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第二十話 掌返し

 ガイとデクの対戦に関しては、当然だがデクが失神したということで彼の負けが宣告された。


 カテリナは真面目そうだから、もし今後の訓練に関わってくるなら、デクは基礎からみっちり仕込まれる事になるだろう。


 そしてその後、周囲は奇妙な熱気に包まれていた。なぜなら――


「次の試合、ユウト対マイだ前に出てきてもらえるかな――とはいってもユウトはもう出てきているか。ではマイこちらへ」


 そう、このタイミングでこの対戦が決まったのだ。マイは驚きに一旦は目を丸くさせるが、はい、と静かに返事し前に出る。


 とはいってもこのカード自体はそこまで意外なものではない。なぜならマイは女子の中で一番LVが高いからだ。男女混合で行われる模擬戦だしな。


 既にユウトの次にLVの高かったケントとマグマの試合が終わっている以上、ある意味ではこれは当然の組み合わせと言えるだろう。


 ただ問題は――タイミングだ。


「ユウト――道場での練習以来だな」

「そうだね、剣に関しては、僕はマイの胸を借りるつもりでいくよ」

「む、胸をって、馬鹿! 何を言っているんだ!」


 いや、お前が何を言っているんだ。とは言え、このふたりは幼馴染でユウトが剣術を習っているのはマイの家の道場らしいから、お互い同門という事になるか。


 尤もマイは居合なのに対し、ユウトは正統派な剣術って感じだけどな。


 それにしても――


「マイちゃ~ん頑張ってーー!」

「ユウトなんてぶっ飛ばしちまえー!」

「マイちゃん格好いい! ユウトに負けるな!」

「偽善勇者なんてボロボロにしてしまえ!」


 二人に向けて飛び交うはマイへの賛辞、そしてユウトへの野次だ。


 それにしてもマイは確かに向こうでも男女問わず人気があった。とは言え、マイだって一応ユウト親衛隊の一員だ、おまけに幼馴染属性だ。


 だから、ユウトとやるにしてもここまで酷い事になるとは思わなかったけどな。


 それだけユウトの行為がヘイトを溜めていたということか。いや、それ自体がそこまで叩かれる程の事ではなかったのだろうけど、まあなんというか俺の件に加えてマグマが煽ったからな……。


 しかし、異様な雰囲気だな。マオ、レナ、カコはユウトを応援しているけど、まあこの辺りは暗黙の了解ってところか。別にだからってマイの機嫌を損ねるわけもないしな。


 とは言え、女子までも便乗してユウトを叩き出してるのがな。


 あの親衛隊は特に率先して動いているのはあの四人、とは言ってもマイは不本意みたいだが、とにかくいつもの四人だけど、他にも参加しているのは多くて、クラスの女子十九人の内、十人ぐらいはそれに入隊していた筈だ。


 だけど、今はその恐らく入隊してユウトのファンを公言していた女子すらも叩く方に回っている。掌返しとはまさにこのことだな。


「ユウト、気にするな。道場の練習を思い出して、さあ、やろう!」

「え? あ、ああ……」


 ふたりが相対してすぐに声は更に大きくなり、ユウトは戸惑っている様子。

 

 そしてカテリナから、始め! の合図が発せられ、マイが前に飛び出した。

 

 彼女は居合が得意ということもあってか特別に竹光の使用を許されたようだ。あれは鞘もついているしな。


 ちなみに剣豪は東の島国由来のクラスで扱う武器も刀と日本の侍と同じなようだ。


 さて、竹光のお陰で鞘滑りも問題ないだろうな。居合にはアレが一番重要だしな。むしろそれがないと始まらないぐらいだ。


「この技の切れ、相変わらずさすがだね」


 高速で抜かれた初太刀。だが、ユウトはそれを紙一重で見切り、反撃に出る。


 上段からの振り下ろし、そこから相手の脇をすり抜けるような動きで胴に剣戟を叩き込もうとする。


 流石真剣勝負とあって、ユウトも手加減なしか。しかしマイも見事なもんだ。力は間違いなく男のユウトが勝るんだろうけどな、柳のような動きでするりと攻撃を躱す。


「ハッ!」

「くっ!」


 マイの一閃がもう少しで当たるといった位置まで迫るが、木剣を立ててユウトが防ぐ。しかし表情からみてあれは結構ギリギリか。


 勇者の称号を持つユウトをあそこまで追い詰めるんだから大したもんだ、といいたいところだが、やはりユウトは本調子とも言いきれないのかもな。


「あ~おっしぃ!」

「ユウト! 何防いでるんだ! 空気読めや!」


 これだからな。特に男子の野次が酷い。本人に自覚がないとはいえ、女子からキャーキャー言われていたぐらいだし嫉妬が酷いんだろうな。


「どうしたユウト! こんなものじゃないだろう!」

「くぅ――」


 そんなユウトに発破をかけるマイ。

 するとユウトが前に出て、上下左右に攻撃を散らせ、一点の隙を狙って放った突きが肩を捉え、マイが転びそうになる、がなんとか踏ん張りバランスを保った。

 

