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第百九十六話 ハーフェンでの激闘

「あはっ♪ 少しは楽しめそうかも」


 箒の上からとんがり帽子の少女が言った。杖をふりふりさせながら陽気に笑っている。しかし古典的な魔女っ子といった様相だな。格好もそんな感じだし。


「おい、言っておくけどこっちは今気が立ってるんだ。相手が女だからって容赦しないぞ?」

「はは、面白い事いってる! 水滸海賊団副船長のこの私に、本気で勝てると思ってるの?」


 副船長? 港に並んでた船か、それとも海の上に停泊していた船か――どっちにしろその中の主要な人物なようだな。


 だったら、殺さない程度にして、話を聞いたほうが得策か? いや、女だから気が進まないとかじゃない――


「エアスラッシャー!」

「て! 全く躊躇ないな!」


 女が杖を横薙ぎに振るうと、発生した横一文字の風の刃が地面を撫でた。風魔法はかなり速いが、忍者の反応速度を持ってすれば余裕で躱せる。


 しかし、結構な威力だな。地面にかなり深い切れ込みが出来た。長さも四、五メートルほどあるか。


「へぇちょっとは楽しめそうじゃん」

「そうかよ!」


 俺は忍気で作成した棒手裏剣を数十本纏めて投げつけた。


「エアドレス!」


 だがしかし、女が魔法を行使したことで、竜巻のような風が纏われ、投げた手裏剣を全て跳ね返した。風の防御ってことか。


「へへん、残念だったね。風のエア・ハリンズを舐めないでよね」


 風の? 二つ名か。わりとまんまだな。エアという名前もだ。纏った風は残り続けるようだな。緑色の髪が風に靡き波を描くように揺れ動いている。


「さぁどんどんいくわよ。エアロダンシング!」


 今度は俺を取り囲むように風の刃が出現しまさに踊り狂うように切り刻みに来た。


「はは♪ やったね。どうやら忍者だったらしいけど、見事に細切れだね!」

「勝手に食肉にするなよ」

「え? あ! 丸太!」


 そう、咄嗟に空蝉の術で回避させてもらった。魔法発動から実際に攻撃に入るまでに一瞬の間があったからな。その時間があれば術は十分完成する。


「俺のことが忍者だってわかったということは、やっぱ水滸海賊団には忍者がいるんだな? 頭が忍者なのか?」

「答えるわけないよね?」

「そうか。ならとりあえず下りてきてもらうかな」

「はは、そんなこと私がさせるわけないじゃん」

 

 どうかな? 悪いが既に印は完成してるんだよ。


「時空遁・超重圧(グラビトン)の術!」

「え? ひぇええええぇえええ!?」


 時空遁は時空を操る俺の固有忍術。そしてこの術は重力を相手に加すことが出来る。風の操作程度じゃこの重圧からは逃れられない。


 重力の変化で重みが増したエアが跨っている箒ごと地面に落下した。そのまま押し付けられたような状態で、ムギギッ、と歯を食いしばっている。


「な、なんなのよ、これ……」

「俺の忍術だよ。重力を上げているから身動きが取れないだろう?」

「う、うぅ、不覚……」

「さて、このまま押しつぶされたくなかったら質問に答えてもらおうかな?」

「い、嫌よ、誰があんたなんかに――」

「強情言ってると、更に重くなるぞ?」

「え? い、いいぃいい、いだいぃいい、食い込む食い込むぅううぅう!」


 ふむ、箒に跨っている状態のまま地面に押し付けられているからどうやら柄が食い込んで痛いらしい。どこに、かはこの際置いておくにしても中々につらい状況だ。


「ほら、解放されたかったら水滸海賊団のメンバーとボスについて教えてもらおうかな? あぁあとついでに――」


 その時、俺の中に悪寒が走った。地面を蹴り飛び上がると、俺の真下を黒い光が通り過ぎていった。


「全く、副船長の癖に情けないぞエア」

「うぅ、助かった……」


 光の来た方向へ目を向けると一人の男が立っていた。髪の毛の一切ない坊主頭の男だった。頭には髑髏を模した入れ墨があり、切れ長の左右の紫の目には縦に割るような脊髄の模様が刻まれていた。


