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第百九十八話 圧倒的な水遁

「おいおい、どうなってんだこれは? これじゃあ何も見えないぜ」


 サンザーラの困惑した声が耳に届く。立ち込める霧に驚いているのだろう。


 そう、俺の霧隠の術によって辺りに濃霧が立ち込める。これでとりあえずセイレンの視界を塞ぐことが出来た。


 ただ、こんなものは所詮目くらましにしか過ぎない。つまり一時凌ぎにしかならない。だから俺はこの間に次に何をするのかを決めないといけない。


 霧の中でも俺からは相手の動きが見える。サンザーラが髪のない頭を撫でているのも、セイレンが様子を見ていそうなのもな。


 だから見えない位置から攻撃を仕掛けるという手もある。だが、あのセイレンは正直生半可な相手ではない。それにあいつには雷は勿論だが物理的な攻撃も妙な膜で防いでしまった。


 実態が無いものも切れる霧咲丸なら、もしかしたら切れる可能性があるかもだが、確信はない。それに一撃程度で倒せる相手でもない。


 ここは癪だが、やはり一旦退くべきだろう。戦略的撤退という奴だ。何せ俺には情報が足りていない。いきなり大将がやってきたからな。


 それにしても水滸の里か、全く知らないが、水遁使いの里だったことは確かだろう。まさか水がなければ他の忍術より明らかに性能が落ちるとされる水遁でここまでやるとはな。


 とにかく、俺はその場から離れようと行動に移しかけるが――しかしその時、発生していた濃霧が消え去った。あっという間の出来事だった。逃げる暇さえ与えられない程に。


「この程度の霧で俺を撹乱するつもりだったのか? 全くがっかりだぞ霧隠。俺の部下を倒してここまで来たぐらいだ、もう少しはやるかと思ったんだがな」


 ニヤリと口元を歪ませ嘲るように言った。こいつ、俺の目が確かなら霧を全て体に吸い込みやがった。


「くくっ、しかしいい顔をしてくれる。そんな馬鹿なと言ったところか? だがそんな顔をする前に自分の浅はかさを呪うんだな」


 浅はか呼ばわりか――そうかもしれないが、だが、何かしなきゃ始まらねぇ!


「ほう、それでもまだ向かってくるか。だが遅い!」


 セイレンが人差し指を向け、そして例の硬水が高速発射され俺を射抜いた。


「何?」


 だが、貫いた俺の体が掻き消える。それにこいつは驚いたようだが。


「霧分身だよ、そして氷遁・氷の息吹!」


 そう正面のは実体のない分身。俺はすでに背後を取っていた。そして印を結び、セイレンの背中に向けて冷気を吐き出す。あの水は直接攻撃を受け止めていたが、水ならば凍るのが道理!


 そして俺の予想通り、セイレンの全身が氷に包まれる。雷も通じなかったが、氷なら――


「とことん甘い男だ」


 だが、俺の目論見はまたもや外れ、凍てついていた筈のセイレンはあっという間に元の姿に戻ってしまった。


「霧だろうが氷だろうが、元が水である限り俺には通用せん!」


 元が水である限り……確かに霧だって結局の所水分、氷も当然そうだ。つまりこいつには水に関係する技は一切通用しないってことか。くそ、だからといって雷も火も通じず物理もだ。こうなったら霧咲丸で――いや、駄目だこいつの右手に水が集束し球体とかしていた。ぐるぐると激しい渦のように回転し、凝縮された忍気とビリビリと肌が震えるような圧力を感じる。


 これは受けたらまずいやつだ――


「水遁・水渦紋!」

「くっ! 霧遁・霧体の術!」


 咄嗟に印を結び、俺の体を霧化させた。防御用の忍術、だが消費忍気が大きい為、多用は出来ない。しかし今は四の五の言っている場合じゃない。


 その時、セイレンが不敵な笑みを零したのが見えた。何だ? まるで勝利を確信したような――奴の放った球体が霧と化した俺に命中した。


 だが霧化した俺にダメージは通らない。だが、しまった! 渦の回転に霧が巻き込まれている。このままでは強力な回転で霧が霧散してしまう。


 ダメージこそないが、霧が散り散りになるようなことがあれば俺は上手く戻れなくなる。


「くそ! 解除、ぐ、ぐわあぁあああ!」


 当然だが、霧の状態を解いて元に戻れば相手の術をモロに受けることとなる。俺の全身に衝撃が走り、ぐるぐると回転しながら俺は吹き飛ばされた。


 植えられた木に命中し、へし折って更に飛ばされた後、地面を転がった。


 くそ、体中がいてぇ……。


「――恨み続けた霧隠の忍者を見つけることが出来たかと思えば、この程度か。拍子抜けだぞ霧隠」

「う、うるせぇよ、俺はまだ、負けてねぇぞ」

「はは、驚きだな。あれでまだ立つかよ?」


 サンザーラの声だ。全く元はあいつを捕まえてシェリナの呪いを解かせるのが目的だったというのに、いつの間にか海賊を相手にしているんだからな。町にきてすぐあの野郎が見つかったかと思えば、運がいいんだか悪いんだか。


 しかし、ヤバいな。こんな時に治療の忍術が使えたらとふと思ってしまうが無いものねだりだ。そして忍気もかなり減っている。


 正直、事態は予断を許さない状況だ。


「そうでなくては面白くない、といいたいところだが、何だそれは。立っているのもやっととはな。全く情けないそれでも忍か」


 好き勝手言ってくれる。だがいいわけはしないさ。確かに俺は現状こいつ相手に手も足も出ていない。しかし、このままとはいかない。今はともかくとしてもな――


「だが、貴様が霧隠の忍であることは確か。ここでしっかり止めを刺してやる。貴様などやったところで多少の鬱憤を晴らすのが関の山だろうがな」


 セイレンが印を結び始めた。今度は何の術で来る。そしてそれをどう躱す。この場で勝とうなんて考えるな。今は何とかこの場を切り抜けることが最善手だ。


「――覚悟しろ。水遁!」

「待て! 話が違うぞセイレン!」


 奴の印が完成した。相手の一挙手一投足に集中し、手を考えていると、聞き覚えのある声がこの場にこだました。

 

 声の主は屋根の上にいた。そして屋根の上から飛び立ち、セイレンの隣に着地する。てかこいつ――


「何だマビロギか」

「何だではない! 貴様、よもや僕との約束を忘れたとは言わんだろうな!」

「約束、そんなものしたか?」

「ふざけるな! 奴を見つけたら僕が恨みを晴らすと、そう言っておいた筈だ! セイレン、貴様も承知したであろう!」


 そう、セイレンの横に立ったそいつは、帝都にいたころから知っている魔物使い。男だと思ったら実は女だったという、あのマジェスタの孫のマビロギだ。


 しかし、こいつもこの町に来ていたとはな。しかも、俺に恨みを晴らすと来たもんだ。全くどんだけ執念深いんだよ。


「とにかく、こいつとは帝都の頃から因縁がある。だから僕が殺す! 絶対に譲らんぞ!」

「おいおい、あいつ新入りの癖して大船長にあんな口の利き方出来るとは、いい性格してるぜ」


 サンザーラが呆れたように言う。新入りだと? つまりあいつは海賊の仲間になったということか? おいおい何考えてるんだよあいつは――

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