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第二百一話 忍び寄るのは、誰?

 俺の本体は町で水滸海賊団の大船長とやらにやられてしまった。生きてはいると思うが途中から意識が完全にシャットアウトしてしまったようでこっちからでは今どのような状況に置かれているかわからない。


 もしかしたら捕まっているかもしれないというのは俺が言ったことでもあるが……実はそれに関して言えばあまり心配はしていない。

 

 本体の意識が途絶えてから一日が経つが何も感じられない。ということは未だ本体は意識を失っているということだ。しかし、もしこれで海賊に捕まっていたのならとっくに目覚めさせられている筈だ。


 奴らもそこまで呑気ではない筈だしな。つまり、海賊の手に渡った可能性は低い。それに手痛いダメージを受けたとは思うが命に別状がある程ではないのだろう。もしそうなら分身の俺にもなんとなく察することが出来るからだ。


 それを踏まえて考えるなら――


「やはりもう少し様子を見よう」

「え? な、何を言ってるっすか! そんなことしてもしシノビンになにかあったらどうするっすか!」

「落ち着けマーラ。今説明するから」


 そして俺は全員に自分の考えを話して聞かせた。


「つまり、実際は海賊に捕まっている可能性は低いということっすか……」

「そういうことだな」

『ですが、それならば一体いまどちらに?』


 シェリナが心配そうに石版で聞いてきた。心なしか文字にも悲愴感が漂っている。


「それは俺にもわからない。だが、だからこそ下手に動かないほうが懸命だろう。本体が目覚めれば自ずと俺にも情報が伝わるのだからな」

「目覚めるのは間違いないのであるか?」


 今度はネメアが聞いてきた。間違いないかと言われると中々難しいところだがしかし。


「現状命に別状があるほどではない。ならばどこかで目覚めると見たほうがいいだろう。尤もダメージが軽いというわけじゃないが」

『うぅ、私がいければ回復できるのですが……』


 そういえばシェリナは回復が出来るのだったな。しかもかなり強力だ。


「ところで目覚めたら何とかなるのでしょうか?」


 パーパが不安そうに問いかけてくる。隣のムスメも表情が暗い。


「本体も馬鹿じゃない、と思うが。まぁやられたまま黙っているようなタイプじゃないし、何か手は打つと思う」

「ふむ、ならばやはりここは待つのが懸命かもしれんのじゃ。下手に動いて逆に我らが捕らえられたら目も当てられん。シェリー様は命に変えても守りますが!」

『うん、ありがとうネメア』


 シェリナが微笑むが、力ない笑顔だな。やはり本体が心配か。


「ふぅ、とにかくだ……一旦飯とするか」

「なんと飯であるか!」

「この状況でっすか?」


 ネメアが表情を明るくさせるが、マイラに関しては何を呑気なとでも言いたげな顔だ。


「この状況だからだ。いざ本体が動き出した時に、俺たちの助けが必要な可能性もある。その時に力が出ないんじゃ仕方ないだろう?」

「あ、そ、そうっすね!」


 だけど俺の話を聞いて納得してくれたようだ。


「うむ、腹が減っては戦はできぬなのじゃ!」

『それなら、わ、私も手伝います!』

「パーパ私達も……」

「そうだなムスメ!」

「アンアン! アオーン!」


 うん、どうやら皆少し元気になったようだな。イズナもやる気が出たようだ。


 そして近場で俺たちは食料になる物を探し、忍者の便利道具を次元収納から取り出し、料理する。

 

 腹も満たし眠り、そんなこんなで二日経ったわけだが――


「ま、まだわからないっすか?」

「……あぁ。しかし、ここまで掴めないとはな」

『本当に大丈夫なのでしょうか?』


 う~ん、俺も少し不安になってきたぞ。いや分身の俺が消えていないのだから流石に死んではいないと思うのだけど。


「やっぱり乗り込んだ方が良くないっすか?」

「……」

 

 俺は一人考える。あれから二日経つ。それですぐ警戒が解けるとは思えないが、多少はマシになっているだろうか?


