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第百九十五話 港町ハーフェン到着

「うぉおおおおおォ! 何なのじゃあのでっかい水たまりはぁああ! 驚きなのじゃーーーー!」


 ネメアがはしゃいだ。俺たちを乗せた馬車はいよいよ港町ハーフェンが望める場所まで近づいてきていた。パーパさんに言われて馬車を下りたら眼下に広がるは水平線の彼方まで広がる海と海辺に佇む港町の姿だ。


 ネメアは海が初めてなようで興味深そうだ。そしてそれはどうやらシェリナやマイラも一緒らしい。


「ふぇ~これが海っすか! 話には聞いていたっすが感動っす!」

『凄く、おっきぃ、です……』


 う、うん。シェリナは相変わらず石版で気持ちを吐露しているけど、なんだろう? 何かこう、妙に卑猥な気がしてしまう。


「パーパ、久しぶりの海です!」

「あぁそうだなムスメよ! 海はでっかくていいなぁ」


 パーパとムスメはオーフェンに来たことがあるようだから海が初めてというわけでもないようだな。勿論俺もだ。異世界の海は初めてだが日本では当然夏は海水浴なんてものもいったし。


 そして見たところこっちの海も向こうの海と変わらない。波も立っている。地球みたいに月の引力が関係しているかはわからないけど、この世界にも月があるし、全く関係してないってこともないのかもな。


「しかし……海は港町だから当然として、あのでっかい船はなんだ?」

「はい。私も実は気になってました。前はあんなものはなかった筈なので……」

「な、何か不気味な印象です……」


 パーパとムスメは知らないと表情を曇らせた。船は町から離れた海上に何隻か、港には小さな船があるが、どれも同じ旗を掲げているから全て共通の物だろう。そうなると、やはり考えられるのは――


「やっぱり、あれが例の水滸海賊団の船ってことになるのか……」

「やっぱり、本当だったんっすね……」


 ハーフェンが海賊に占領されていることは俺たちを襲ってきた侍や忍者から聞いていた。その上でパーパもムスメも知らないような船が沢山停泊しているのだからあれが海賊船であるのは間違いないだろう。


 船は港に繋留されてあるのが三隻、海上に停泊しているのが五隻だ。海上にはやたらデカいのが一隻あって、その周りを四隻が囲っているという構図だ。


「ところでこれからどうするつもりなのじゃ?」


 ネメアが小首を傾げて聞いてくる。海賊に占拠されている町に、どうやって入るかといったところか。


「そうだな。ここは先ず俺が忍び込んで様子を見てくるよ」

「え! シノビンが一人で行くっすか?」

『き、危険ですよ!』

「そうは言ってもな。町の様子がわからないのにゾロゾロいくのも危険だ。それに忍び込むのは職業がら得意だしな」

「職業、クラスのことですかな?」

「あ、あぁ。そういう斥候系のクラスでね」

「へぇ針術師には詳しくありませんでしたがそうだったのですね」


 こ、この辺りの説明は少し面倒くさいな。まぁ忍者がないから仕方ないけど。


「うぅ、折角鍛えてもらったのに協力できないなんて……」

「まぁそういうなって。様子見なら人数は少ないほうがいい。ある程度町の状況がわかったら戻るし、その時は手助けしてもらうよ」

「むぅ、わ、わかったっす! でも気をつけてっす!」

「あぁ、ネメアはシェリーと皆も守ってやってくれ」

「シェリー様をしっかり守るのじゃ!」

「いや、だから皆を守れよ」

「我はシェリー様の下僕なのじゃ!」


 おいおい、下僕いい出したぞ。


『お願いネメアちゃん、皆を守って』

「勿論なのじゃ! 我に任せるのじゃ!」


 こいつ、相変わらずシェリナの話にはちゃんと耳を貸してお願いも聞くんだな。


「ネメアだけじゃちょっと心配だからイズナも頼むぞ?」

「ワンワンッ!」


 うむ、イズナ可愛い。ネメアよりもふもふしてるし。というわけで出る前にひとしきりモフっておいた。


 さてと、とにかく、俺は後のことを皆に任せて一人ハーフェンに向かうことにした。とは言え。


「念の為、よろしく頼む」

「あぁ、任せておけ俺」


 そう、影分身を呼ぶのを忘れない。ネメアに任せていると言っても、敵には忍者や侍もいるからな。それに奴らの話だと他にも陰陽師や巫女も水滸海賊団の中にいるらしい。


 そうなるとネメアだけだと厳しい可能性がないとは言い切れない。尤もここにいれば基本大丈夫だとは思うが、分身は念の為残しておいたほうがいいだろう。


 さて、単独で動くとなれば俺も遠慮はいらない。忍者本来の力を十全に発揮し、気配を消し、飛天の術で空から一気に近づいた。


 隠れ身の術で風景とも一体化して見えないようにもしているし、偵知の術で相手の気配も探った上で比較的警備の薄い場所へ移動、そこから壁を越えて町に入り着地した。


「ふぅ、ここまでは上手く言ったな。さて、ここから――

「うぇえええええぇん、ひっく、うぇええええん――」

「は?」


 町中に入り込んだ俺は、周囲の状況を確認するが、何やら子どもの泣き声が耳に届いてきた。


 何かと思って見てみると、木製の柱に繋がれた男児の姿。首輪に鎖って、一体どうなってるんだ?


