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第二百話 シノブの行方

「――ガハッ! ゲホッ、ゲホゲホっ!」


 俺は地面からはいでてすぐ咳き込んでしまい、そのまま地面に顔をつけた。なんとかひっくり返り仰向けになって空を仰ぐ。


 頑張って空気を肺に取り込むが、セイレンから受けた水遁で肺に穴があいてしまっている。酸素がどんどん漏れていきやがる。忍気でなんとか凌がないと。


 俺は治療系の忍術なんて使えないが、忍気で自己再生能力を促進させることは出来る。


 とは言え、くそ、ダメージを受けすぎた……土遁でなんとか逃げて来たけど、それが限界だった。もう基本的な忍術を使う余裕すらない。


 今ここに海賊どもがやってきたら流石にヤバいな。なんとか、離れないと、だけど、体が――しかも、なんてこった。誰かの足音が聞こえてきた。


 こんな時に――一体誰が……。


「ほう、これはまた随分と酷い有様ですね――」






◇◆◇


 俺がやられた。いや、俺が俺がやられたってのもおかしな話だが事実だから仕方ない。まぁ、俺と言っても今の俺は影分身の俺で厳密に言えば俺じゃないんだが、しかし俺から生まれた俺だからな。


 さてと弱った。俺はここで皆を見守っていて欲しいと本体の俺から命令を受けている。だけどだ。


「もう待ってられないっす! 流石におかしいっす! こうなったらあたしたちも町に向かうしかないっす!」

「し、しかし彼はここで待っていて欲しいと言っていたしね」

「でもパーパ、もう一日経つし……」

 

 そう、実は俺が偵察に行くと言って出てから一夜過ぎ、朝になり、そして今はもう太陽が中天に差し掛かる頃だった。


 その間、待機組の間で葛藤があったようだが、それでも待ち続け、しかしいよいよ我慢の限界が来たってとこなのだろう。


『シノビン様がそう簡単にやられるとは思いませんが、流石に心配です』

「全く、シェリー様に心配を掛けるとは本当にとんでもない奴なのじゃ! 我の飯もまだじゃし!」

「クゥ~ン」

 

 シェリナも相変わらず石版で心境を表現中。しかし、心配を掛けてしまっているようだ。ネメアは、あれ絶対食い気が勝っているだろう。


 イズナは皆と一緒で心配そうだ。ご主人さま思いのいい忍犬になったものだな。ネメアも見習え。


 それはそれとしてこのままじゃ本当に町に行きかねない。


「こうなったらパーパさんとムスメちゃんはここで皆と待っていて欲しいっす。あたしだけでも」

「待て待て、それじゃあ意味がないし」


 案の定だな。仕方ないから皆の前に姿を晒した。


「シノビン!」

「おお! 無事でしたか!」

「良かった、良かったよぉ」

『シノビン様、信じておりました!』

「全くお前はおそすぎなのじゃ! さぁさっさと飯を作るのじゃ!」

「ワンワンワンワン!」


 うん、マイラが涙目になって叫び、パーパとムスメも俺が帰還したと思って喜んでいる。シェリナも石版に嬉しそうな顔を刻んでいた。器用だな。


 ネメアは、お前、飯抜きな。そしてイズナは俺の胸に飛び込んで来て、顔をペロペロと舐めてきた。


 ふぅ……どうしようかこれ?


「シノビン、心配したんっすよ! 一体どうしてこんなに遅くなったっすか!」

「あ、あ~その何だ」

『何か大変なことがあったのですか?』

「どうせ町で買食いしていて遅れたに決まって、い、イタイイタイイタイタイ! や、やめるのじゃ!」


 とりあえずネメアの頭を拳でグリグリしておいた。しかし、マイラとシェリナは何があったのか気になって仕方ないようだ。


 それはパーパやムスメも一緒かな。う~ん、これはもうごまかすの無理だな。よし、もう言ってしまおう。


「皆、悪いんだが、実はここに今いる俺は、俺じゃないんだ」

「……ふぇ?」

「え~と……謎掛けか何かですか?」

「あ、わかった! 答えは芋ね!」

 