 中々ガッチリとした体格で見た目は魔法使いだが背も高く逞しい野郎だな。鍛え上げられた体の上から白い縁取りのある黒ローブを纏っている。


 見た目は、戦士系でもおかしくなさそうだが、格好的には魔法系か? 今俺に向かって放ってきたのも魔法みたいなもんだろう。


 ただ、エアもそうだがこいつも看破の術が効かない。試してみてもなにかに妨害されて上手く行かない。しかもこの感じ、明らかに妨害は忍術によるものだ。


 だけどこの二人は忍者ではない。それはわかる。何故なら忍気を感じないからだ。しかし魔力は感じる。だからこっちの世界側の人間なのは確かだろう。


「エア、こいつは中々やりそうだ。しかも忍者ならボスが言っていた奴の可能性もある。だからここは俺に任せて戻れ」

「ちょっと! あんた私より後に入った癖に何命令してるのよ!」

「うるせぇな、立場は同じ副船長だろうが。さっさといけよ」

「ブーブー」


 エアという魔女みたいな少女は箒にまたがり飛び立とうとした。だけど、それを許すわけには行かないぜ。


 武遁で手裏剣を生み出し投げつけようとするが――真上から襲いかかる大量の影。


「チッ!」


 振り下ろされた腕には刃が仕込まれていた。更に鋼の牙で噛み付いてくるのまでいる。しかもこいつら全員木偶人形だ。


「残念だがさせないぜ。お前には暫く俺の呪人形の相手をしてもらおう」


 どうやらあのハゲが操っている人形のようだ。


「お前、人形使いかよ!」

「馬鹿いえ、俺は呪殺師さ」

 

 呪殺師? 何だ、何か凄く重要なキーワードを聞いた気が……。


「お前はもう終わりだ。思ったより大したことなかったな。四肢呪――」

「火遁・発破の術!」

「ムッ!」


 印を結び、火遁を発動。途端に俺を中心に爆発が生じ、攻撃を仕掛けてきた木偶人形がふっ飛ばされた。


 呪殺師を名乗る禿も、顔を腕で覆い庇っている。おかげで何か呪いを掛けようとしたらしいが中断された。


「全く油断も隙もないな。人形を仕掛けつつ呪いを掛けようなんざ」

「……なるほどな、そう簡単ではないということか」


 背後を取った俺を振り返り、不敵な笑みを浮かべてきた。しかし、呪殺師か――


「しかし流石は噂に違わぬ腕の持ち主らしいな呪殺のサンダーラさんよ」

「何? 貴様、何故俺の名を知ってる!」


 はは、ビンゴ。カマをかけて正解だったぜ。しかし、こんなに早く目的の相手に遭遇できるとはな。


「まさか、ハンターもやってるのか?」


 ハンター? あぁ賞金稼ぎと呼ばれる連中のことか。つまりこいつは首に賞金が掛かるようなこともしていたってことだな。まぁ呪殺なんて二つ名がつくぐらいだし、それもわからなくもないが。


「安心しろ別にお前の賞金が目当てなわけじゃない。個人的にお前の呪いに興味があるんだよ」

「何? 呪いだと?」

「そうだ。お前、帝国の姫様に呪いをかけたか?」


 かなり直球だが、先ずはこれで相手の様子を探る。


「……帝国の姫だと? はは、例えそうだとして、俺が答えると思うか?」


 あぁ、やっぱそう上手くは行かないか。簡単に答えてくれたら苦労はないよな。だけど、さっきこいつは俺に何かしらの呪いを掛けようとしていた。


 つまり肉体に影響を及ぼすような呪いは掛けられるということだ。シェリナの場合呪いのペンダント、呪装具を利用して呪いを掛けられている。


 それを解くには呪いを掛けた相手に直接解かせるか相手を殺す他ないが、しかし殺すのは悪手だ。前にババアに聞いた話だと、呪術師は命と引換えに発動する呪いを施していることがあるらしいからな。


