第百九十二話 讃えられる一行、そして船の完成へ――
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サハギンエンペラーが倒されたことで、サハギンは蜘蛛の子を散らすように逃亡していった。
統率者がいなくなったことが要因だろ。もし下位とは言え他の冠種が残っていればまた別だったかもしれないが、そういった魔物は全てケント達の手で始末されている。
こうなってしまえば今後のサハギン退治はだいぶ楽になる。サハギンはどれだけ倒しても自然と生まれてきてしまう魔物なため、全て駆除するわけにはいかないが、エンペラーを倒してしまえば暫く冠種があらわれることはないだろうとバーバラは言う。
途中残っていたサハギンを倒しつつ、二人は皆のもとへ戻った。
「いやはや、まさかこんなにも早く事が解決するとは思っていなかったですよ。本当に皆様に頼んで良かった。傭兵ギルドのマスターとして心からお礼申し上げます」
サハギンエンペラーを倒した後に回収した魔石によって、冠種がいなくなったことはすぐに信じてもらえた。そのうえで、傭兵ギルドを通して街中にその偉業が伝えられ、一行は町の住民達から感謝の洗礼を受けることとなる。
「全く大したもんだね。恐れ入ったよ。だけど、ここまでされたら当然、うちらもそれに答えないとね」
そしてギルドマスターを通じて船大工のアクアにも連絡が言ったようであり、船を造ってくれる気になったようだ。勿論代金も全てギルド持ちであり、船旅に必要になるであろう食料や水も提供してくれるとのことだった。
「それにしても船大工も随分と増えたね」
「そっちのお嬢ちゃんが魔法で治療してくれたのさ。おかげで大工たちもやる気に満ちてるよ。聖女様バンザイってなもんさ」
「そ、そんな聖女だなんて……」
「……まぁ実際クラスがそうだしな」
チユは照れるが、ケントの言う通りでもある。クラスが聖女であると知ったおかげか大工たちは更に盛り上がったが。
「とは言え、こっちも急ぐけどそれなりの時間はいる、それは大丈夫かい?」
「……それは仕方のないことだしな」
「それは良かった。ちなみに宿泊先とかは心配しなくていいからな。ギルドマスターがそれも全て保証するといっていたし、それにだ、今夜に関しては宴だよ! 大いに愉しんでくんな!」
こうしてその夜はサハギンを倒したということで盛大に一行は饗される事となった。自慢の川魚や水棲魔物を利用した料理が振る舞われ、バーバラに関しては浴びるように酒を呑んでいた。
尤もケントたちは元の世界では未成年なので酒は丁重に断ったが、楽しい時間を過ごすことが出来た。
翌日からは町の復興も同時に始まった。サハギンの被害で損傷した建物も多かったからだ。それに冠種が倒されたと言ってもまだ外をうろついているサハギンはいる。
完全にいなくなるということはないだろうが、少しでも減るように傭兵ギルドがサハギン狩りを行った。そしてこれらの作業にはケント一行も協力を惜しまなかった。
当初は町を救った英雄にそこまでさせては申し訳ないと彼らも遠慮がちだったが。
「……船が出来るまで時間もある。黙っていても体がなまるし好きでやってることだから気にしないでくれ」
これによって更にケント達の名声も上がることとなり、数日経つと四人への注目もより高まっていった。
「みたか、あれが拳の王者ケントだぜ。どんな相手でも拳一つで葬っちまうんだ。なんでもボクシングとかいう武術らしい」
「俺もちょっと教えてもらったよジャブとかストレートとか、何か強くなった気がしたぜ」
「勿論ケントさんも凄いけど、三大女神様のことも忘れちゃいけねぇぜ」
「あぁ癒やしの女神、チユ様に」
「付与女神カコ様」
「最後は自然に愛される女神リョウ様だ!」
「皆揃いも揃って美しすぎるしよぉ! 嫁にほしいぜ!」
「ば~かお前には無理だって」
そんなことを言いながら笑い合う人々。それを聞いたチユとカコは照れくさそうだったが、リョウは微妙な面持ちだった。
「うぅ、僕、男の子なのに……」
「あぁ、でもリョウくんって男の娘っぽくもあるもんね」
「ガーン!」
「はは、チユちゃん結構直球だねぇ」
そんな住人や彼女たちの話を聞いて若干面白くなさそうなのはバーバラであった。
「なんだいなんだい、チユとカコはともかくリョウだって女神様とか言われてるのに、あたいにはなにもないってんだから失礼な話だよ」
腕を組み、愚痴を零す。
「……なにもないってことはないだろう」