 偵知の術で探ってもいたが、この子からは特に殺気は感じられない。反応の低さから見ても戦闘力は皆無。ただの子どもだ。


 しかし、なんで鎖に繋がれている? いや十中八九海賊の仕業なんだろう。しかし、だとしたら随分と悪趣味な真似をする。


 偵知で探るが近くにはこの子以外にこれといった反応はない。ただ繋がれているってだけだ。見せしめか何かってことか……。


 しかしまいったな。流石に見てしまったら放ってはおけないし。


 ふぅ、仕方ない。俺は一旦隠れ身を解いて、声を掛けてみた。


「おい、大丈夫か?」

「う、うぇええええん! うわぁあああん!」

 

 くっ、駄目だ、泣きじゃくっていてそれどころじゃないな。


「待ってろ、俺がその鎖を解いてやる」

「うわぁあああぁああん!」


 相当不安だったのか、泣くのを止めないな。とにかく、あの鎖を解くのが先決だ。子どもへと足を進める。


「ひっくひっく」

「おい、もう大丈夫だ。俺がその鎖を切ってやるからな」

「え? あ、だ!」


 俺が近づいたことで、子どももやっと俺に気がついたようで、その途端目を見開き、何かを言おうとしたが――瞬間、轟音と衝撃。爆風が俺の全身を駆け抜ける……。


 条件反射的に、飛び退いていた。近づいたところで、爆発したんだ――どうしようもなかった。


「んだよこれ……」


 思わず言葉が漏れる。脳裏に最期の姿がチラついた。


「おいおい、誰かがトラップに引っかかったかと思ったんだが、あいつ生きてやがるぞ」

「チャイルドボムを避けたのか? 何者だあいつは?」

「さぁな。どっちにしろアレが爆発したってことは侵入者なのは間違いないだろう」


 俺の頭上から声が聞こえた。爆発と同時に敵意を持った連中が近づいてきたのはわかっていた。相手が忍者だってのもな。


「おい」

「あん? なんだこいつ、クソ生意気な目をしてやがるぜ」

「お前らが水滸海賊団か?」

「あん? お前、俺らのことを知っているのか? なにもんだ、あ?」


 質問を質問で返してくるクソ野郎の眉間に棒手裏剣が刺さり、屋根から地面に落下した。即死だ。


「聞いてんのは俺だ糞が。まぁいい、もうわかった。で、この胸糞悪いトラップとやらを仕掛けたのはお前らってことでいいんだな?」

「てめぇ、よくも仲間を!」

「だまれ、さっさと答えろ」

「……だったらどうだって言うんだ?」

「そうかそれがわかればもうしゃべんなくていいぞ。声を聞いただけでヘドが出そうだからな。ま、どっちにしろテメェら全員、今俺が引導渡してやるけどよ」

「舐めるな! 糞が!」

「待て、挑発に乗るな。それにこいつは忍者だ。全員で掛かって生け捕りにする!」


 生け捕り? 馬鹿かこいつら。揃いも揃って印も結び始めたが。


「おせぇんだよ! 風遁・烈風掌!」


 両手に風を集め、忍者共に向け放つ。拡散した風の刃が集まってきていた忍者全員を切り裂いた。


「が、馬鹿、な、強すぎ、る――」

「テメェらが弱すぎなんだよ」


 倒した忍者の一人は最後にそれだけ言い残してくたばった。全員下忍レベルってところか。奴らのいうところのトラップに掛かった相手がどうなったか確認するためにいる雑兵みたいなものだろう。


 少なくとも途中で相手したシュシュシュシュうるさいのよりも遥かに弱かったしな。


 それにしても怒りに任せてつい全員殺してしまった。さて、これからどうするか……それにしても、こいつらまさかさっきみたいなことを街中でやっているのか?


 だとしたら、水滸海賊団……どうやら予想以上にろくでもな、チッ!


 俺が飛び退くと、立っていた位置に強烈な風圧が降り注ぎ、地面を大きく凹ませた。重力感のある風の音が俺の耳にこだまする。


「へぇ~君、これを躱しちゃうんだ」

「……なんだ、普通に魔法使いもいやがるのかよ」


 見上げると、そこにいたのは箒にまたがった女だった。可愛らしい顔立ちをしているが、あれも海賊の仲間か――

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