 うん、ムスメさん、何その答え? 何故芋! ちょっとそれが気になってしまうぞ。そもそもパーパが言ってるような謎掛けじゃないし。


「拾い食いでもしておかしくなったのかのう? 痛いのじゃ!」


 ネメアにはデコピンした。全く、お前は何度か見てるんだから気づけよ。


「実は、俺は俺が生み出した分身なんだ。え~と、そう魔法で生まれた存在で本体じゃない。ここで皆を見守っていて欲しいと頼まれてたのさ」

「あ、そうか、そういうことすっか!」

『納得しました。でも……』

『クゥ~ン……』


 一応魔法ということにしたのはパーパとムスメの手前があるからだ。とはいえ、ここまで言えばマイラもシェリナも気がついたようだ。後ネメアも。ただそのおかげで結果的に不安がらせてしまうことになったが。


「分身、そんな魔法があるとは……」

「凄いけど、それなら今は本物はどうしているのですか?」


 パーパは一応は納得してくれた。そしてムスメの質問。うん、やっぱそこが重要だよな。


「本体は……ハーフェンで海賊に見つかって交戦になった。そして海賊のボスと戦いになって深手を負った」


 もう隠していても仕方ないから正直に言った。一瞬にして空気が張り詰め、マイラやシェリナが青い顔を見せる。


「こ、こうしてはいられないっす! 今すぐ助けにいくっす!」

「待て待て待て待て、そんな無鉄砲に突っ込んでどうする気だ」

「で、でもシノビンが!」

「大丈夫だ! 俺が今ここにいるってことは、とりあえず本体も無事ってことだから」

『そ、そうなのですか?』

「あぁ、俺はあいつから生まれた分身だ。もし本体が死んだら俺も消える」


 俺の説明で、今にも飛び出しそうな勢いだったマイラも少しは落ち着きを取り戻したようだ。


「それなら、シノビンさんはとりあえずは元気なのですね?」

「いや、流石に元気とは言えないな」

「え、じゃあシノビンさんは不味い状況なんですか?」


 パーパとムスメからの質問が飛ぶ。しかし、シノビンってもう少しなんとかならんかったのか。俺が言うのもなんだけど、緊張感ないぞ!


「さっきも言ったがかなりの怪我を負ったのは確かだ。分身の俺には本体の状況がある程度わかるからな」

「なら、今どうしているかもわかるっすか?」

「いや、それなんだが、実はある時からそれがさっぱりわからなくなった」

「何を言ってるのじゃ。今さっき言ったことと矛盾しとるではないか! はよ飯作れ!」

「お前、またグリグリされたいのか?」

「うぅ、シェリー様、シノビンがいじめるのじゃ」

『ネメア、今は少し大人しくしていてくださいね?』

「ひ、は、はい申し訳ないのじゃ!」


 石版を持って笑顔でネメアに接するシェリナだが、何か背後からゴゴゴッという効果音が聞こえてきそうな威圧を感じるぞ。


「でも、それは一体どういうことなんっすか?」

「考えられるのは一つ。本体は生きてはいるが意識はない。そういう状態にある」

「つまり、気絶しているということですかな?」

「そうだろうな」


 パーパが心配そうに言った。確かにこの状況は気絶していると考えるのが正解だろう。


「気絶、それはあまり良くない状況じゃないっすか?」

「もし、海賊に捕まっているとしたらそうかもな」


 正直、完全に本体の行動が読めなくなった時の状況がいまいちわからない。何かがやってきたことまでは察せられたが。


「そ、そんな、ならやっぱり町へ!」

「だから待てって。はっきり言うが今このメンツで助けに言ったとしてもどうしようもないぞ。相手はかなりの手練だ。何せ俺が何も出来ずやられたぐらいだ」

「「「「――え?」」」」

『そ、そんな――』

 

 全員が唖然とした様子を見せた。まぁそれも仕方ないだろうが、さて、どうしたものか――

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