第二百二話 姉妹の再会
驚いたな。まさかここにあのハミットがいるとは思わなかった。普通のメイドとは違ったようだけどな。
「ふふ、でも何かまた厄介事に巻き込まれてそうね。貴方も本体じゃないんでしょ?」
「――ッ!?」
こいつ、何でそれを? 俺が影分身であることなんて。いや、でもこいつが使ってたのは忍術だった。
「お前、何者だ?」
とにかくそれを確認しないといけない。
「だからそんな怖い顔しないでってば。そうね、詳しくは言えないけど気づいてはいるでしょう? 私も元同業者。時代は違うだろうけど」
時代は違う……元同業者。そこまで言われればもう判る。ただ時代が違うって、それはつまり――
「ハミット。一体どうしたのだ? 突然行ってしまうから――」
俺がハミットの正体を探っていると、奥から聞き覚えのある声が近づいてきた。他にも二人ついてきているのがいるようだが、それは白銀の鎧を来た見目麗しい女騎士って――
「な! き、貴様! シノブではないか!」
「うん? シノブって、あ! あの殿下を攫った!」
「――とりあえず殺る」
するとカテリナと一緒にいた白髪の女がナイフやら丸形のチャクラムっぽい武器やら槍やらを投げてきた。
どこに隠し持ってたんだそれ!
「……こいつやる」
「どっちの意味だよ!」
マントから棘付き鉄球まで飛んできやがった。ますます意味わからねぇよ!
「ガウガウ!」
「……むっ!」
するとイズナが女に向けて飛びかかった。ハミットが俺を知ってそうだったからイズナは一旦動きを止めていたが、この女がやる気なの見て黙っていられなくなったか。
「自分もやるっす! シェリナ様を連れ去ったお前は絶対に許せないっす!」
シェリナ様、あ、こいつあの槍使いか。確かピサロだったな。しかし、連れ去ったとか、もしかしてあの死体が偽装だってバレたのか?
そうか、それで俺たちを追ってやってきたのか。ハァ全くこんな時にまたややこしいのに見つかったな!
「お前らちょっと待て落ち着けって。シェリナなら無事だから!」
「お前の言うことなんて信じられないっす!」
「……盗賊風情が」
だ、駄目だこいつら。全く聞く耳持ってくれない。
「待てお前たち! そこまでだ!」
だけどその時、待ったを掛けたのはカテリナだった。
「……シノブ、妹は無事なのだな?」
「あ、あぁ。それは本当だ。なんというか今の俺が言えることは少ないが無事なのは確かだ」
「……殿下、こんな男の言うことを信じるの?」
「そっすよ。シェリナ様を連れ去った張本人っすよ!」
「確かにそうかもしれないが、私はどうしてもそやつが悪い男には思えないのだ」
カテリナが表情を落としながら言う。ふぅ、そう思ってくれてるならまだ良かった。
「殿下の思われているとおりかと。私の察するところ、この先に殿下はおいでのようですが特に拘束されている様子も感じられません」
するとハミットが恭しく頭を下げてカテリナに伝えた。こいつ、さっきまでと態度が違い過ぎだろう。あと、そういうことはもっと早く言えよ。
「ハミットもこう言っている。二人共武器を下ろすが良い」
「……殿下がそう申されるなら。ならお前、私達の半径五km以内に近づかず案内しろ」
「いや無理だろう!」
「……殿下、やはりこいつは信用できません」
俺にナイフを突きつけながらカテリナに向けてそんなことを言う。いやいや、言ってることが無茶だから!
「はは、ハーゼ。それは流石に無茶だと思うぞ」
「……むぅ」
「やれやれ、ハーゼの男嫌いは相変わらずっす」
男嫌いなのか……ピサロの顔色を見るに生粋ぽいな。
「とにかく見つかったからには案内するが、色々事情が混み合っているんだ。そこは先に言っておく」
「……ふん、ところで――この子はお前の飼い犬か?」
「アン?」
皆を案内しようと思ったらハーゼという女がイズナを抱えて聞いてきた。一旦戦闘は中断したからイズナも抵抗しなかったけど、戸惑ってはいるな。
「そうだ。さっきのこと怒ってるなら勘弁してやってくれ。俺を守ろうと思ってやったことだ」
「……馬鹿にするな。私はそんなこと気にしない。それより――撫でていい?」
「ん?」
ハーゼの口元がムズムズしている。どうやらイズナをモフりたくて仕方ないようだ。
「イズナ、いいか?」
「アンッアンッ!」
俺がいいならいいよってところか。
「いいけど乱暴にするな、うぉ!」
「……馬鹿にするなと言った。私は動物の嫌がることはしない」
そ、そうかよ。なら先ず口でそういえよ。何で真っ先にナイフを投げるんだよ。人の嫌がることもするなよ。
「……可愛い」
「は、ハーゼ、そ、その、次は私もいいか?」
そしてカテリナもどうやらイズナに興味津々なようだ。モテモテだなおい。
「それにしても、あんなポンポン飛び道具投げてくる女と一緒とはあんたも大変だな」
「わかるっすか?」
その後は皆を案内しつつ、何故かピサロと意気投合してしまった。
そして急に殊勝になったハミットが大人しくついてきてる。こいつも色々と気になることはあるんだけどな――
まぁとにかく、俺はカテリナを連れてシェリナのいる場所まで戻ったのだが。
『お、姉ちゃん?』
「お、おお、シェリナ。シェリナーーーー!」
うんうん。感動の対面ってところか。まぁ俺が引き剥がしたと言われればそれまでなんだが。
「ちょっと待つのじゃ! お主一体何者なのじゃ! 我が主に何用なのじゃ!」
「へ? な、お前こそなんだ!」
あぁ、そうだ。ネメアのことも忘れてたな。駆け寄ってきたカテリナの間に割って入ってしまったよ。空気読もうぜ。
『ネメアちゃん、こちら私のお姉ちゃん』
「え? お姉ちゃん?」
「姉のカテリナだ」
「ぬぉ! それは失礼したのじゃーーーー! 我はシェリナ様の下僕! ネメアなのじゃ!」
「げ、下僕?」
しかし、カテリナがシェリナの姉だと知った途端、ネメアが土下座しだした。こいつも極端だな。
「はは、何か賑やかになったっすね」
「まぁそうだな」
「……何か口調が似てるっす」
「そ、そういえばそうっすね」
マイラの言葉に同意していると、ピサロがそんなことを言い出してマイラも苦笑いだった。
「あ、あの、急に色々な人がやってきてちょっと戸惑っているのですが、その、今確かカテリナとシェリナと呼ばれてましたが、それってもしかして?」
「「「「「「あ――」」」」」」
そして俺は思い出した。この場に全く事態を知らされていない親子がいたことに――