 しかし、これが更に――


「マイ! すげぇぞ! ユウトに負けてない!」

「マイちゃんかっこいい!」

「ソレに比べてユウトは女の子に向けて何やってんだこら!」

「そうだ、女相手にムキになって恥ずかしくないのか!」

「俺のマイちゃんが怪我したらどうする気だ!」

「女の子に手を上げるなんて最低!」

「暴力男!」

「ドメスティック・バイオレンスなんて最低ね!」

「こんなのユウト犯罪者だろ!」

「女相手に本気出しちゃうとかダサすぎてマジワロス」

「暴力勇者! さっさと消えろ!」


 罵詈雑言は酷いものだが、カテリナはこれに関しては何も言おうとしない。

 ただ、薄情とか無関心ではなく、何か考えがあっての事だろう。


 まあ、ユウトの称号は勇者だしな、そのあたりも関係しているかもしれない。


 とは言え、流石にいい加減イラッと来るな。


「おい、ユウト、マイ、いつまでやってるんだよ。特にユウト、少しは戦いに集中しろ。そうでないとこんな模擬戦何の意味もないだろ? こんな有象無象の連中の言葉にいちいち耳を貸してんじゃねぇよっと」

 

 だから、俺がよく通る声で言ってやる。全員が全員、このアホらしい罵声に参加しているわけじゃねぇけど。


 我関せずの連中にも聞こえるよう言ってやるよ。


「大体こんな連中好き勝手言って鬱憤晴らしているだけなんだからよ。それぐらい気づけって。文句言いたいやつには言わせておけよ、どうせこいつら、自分じゃ何も出来なくて普段は勇者の称号を持つお前任せ、面倒なことは避けて押し付けるだけ押し付けておいて、ちょっと気に入らない事があればすぐに掌返すような頭の中お花畑の奴らなんだから、そんな声にいちいち耳を貸すのがどうかしてる」


 俺がそこまで語ると、隣で聞いていたケントが、クククッ、と笑った。


 チユは心配そうな顔をしているけどな。まあ、それもそうか、何せここまで言えば。


「――おま、ふざけんなよコラッ!」

「所詮無職の分際でなんだその偉そうな態度は!」

「何も出来ないって、能なしのテメェだけには言われたくないんだよ!」

「この穀潰しが! 調子に乗ってんじゃねぇぞコラーー!」

「ほんっと! さいってーーーー!」

「あいつなんなの? 私たちに向かって偉そうに! 自分こそクラスのお荷物でしかないくせにさ!」


 うん、予定通りというか、判りやすいというか。


 案の定、ユウトに向いていたヘイトは全て俺に向かってきたな。


 おかげでもう、誰もユウトを罵倒するやつはいない。俺を罵倒するやつは大量にいるけどな。


「……チッ」


 う~ん、何か、マグマだけは舌打ちして悔しそうだな。

 ケントに負けて悔しそうにしていたけど、ユウトに批難が集中してほくそ笑んでいたんだけどな。

 

 さて、これでユウトもふっきれたようだな。俺にヘイトが集中したから、その件をいちいち気にしなければ問題ない。

 

 いや、むしろマイがそれをさせない。マイの剣術は抜刀術。腰を落とした低めの姿勢による居合は、目にも留まらぬ抜刀と思い切りのいい踏み込み、このふたつが重なることで、まるで斬撃が伸びてくるような錯覚に陥るのが特徴とも言えるだろう。


 しかも踏み込みの巨細によって変化するリーチは、見えない上に間合いがはかりにくい、相手からすれば嫌な攻撃と言えるだろう。


 だが、ユウトは流石普段道場でマイと稽古を積んでいたと言うだけあって、見切りは完璧だ。最初は動きがぎこちなかったが、今は吹っ切れて巧みな足さばきと剣術を披露している。


 常に鞘に収めた状態での戦い方に徹しているマイと比べると、ユウトは抜手を維持した剣術であり、正統派ともいえるだろう。


 ただ、その動きは熟練者のそれであり、更にいえば一辺倒な動きではなく、様々な変化を伴う柔軟な撃剣を披露していた。


 そういった意味では一芸の士ともいえるマイとは対極に位置するとも言えるか。様々な型を瞬時に切り替えて使い分けているあたり流石は勇者の称号持ちといったところだろうな。


 この戦いでは武器が支給された物と決まっているから、本来の力が見れないのはちょっと残念に思うな。尤もそれはマイにしても一緒か。竹光でも再現度は高いが、やはり本物の刀とは勝手が違うだろうしな。


 一つ言えるのは、このふたりにしろ、後はケントにしろ、安心感が違うってことだ。

 地の力がある為か、ステータスが足枷になっていない。


 他の連中が聞いたら何を言っているんだ? と眉を顰めそうな話だが、正直このステータスというものは意外と曲者だなと俺は思っている。

 

 何せ多くの連中は、このステータスによって元の世界より強化されている。肉体が強化されていないにしても魔法が使えるようになっているものもいる。


 だが、ステータスに表示されたから使えるという事と、使いこなせるとはまた別の話だ。


 特に肉体が強化されたタイプはそれが顕著で、確かに力が強くなったり、動きが俊敏になったりしているが、完全にステータスに振り回されているような連中が多い。


 当然だ、ステータスで上乗せされた分というのは、本来備わっていない能力を無理やり引き出しているにすぎない。


 言うならば強力なパワードスーツでも身につけた状態とでも言うべきか。だが、それがあるからといって優れているのか? といえばそうではない。真に優れていると特に第三者からみて思えるようになる為には、当然それを使いこなせなければ意味がない。


 ま、実際今やっているのはその為の訓練なんだけどな。そう考えると帝国もそこまで馬鹿ではないって事か。


 とりあえず個々の能力差が激しいクラスではあるんだけどな。この姫騎士様はどうみていることか――

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