 とは言え本体があっさり見つかるような町だ。闇雲に動いても、むっ!


「シノビン、聞いてるっすか?」

「待て! 何者かが近づいてきている」

「え? だ、誰っすか?」

「わからない。だが、一旦隠れて様子を見よう」


 ここは町からある程度離れた山の中ではあるが、もしかしたら水滸海賊団の連中が警戒して見回りにきたのかもしれない。


 もし、そうならとりあえず捕縛するか? それで何かしら情報が掴めれば今後の対策も取りやすいかもしれない。ただ相手には忍者や侍もいる。油断出来ないのは確かだ。


「俺とイズナが先ず出て相手を確かめる。この状況だ。それなりに手荒なことになる可能性はある」

「ならあたしも!」

「マーラは俺が出るまでは待機。もし俺に何かあった時はネメアと皆を連れて逃げてくれ」

「そんな、分身にまで何かあったら……」


 マイラが表情を曇らせた。俺の身を案じてくれているようだが。


「勿論そうならないようにはする。だが、ここで下手な人数で出て全員に何かあっては意味がない。それに俺一人の方が不意打ちしやすいからな」

「う、うぅ、わかったっす!」

「気をつけてくださいね」

「無事を祈ってます!」

『どうかご無事で……』

「シェリー様のことは任せるのじゃ!」


 全くネメアはぶれないな。尤もだからこそ任せておけるんだが。


 さて、俺はイズナを連れて気配のする方へにじりよる。気配は消して、慎重にだ。


「イズナは援護を頼む。ただし無理はするな。不味いと思ったら皆の下に戻って一緒に逃げるんだ」

「く~ん……」

「そんな顔をするな。俺は分身だし、消えても本体がどうにかなるわけじゃない」


 そういうとイズナが俺の顔をペロペロと舐めてきた。分身でも関係ない消えてほしくないという意思が感じられた。全く嬉しいことを。

 

 さて、相手との距離は少しずつ詰まってきた。このまま距離を縮めて、て何!


 どういうことだ? 相手がこちらに向けて脚を速めた。方向的にも明らかに俺たちに気がついている。


 俺は気配を消していた。忍びの気配に気づけるものなどそうはいない。それでも気がつくということはそれなりの手練の可能性が高い。


 やはり相手は水滸海賊団の忍者か? くそ、とにかく俺も気配を消すのはやめて立ち上がり身構えた。

 

 草木がざわめく。大気が震える。そして何者かが風を切り裂くように飛び出してきて手に持った短刀、いや、苦無か! それを数発投げつけてきた。


「やはり忍者か! 土遁・土壁の術!」


 土で出来た壁がせり上がり飛んできた苦無から俺とイズナを守る。


「イズナ、相手は手練だ。ここは俺一人で凌ぐからその間に皆を連れて逃げろ!」

 

 俺が叫んだのとほぼ同時に、ヒラリと壁を飛び越え細身の肢体が背後を取ってきた。俺もすぐさま振り返り武遁で作成した苦無を手に持ち切り結ぶ。


 相手はどうやら女のようだ。小賢しいことに顔は覆面で覆われているが――


「あら? ちょっと待って」


 突如、覆面をした女がパッと距離を離し、そんなことを言い出した。待ってだと?


「どういうつもりだ? そっちから来ておいて待っただなんて」

「それはごめんなさい。だって凄く上手に気配を消して近づいてくるんだもん。こっちもそれなりに身構えるわよ。でも、相手が貴方なら問題ないわね」

「何?」


 相手が俺ならだって? いや、それってまさか?


「ふふ、私よ、帝都で貴方のメイドを務めた――」


 そして女は覆面を外して顔を晒してきたのだが、驚いたな、こいつハミットじゃないか……。

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