 それに呪いを施したのがこいつとは限らない。今はとぼけていて判別出来ない。こうなると、とりあえずこいつを生け捕りにしてシェリナの前まで連れて行くのが得策か――


「よし決めた。お前、ちょっと俺に付き合え」

「嫌なこった」


 直後、サンダーラが地面を蹴り信じられないほどの跳躍で屋根の上に移動した。確かに体格が良かったが、だからってここまでの体術が可能とは思えない。ババアが言っていたな呪術師はただ相手を呪うだけではなく呪いで肉体を強化したりも出来ると。


「怨霊の戯れ――」


 屋根の上で術式を完成させたサンダーラの周囲に不気味な顔つきの霊体が浮かび上がっていく。それが奇声を上げながら俺に向かってきた。


 嫌な声だ。常人ならこの声を聞くだけで気が狂いそうになるだろう。しかしこんなものまで扱うのか呪術ってのは。しかも怨霊以外にもまだ木偶人形が残っている。


「火遁・烈火連弾!」


 印を結び、両手で火炎弾を連射する。だが悪霊には当たり判定がないようで素通りしてしまう。


「馬鹿め、霊体にそんなもの効くか!」

「だろうな――」


 なんとなく予想はついていた。だから弾道を操作してサンダーラへ向ける。


「な!?」


 爆発音が鳴り響いた。見る限りサンダーラに直撃したようだが――


「焦らせやがって……」


 サンダーラは無傷だった。しかし俺に近づこうとしていた木偶人形が砕け散った。ダメージを肩代わりしたのか……面倒な奴だ。


 そうこうしているうちに怨霊が目の前まで迫ってきていた。あまり動きは早くないが、近づかれると面倒な気がする。


 俺は一旦怨霊から距離を取るが、同時にサンダーラにも注意する。案の定あの黒い光が俺に向けて飛んできた。


「よっ、は、とわっ!」

「――忍者ってのはすばしっこくて面倒だな」


 屋根の上からサンダーラが愚痴るように言った。あいつが主としているのは呪いだ。だが、見たところ呪いも問答無用で一瞬にして施せるようなものじゃないらしい。


 だからこそ木偶人形や怨霊に気を引かせようとしているんだろう。その隙に呪いを掛けるのが奴の手なようだ。


 だったらそれが無駄だってのを教えてやるか。

 俺は霧咲丸を抜き、怨霊へと斬りかかった。


「馬鹿め霊体に物理攻撃が効くもの、か?」

「残念、これなら斬れるんだよ!」


 サンダーラが目を白黒させ、そして悔しがった。怨霊は俺の霧咲丸で次々と消え去っていく。この刀は実態のないものも斬れる。怨霊だろうが関係ないのさ。


「残念だったな。どうやら俺を相手するには力不足だったようだ。大人しく捕まっておいた方が身の為だと思う――」

「随分と調子に乗っているようだな」


 刹那、俺の足元が弾け巨大な水柱が立った。俺の身代わりとなった丸太が粉々に砕け散る。


 あ、危なかった。あの水は流石に喰らっていたらやばかった。空蝉の術様々ってところだが――


「空蝉の術とは随分と古典的な真似をしてくれる」

「何!?」


 背中を取られた!? 空蝉の術の出終わりを取られたのか!


「水遁・水大砲――」

「ぐはっ!」


 背中に強い衝撃を受けて俺の身が派手にふっ飛ばされた。地面が一気に遠くなるが――咄嗟に忍気を巡らせたからダメージは大したことない。


 宙返りを決め、地面に着地。俺を強襲した相手を見た。いかつい顔をした黒髪の男だ。年は俺よりはかなり上だろうが――


「はは、どうやらボスが到着するまでの時間稼ぎにはなったようだな」


 屋根の上からはサンダーラがそんなことを口にしていた。ボス……つまりこいつが水滸海賊団の親玉ってわけか――

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