だがケントは思い出すように口にし、近づいてくる男たちを見た。
「姐御! ここにいたんですか!」
「姐御、俺たちにまた稽古をつけてくださいよ」
「俺たち姐御みたいに逞しくそして格好良くなりたいんです!」
彼らは町の若者たちだ。ケントはケントで彼をしたってやってくるものも多いが、バーバラに関してもその勇ましさから憧れを抱くものも多かった。男は勿論、女性からの人気も高い。それがバーバラなのである。
尤もバーバラが思う注目のされ方とはまた違った形ではあるが。
「はぁ、仕方ないね。だけど、あたいの稽古は厳しいからね!」
とは言え、バーバラもまんざらでもないようである。それにバーバラはこういっているが、彼女は格好良くもあり美しくもある。船が出来るまでの間は酒場に行くことも多かったバーバラだが彼女を口説いてくる連中も少なくなかったようだ。
尤も大抵は呑み勝負に発展し、他の男どもが全くそれについてこれないといった状態が続いていたわけだが。
そしてそうこうしている内に、気づけば五日が過ぎ、遂に船が完成したという知らせがケント達に届いた。
「どうだい。全員で気合い入れた破鱗号さ!」
「……名前がついているのか」
「そりゃ船には名前をつけるものだからね。どんな名前にしようかと思ったけど、サハギンをあっという間に倒した英雄の船だからね。この名前にしたよ」
確かにサハギンには鱗が多かった。故にこの名称なのだろう。
「へぇ、外輪船なんだね」
「確かに大きい車輪が二つついているね」
リョウとチユがまじまじと船を見ながら呟いた。そう出来上がった船には対になる形で水車のような車輪が付いていた。
「魔石を動力に動くのさ。川ではこれが最適でね。特にあんたらが利用する川は結構浅いところも進むことになるけど、車輪のおかげでそのまま進むことが出来るのさ」
なるほどとケントは頷いた。川を進む場合はこの手の船のほうが便利でいいのだろう。
「船内のスペースも余裕があるからそこにしっかり食料と水を積み込んでおいたよ」
「酒もあるかい?」
「はっは、しっかり積んでおいたさ」
「バーバラさんは本当にお酒が好きですね」
「勿論! 酒はあたいの血液みたいなもんさ」
カコの言葉にバーバラが豪快に笑った。酒は樽で三つ分ほど積まれてるそうだがバーバラならすぐに飲み干してしまいそうである。
「何から何まで本当に感謝する」
「何いいってことさ。それですぐに出るのかい?」
「そのつもりだ」
「そうかい、寂しくなるね。でもあんたらも目的があるんだろうし仕方ないさ。だけど一つだけ注意して欲しいことがある」
「注意ですか?」
「あぁ、この地図を見てくれ」
アクアが机の上で地図を広げた。どうやらこのあたりの地形を記した地図のようで特に河川について詳しく描かれたものだった。
「途中、ここで川が正面と右に分岐するんだが、ここでは絶対に右に折れちゃいけない。これだけは絶対厳守だ」
「右に入ったらどうなるんだ」
「この先をみてみな」
「先、あ、海に繋がってる!」
「そうさ。ここで分岐してしまうとあとは一直線に海に出ちまう。その上こっちの経路は下りになっていて川の流れも早い。一度入ったらもう抜け出せないのさ」
「厄介だね。水門でもつけておけばいいのに」
「当初はその計画もあったんだけど厄介な魔物も多くてね。頓挫してしまったんだ」
この世界には魔物も多い。何をしようにもそういった邪魔が入ることはよくあるのである。
「とにかくここを通る時には左によって進むことさ。このあたりは川幅も広いしそう難しくはないからね」
それにわかったと頷くケント達。そして遂に出発の時は来た。
「貴方がたには本当にお世話になった。町を出てしまうのは残念に思うが、良かったらまたいつでも気軽に立ち寄って欲しい」
「……ありがとう。近くを通った時は是非寄らせてもらう。いい船をありがとう」
そして町の人々に見送られながら川に用意された破鱗号に乗り込み、そして遂に出発した。後はこのままシノブ達がいると思われる町に向かうのみ! そう、思われたのだが――
「どうして、どうしてこうなるの?」
「……うむ」
「あは、あはは……」
「うぅ、あれだけ、あれだけ言われていたのに~」
「あはは、わ、わりぃ」
そして改めて周囲を見回す彼らであったが、そこに広がるのは海、海、海――そう、彼らは見事、大海原まで流されることとなってしまったのであった――
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