつ武気を使うのか。範囲も広い上、この方向じゃ避けると母娘に当たるだろうが!
「土遁・多重石壁の術!」
目の前に重なるように何枚もの石の壁が現れた。だが、爪がバンバン切り裂きながら進んでくる。
チッ、ダメージ抑えろよ!
「体遁・剛体の術!」
忍術で肉体を強化し、斬撃を受けた。分身の俺は怪我こそしないがダメージを受けただけ忍気が減る。
完全に忍気がなくなれば俺は消える。まだここで消えるわけにはいかないってなもんだ。
「かっかっか! それを耐えるかよ!」
「親が頑丈に生んでくれたおかげでな」
まぁ、俺の親は本体とも言えるが、とにかく耐えた。
だが、離れて戦うのは得策じゃない。壁を走り距離を詰めて刀で攻撃。
だが、虎爪は刃が多くその分防御が固いな。
「俺に近接戦を挑むとはいい度胸だな。虎転式!」
虎王が回転しながら虎爪を振る。武気の効果で射程が伸びている。しかも連続回転か。
とにかく俺は相手の射程から逃げ出すが。
「馬鹿が! 虎襲爪!」
爪型の斬撃が俺に迫る。そして俺のみが爪の形に沿って分断された。ニヤッと虎王が笑みを深めるが――直後丸太に代わり斬撃が壁にぶち当たった。
「しまった、変わり身か!」
「気づくのがおせぇよ紫電一閃!」
「ぐはぁああぁああぁあああ!」
紫電をまとわせた一撃で虎王が吹っ飛んだ。斬撃が母娘に当たらない位置に移動しておいたからな。そうすればどうとでもなる。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、問題ない行こう」
「あ、あの、ありがとうお兄ちゃん!」
母娘がとても俺に感謝してくれた。悪い気はしないが、ただ、実は結構忍気が減ってきてる。チッ、少し術も考えてつかわないとな――
◇◆◇
「何をしておるのだ! 早く捕まえんか!」
ルギラウが部下に向けて叫ぶが数の面では圧倒的に有利な筈の海賊共が次々に倒されていく。
「くそ、たかが槍使いに!」
「たかがとは見くびられたもんっす!」
忍者がピサロを囲み手裏剣を投げたり火遁で火を噴き出したりしてるが巧みな槍さばきでそれらを全て捌いていく。
「こいつ、足癖も悪いぞ!」
「それがおいらの蹴槍術っすよ!」
槍を蹴りで押し込み忍者の一人を貫いた。更に槍を視点に回転して蹴りを叩き込む真空無双独楽で周囲の敵が吹き飛ばされた。
「くそ、このアマ! そのマントにどんだけ暗器を仕込んでんだ!」
「……お前たちに答える義理はない」
「な、何だこの粉、痺れ――」
ハーゼも多数の海賊を、マントに隠し持った暗器で翻弄していた。投げつけた袋を切ると痺れ粉が舞い上がり海賊がどんどん倒れていく。
「どうした! この程度の腕で私を捕まえられるとホンキで思ったのか!」
カテリナも強い。向かってくる海賊も何のその、その洗練された剣技で確実にその数を減らしていった。
「疾風怒濤!」
目にも留まらぬ連撃が海賊共を蹂躙する。大量の海賊が宙を待った。
「くそが役に立たない連中め。もういい! ギガフレイム!」
ルギラウが杖を振ると、広間の中心から炎が広がった。更にルギラウが魔法を続ける。
「フレイムキャノン!」
巨大な火の玉が放たれ着弾し爆発する。カテリナを含め直撃は避けているが、行使されてるのは中々強力な魔法だ。
「あいつも戦えたっすか」
「……そうみたい」
「はっはっは! 私が何も出来ない側近だと思ったか!」
「ふむ、これは意外だな。しかし貴様も油断し過ぎだろう」
「油断だと?」
「あたしを忘れるなっす!」
マイラが迫り、ルギラウを切りつけた。
「ぐぬぅ!」
背後から迫ったマイラの剣がルギラウの脇を裂く。苦悶の表情を浮かべるが致命傷には至ってなかった。
「小娘が!」
「女だと思って馬鹿にすると痛い目遭うっすよ!」
「く、くそ!」
「うぉおおぉおぉぉおおおお!」
ルギラウが辺りに注意を向けるが海賊の数も大分減ってきていた。確実に追い詰められつつあるが、その時城の壁が破壊されて五メートルを超える大男が姿を見せ雄叫びを上げた――